ギルドの三兄弟(後編)
アンヴィルは、義弟、紫藤雷とも親睦を深める為に呼び出した。
「アンヴィルさんどうしたの?わざわざ」
「俺達、兄弟だよな」
「あーそうだね、三兄弟って言われてるね」
「俺達、兄弟としてもっと親睦を深めるべきだと思うんだ」
「そうだねぇ。それじゃ真樹さんも呼んで一緒に狩りに行こうか」
「いや、それよりもっと良い方法がある」
「へー、何?その方法って」
「同じベッドで同じ時間を過ごすんだ」
「・・・言ってる意味が・・・よく分からないんだけど」
「いや、その顔は分かっている。大丈夫、痛くないから」
「大丈夫って言われてもね・・・」
微妙な空気を感じて雷は身構えた。
「ホントに痛い事なんかないって。実践したから大丈夫」
「じ、実践?」
(と言う事は、もう誰かを手にかけてる?やばい!)
この場から逃げようと、蝶の羽を袋から探そうとする。
「真樹!」
声と同時に雷の周りに粉が飛び散る。粉を吸い込まないように周りを見ると、弓矢を構
えている真樹が居た。
「ダブルストレーフィング!」
2本の矢が当たり、刺さらずに粉が飛び散る。むせて粉を吸い込んでしまった。途端に
体に力が入らなくなり、膝をつく。ものすごく眠い。
「さすがにこれだけ眠り粉撒くと効くね。真樹、例のところに運ぶから手伝って」
この言葉を最後に、雷の意識は途絶えた。
雷が目を覚ました時、天井が見えた。周りに目を向けると、手錠でつながれた手、裸
の自分、枷をはめられた足。そして、アンヴィルと真樹。
「目が覚めたか。さすが騎士だ。回復が早いな」
「俺を裸にして何をするつもりだよ」
「もちろん兄弟の親睦を深めるに決まってるでしょう」
「だから、なんで親睦を深めるのに裸にされなくてはいけないんだ?」
「ベッドで親睦を深めるのに服は要らないよ。・・・真樹、道具の用意はできた?」
「できたよ」
「待て、道具ってなんだ?それでどうしようっていうんだ!?」
ニヤリ
アンヴィルは笑みを浮かべて道具を見せた。その手には、珠を繋げた紐のような物と、
先端が丸く膨らんだ細い棒を持っていた。
「これがその道具だよ。使い方はどちらも同じようなものだね。心配しなくても大丈夫。
これは初めてでも痛くないようにする為の物で、使い方はマスターしてるから」
「安心できるか!そもそも俺にそんな趣味は無い!」
「大丈夫だって。真樹も抵抗したけど、レンのレクチャーを受けただけのテクニックでも
親睦を深める事に成功したんだから。しかも今度は実践済みなんだ。絶対成功するって」
「なんでレンの名前がでてくるんだ?ここにいるのか?」
「いないよ。レンは道具の調達と使い方のレクチャーをしてくれただけだから。だけっ
て事もないか。親睦を深める為のこの方法を教えてくれたし。・・・・そろそろ始めよ
うか」
「や、やめろ!」
雷の制止の声を聞かず、アンヴィルと真樹はベッドの下の重石を動かした。重石には足
鎖が繋がれていて、動かすごとに雷の足は引き上げられた。終いには自ら陰部をさらすよ
うに、M字開脚にまで引き上げられた。
「まずはローションを股間全体に塗ってと、真樹は前をやって」
そう言ってドロっとした液体を振り掛けた。その冷たさと違和感に雷は顔をしかめる。
真樹は手を雷の股間に手を伸ばした。その後では、先ほどの道具を持ったアンヴィルが
手を伸ばそうとしていた。
プチッ
雷の頭の中で何かがはじけた。
「バッーシュ!」
ベキッベキッ
手錠の鎖が千切れる。
ドカッ
真樹が殴り飛ばされる。アンヴィルが受け止める。
雷が立ち上がり、両手を上に差し上げる。
「ボーリングバッーシュ!」
ドッカーン
千切れ飛ぶ手錠と足鎖。
砕け散るベッド。
吹き飛ぶ真樹とアンヴィル。そして気絶。
とんでもない威力だった。通常、剣によって巻き起こした風を刃に変えて周囲に撒き
散らすのがボーリングバッシュだ。もちろん全ての風を刃にする事はできない。だから
巻き込まれた敵は刃にならなかった風に押し返される。
それを拳で行うとどうか?長大な剣と比べれば極めて小さな拳では、巻き起こせる風は
少なくなる。風が少なければ刃も少なくなり、全体的に技の威力は低くなる。
はずなのだが、二次職の2人を気絶に追い込むほどの威力を発揮した。キレて何らかの
リミッターがはずされたのが原因なのだろうか。
雷は部屋の隅に置いてあった自分の服と鎧を身に着けた。そしてウィスパーモードを
発動した。
(To レン):こんにちは
(From レン):こんにちは〜。どうしたの?なんでウィス?
(To レン):サシで話をしたかったからね
(From レン):他人には聞かせたくない話なんだね。何?
(To レン):アンヴィルさん妙な事吹き込んだね
(From レン):妙な事?そんな事言った覚えは無いけど
(To レン):とぼけんな。それじゃなんで俺を拉致って裸にするんだ
(From レン):あ〜w何?今真っ最中?w
(To レン):そんなことは無い。叩きのめした
(From レン):なんだ。それなら問題ないじゃない
(To レン):ある。なんで男同士の親睦といって裸にされるんだ。おかしいだろ
(From レン):裸の付き合いとは言わない?
(To レン):そう言ってそそのかしたのか?
(From レン):私は別にそそのかした覚えは無いよ
(To レン):道具の調達とそのレクチャーまでしといて?
(From レン):親睦を図る方法としてそんなに間違ってるかな〜
(From レン):私自身その方法で何人かと親睦を深めたし
(From レン):あ!もしかして、受けより攻めの方が良かった?
(To レン):どっちもいやだ。俺にはそんな趣味は無い
(From レン):そっかー。それは残念だ
(To レン):そんな方法ではなく、もっと真っ当な方法で親睦を図る
(From レン):ベッドの上での親睦は真っ当ではないと?
(To レン):真っ当ではない!
(To レン):城2にPT組んで行く
(From レン):いてら〜
(To レン):レンさんも来い
(From レン):なんで?
(To レン):こんな事になった責任の一端はレンさんにある
(From レン):私は聞かれたから答えただけなんだけどね〜
(To レン):それにプリなしで城2には行けない
(To レン):レンさんの趣味に俺たちを巻き込まないでくれ
(From レン):わかったよ、行くよ。同性のカップルも結構いるって話なんだが
(To レン):プロの昔の臨公広場に来て
(From レン):うん、そこで待ち合わせね。それでは〜^^ノシ
ウィスパーモード解除。
「よし、2人を起こすか」
「お待ちしてましたよ、お三方」
待ち合わせ場所には既にレンが来ていた。
「私の準備は済んでるよ。すぐに行く?」
「それよりも聞きたいことがある。アンヴィルさんに拉致の方法までレンさんが教えたん
だってね。それも聞かれたから答えたの?」
「そうだよ」
「聞かれればなんでも答えるの?」
「答えられる事ならね」
「ほう、それじゃ何人そうやってそそのかした?」
「何度も言うけど、そそのかしたつもりは毛頭無いよ。それでもあえて言えば、相談を
持ちかけられたのはアンヴィルさんが初めてだね」
「それじゃレンさん自身は何人毒牙にかけた?」
「毒牙とは人聞きが悪いが・・・そうだね、7,8人かな。今も続いているのは3人だ
が」
「全部男?」
「いや。半々かな。みんな可愛いよ」
「・・・そう・・・。もういい、行こうか」
「うん、行こうか。私、速度無いからね」
「無いの?」
「1ではあるとは言えないし、役に立たんでしょう」
「そうだね」
「私は支援系だけど、枕詞に自分って付くから。だから私自身に要らない支援魔法は無
いよ」
「わかった。ポタある?GH近くの」
「ゲフェンポタがあるよ。GHへのルートは西に出てコボフィールド経路を提案するけ
ど」
「わかった。それでいこう」
「それじゃポタ出すよ。準備はいいね?まだなら向うのカプラさんでやってね。ワープ
ポータル!」
雷達4人はゲフェンに飛んだ。
「城2に着いたね。それじゃみんなに支援魔法かけるよ」
「よし。行くよ」
「オー」x3
城内に入った一行は奥へと進む。
「そういえば聞いてなかったけど、いつまで狩りするの?」
「荷物がいっぱいになるか全滅するまで」
「わかった」
「来るぞ!」
アンヴィルが警告を発する。前からナイトメアとレイドリックが突進してくる。
「グロリア!」「ツーハンドクイッケン!」
戦闘開始。唸る雷の大剣。閃くアンヴィルのカタール。疾駆する真樹の矢と鷹。その
全てが敵に叩き込まれ、破砕する。後に残るのは収集品と呼ばれるアイテムのみ。屍すら
数秒で消える。しかし、敵は無限に湧き出し、消滅する事は無い。
「この調子でドンドン行くよ」
「その前に突っ込んできてる禿殺そう。グロリア!」
キリエエレイソンの魔法無くては吹っ飛んでいただろう斬撃が雷に繰り出された。し
かし無傷。彷徨う者は数秒で塵となって消えた。
「今度こそ奥に行くぞ」
「オー」x3
大広間にはいくつかのパーティがいた。いくつかのパーティが闘っていた。それでも
大広間は狭くは感じないほど広い空間だった。
「定点にする?それとも巡回?私としては定点がいいんだけど」
「もっと奥だね。この辺りは通り道にもなってるから」
「どこか空いてるところで定点だね」
「敵いなくなったら動くけどね」
「それじゃ定点じゃないよ」
「動いた方が狩りしてる気分になるしね。行くよ」
「気分って・・・城2って狩場としては結構厳しい所だと思うんだけど・・・」
一行は奥に進んで行った。大広間を抜け、さらに奥へ。西の通路に入る。
「前の方で戦ってるパーティがいるね。終わるまで待ってよう」
「でもなんか危なくない?レイド2体に本2つに禿って。ウィズ倒れてるし」
「助けた方がいいかな?」
「もう遅いんじゃないかな〜。ローグ倒れたよ。そろそろ決壊するんじゃない?」
「あーだめだね。袋叩きになってる。戦闘準備」
その時、前のパーティが全滅した。5体の敵が突っこんでくる。
「グロリア!」
「ブリッツビート!」
「ボーリングバッシュ!」
「ベノムダスト!」
一連の攻撃でレイドと本が落ちた。残り3体。雷とアンヴィルの怒涛の攻撃と真樹の
矢と鷹が飛び、敵に確実にダメージが加えられる。2体が倒れる。残るは禿一体。
「くらえ!バッシュ!」
最後の禿も倒れた。その先には5人パーティが倒れたままだった。
「なむ〜」「南無」「ナム」「なむ」
「なむありー。すいませんがリザお願いできますか?」
「いいよ。1人1kね」
「お願いします」
「リザレクション!」x5
「ありがとうです」
レンが礼金を受け取っている時、後方の警戒をしていた真樹が皆に呼びかける。
「広間の方が急に騒がしくなったよ。何があったのかな?」
アンヴィルが応える。
「バフォでも出たんじゃねぇか?」
「みんなどうしようか?」
「とりあえず行ってみよう」
今度は雷が応えた。これでパーティに指針が決まった。一行は大広間に戻ると、予想
通りバフォメットが暴れていた。いくつかのパーティがそれぞれ攻撃を加えていたが、
バフォメットを倒すには至っていない。冒険者たちとバフォメットの攻防で大広間は騒
然としている。何体かの取り巻きのジュニアは倒してるようだが、冒険者も何人か倒れ
ている。
「行くよ。他のパーティのいる今なら戦える」
雷は戦場に踏み出した。3人も続いた時、巨大な閃光が出現した。バフォメットのロ
ードオブヴァーミリオンだ。1つのパーティに壊滅的なダメージが撃ち込まれた。とど
めとばかりにバフォメットと取り巻きが殺到する。横から別のパーティが攻撃したが、
そのパーティの全滅を止める事はできなかった。
「急ぐよ。戦線が維持されているうちに」
駆け出した時、バフォメット達がこちらを向いた。思わず立ち止まりそうになったが
さらに突き進む。
「死ぬ気でいくぞー!」
「死ぬんじゃないかな〜、やるけど」
雷の気合の声に茶々をいれるレン。それでも支援魔法をかけ直す。前に出る雷とアン
ヴィル。戦端がふれた。雷は大剣を振りかぶる。
「ボーリングバッシュ!」
直後に別のパーティから支援魔法が飛ぶ。雷にインポシティオマヌスが。アンヴィル
にはアスペルシオが。2人の武器に力が加わった。敵を薙ぎ、斬る。真樹の矢と鷹が後
押しする。レンの支援魔法がパーティを支える。既に傷を負っていたジュニアが次々と
倒れる。残るはバフォメットただ一体。
いつの間にか、周りのパーティの支援が無くなった。レンが見回すと別の敵と戦って
いて、こちらへの支援どころではなくなったようだ。さらに後方から深淵の騎士が近づ
いてこようとしている。雷達に警告した。
「バフォだ!バフォメットだけは意地でも倒すぞ!」
雷が応えた。それを証明するようにバッシュを連発しだした。
(まぁ、ここまできたらそれしかないか)
背中に深淵の騎士のプレッシャーを感じつつ、それを感じないように支援魔法を唱え
る。深淵の騎士の攻撃で倒れる前にバフォメットを倒す事ができれば、もしかしたらこ
の場を逃げおおせる事ができるかもしれないと、無理な希望的感覚を抱き、それにすが
った。
雷が必死の攻撃を繰り出し続ける。SPの余力は殆どない。マニフィカートで少し回復
するたびにバッシュを撃つ。アンヴィルも真樹もスキルを連発していた。それでもバフォ
メットは倒れない。ロードオブヴァーミリオンの詠唱を始めた。詠唱を終える前に倒せ
なくては負ける。バフォメットは両腕を振り上げる・・・!
「いい加減たおれろー!」
何度も打ち込んだバッシュがバフォメットを撃つ。ロードオブヴァーミリオンの衝撃を
覚悟したその時。
両手を振り上げたまま、バフォメットはうしろに倒れた。
「・・・やった・・・!」
その時、後から深淵の騎士が迫っているという事実を完全に失念していた。その黒く、
巨大な剣が背中を打ちのめした。
「全滅しちゃったね〜」
「そうだねー」
「でもま〜いいんじゃない?バフォ倒せたし」
「そうだねー」
「そのあと深淵にやられちゃったけどね」
「そうだねー」
「・・・ロッテの新食感アイスは?」
「そうだねー」
「いつまで呆けてるんだよ!」
「あーわりぃ」
「アイテム分けるよ。残念ながらバフォからは何も出んかったが」
「まーいいんじゃない?あの状態では出ても拾えないし」
「そりゃまぁそうだが・・・。分けるよ」
4人でアイテムを分配した。今回の冒険で親睦が深まったかどうかは定かではないが、
拉致がどうとか男同士でどうとかは完全にうやむやになっていた。少なくとも毒牙云々
は実行される事はないだろう。
―――終了―――
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