―一度頂上で転んでしまえば、後は転がり落ちていくだけだった。
俺は、自分の居場所を犠牲にしてまで頑張った。
みんなのために、と自分の信念すら曲げた。
かつての自分の姿は、もうどこにも無かった。
俺自身ですら見えなくなっていたのだ。
俺が、そんな音楽をしていたのか。
それでも、どんなに狂っても、俺はミュージシャンでいなければいけなかった。
自分が走り続けなければ、みんなが希望を失くす。
走り続けるためには、どんなことでもしなくてはいけない…。
例え、それが自分の夢を叩き壊すようなことだとしても。
全てを失った。
地位も、名誉も、夢も、居場所も。
どん底、というのはまさしくこの状態のことだろう。
頂上から一気に底辺へ。
不思議と、悔しさはなかった。
ただ、呆然としていた。
―あぁ、終わってしまったんだな、と。
俺の夢はもう終わってしまった。居場所も無くなった。俺はどうすればいい?
そんな事を思う毎日の中で、ふと、思いついたことがあった。
「…帰りたい」
微かな記憶を頼りに、俺は辿り着いた。
二人が出会った、あの町。
俺が生まれ育った、あの町に。
そこで、俺は再会する。
俺の…運命の人。愛すべき人。
俺の音楽は、もはや多くのファンには響かないけど、この人のためだけに奏でていこう。
そう思った。
これからは、愛すべき町と、愛すべき人の為だけに歌っていこう、とな…。
「芳野さん、その話もう16回目ですよ」
「うるさい。つまり俺はだな、公子さんの事を世界で一番愛していて…」
「はぁ…。芳野さんって意外と酒癖悪いんだな…」
「公子さーーん!アーイラビューー!!」
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