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『キツネと美神と煩悩と』

作:米田鷹雄


「生徒でもないのに、それは無理があるんじゃないっスか?」
「なにいってんのよ。アンタ、自分の学校の生徒の顔、全部覚えてるってーの?」
「うっ……」

 そんなやりとりがあって数日後。
 美神と横島の姿は、とある高校の中にあった。

「それで、なんで入学式なんかに……」
「馬鹿ね。入学式なら全生徒がそろうし、顔を知らない生徒が混じっていても当然でしょ」
「なるほど!」
「わかったら無駄口叩かないで、おとなしく見張る!」
「へい!」

 二人ともサングラスをかけ、美神に至っては目立つ亜麻色の髪をニット帽で覆ってまで、こそこそと見張っている相手は、タマモだった。
 今回、美神がうけた依頼は、なぜかこの高校で多発しているキツネ憑きの退治。
 キツネ憑き、といえば、本来なら、美神ほどの高ギャラ霊能者が出張るほどのことはない。かつては、市井の拝み屋が退治できていたくらいだのものだ。
 しかし、今回のものはちょっと様子が異なる。退治しても退治しても、新たに(あるいは再度)取り憑かれるものが出てくるのというのだ。
 調査した美神は、どうやら、潜伏しているキツネ憑きがいるらしいと結論付けた。それが一人でも残っている限り、まるで感染するかのようにキツネ憑きが増えるというわけである。
 となれば、全てを一網打尽にするしかない。
 そのための“囮”がタマモだったのだが──

「美神がおアゲくれるってから、つきあっちゃったけど……」

 当人は、まるで気合いもはいらず、ただ退屈を苦痛としていた。

「それに、なんだかやたらに騒がしいし」

 タマモは部活動勧誘エリアの入口付近までたどりついていた。
 人間社会に疎いところのある彼女には、それが何を意味するかはよくわからなかったが、やたらに大声を張り上げたり、幟を振り交わしたりして、とにかく鬱陶しい。できれば、こんなところは避けていきたいところだ。しかし、彼女が扮している“新入生”は必ずここを通らなければならないようにされている。
 もちろん、逃亡することは簡単だが、それでは報酬がもらえられない。ここまでの我慢が水の泡だ。

「バカばっかよねぇ」

 できるだけ周囲を無視して彼女は歩いていく。
 しかし、その冷たいそぶりは、最近、とみに色気を増した彼女の魅力を引き出すことに繋がっていた。勧誘活動をしていた筈の男子生徒達は、その視線を彼女に固定し、あるいは勧誘の手をとめ、あげく、つけまわす者も出始めた。

「……って、なんじゃ、ありゃ!?」

 タマモにフラフラとついていく生徒からは、獣の耳と手と尻尾が見えるではないか。
 キツネ憑きの連中が、正体をあらわしたのである。

「目論見通りよ。さすがに幼いとはいえ、九尾の狐ね」

 同じキツネでも霊力の格が違う。タマモの霊力と波動にあてられたキツネ憑きたちが、彼女に魅かれて根こそぎ吊り上げられたということになる。

「さ、いくわよ、横島!」
「がってんでい!」

 飛び出した横島が、まずは文珠で結界を張って、外側と遮断する。
 そして、美神がお札で憑きモノを払っていく……が。

「ちょっと、なによこれ!?」

 一人ずつを祓えない程ではない。が、キツネ憑きではありえないくらい強力だ。それがこの数となると、美神でも苦戦は必至だ。

「ねー、ミカミ。まだ終らないのー?」

 戦うところまでは約束してないタマモは、傍観者モードで、それを眺めている。

「うっさいわね、ちょっと待ってな……待ってよ?」

 ここで美神はカラクリがわかった。
 九尾のキツネに想いを集中し、その霊力と共鳴したために、彼ら個人個人が強化されてしまっているのだ。

「……って、それは、タマモを囮に使ったのが失敗ってことじゃないですかーっ!」
「だから、うっさい! 囮にしたところまではよかったのよ! ただ、戦闘がちょっと計算違いだっただけだわ!」
「余計にマズイじゃないですかーっ!!」

 横島も必死に応戦しているが、あまり効果的とはいえない。徐々に圧されている。

「ちくしょー、こうなったらもーっ! 最後の思い出をーっ!!」

 飛びついてくる横島を片手間のカウンターで迎撃・撃墜した美神は、それに振り返りもせず、必死に頭をめぐらせていた。

(一回結界をとけば……いや、そうしたら、こいつらを期限内に退治できなくなっちゃうわ。それじゃあ大損だし……)

 そんなことを考えているうちに、ムクリと横島が起き上がった。

「遅い! さっさと文珠を……」

 自分でKOしておいていう台詞ではないが、それを止めたのは良心の呵責からではなかった。
 横島にもキツネの耳、手足、尻尾がついていたらからだ。

「気絶してる隙にのっとられるなんて、この間抜け!」

 あくまで横島一人が悪い──って、確かに飛び掛ったのは彼なのだからしょうがないか。
 ともかく、横島が敵にまわったとなると厄介だ。おまけに、どう見ても煩悩全開の表情になっている。
 美神はネックレスにしている大粒の精霊石に手をかけながら身構えた。

「──え?」

 しかし、案に相違して、横島は美神には向かってこない。
 狙いはタマモだけらしい。

「……そういうこと」

 ここにきて、このキツネ憑きの正体が美神には直感できた。
 つまるところ、モテナイキツネが、モテナイ野郎どもの波長をとらえて取り付いたということだ。そして、その意識は“本体”よりも“キツネ”のほうが表に出ている。

(そうでなくちゃ、横島クンが私を無視するなんてありえないわ!)

 なんだか、わかったようなわからないような理屈だが、これは正しかった。
 そして、美神が考え付いた対処も実に正しかった。

「タマモ、ちょっと手伝いなさい!」
「……えーっ」
「国産丸大豆、国産にがり、国産菜種油100%の油揚げ、三枚セットでどう?」
「まかせておいて!」

 即断である。

「で、何するの?」
「こうするのっ!」

 美神はタマモの背後に回りこむと、思いっきり、スカートを捲り上げた。

「ちょっ!?」

 タマモは突然の行為にまともに反応すらできていない。
 が、効果の方は絶大だった。

「うぉぉぉぉぉ〜」
「萌え〜」

 女に免疫のないモテナイ憑きもの達は、それだけで、昇天したようだ。
 バタリバタリと倒れていった生徒達からは、キツネのパーツが消えている。

「ふっ……ちょろいもんね」
「み、美神……」
「ああ、タマモ。悪かったわね。でも、揚げの枚数は変えないわよ」
「そ、そうじゃなくて……」
「ん?」

 タマモの視線の先を追う。
 そこには、ゾンビのように起き上がろうとしている横島の姿があった──キツネのパーツを生やしたままの。
 横島の高い霊力のゆえか、あるいは、他の個体に比べれば、下着姿やらを見慣れていたせいか。

「こ、これはマズイわね……」

 煩悩を刺激されて、霊力はさらにあがっている。

「とりあえず、くらいなさい!」

 美神はネックレスを引きちぎり、精霊石を投げつけた。

「ちょっと、やりすぎじゃない!?」
「大丈夫。目くらましよ」

 美神が言った通り、精霊石は爆発するのではなく、強烈な光を発しただけだった。

「この間に立て直す……って!?」

 横島は何事もなかったかのように近づいてきている。
 その顔には、変装用に使っていたサングラスがかけられているではないか。

「ちっ。横島の癖に知恵があるわね……」

 タマモを庇うようにして美神は神痛棍を構える。
 横島は、精神的劣位さえなければ、霊的戦闘能力は美神と互角以上。キツネがどこまで横島の精神を支配し、どこまで戦闘能力を発揮できるのか。皆目検討がつかないが、最悪を考えて行動するしかない。

「……先制で決める」

 近づいてくる横島に対して身長に間合いを計る。
 美神の頬を、一筋の汗がつたった、その刹那。

「えいっ!」
「なっ!?」

 後ろにいたタマモが美神のスカートを捲り上げた。
 モロにお宝映像を視界に入れることになった横島の動きは瞬時に止まり、そして、キツネパーツも霧散する。

「……はっ!? 俺は何を……」

 横島の無意識化の煩悩は、キツネの煩悩に打ち勝ったのである。
 恐るべし横島。

「って、美神さーん。それは俺を誘っていると!!」

 正気を取り戻した横島は、すぐさま、いつものように正気を失ってダイビングに移行した。
 そして、いつものように顔面にカウンターのデンプシーロールをくらって気を失うのだった。

「おい、なんで、美神さん、あんなに上機嫌なんだ?」

 帰り道、横島はタマモに尋ねた。
 横島がしばしの気絶から復活すると、あんな事の後なのに、妙に美神の機嫌がよかったのをいぶかしんでいるのだ。
 なにせ、今回の事件では、目算が大きく狂ったことで、大赤字確定ともなっている。
 理由がまるでわからない。

「さあね。自分のことなんだからよく考えてみたら?」
「なんだそりゃ?」
「なーんだろ」

 実は、タマモが(あまり深く考えずに)呟いた言葉が、その理由だった。「やっぱり横島は、女は美神じゃないとダメなのね」と。

「横島クン、なにしてるの? 事務所に帰ったら、打ち上げよ!」
「え! メシくわせてもらえるんスね! 急ぎましょう!」

 無邪気に歩を早めていく横島の荷物だらけの背中に、タマモは肩をすくめた。

「……ガキよね。美神も大変だわ」

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