―いつの間に、こんな遠くまで来たんだろう。






高校を出て、上京し、デビューするまで。
それはまさしく、流れるような日々だった。
ただ夢を追い続け、走り続けてきた。
がむしゃらに、歌い続けた。



そして、気がついた時、俺は『高み』にいた。
夢を掴み、自分が愛した音楽と一緒に居た。
振り返る必要などなく、ただずっと先だけを見ていた。
故郷で過ごしたあの夏の日の出会いも、今はまるで昔観た映画のようにおぼろげだった。
でも、目を閉じればいつも、瞼の裏にはあの笑顔が浮かんできた。





そして、あの出来事が自分を変えた。
俺は現実と歌の区別をわからなくさせ、理想論で生きるようになった。
…それは、きっと気づいてしまったからだ。
夢ばかり追って、浅はかだった少年の心が、壮絶な現実を。
結果、唯一の自分のための居場所だった音楽を、他人の為のものにしなくてはならなくなった。

ある時、俺の歌を居場所にしていた奴が罪を犯した。
俺が悩み、立ち止まっている間に。
だから、自分のせいだと思った。
進まなくてはいけない、俺の歌を必要としてくれている人の為に。
迷いも吹っ切れないまま、俺はギターを掴んだ。
自らの深い傷を抉る様に、ギターをかき鳴らした。




けれども、その歌はあの人には届かなかっただろう。
それはあの人が好きだった俺の歌じゃなかったから。
でも、現実に立ち向かうにはそれしかなかった。
俺が望むものではなく、みんなが望むモノを歌わなければならない。
俺の歌は、俺のものでは失くなっていたから…。
それが、俺の居場所を奪うことになるとも知らずに、俺は叫び続けていた。


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