求められているのは私じゃない。完璧な「聖少女」という偶像。
[偶像]
「メイデン様……メイデン様……。」
うわ言のようにマルコが繰り返す。何度も何度も。
私の躯をまさぐる手は止まらない。表情は泣きそうに歪んでいる。
何処にどう触れたらいいのか分からないのか、闇雲に手のひらが私の上を這い回る。
行為には慣れていた。ぼんやりと、自分の肢体を人の物のように眺める。
「大丈夫、大丈夫ですから。」
だからもう泣かないで、とはどうしても続けられない。
代わりに私は腕を伸ばした。
細くて白くて、頼りなさげな自分の腕で、きゅっと抱きしめる。
つられて零れそうになる涙を私は耐えた。
マルコが私の首元に顔を埋めた。
重なった体を、熱く感じる。自分がずっと冷たいせいだろうか。
所在なげに私の横に置かれた手が、震えていた。
可哀想なひと。
そう思った。でも自分には支えられるだけの力も無い。
求めている聖少女になんかなれない、自分の事だけで精一杯。
それでもこのひとは、その偶像に必死でしがみ付こうとするのだ。
唐突にマルコが、私の秘所に指先を突き入れた。
「……っ!」
流石に私は顔を顰めた。こういう時は力を入れてはいけない。
ただ抗わずに、人形のようにされるがままにしておくのが良い。
痛くない。何も感じない。
私は繰り返した。自らに暗示を掛ける如く。
そのうち、マルコは自らの欲望を私の中に捻じ込んできた。
がくん、と何度も体が揺さぶられる。
繋がった部分も、何処も彼処も非現実の出来事のようだ。……すぐに終わる。
セックスというよりは、自慰の為に体を使われているといった感じだ。
「メイデン様……っ。」
私を呼ぶ声は、私の名ではない。
見開いた目に、餓えを満たす何かを求めるように私を貫くマルコが映る。
どうしたら、このひとを救えるの?
例え「奇跡」で何人救おうと、決して救われなかったひと。
できることならば、本当は救いたい。この手で。
でもそれと同じくらいに、自分が抱くのと同じ強さで抱いて欲しい。
言えずに私は腕に力だけ込めた。さらに強く、自らに引き寄せるように。
マルコの頬を一筋水滴が伝った。
それに引きずられそうになる私を、強く律した。
このまま、共に崩れるだけになどなりたくは無かった。
偶像に縋るだけのマルコも、そして偶像になろうともがく自分も等しく哀れだと感じた。
自分さえ救われないのに、どうして他人を救う事ができよう。
「……あ。」
ぐっ、と強く腰を引き寄せられた。
目が合ったはずなのに、マルコが見ているものが分からない。
痛みよりなにより、今はただ呼吸が苦しかった。
「―――メイデン様っ……。」
声は、叫びに聞こえた。
同時に体内に流れ込む、生温い液体。
自分に受け止められるのは、きっとこんなものだけだ。
繋がりは解かぬまま、マルコは私の体に爪を立てて、そして顔を埋めた。
叫びも涙も、私には届かない。
それでも、また朝がきたら、このひとはきっと楽園について語るのだろう。
その為に、自分が在ると思って。
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