ご主人様のすすめで、日記をつけてみることにしました。私の記憶が戻る手がかりになるかもしれないから、ということです。
今朝、私が砂浜で倒れていたところを、今日子(きょうこ)さんに助けていただきました。
私は、自分がどうしてそんなところに倒れていたのか分からなくて、戸惑ってしまいました。今日子さんに名前を聞かれて、それでようやく、自分が記憶喪失になっているって、気づきました。
たぶん、前の日の嵐で船が沈んで、それでこの砂浜に打ち上げられて、助かったんだと思います。後で見たニュースでも、客船が沈没、行方不明者多数って、言ってました。
自分の名前も住所も分からず、行くあてのない私を、今日子さんが、この海風館に連れてきてくださいました。海の見える、素敵なお屋敷です。
この館のご主人様に、今日子さんがお願いしてくださって、記憶が戻るまでの間、私はここで過ごせることになりました。
海鳴館には、ご主人様と、メイドの今日子さん、それから秘書の明日歌(あすか)さんの三人で住んでいらっしゃるそうです。大きなお屋敷なので、部屋がたくさんあって、私にあてがわれた部屋も、けっこう広い部屋でした。
おいしいお食事も食べさせてもらって、なんだか申しわけないと思ったので、今日子さんにお願いして、家事を手伝わせてもらうことにしました。だから私は今日から、メイド見習い、です。
あ、それから、名前をつけていただきました。未来(みらい)、という名前です。名前がわからないと呼ぶときに困る、というので、ご主人様が考えてくださいました。
記憶喪失で、過去をなくしてしまったけれど、未来に向かって生きていくように、って。
いただいた素敵な名前に負けないように、これから、頑張っていきたいと思います。