校門まで残り200メートル
一度立ち尽くす。
「はぁ」
ため息と共に空を仰ぐ。
その先に校門はあった。
誰が好んで、あんな場所に校門を据えたのか。
長い坂道が、悪夢のように延びていた。
一度は立ち止まってしまった。
わたしは、この坂を登れずにいた。
でも…そんなわたしの背中を押してくれた人がいた。
『見つければいいだけだろ』
『次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ』
『あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか?違うだろ』
その言葉のおかげでわたしはまた進むことができた。
なにもかもが変わってしまった場所で、また頑張ろうと思えた。
本当に、あの人には感謝してもしきれない。
「お、おい!ちょっとスピード落とせよ!」
「大丈夫大丈夫♪しっかり掴まってなさいよねっ」
今わたしの横を坂の上から、猛スピードで二人乗りの自転車が駆け抜けていった。
後ろに乗っていた男の人は…確かにあの人だった。
多分、運転してた人が彼女さんなのだろう。
二人の関係は学校ではかなり有名なので、そのことは嫌でも耳に入ってきた。
あの人は今、大事な人を見つけてその人と幸せになっている。
あんなカッコよくていい人なんだから当然だろう。
(もし、わたしがあの人のとなりにいたら…)
…
……
………
はっとして辺りを見回す。
顔が熱い。
妄想の中とはいえ、他人の彼氏に手を出してしまった自分に嫌悪感。
「はぁ…」
もう一度、空を仰ぐ。
―この坂を登りきった先に幸せがあって。
―次の楽しいこと、うれしいことを見つけるためにはこの坂を登らなくてはいけなくて…。
見つけられるだろうか。
こんな臆病で弱い自分にも。
…いや、見つけなければいけない。
ここでまた立ち止まってしまったら、せっかく背中を押してくれたあの人のやさしさが無駄になる。
だから…わたしは頑張らないと。
「あんぱんっ」
わたしは登っていく。
この、幸福への長い坂道を。
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