なぁ、汐。
ん?
幼稚園は楽しいか?
うんっ!たのしいっ!
そっか。
えっとね、汐、おともだちいっぱいいるの。
すごいな。汐は人気者だ。
えへへ…。
杏にイジメられたりしてないか?
んーん。きょうせんせいやさしい。
…マジか。
うん、まじ。



夕暮れの道に伸びる不揃いの影二つ。
仕事を途中で抜け出して、幼稚園へ汐を迎えに行く。
そうして二人で手をつないで俺たちの家へと帰り、俺の仕事が終わるまで汐に留守番をしてもらう。
仕事から帰った俺を出迎えるのは愛娘の笑顔。世界一かわいいと言っても過言ではないな。うん。
そうして俺の作った料理を二人で食べ、二人で風呂に入り、二人で寝る。

『あの日』から続けてきた俺たち二人の生活。
最初は大変だったけど、慣れてくれば意外と楽しい。汐かわいいし。
…本当に大変な時期はあの人たちに任せっきりだった。
だからその恩はコイツを絶対に幸せにすることで示したいと誓った。
―アイツの分まで。
俺は、汐を幸せにできているだろうか。



パパー。
どうした我が娘よ。
…なんか、パパあっきーみたい。
ぐぁ…マジかよ。
うん。すごいにてる。
やめてくれ…。で、なんだ?
んと、パパ、口笛吹ける?
まぁ吹けるって言えば吹けるけど。急にどうしたんだ?
おとこのこたちがね、みんなふいてたの。
ふーん。
だからね、汐、パパの口笛ききたい。
…まぁ別にいいけど。何を吹けばいいんだ?
ママのおうた!
…だんごかよ…。
うんっ!だんごっだんごっ♪
…〜〜〜〜〜♪
すごいすごーいっ!
〜〜〜〜〜♪
だんごっ♪だんごっ♪



―なぁ、渚。この口笛が聞こえるか?
色々あったけど、俺たちはこうしてなんとかやってるよ。
お前に届くかな…。
…言葉よりも確かな、この想いが。



だんごっ♪だんごっ♪
〜〜〜〜〜♪
だんごっ♪だんごっ♪



口笛を吹きながら、歌を唄いながら、手をつないで二人歩く。
この幸せな時間が途切れてしまわないように、ゆっくりと歩く。
渚と過ごしたあの日々のように、形あるものは次第に姿を消すけれど…
それでもあいつがくれたあのぬくもりは決して消えない。
汐も、いつかは変わってしまうだろうけど、ここに確かな「今」がある。
俺はその「今」を守るために頑張っているんだ。

口笛が奏でるのは、小さな家族の唄。
遠い春の日に、穏やかで、優しい陽だまりの中で歌った唄。
短い時間の中で、俺たちが三人で歌った唄。
秋の乾いた風に、その口笛は澄み渡っていく。
その唄は、世界中を優しく包み込んでいく。



パパー。
ん?
あのね、汐、しあわせ。
…どうしたんだ急に?
うんとね、パパといるとね、汐、しあわせなの。
…そっかよ…。
パパは?しあわせ?
あぁ。幸せだ。こんなにかわいい汐と一緒に居れるからな。
えへへ…。
はは・・・。
パパー、口笛やめないで。
はいはい。わかったよ…。



そしてまた、口笛を響かせる。
一度は嫌いになってしまったこの町だけど、今はもう、愛しさに満ちている。
それは、こいつがいるからだろう。
汐の為に俺は頑張れるし、汐が居るから俺は優しくなれる。
どんなに仕事で疲れても、汐の笑顔が―いや、汐のすべてがあるから、俺はまた頑張れる。

…見てるか?渚…。
俺、絶対にこいつを幸せにしてみせるからな。
こいつを笑わせ続けるから。
だから…見守っていてくれよな。
これから先、どんなことがあっても、二人が笑っていられるように。



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