「おーい、杏ーっ」
朋也が呼んでる。
「な、何よ。何か用?」
「…そんな睨むなよ」
最近あたしは朋也に対して普通に接する事ができなくなっていた。
原因は…まぁ特にこれといってあるわけじゃないけど。
強いて言うとすれば、ことみとの関係、ってとこだろう。
ぶっちゃけ、あたしは朋也の事が好きだった。
二年生の、同じクラスだった頃から。
『だった』と過去形なのは、この恋はもう終わってしまったと思っていたから。
朋也はことみと付き合っていて、あたしの気持ちが入り込む余地なんて無い。そう思っていた。
でも違った。
少し前に、ことみに聞かれた。
「杏ちゃんは朋也くんのことが好きなの?」
「人の彼氏に手を出すほど飢えてないわよ」って答えたら、
「朋也くん、誰かと付き合ってるの?」と、真顔で返された。
「へ?あんたの彼氏じゃなかったの?」
「違うの。朋也くんはお友達。大切な、大切なお友達なの」
ことみはそんな所で嘘をつくような子じゃないってのは知ってる。
…まぁそんなこんなで、あたしの誤解は解かれた。
問題はその後。
再び巡って来たチャンスに、一度は抑えた筈のこの気持ちがまた暴れだした。
もう後悔したくない。
この想いを伝えなきゃ…って。
…気がつけば卒業式。
ホンット、あたしの踏ん切りのつかなさにはウンザリする。
でも、きっとこれが最後のチャンス。
一生分の勇気を振り絞って、あたしは、決心した。
―想いを、告げることを。
「あのな、きょ…」
「あのね!朋也!」
朋也が何か言いかけてたけど、気にせず一気に突き進む。
「あ、あたしね…」
あぁ、言っちゃうんだ。
断られたらどうしよう。
気まずくなって、今まで通りの付き合いができなくなるのかな。
そんなのは嫌だよ…。
…でも…。
…伝えないままで終わりたくない…っ
「あたし!ア、アンタの事……す」
「おーい何してんだよ二人ともー!早く来いよー!」
「ん?あぁ!今行く!」
…陽平の声。
なんてタイミングの良い…いや、悪い奴だろう。
「…で、なんだって?」
あんたもいちいち返事してんじゃないわよ…
「はぁ…もういいわよ」
「気になるじゃねぇかよ」
「いいのよ!忘れなさい!」
あぁ、結局言えなかった。
あたしの一大決心は、あの馬鹿の一声で見事砕け散りましたとさ…。
「なんだよ…ったく」
…まぁいいっか。別に卒業したから二度と会えなくなる、ってわけでもないし。
この関係のままでいるのも、きっと楽しいしね…
「ほら、みんな待ってるぞ。行こうぜ」
朋也に手を引かれて走り出す。
「それとな、さっき言いかけてたことなんだが」
「え?何?」
朋也の顔が赤い。
これってなんだかさっきのあたしみたい…。
って、まさかっ!
「…俺な、お前の事…」
長い、長い冬の終わり。
桜の花びらとともに春が訪れ、あたしの新しい生活が始まる―。