ビバ! 人魚 - 海風館の人魚

【200134月4日 未来】

今日は、今日子さんに家事を教えてもらいました。

(といっても、まだ私はほとんど見てるだけです)

海風館はとても広いので、毎日全部を掃除するのではなく、一日に二部屋か三部屋くらいのペースで掃除するとのことです。

普段使っている部屋は週に二回くらい、めったに使わない部屋は月に一回くらいになるように、今日子さんがスケジュールを組んでやっています。

掃除も料理も、今日子さん一人でこなしているなんて、すごいなぁ、と思います。

私は、今日子さんに、どうしてもっと人を雇わないのかを聞いてみました。

「ご主人様の方針でね。必要のない人員は雇わない、っていうのが基本なのよ」

それを聞いて、私は、自分がご主人様にとって邪魔者なんじゃないかって考えて、うつむいてしまいました。

そしたら、今日子さんが言いました。

「それともうひとつ。ご主人様はね、七年前、十五歳のときにご両親を亡くされているの。それで……」

それがきっかけで、私は今日子さんから、ご主人様の過去を聞くことになりました。

体の弱いご主人様は、両親の仕事を継ぐこともできず、親戚の人に厄介者扱いされてしまい、引き取ってくれる人もいませんでした。

遺産は、一生困ることはないくらいにありましたが、仕事のあてがあるわけではないので、今後は減っていくだけです。

高いお金で雇われていた使用人たちは、沈みかかった船から逃げるように、次々と離れていきました。

けれども、使用人の中で、明日歌さんだけは、ご主人様の元に残りました。

ご主人様と明日歌さんは、別荘であったこの海風館に移り住んで、二人で生活をはじめた、というわけです。

「と、そんなこともあったから、お金でつられるような人を雇うのは嫌みたい。雇ってくださーい、って人が来ても、賃金は安いですよー、って追い返しちゃうのよ。で、家事が趣味みたいなあたしは、お金は要らないから家事をやらせてくださーい、って言ったら雇われた、と」

今日子さんは笑いながら言いました。

「あたしが思うに、ご主人様が求めているのは、使用人じゃなくて、心の支えになりうる家族なのよ。優しい長男、しっかり者の長女、能天気な次女。それから」

私を指差して、

「かわいらしい三女。いい家族だと思わない?」

そんなふうに言って、今日子さんは私のことを気遣ってくれました。

いつかは私も、今日子さんや明日歌さんのように、ご主人様の心の支えになれるでしょうか?

(c)Kanata Tohno

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