今日は、今日子さんに家事を教えてもらいました。
(といっても、まだ私はほとんど見てるだけです)
海風館はとても広いので、毎日全部を掃除するのではなく、一日に二部屋か三部屋くらいのペースで掃除するとのことです。
普段使っている部屋は週に二回くらい、めったに使わない部屋は月に一回くらいになるように、今日子さんがスケジュールを組んでやっています。
掃除も料理も、今日子さん一人でこなしているなんて、すごいなぁ、と思います。
私は、今日子さんに、どうしてもっと人を雇わないのかを聞いてみました。
「ご主人様の方針でね。必要のない人員は雇わない、っていうのが基本なのよ」
それを聞いて、私は、自分がご主人様にとって邪魔者なんじゃないかって考えて、うつむいてしまいました。
そしたら、今日子さんが言いました。
「それともうひとつ。ご主人様はね、七年前、十五歳のときにご両親を亡くされているの。それで……」
それがきっかけで、私は今日子さんから、ご主人様の過去を聞くことになりました。
体の弱いご主人様は、両親の仕事を継ぐこともできず、親戚の人に厄介者扱いされてしまい、引き取ってくれる人もいませんでした。
遺産は、一生困ることはないくらいにありましたが、仕事のあてがあるわけではないので、今後は減っていくだけです。
高いお金で雇われていた使用人たちは、沈みかかった船から逃げるように、次々と離れていきました。
けれども、使用人の中で、明日歌さんだけは、ご主人様の元に残りました。
ご主人様と明日歌さんは、別荘であったこの海風館に移り住んで、二人で生活をはじめた、というわけです。
「と、そんなこともあったから、お金でつられるような人を雇うのは嫌みたい。雇ってくださーい、って人が来ても、賃金は安いですよー、って追い返しちゃうのよ。で、家事が趣味みたいなあたしは、お金は要らないから家事をやらせてくださーい、って言ったら雇われた、と」
今日子さんは笑いながら言いました。
「あたしが思うに、ご主人様が求めているのは、使用人じゃなくて、心の支えになりうる家族なのよ。優しい長男、しっかり者の長女、能天気な次女。それから」
私を指差して、
「かわいらしい三女。いい家族だと思わない?」
そんなふうに言って、今日子さんは私のことを気遣ってくれました。
いつかは私も、今日子さんや明日歌さんのように、ご主人様の心の支えになれるでしょうか?