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『自身になりたかった少女へ』

作:F・T

【切り裂き惹句】

 言葉は呪いだ。君を殺す。あらゆる言語表現は、それを読んだ者に最大級の不幸と災厄を与える。文章で人を殺すことはたやすいのだから、僕の言葉はナイフとなって君を殺す。月の裏側のように綺麗に狂気し、一遍の慈悲もなく殺す。すべての文章は悪意であり、すべての思考は毒素である。ゆえに、この文章を読んだすべての人間は死ぬ。呪われろ。そして死ね。
 といった言葉には、賛成しかねる。
 ほうら、少し混乱してきただろう。
 文脈は意図的に混乱させることが可能であるということを知っておいたほうがよい。特にその言述が長くなればなるほど、最後の一言まで油断がならない。言述はそっくりそのまま幻術なのだ。君が幻魔的な言述に対抗するにはいくつかの方法がある。よくおこなわれている方法は、批評だ。批評とは分解を意味する。言葉を切り刻み、評価を加えることで呪いを無効化する。しかしこれには多大な労力を要する。失敗すれば、カウンターを喰らう。
 読まないというのが最も効率的な防御法であることは言うまでもない。狂うことを恐れるものは、読まないし、書かないし、思考しない。つまり、オロカモノほど生存率が高いという逆説。しかし、君はすでに呪われている。僕によって負罪が課されている。今は認識していなくても、次の言葉で認識する。君は読んだ。その言葉を認識したならば、すでに呪いは開始されたといっていい。シールドはしたがって、この場合不可能である。僕の言葉はすでに君のシールドを通過している。ナイフはすでに目の前まで迫っているのだ。わかるだろうか。君は、例えば、この文章を読むことですでに『嫌な』気分になったのだと僕は考えている。そうなるように僕は操っている。操るように書くのが作者である。ちょうど、ネズミとエサの配置の関係。迷路を脱出させるために、少しずつエサを配置する。つまり現実に引き直せば、君が何を考えるかを予想し書いている。すべての読者は作者が考えるように思考を誘導されているという点で、認知症をわずらっているようなものだ。念のため、もう一度言う。君は『嫌な』気分になったと僕は考える。ゆえに君は呪われている。そこで仮に君が反論するとしても、しかしその言葉は無意味なものだ。君は反論する時点で、心の中にその観念を取り入れてしまっている。また、君はこの文章をここまで読むことによって、すでに短くても、数十秒の時間を奪われているのだ。その事実は否定しようがないだろう。それは僕が意図的に与えた不利益、すなわち呪いである。もちろん、この先に書かれてあることは読まなくてもいい。これ以上傷を深くしないために、小説という観念の空間から帰還するのは君の自由だ。当然のことながら、すべての言葉を選択する自由は君の手に委ねられている。
 さて、どちらを選択する?
 選択は自由だ。しかし読めば容赦なく呪詛を浴びせかけられる。そして、君を断罪する。それは前もって宣言しておく。
 死ね。もう一度言う。死ね。死ね読者死ね。
 その言葉は本気ではないが、本気ではないことを君が確かめることはできない。本気かと聞かれれば、本気である。本気ではないことが本気である。よくわからなくなってきたのなら、それでもいい。悪趣味なのは認めよう。
 選択はすでになされた。
 君は、



『自身になりたかった少女へ』



【イメージ 1】

 ボクはときどき思い出す。
 桜の木の下には、少女の死体が埋まっている。桜がピンク色の花びらをふんだんに咲かせるのは、死体から血を吸い上げたからだ。血の赤がピンク色になるのは、少女の肌が白いからだ。赤と白が混ざれば、ピンク色になる。赤と白でピンクになる。だから、桜の花は桃色に染まっている。また、花びらのあの小さく先が分かれたカタチがなんともかわいらしいのは、少女のカタチが保全されているからだ。そしてどこか官能的なのも、少女の本性がそうさせる。儚いのも、おそらくは同様の理由があてはまる。ボクは桜の木に手を添えている。そして、じっと目を瞑る。
 桜の木の下に眠る少女の死体を思いながら。



【リアル 1】

 眼下に広がるは桜の海。
 行きかう人、呼び止める人。総括すれば人の群れ。
 それはアリの大群に似ていて、一見したところ不規則なように見えて、やはり流れのようなものがあった。
 声に寄っている。
 正の走音性でもあるのだろうか。屋上まで鳴り響くような大音量にみんなが足を止めている。
 声の元、光画部の部長は拳を握りしめ、血走った目で蓄群どもを睨みつけながらこんな演説をしていた。
「私の妹、諸君らの愛してくれた神尾観鈴は死んだ。何故だ!」
 やれやれ、いまさらそんな話か。
 誰にも聞こえない言葉はむなしいが、とりあえずボクはひとりごちる。
「少女だからさ」
 ボクは少女の生命を切り売りしている。だから、そんなことはあまりにも当たり前すぎて、言われるまでもなくわかっていた。
 切り売りというと、語弊があるかもしれない。少し説明を加えよう。
 ボクは写真を撮ることで生計を立てている。
 生計というのはこの場合、一人で生活するというほど大げさなものではなくて、要するに単なるバイトだ。結構いい金になる。少なくともボク自身が遊ぶ金を手に入れるぐらいには。
 だいたい月に三万二千円ほどは純利益が出る。もちろん、ただ漫然と撮っているだけでは金にならない。
 写真にはニーズがある。いわゆる需要だ。
 そして、需要に対して有効的な供給をおこなってこそ金になる。
 したがって、一番金になる方法はというと、入学時、生きのよい素材を選んで、すぐに写真を売りさばくに尽きる。
 みんな新鮮なのが好きだろう?
 女房と畳と女の子は新しいほうがいい。入学時の女の子はぴちぴちしていて、舌が吸いつくような新鮮さがあって、つまり金になるのだ。
 ボクはできるだけ、迅速かつより多く撮る。そして売る。売りまくる。
 もちろん、法律的にはけっこうシビアなことをしていると思うが(例えば肖像権の侵害とか、プライバシー権もか)、ボクにそんなモラルはない。もしも告訴されたらどうするかも一応考えてあって、例えば、ボクが生徒会に属しているというのはどうだろう。これは例えばの話で、別に本当にボクが生徒会に属しているかは問題ではない。ボクはボク自身をここで明らかにするつもりは毛頭ないのだ。
 ともあれ、生徒会に属していると仮定しよう。そうすると、生徒会は全校生徒の姿を『思い出』という形で記録していることに思い至るはずだ。
 つまりあれだ。卒業写真とかの類。そういったものの一種だと言い張れば、正当な業務といえるのではないかな。
 倫理的には、確かにこの場合、言い訳できないだろう。
 ボクは自分がしていることをよく理解しているつもりだ。ボクがしていることは一言でいうなら搾取である。
 現実的な不利益はそれほど与えているつもりはないが、それでも、何かを吸い取っている。尊厳とかプライドとか、あるいは写真に封じることによって、『評価』される状況に置くこと自体が、なんらかの罪であるような気もするのだ。
 ボクが法律上たとえ無罪と判定されるにしろ、悪いことをしている感覚はごまかせない。幼稚園児が他の子のおもちゃを壊してしまったときと同様、いけないことをしてしまったという感覚はちゃんとある。ボクにもそれなりの良心回路がついているらしく、その回路にピリリとした電流が走るのも事実なのだ。
 だが、ボクはいまだによくわからないのだが……。
 その『悪いことをしている』という感覚はボクの価値観の中では、空気の中に混じる窒素のように曖昧だ。
 絶対的に悪いなんてことが果たしてあるのだろうか。
 殺すのは悪い。盗むのは悪いと人は言うが、しかしそんな硬度の価値観でさえも、絶対的にそうであると言い切れる人間はそうはいない。
 殺されそうになったら殺してもよいし、死にそうなほどに飢えていたら盗んでもよいのである。
 そうではない、絶対的に悪いのだといいきる人がいるとするのならば、その人の考えは尊重に値すると思うし、また大変けっこうなのであるがボクの考えは違う。だったら殺されてしまえ、だったら飢え死にしろというのがボクのその人に対する答えだ。もっと弾力があってもいいだろう。価値観の源泉は結局のところ人間だ。人間の脳みそだ。脳みそのなかに生じる妄想だ。
 脳みそはそれぞれ違うものがおさまっているから、当然のことながら人間にはおのおのの価値の相違がある。その摩擦が価値を産むといってもいい。すべては相対的なのだといいたい。だとすれば、ボクはボク自身の価値観に従って、わずかばかりの良心のうずきよりも、現実感のあるお金のほうを選択する。見えなくて不便な良心よりは、札束のわずかに香るあの独特のニオイのほうが好きなのである。
 とまあ、そういうわけなのだ。
 要は自分でいうのもなんだが、ボクは金さえ手に入ればいいというクズ野郎なのである。
 けれど、言い訳をさせてもらうなら、買うほうも共犯だろう。買い手がいなければ、この商売は成り立たないのは明白なことだし、売り手だけで成立する市場ではない。ニーズがある。ニーズはやはり美少女を撮るということに尽きる。ブスはいらんわ、売れないから。
 売れるためには美少女を撮らなくてはならない。被写体によって売れるかどうかの九割がたは決まる。この商売がうまいやつというのは、美少女とは何かということがわかっているやつのことを言う。つまりボクは、あえて宣言するが美少女というのがわかっているつもりだ。
 美少女とは何か。考えると難しいことだけれども、こと売れる売れないに限って言うなら話は簡単だと思う。
 ずばり一言であらわすとするなら、美少女とは美の多面体である。
 多面的に綺麗でないと美少女とはいわない。
 美少女の顔。身体。手、足。横顔から、バック。ありとあらゆる角度で撮る。スカートの中はさすがに不可侵領域だが、きわどいショットは売れ筋だ。
 もちろん、その子と直接交渉することもある。しかし、やはり遠方からこっそりとスナイパーのように撮る場合が圧倒的に多い。なぜならどちらにしろ、ほとんど変わりはないからだ。近く遠くで微妙な差異はあるだろうが、その本質は変わらない。つまり、綺麗な子は綺麗だし、可愛い子は可愛い。どうしようもないことに、ブスはブス。
 近くであろうが、遠方であろうが、少女のカタチは崩れないことをボクは知っている。
 その意味においては、写真は嘘をつかないというのは絶対的に正しい。
 写真においてはカタチだけが重要だ。美少女というのは、カタチが綺麗だということであって、その子の内面が美しいということではない。カタチというのはもっといえば、顔の目、鼻、口、耳の配置が整っているということであり、身体のパーツがそれ相応に、『そそる』かどうかだ。
 要するに、みんなが萌えてるのは単なるパラメータにすぎない。
 パラメータがより多数の求めるものに近づけば近づくほど、その子は美少女と判断されるわけだ。始まりはそんなふうにごく単純な反応経路を形成している。簡単だろう? 簡単なのだ。萌えるという言葉には人間を簡略的に解釈することが含まれていて、人間性を搾取する。極限化すれば、一言で表せるようにする。たとえば君は狐っ娘萌えというふうに、イメージの言葉に置き換えるわけであって、これは記号化だ。記号化することで、萌えは連帯共有が可能になる。一種の言葉の型である。たとえば外形的な性格のパターンについても同じことがいえる。あの子は、ツンデレであるという言葉で、たった四文字の言葉で表すことによって、抽象化されたイメージを付加することが可能になるのだ。それもカタチの一種であり、パラメータのひとつといえるだろう。
 思えば、萌えるというのは便利な言葉だ。
 自分の中に引きこもる言葉。ある種のシェルター。自分だけの世界を創りだす。それは魔法に似ていて、自己完結している。
 写真の中の少女を愛でるということは、つまり自分の中に生じた観念を愛でることであって、結局つきつめると自己愛以外のなにものでもない。
 みんながみんなそうとはいわないが、写真だけで満足してしまうということが証拠だ。写真の少女の悩みとかあるいは葛藤などの内実を捨ててしまって、表面上の甘いクリームだけをむさぼっているわけだ。楽だし、傷つかないし、それで満足なのだろう。
 カタチは嘘をつかないし、カタチはわかりやすいから、大方それでよいと判断されるのだと思う。少女の内面などどうでもよいのだ。
 確かに、少女の内面を知ったところで得るものは少ないだろうし、むしろ幻滅することが多いと思う。それは、自分の中の観念が崩れることだから、一種の喪失ともいえるだろう。萌えの崩壊とでもいったらいいか、幻想の崩壊とでもいったらいいか。驚くべきことに写真を買う人たちも、幻想についてだけはかなり敏感で、どんなに美少女であったとしても、やはり美少女のイメージから逸脱しすぎていると幻想もともに壊れてしまうと考えているようだ。
 鼻くそほじっている美少女、なんて言葉自体が撞着している。そこにはあるべき姿というものがやはりちゃんと存在している。つまりなんというか、そとづらだけじゃ足りないのだろう。パラメータに萌えるのは確かなのだが、パラメータを見て萌える自分にさらに萌えているというか、美少女の中に自分なりの理想をさらに見出しているのだと思う。そう考えると、カタチというのは、作り手側の恣意と買い手側の恣意によって創りだされているのがわかるだろう。被写体の意思はほとんど捨象されてしまっているのだ。どうかおかまいなく、勝手に萌えますからというふうに。
 つまり、そういうわけで。
『美少女はうんこしない』
 バカらしいと思うかもしれないが、ある意味、その言葉も真だといえる。みんな観念の奴隷なのだ。思想に毒されているのだ。例えばの話。ある作家が歴史に残るような名作を書いたとしても、その作者が幼児のような振る舞いをしたら、みんな見向きもしなくなる。作品はゴミ箱行きで光が当たることはない。
 カタチのほうが大事なのだ。最年少で大賞を受賞したとか、○○氏、絶賛とか、そういった言葉の威力は絶大で、そのパワーは言葉どおり権力性を帯びる。
 それは要するに真実などどうでもよくて、口当たりのよい表面的な事柄を真とみなすということ。イコール、バカになるということ。イコール、判断しないこと。バカになること自体は否定しない。社会に自分を合わせるということと、そのことは同義だから。みんなが読まない作品を自分ひとりが読んだところで、時間の無駄だ。少なくとも社会的な意味では。
 ボクがやってることもまた同じ論理を適用できる。適用しなければならない。
 売買も十分に社会性を有する行為であることは明々白々であるから、ボクが写真を売るときにも最重要なのはカタチであるという論理になるのだ。
 まとめると、美少女の必要条件はカタチの綺麗さだけであって、内面などまったく意味がないのだ。内面などむしろ足を引っ張る存在といえる。
 だから、気をつけないといけないのは距離感。知りすぎるとよくない。むしろ知らないほうがよいのだ。
 共感は萌えをおおいに喚起させるものだが、写真の女の子のことはできうる限り、『他人事』であったほうがいい。
 その距離感が、シールドになる。沈黙の距離が、自分を守る。美少女は永久に美少女という概念として固定化される。
 そうやって、ボクと買い手は少女を壊し続ける。完全に破壊しつくすまで、停止することすら許さない。自分の中の少女という部品を殺して、全体を保持しようとしている。妄想の中での少女虐待に性的興奮を覚えるとかそういう意味じゃないことにはご注意。もっともそういう意味を含むことも多々あるのだが、ボクが言いたいのはもっと広義の意味での殺人である。わかりやすく言えば、写真の少女はやっぱり生の少女とは違い、どろどろした部分を削っている=殺しているという意味だ。そして殺しておきながら、生きることを強要する。壊れているのに、動かそうとする。妄想することは動かそうとすることだから。
 彼女は笑うだろうとか、こういう行動をとるだろうとか、いろいろなことを想像する。それ自体は悪いことではないが、しかし対象からの応答を求めないのはむなしい自己完結だ。
 糸で死体を操るような奇妙さ。
 バラバラに解体されながらも、蠢くマネキン人形。
 少女に死の代行処理をさせ、自分自身をなんとか生かそうとする。
 愛して欲しいとつぶやきながら、少女の首を絞め、
 あるいは、死にたくないと絶叫しながら、屋上からダイブする。
 壊れている。どうしようもなく壊れている。なのに、人は生き続ける。
 人の構造形式は、フォールトトレラントの思想によって創られているのだろう。
 壊れながら、生きつづけろと神様がプログラムしたのだ。しかし、『生きなさい』という言葉ほど、人を拘束し、悩ませ、そして苦しめる呪いはないと思う。


【イメージ 2】

 赤と白。
 少女の死体はまだ新鮮で、陶磁器のような白さを覗かせていた。
 ひどくなまめかしい誘いのカタチ。
 白い肢体に、血の赤が蛇のように這っている。
 少女は一糸もまとっていない。防御の無いカタチをしていた。そういう状況は作為的に作り出されていた。他人の手によって、もっと言えば男の手によって。
 ボクは、少女のカラダを見下ろしている。赤と白のまだら模様をしたカラダを。



【リアル 2】

 神の呪い。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 哲学者もどきの考えをしてしまうと引かれるのはわかっているので、ここらでやめておこう。
 なにマジになってんのという言葉は、わりとよく聞かれる。カラオケで他人の歌を真剣に聞くやつなんかいないし、それと同じ。
 生きることなんて、他人にとっては、その程度のこと。
 どうしようもなく鈍感で無関心だ。
 隣に住んでいる人が明日死んだとしても、ボクはだからどうしたのと言うだろう。大方の人間もそうだと思う。この点については、隣の人と親交が深ければそうではない場合もあるという反論ができるしれない。だったら、外国のことについてはどうだろうか。報道、ニュースでいくらでも情報は摂取しているはずだ。しかし、何千万の人間が死のうが、あるいは一国が消滅しようが、所詮は関係がない。無関心。
 それと同じ考えを持っているのだとすれば納得もいく。納得しなければ生きていけない。
 前置きが長くなりすぎてしまった。
 そろそろ、現実の話に戻そう。
 下にはターゲットがいた。部活の勧誘に混じって、じっと立ちすくむ少女。
 その少女は物憂げな表情をしていた。
 髪の毛は薄い金髪で、なんといったらいいかヒマワリのような色だと思った。後ろでしばってあるふうの髪も、ちょうどヒマワリの花びらのような感じに放射線状の広がりを見せている。
 色との対比を考えると、紺色のブレザーがマッチしているといえるだろう。
 売れると瞬間的に思った。
 ボクは、即座に彼女にフォーカスした。彼女は『売れ線』だ。まちがいない。ファインダーから覗きこむと、彼女の姿にはやくも篭絡されている男の姿が見える。何人いるんだろう。ほとんど視界に入った全員じゃないのか。
 いまだかつてない売り上げの予感に、ボクの心臓は高鳴った。耳から鼓動の音が聞こえるわけではないが、ともかく集中しなければならない。撮り逃すと大損だ。
 それにしても――。
 残念といえば残念なことなのだが、彼女の表情はどことなくぼんやりとしていて、それはそれでよいのだが、美少女としてのカタチとしては王道からはずれるなと思う。先ほどは物憂げだと思ったのだが、よく覗いてみれば、一言でいってヤル気がないという感じだ。なんのヤル気がないのかはよくわからないのだが、つまり面倒臭そうというカタチが見て取れた。
 そのカタチは、美少女としては落第だ。
 なんとか、彼女がそれなりの顔を見せてくれる時がくればよいのだが……。
 ちなみにボクは屋上から彼女を盗撮している。ここなら、まずばれる心配はない。屋上は風が強く、まだ多少肌寒くはあった。手が寒い。シャッターチャンスを逃してはなるまいと、ボクはファインダーを覗きこんだまま、右手に息を吹きかけた。手は寒いまま。しかたない。手がかじかむのは我慢しよう。
 今はただ集中するべきだ。ボクは震える手を、気力で押さえつけながらカメラを握る。横っ腹が痛くなってきた。緊張には弱いのだ。少女は動く様子がなかった。ぼんやりとしたまなざしはどこへ向いているのだろう。少なくともボクに対して向けられているわけではないのは確かだ。
 もしかすると、誰かを待っているのだろうか。その考えは順当かもしれない。少女は誰かを待っているのだろう。では誰を? つまらなそうな顔をしているということから考えれば、恋人ではないといえそうだ。乙女心というのはボクにはよくわからないのだが、少女漫画を読む限り、恋人が来るのを待つ少女というのは、えてして緊張感と期待感がないまぜになって、そわそわしているものだから。それも少女のカタチに過ぎないのだが、まあ、人間の行動を統計的に考えても、そわそわすると言ってよいと思う。つまり数学的な正しさであるから、幻想ではない。だとすれば、彼女は誰を待っているのか。おそらくは友達ではないだろうか。しかも、気心のしれた同姓で同年齢程度の友達の線が強い。
 あ?
 と、刹那。
 自分がたった今までカメラに捉えていた少女の姿が無かった。おかしい。まるで意識が途切れたみたいに、瞬間的に喪失していた。姿が映っていなかった。まるで幽霊のように、まるで手品のように少女の姿はどこにもなかった。
 撮り逃したことによる残念さよりも、その不可解さを解き明かしたいと思い、ボクはカメラから一瞬、目をそらし、桜並木へと視線を走らせた。
 しかしよく考えると、生の視線のほうが距離が開いているため探しにくい。カメラのほうがいい。
 ボクは立ち上がり、カメラの視線のままそこらを探す。
 井戸端会議のようにざわめいている下の景色。ピンク一色に染め上げられた世界。誰もが機械のように動いている。果たして、主体的に動いている人間がこの中にいるのだろうか。みんな、誰かの書いたプログラムに従って動いているにすぎないんじゃないか。
 しかし、そう思ったのもつかの間。彼女の姿をまたしても捉えることができた。彼女はゆっくりとした歩調で歩いていた。傍らにはやはり友達と思われる同年代の少女がいた。その友達も、なかなか綺麗なカタチをしていて、売れるだろうと思ったが、しかし、ボクは一人に固執するタイプなので、少女から視線をそらすことはなかった。少女の友達は一種のオブジェだと考えればいい。別に写りこんだとしても特段の不利益にはならないし、問題はないだろうと判断した。
 もしかすると、二人いっしょに写したほうが、バランス的にはむしろいいとさえいえるかもしれない。なんといえばいいか。キャラクターのバランスというべきか。カタチから見て取られる彼女たちの外形的なキャラクターは、ダウナーとアッパー。要するに陰と陽のように見える。予想される売れ行きは同じぐらいだ。人形のような少女も、陽気に引っ張ってくれる少女も、少女としてのカタチはこのうえない適性がある。
 少女とはそういう両義性を有する存在なのだ。不安定な存在だともいえるし、逆に超安定の存在だともいえる。
 どちらでもよいのだ。
 彼女たちは仲が悪いのか、何か悪口を言い合っている。そうすると、少女の表情も生き生きと輝いている。怒った顔は、あまり売れ行きがよくないが、一部のマニアには受けがいいので、いちおう撮っておいた。しかし、本当ははじけるような無垢な笑顔が欲しいところだ。
 太陽のように笑う。あるいは月のように笑うというのが、少女の最善のカタチ。それ以上の芸術的美しさはありえない。いつかそういうシャッターチャンスをあることを切に願うが、しかしこのままでは時間切れになる可能性も高いだろう。
 少女たちは連れ立って歩き出した。



【イメージ 3】

 怒りはぎらぎらした物欲がもとになっている。つまり、どうしておまえは俺のものにならないのかという論理。しかし、その論理はそもそも誤謬にみちていることにどうして気づかないのか。人間は人間を所有することはできない。金や権力や暴力で、ある一定の場所に封じこめることはできても、あるいは肉体を思うように扱うことができたとしても、彼は彼女を所有することはできない。所有を拒絶するのは、まなざしだ。自分とは違う方向の視線がある。見られているということは、彼と彼女は違うということであり、したがって所有は不可能だ。そもそも、所有するために殺した瞬間に、彼女は彼女でなくなってしまうではないか。
 しかし、そうだとしても、人は人を所有したいと思う。煩悩であるといってしまえばそれまでだが、共感がまったくできないわけではない。孤独を忘れたいのだろう。ひとりになりたくないのだろう。殺したいと衝動的に思ってしまうのは、つまり、少女と同化してしまいたいという切なる願いに違いない。
 少女の方からすれば、いい迷惑であるが……。
 ボクは見ていた。彼が少女のカラダを文字通りむさぼるのをただ黙って見ていた。そうすることしかできなかった。
 文字通りという意味は、文学的表現ではなくて、現実的にそういう行為があったということだ。
 要するに、彼は少女の死体を食べていた。食べることで同化したいと思ったのかもしれない。それ以上の意味づけは、常人には不可能だ。食べたかったから食べたのかもしれないし、そうではなくともなんらかの彼なりの責任の取り方だったのかもしれない。殺したら食べなくてはいけないというのは、生物的な本能に近い距離を有する気がする。
 過剰すぎる意味の取り方だろうか。あるいは、ただ単に。そう、本当にただ単純に、彼はおなかがすいていただけかもしれない。そして、少女の白いカラダがたまたま近くにあって、ほんの気まぐれから口をつけたのかもしれない。ともかく事実としては、食われたということ。
 そのとき、彼はもとから少女を殺すつもりだったらしく、解体するための道具を持ってきたから、それを使って少女は沈む夕日のようなスピードで、ゆっくりとバラバラにされていった。
 ボクはじっと観察していた。
 彼の行為を――彼の猟奇をじっと見ていた。何もできない。指一本動かすことができない戦慄すべき状況。
 しかし、心のどこかではその情景に、深く共感してしまう自分がいて、そんな自分にさらに恐れを抱いたりする。それ以外の微細な感情は、メーターが振り切れてしまったかのように、何も感じ取れなかった。
 空気が震えている。しかし、音はしない。
 赤と白。
 彼は少女の心臓をえぐりだして、その真っ赤で小さなカタマリに口づけし、おもちゃを手にした子どものように笑いながら(あるいは泣きながらか?)その華奢すぎる指も、アクアマリンのように青い瞳も、貝殻のような爪も、絹糸のような髪も、すべて、すべて、大事な宝物のように、

 切り取った。



【リアル 3】

 少女たちは歩いていた。
 何かを喋っているみたいなので、ボクは彼女たちの口元に集中するように努めた。
 こういう仕事をやっていると嫌でも身につくことなのだが、一種の読唇術が使えるのだ。微妙な部分は類推するしかないが、それでも大意は読み取れる。できうる限り、はっきりと喋る子であれば、間違えることも少ない。彼女たちはわりかしはっきりと喋るほうだ。それだけで、彼女たちの内心が少しだけ見える気がする。
 基本的に、明るい性格に概括されるパターン。勝気とまでいえるかは微妙だが、それでも精神的に脆弱であるわけではないようだ。
 少し、集中してみれば、話している内容について知ることができるだろう。知ることができれば、当然、仕事の幅も増えるかもしれない。つまり、いろんな顔が撮れる可能性が高まるというわけだ。
 少女が言う。
『……で、さ……シロ、あんた……、わか……てる。こん……い……いらい……わたしたち……けでやる……だから。ゆだん……だめ』
 快活そうに少女の友達が、
『わか……でござるよ(ござる? でいいのだろうか)……せんせい……くても……せっしゃ……とうのさびに……』
 と答えを返していた。
 少女はきょろきょろと周りを見渡しながら、何かを探しているようだ。こんなところでいったい何を探しているのだろう。人だろうか。そうではないようだ。こんなに人が多いところでは、ひとりひとりを認識するには、それなりに時間がかかる。人がまったくいない過疎った村では、人が一人いるだけで、風景から浮いて見えるが、このように人がわんさといる場所では風景に溶けこんでしまって、誰か一人を探すのは難しい。
 しかし、彼女はかなりの速度で周りを見渡しているように思えた。
 その視線の切り替え速度を見る限り、彼女が探しているのはどう考えても人ではない。人以外の何かだろう。何かの物体を探そうとしているのだろう。彼女はここに来たのはおそらく初めてで、だから、そういうこともありえそうだ。しかし、それならばなぜ人に聞かないのか。それも億劫だったのだろうか。
『……ここ……ほんとう……あるん……しょうね。ざった……れいがおおいから……わかりにくい』
『まちが……ないでござる……じばくれい……とどまるもの……ござるからな』
 彼女たちはまるで人を見ておらず、ずんずんと桜並木の向こう側へと進んでいく。このままではボクの視界からも消えそうだ。ボクは焦った。屋上からでは少女を撮影することは叶わなくなる。決断のときがきたようだ。このままここにとどまっていると、確実に彼女たちは向こう側に行ってしまう。ボクの視覚の外にでてしまう。ボクとしては、別にその少女に絶対的に固執する必要性はないのだが、しかし、彼女はどこの誰よりも美少女であろう。
 美少女であるからには売れるのであって、そうであるなら追う価値はあるといえる。
 ボクは屋上の重いドアを開き、少女の後を追った。
 下の階に下りると、桜の匂いが鼻をついた。あの独特の甘い匂い。これが春風の匂いなのかもしれない。屋上の風は冷たかったが、ここの風は柔らかかった。
 少女たちはどこへ行ったのだろう。ボクは周りを見渡してみた。人の数が多くて、気後れする。周りの音が聞こえないぐらいのざわめき。ところどころで散見される小さな秩序の崩壊。どうして人は群体になると、こうも暴力的なのだろうか。それはおそらく個性が消滅することに安心を覚えるからだろう。個性が消えて、自分が消えれば、大きな流れに身を委ねることができる。それは、母親の胎内で安らぐ胎児のようなものだ。
 しかし、少女たちは違った。ざわめきから隔絶した世界を生きているかのように、桜の道を突き進んでいく。
 ボクはあまり人に見られるのが好きではない性質だから、こそこそと歩いた。人の視線ほど恐ろしいものはない。
 どうして、あの少女はあんなにも力強く前に踏み出せるのだろう。人の姿が怖くないのだろうか。ボクは怖い。人が怖い。人の視線が特に怖い。あの値踏みするような視線に晒されるぐらいなら、いっそ死んだほうがマシと思えるほどだ。写真を撮っておきながら何を言っているのだと思われるかもしれないが、ボクはむしろ人の視線が怖いからこそ写真を撮っているのだ。そういうふうに、恐怖を少女に転化することで、少しでも、『恐怖』そのものと同化できるかもしれないと考えているからだ。なぜ、怖いのか自分でもよくわからないのは、無意識に恐怖しているからで、その無意識を写真という目に見えるカタチにすることで、平穏を得られると思っている。
 まあ、整合性が取れていないのはわかっているつもりだ。矛盾している部分がボクにも当然にある。むしろ矛盾だらけといえるかもしれないが、壊れながらも生き続けるのは人間の設計なのでしかたない。
 それはともかく。
 少女たちは小道に入った。そっちに行くと、もう学園の外だ。
 ボクはほっとする。
 人気のない鬱蒼とした森のほうへと向かっているようだったからだ。
 が、不可解なことに、なにか急に怖くなった。
 得体の知れない感覚に突き動かされて、足が前に進むのを拒否している。
 なぜだろう。
 それもまたボクの無意識下にある恐怖なのだろうか。

【イメージ 4】

 少女と彼は相対している。
 合わせ鏡のように。
 二人の姿はよく似ていた。
 違うのは、瞳の色。
 どうして、だろう。
 顔と顔。
 青い瞳と、
 黒い瞳が、
 重なるほど近づいて。
 少女は悲しくなってしまった。
 彼は少女のカタチを破壊しようとしていた。
 そうすることで、少女自身を得られると思ったから。
 しかし、それこそがもっともカタチに囚われた行為だと気づかずに。
 少女はだから、悲しかった。
 胸が張り裂けそうなほど痛かった。
 それは、
 少女の胸に鋭利な刃物が刺さっていたせいではなく、
 心が痛かったから。

【リアル 4】

 ボクは鉛のように重い身体を引きずりながら、少女たちの後を追った。
 森は桜色で染まっている。桜の森だ。視界のすべてがピンク色に侵されているかのような、そんな圧倒的光景。美しさのあまりにボクは吐き気すら覚えた。ここは綺麗すぎる。綺麗すぎて、異常なのだ。
 桜はどうしてこんなにも綺麗に花を咲かせるのか……。
 木々は遮蔽になって、少女たちを尾行するには好都合だった。
 ボクはゆっくりとした足取りで少女たちの数十歩後ろを歩いている。変な気持ち悪さがあったのだが、そんなことを悠長に考えている暇はない。
 少女を写真に収めなければ――。
 ともかく、少女を写真のなかに封じこめてしまわなければ、収まりがつかない。
 指先はあいかわらず冷たく、カメラを持つ手に力が入らず難儀した。皮紐を中指に絡ませて、ボクはカメラを落とさないように注意しながら前に進んだ。
 ずいぶん歩いたように思う。
 ようやく、少女が立ち止まった。
 今、ボクは彼女たちのすぐ近くにいる。どうやら尾行は成功しているようで、気づかれていないようだ。この距離なら読唇術を使うまでもなく、はっきりとした声が聞こえる。
「ここらだと思うんだけどね」
 この声が、少女のほうだろう。やや、気だるそうな物言いは彼女のカタチにふさわしく思えた。
「依頼主が指定した場所でござるか。いやー、なんとも綺麗な場所でござるなぁ。こんなにも桜が咲き誇っている場所、拙者、故郷でも見たことござらんよ」
 こちらは先ほどの快活な少女の友達の声だ。
 想像どおりのござる口調がなかなかおもしろい。
「気配感じる?」
「感じるでござるな。近くにいるようでござる」
「でも、どうしたらいいのかしらね。できるだけ穏便でって、難しいわね。力づくで極楽に行かせてあげるというほうが簡単」
「拙者たちの流儀でござるからなぁ」
「これってどう考えても、おキヌちゃんが適任だと思うんだけどね」
「拙者もそう思うでござるよ。拙者、どちらかといえばぶった斬るほうがしょうにあってるでござる」
「ま、相手は単なる幽霊なんだから、危険はほとんどないと思う」
 幽霊?
 彼女たちはいわゆるゴースト・スイーパーなのだろうか。
 ということは、ここらは幽霊が結束する歪んだ場なのだろうか。ボクには幸いなことに、と言っていいかはわからないが、霊感はない。まったくと言っていいほどない。さきほどの気持ち悪さはもしかすると幽霊を感じた兆候なのかもしれないが、しかし、一般人であるボクに判断がつくはずもない。
 余計なことは考えずに、少女を写真に収めることだけ、考えるべきだ。
 ボクはそう思い、ファインダーを覗きこむ。
 少女は、友達にひとことふたこと語りかける。
 友達のほうがなにやら応対する。
 名前。
 名前が呼ばれたような――。
 しかし、聞こえない。
 聞こえなかった。
 認識できなかった。
 しかし、そんなことはどうでもいい。
 少女のカタチを捉えれば、内面など無価値だ。その価値はゼロに等しい。すべては観念に集約される。
 イメージかリアルかと問われれば、大方の人間は、イメージを選択する。
 だって……、そうだろう。
『あなたはかわいければそれでいい』
『私はかわいいだけじゃない』
『あなたはちょっぴりおバカな女の子』
『私は白痴ではない』
『あなたはドジっ娘』
『ちょっと失敗しただけじゃない』
『あなたの声は大勢の人を魅了する』
『そんなのわからない』
『あなたの視線は大勢の男をとりこにする』
『……本当は少し知っている』
『あなたは疲れない』
『疲れるよ。人間だから』
『あなたは歌い続ける』
『物理的に不可能でしょ』
『あなたが好きなのはイチゴのタルト』
『ピリ辛せんべいが好きなの、本当は』
 少女のイメージが少女のリアルを殺す。
 あ!
 風が……。
 猛烈な風がファインダーごしに、目の奥を吹きぬけた。
 桜の花びらが視界いっぱいに広がって、ボクは一瞬だけ目を閉じた。
 なんだ、これは桜の嵐か。
 右手で風を防ぎつつ、隙間から前方を注視する。視界はピンクアウト。そんな言葉はないが、吹雪のときのように前が桃色に覆われてまったく見えない。けれどわずか数十メートル先のことなら、この状態でもなんとかわかる。いない。彼女たちの姿がいつのまにか、消えていた。
 幽霊という単語。
 あれは、もしかすると彼女たち自身だったのだろうか。
 ぞっとした。
 ふわふわと浮くような不安感。
 みるみるうちに一陣に風は収まり、あとにはいつもの、何もないただの風景があるだけだ。しかし、そんな異常があるだろうか。
 少女の姿がインスタントラーメンの湯気のように、どこかへと蒸発してしまったとでもいうのだろうか。
 足の先まで冷たくなるように感じ、ボクはゆっくりと周りを見渡す。
 誰も、いない。
 カメラを首にかけ、ボクは少しずつ後退した。
 はやく、ここから、逃げないと。
 逃げないとどうなるのか、具体的なことはなにひとつわからなかったが、ボクの無意識が警告を鳴らしている。
 ずっと、そうだった。この桜の森に来てから、脳みその中のアラートは鳴り続けていた。
 そもそも、そうなのだ。こういうふうに、彼女たちの後をつけたのがよくなかっ――。
 少女の幻視。
 目の前に、少女が立っていた。
 まさしく不意打ち。
 ボクは動けない。姿を見られたことが恐ろしくて、彼女と視線をあわせるのが恐ろしくて……。
 彼女の口がスローモーションのような速度で動くのを覚知する。
「見つけた」
 ボクは、動けない。



【幻想化された現実、あるいは現実化された虚構】

「ボクは、ただ……、ただ桜が綺麗だと思って」
 なんという言い訳だろう。いや、言い訳にすらなっていない。
 少女は美しかった。どこからどう見ても、彼女は非のうちどころのない完璧な美少女で、ボクはそんな彼女のことが少し怖かった。
「桜、綺麗ね」
 少女は桜を見ていた。
 視線がボクから外れたので、少しだけ圧迫されるような感覚が軽くなった。
「君も桜を見に来たの?」
 ボクは少女に尋ねた。
 首を横に振る少女。
「そうじゃない。えっとね。除霊しにきたのよ」
「ゴーストスイーパーなんだね」
「まだ仮免だけどね」
「もう一人のほうはどうしたの?」
「見ていたのね」少女の視線が鋭くなった。「ずっと前から視線を感じてたけど、弱すぎてわからなかった。雑霊が桜の気に惹かれてやってくるから、わかりにくいのも原因ね。そうそう、あいつのことだったわね。あいつは別の場所であんたのことを探しているわ」
「その……、別に悪気があったわけではないよ。ボクは生徒会の役員でね……」
「生徒会? どこの」
「ここの学園のだけど」
 彼女は怪訝そうな顔をしている。
 そして、言った。
「どこにそんな学園があるというの?」
 少女の視線が槍のように痛い。
 感じるのは桜の匂い。
 桜に酔っていたのか。
 いつからか、幻想を見ていたのか。
 魔法のように、ずっと……、夢を見ていたのか。
 ボクは恐ろしくなって走り出す。
 そんなバカなことがあるものか。
 今の今まで、ボクはずっと――。
 イメージとリアルが逆転する。
 虚構に現実が侵食され、裏返る感覚。
 内臓が飛び出したかのような衝撃に、ボクは白い息を吐く。指の先からどんどん体温がなくなっていく。
 なんだ、これは……。冷たい。
 何もかも、冷たい。
 冷たい。
 水のように、
 氷のように、
 湿った土のように、
 冷たい。
 風。
 暖かいはずのそれを感じない。
 冷える。冷え切っている。どこもかしこも冷え切っている。
 違う!
 そうじゃない。ボクの――『私』のカラダが冷え切っているんだ。
 これだけ長い間走っても、心臓の鼓動は聞こえない。
 視界が突然開けた。
 あっけないほど、唐突に幻想は崩壊した。
 森を抜けた先には、学園なんてものはどこにも存在しなかった。
 すべては、私が創りだした幻想の空間に過ぎなかった。
 そして私はすべてを思いだす。
 私はここで死んだのだ。



 濁世にはお似合いの混濁した意識の中。
 私は目覚めた。
 少女はじっと私のことを見ていた。
 すべてを思い出した私は、少しだけ微笑むことができる。その視線も、受け止めることができるだろう。
「思い出したの?」
「うん。思い出した」私は答える。「私はもう死んでるみたい」
「その認識があるのなら、話は早いわね。成仏する?」
「成仏って、どうすればいいの?」
「どうでもよくなればいいのよ」
 少女の説明は簡潔だった。
 どうでもよくなればいい、か。確かにそのとおりかもしれない。この世への未練が、私を縛りつけたのだろう。成仏しきれないというのは、なんらかの気がかりがあって、その思考に自縛されるということだから、どうでもよくなればカラダは軽くなる。
 換言すれば、自縛霊は場所に拘束されるといわれるが、本当はその場所が死んだ場所だったりして、その時、場所に固定された思考しかできないという意味での自縛なのだろう。
 思考が檻なのだ。
「でも、私はどうでもよくなりたくなかったの」
「どうして? もう、あんたは死んでるの。だからしょうがないじゃない」
「でもね――」

 私は思いだす。

 今と同じような桜が咲き乱れる春。
 彼は私を呼び出した。
 私と彼はひそかに好きあっていた。その恋がどのようなカタチであったかはわからない。
 自分でもよくわからない境界線上の恋。
 あやふやで、不安定な。
 単なる親愛だったのだろうか。
 それとも、誰かに本当の私を見てもらいたかっただけなのだろうか。
 つまり彼でなくてもよかった?
 いまさら、結論がでない思考だ。
 しかし、現実としての進行は、滞りなく進んだ。
 アイドルである私にとって、誰かと『付き合う』というのは核弾頭を抱えているようなものだったけれど、それでも私は彼を捨てることはできなかったし、アイドルをやめることもまたできなかった。
 なにかにつけて彼は仕事と僕のどっちを取るんだよ、と言った。
 しかし、その言葉はずるいと私は思う。選択などできようはずもない。
 どちらを選んだとしても、その言葉は嘘になるだろう。
 なぜなら、私の中ではどちらも計測が不可能な、かけがえのない価値を有していたのだから。
 私は嘘を言いたくなかったから、いつも笑ってごまかしていた。それがよくなかったのかもしれない。彼は現実と虚構の境をはっきりとさせて、明瞭なカタチを欲しがったのだ。
 要するに、この桜の森で彼は私に、アイドルをやめるよう訴えた。
 懇願だった。
 ほとんど泣いているように見えた。
 私は悲しかった。
 もっと私を見て欲しかった。それは今になって思えば、彼とまったく同じ気持ちだったのかもしれない。
 アイドルは確かに私の中の何かを殺すし、搾取されているといえるのかもしれないが、しかし本当の私は彼に見てもらえれば残り続ける。
 カタチなどどうでもいい。カタチに勝手に萌える人がいたとしても、私はその人たちのことがそれほど嫌いではない。演じることへの気持ちよさがあるし、彼らと共同してひとりのアイドルを創り上げているという気分になれるから。
 それに、どんなに私が『お人形』のようになろうとも、私は彼の前では私なのだ。一人の人間なのだ。
 彼がいるから、私は私であり続けることができる。
 私はアイドルであるがゆえに、私自身をあなたにだけはより明確に伝えることができる。
 私はそう訴えた。
 言葉は伝わらない。
 彼は証明を求めた。見えるカタチを求めた。
 不可能だ。なぜそんなこともわからないのか。心はカタチではない。心は――存在しない。極限的に言えば、心とは幻想だ。幽霊や悪魔や神が存在しようとも、私が私であることの証明は絶対的に不可能だ。なぜなら、人はそれぞれ自分の心の中に生じた虚像を見ているのだし、つまり脳内で再構成しているからだ。
 別に私は独我論の罠にはまっているわけではない。私は私ひとりだけの世界を生きているというつもりはない。
 ただ、心を伝えるのは本当に難しい。
 命を賭さなければ不可能に近い。
 それはもう、絶望的な試みともいえるだろう。
 言葉は回転数を上げていた。
 壊れたCDプレイヤーみたいに、ただ無意味に空転していた。
 最後には不愉快なディスコード。
 音がつき、獣のような目で彼が私を見る。
 その視線は、私を見ていなかった。私のカタチを見ていた。
「どうして、僕の言うことを聞いてくれない」
 お願い……、私を見て。
 どうか、お願いだから……。
 私は懇願する。
 彼に懇願する。ずっとそれだけを願ってきた。
 私は彼を見ているのだろうか。カタチではなく、実在を、きちんと捉えきれているのだろうか。
 そもそも、私は私なのだろうか。
 私は、誰かのアイドルにすぎなくて、よくできた人形にすぎなくて、だから私はどこにもいないのではないだろうか。
 彼が取り出したのは、銀色のナイフ。
 殺す意志は、そこにはない。単なる稚拙な脅迫行為。わかっている。これは単なる演技だ。彼は演じているのだ。私も、演じているのだ。人間ごっこをする人形たち。動かしているのは誰だろう。少なくとも人間には不可能だ。人形にはもっと不可能。
 神なのか、それとも悪魔なのか。
 抵抗したい。自由を、私は主張したい。
 その欲求すら、誰かにプログラムされたものかもしれないが、不意に鮮明な意志が私に宿るのを感じた。
 使命感のようなものが芽生えた。
 錯誤なのか。
 一瞬の稲妻のようなシナプスの結合に過ぎないのか。
 わからない。
 わからないまま私は走る。
 自由への疾走。
 私は彼に抱きついた。
 ナイフをかまえたままの彼の体に抱きついた。
 結果がどうなるのかなんてわかりきっていたけれど、そうせざるをえなかった。
 私は、私を殺したのだ。
 それが、私にできうる最大限の証明方法だった。
 なぜ、哀しそうに見ているのだろうか。望まれたことなのに。すべては彼が望んだことなのに。
 私は彼を愛していた。今も、愛している。



「だから、成仏できないってわけ?」
「そう……。私は彼に罪を負わせてしまった。だから私はこの思考縛鎖の中で考え続けた。思考し続けた」
「地獄よりひどいわね。いや、地獄そのものって感じ……」
「私は彼の思考をできるだけ再現しようとした。彼がどんな気持ちだったのか知りたかった。だって、それがカタチではない彼自身に迫れるただひとつの方法でしょう。人が人の心に迫れるのは、想像することしかないのだし、そうすることしか私にはできなかったから。幸いなことに時間だけはたっぷりあった」
「それこそがあんたの言う、カタチってやつじゃないの」
「そうだね」私はこくりとうなずく。「そのとおりだと思う」
「で、彼の気持ちってやつわかったの?」
「結局のところ、言葉以上のものはわからない。私はやり方をまちがえたのかもしれない」
「当然よね。あんたたちはもっとバカみたいに喧嘩すべきだったのよ」
「そうだね。そうしたら、死ななくてもよかったのかもしれない。人間として死ぬことを選ばずに、人間として生きることを選べたかもしれない」
「あー、そんな泣きそうな顔にならなくてもいいじゃない」
「だって、私は彼のことも殺してしまった。私は彼が壊れるのを見てたのよ。幽霊になってから私は彼の行為を見ていた。ひとつひとつ確かめるように。私を所有できる方法がないか試していって、それでもどうしようもないことに気づいて、彼は壊れていった。どうしようもなく心が死んでいた。私がそうしたの。これ以上の罪はない。私には罪がある」
 最後の瞬間に、
 彼は自分にもナイフを突き刺して……。
「そうかもしれないけれど、いまさらしょうがないでしょ。あんたは死んでるの。死んでるから、そうね。えーっと人間社会でいうところの破産宣告みたいなもんよ。全部、ご破算なの」
 力いっぱい少女は力説した。
 その言葉は、とても少女らしいとはいえないものだったけれど、彼女らしさがにじみでていた。
 私の罪は消滅したのだろうか。
 死ぬことによって?
 そんなに簡単に罪は消え去るのだろうか。
「十年よ」
 少女はぽつりとつぶやく。どういう意味だろう。
「もう、十年以上経過しているの。あなたが死んでからね。だから、もうそろそろいいんじゃない?」
「嘘……」
「こんなことに嘘ついてどうするのよ」少女はつぶやくように言った。「私はあまり優しくないからうまいこといえないけど、あなたはあなたなりにがんばったんじゃないかなと思う。人間にとって、十年ってのがどれほどの長さかぐらいは知っているつもりだし……、それにね。あなたを除霊するように頼んだ人がいるのよ。それが誰かは契約上いえないことになっているんだけど、要するに、あなたがここにいると知っている人がいて、あなたが救われて欲しいと願っている人がこの世界のどこかにいるってことは確かよ。それだけじゃ足りない? あなたがここにいるってわかっている人が、世界に一人は絶対にいるって事実だけじゃ足りない?」
「いいえ……いいえ……」
 お湯の中につかったときの感覚を私は思い出す。じんわりと、手の先まで彼女の言葉が染みていく。
 私はそんなに欲張りじゃない。
 たった一人でよかった。
 私が私であると証明してくれるだけの存在がたった一人いればよかった。
 だから、もう……、すべては満たされた。カラダがふわりと軽くなる。
 思考が、解き放たれて、世界が、光で満たされて。
「成仏するのね」
 少女の言葉に、私ははっきりとうなずく。
「極楽行きか、地獄行きかはわからないけれど。そろそろここから動いてみようと思う」
「極楽に行かせてあげるわ。それが、ゴーストスイーパーの役目だから」
「素敵な仕事ね……」
 私は森のなかを少女といっしょに歩く。光に向かって歩く。こんな楽しい気分になったのは久しぶり。どうして気づかなかったのだろう。
 私は少女に振り返る。
「アイドルって、楽しい仕事よ」
「死ぬ思いしてるのに、よく言えるわね」
「嘘じゃないわ。だって、私……、嘘なんてついたことないもの」
 嘘をついたことがないなんて、これ以上の虚偽は存在しない。
 おかしくなって私は笑った。
 けらけらと、少女としては落第点の大きな笑い。おなかが痛くなるほど笑った。幽霊も泣けるのだと初めて知った。
「私はピリ辛のせんべいが好きなんだ」「うん」「デザートみたいな甘いものがだいっきらいでね」「そう」「本当はセーラー服みたいなひらひらした服より、ジーンズのほうが好き」「シロみたいね」「歌うのはわりと好きよ」「あなた、そんな細いのに声でんの?」「歌は魂ですから」「ふうん」「当然、うんこもします」「人間ってときどき考えていることがわからなくなる……」「業界で初めて知った言葉は、かわいいは正義」「それは……まぁ……わかる気はする」「自分の容姿はわりと好きよ」「目が青いのは?」「本当の親が外国人だったのかな、たぶんハーフ」「養子?」「そうだね」
 そんなとりとめのない話をしながら、最後、森と町との境界線で私は立ち止まった。
「ここでいいよ。もうあとは一人でいけるから」
 少女はなんとも言えない表情になって、手のひらをひらひらさせた。
 こんな素直なカタチ。
 どきりとするようなカタチは、いままでに見たことがなかった。
 信じられないことに、彼女は今日会ったばかりの私に対して、別れを惜しんでくれているのだ。
 感謝を言葉にこめるのは難しい。命を賭さなければいけないほどに、難しい。だけど、もう私に命はないから心をこめるしかない。
 未熟すぎる自分。どうしようもなく謝りたくなる。誰に対してだろう……。
 私は、いっそ日常用語で使うように、とりとめもないような軽さで彼女に尋ねた。
「あなた、名前は?」



【終結部】

 少女は殺された。君に殺された。君も死んだ。
 しかし、君はそこにいる。つまり成仏ができてない。思念が凝り固まって、自浄ができないのだ。
 人を殺して満足するなんて言葉はおよそ常人には適用されないのだから、君のような殺人鬼でもない凡人はその行為に、虚空を感じたのだろう。むなしさを感じたのだ。君が違うといっているのが、君の姿が見えない僕でも感じ取ることができる。言葉が半分も通じていないのは、哀しいが、しかし僕は何度でも書こう。
 書くことが僕にできる唯一の抵抗だからだ。世の中のどうしようもない不幸や、やるせない憤懣や、怒りに対するたったひとつの抵抗手段だからだ。
 はっきり言う。
 君は何も獲得できていない。
 君は彼女のいったい何を手に入れたのか。
 確かにわずかな時間を切り取ることには成功したといえなくもないだろう。しかし、それすらも彼女の意志がそうさせたのだ。
 君が望んだから、応えたにすぎないのだ。
 彼女は君を思って、この世界に留まっていた。なぜなら赦す方法を探りたかったからだ。驚くべきことに、君みたいな人間を救いたかったからだ。それがアイドルの使命だと感じていたのだろう。自分は何を思い、何を感じて、仕事をしていたのか。単に男を萌えさせるためだったのか、あるいはカタチを提示するためだけに生きていたのか知りたかったのだろう。
 つまり、この世界に自分が何を残したのか知りたかったのだ。君を救うことができれば、それはイコール自分を救うことにもつながる。
 少女は立派に生き抜いたことを神に証明できるのだ。
 それが少女の遺した最後の祈りだった。
 実は僕も君のような救いがたい人間を救いたいと思っている。それが人間に残されたメシア的な属性だからだ。
 人は祈る。ボクも祈る。僕は僕の妹だった少女のことを思いながら、祈る。
 そして、君の精神が浄化されてしまえばいいと思う。この世界から哀しいことがなくなってしまえばいいと思う。祈りは少女のカタチのように儚いし、君のことを恨んでいないといえば嘘になるが、少女の魂はもはやここにはないのだから、一切が空に等しい。だから、恨みも痛みも悲しみも、すべてがゼロになる。
 それが死というもの。
 なら、君も同じくそうなるべきだと思う。僕は悲しみや痛みを包みこんで桜の花びらといっしょに空へと還したいのだ。
 僕は君が空へ還ってしまってから、ようやく再スタートできるのだと思う。それは、僕が少女のことを忘れきってしまうとか、記憶の奥底にしまいこむとかそういうことじゃなくて、彼女のことを思いながら、時に胸がうずくのをこらえながら、それでも普通に暮らしていくことを選択するということだ。
 無気力とも違う。単に普通の生活に戻るだけのことだ。部屋の中を明るくして、友達と遊んだりして、仕事をしたりして、あたりまえのように日常生活を送るということなのだ。
 もちろん、それは外見だけで、ときどき僕は壊れそうになることもある。大事なものは、ふとした瞬間に壊れることを知ってしまったのだから、僕は時々、気が狂うような不安感に襲われてしまうことがある。でも、それでも僕はまだ生きている。だから生き続けるしかない。
 フォールトトレラント。
 壊れながらも突き進むのが人間だと少女は主張した。生き続けることが呪いだからだろうか。死ぬまで生き続けなければならないのはつらい。できれば、早く楽になってしまいたいと思うことが僕にもある。すべてのノイズのような思考を脱ぎ捨てて、平坦で真っ白な世界に行きたいと考えるときがときどきあるのだ。
 そんな他愛のない夢想をすることを否定はしない。けれど、人間は実直に生き続けることを選択する。ときには夢想に引きづられて還ってこれない人間もいるが、総体的にはやはり帰還することを選択する人間のほうがずっと多いのだ。
 生存のはじめから、そういうふうな構造を選択されている。
 呪いであるという少女の主張は、ある意味正しい。
 けれど、その言葉はそっくりそのまま福音ともいえるだろう。言葉は呪いであるが、しかし愛をこめれば祈りになる。
 罪は罪。
 悲しみは悲しみ。
 真実は真実。
 世界はほどよく壊れているし、人もほどよく狂っているが、
 とにもかくにも死ぬまで生きればよいのだから。簡単だろう?
 たいしたことじゃないさ。みんなやってる。
 そうして僕が自分の心に区切りをつけることができたとき、ようやく僕の中の君という観念は消え去る。君は死ねるのだ。死ね。君よ。死ね。この言葉は祈りだ。君がいつかまた生まれ変わって、今度は誰かを救えるように赦す言葉だ。そうすれば、少女の愛は僕の記憶の中で生き続ける。
 君よ、だから眠れ。どうか安らかに。



 僕のイドよ。

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