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『ある入学の風景』

作:キツネそば


「学校指定ブレザー、指定のブラウスに、指定のソックス……」

 美神除霊事務所の屋根裏部屋、ここに居候している狐妖怪少女タマモは、いそいそと自分のベッドになにやら並べていた。並べ方がまた珍妙で、ブレザーの下にチェック柄のスカート、その下にはニーソックスと風に、丁度人が身に着けてる感じで並べているのである。

「そうだ、指定鞄と指定靴、上履きもあったっけ」

 まだまだ足りない、とでもいうように、さらに襟を飾るリボンやら、ハンカチをそこに添えていく。
 しばらくすると、ベッドの上に服と装飾品だけの女子生徒が完成した。

「フフッ」

 それを見て少し満足そうに微笑するタマモ。いや、控えめな表現だったか。
 彼女は、かなりニヤニヤとしていて、いくら顔の造詣が美少女であるとはいえ、間近で見たら引いてしまうほど”だらしなく”笑っていた。

「……嬉しいのはわかるでござるが、いい加減片付けてくれないと、電気が消せないでござる」

 そんなタマモに、屋根裏部屋の同居人である人狼少女シロが声をかけた。その目はかなり半眼である。

「べ、べつに」

 嬉しくなんてない──とタマモは続けるのであるが、時計の針は既に深夜1時を回っており、早寝早起きのシロはもちろん、必要なければあっさりと寝てしまうタマモにしても、夜更かしといっていい時刻。
 それもこれも、全ては明日に控えたイベントのせいだ。


 タマモは明日から学校に通うのである。


 今年に入って、美神は居候の獣っ娘達二人に学校へ行くよう言い渡した。
 シロが尻尾フリフリ喜ぶのはまあ良しとして、タマモが素直に従ったのは彼女を知る面々からすると意外だった。
 というか下手をするとシロよりも嬉しそうなくらいである。

 元々彼女の好奇心は旺盛すぎるくらい旺盛。
 しかし、同時にいまだ人間に対して完全には心を許していないのもまた事実。

 だから新しい興味に触れるとき、彼女はいつもその両者の葛藤があるのだけれど、このたびは問答無用で『好奇心』が勝利したらしい。
 この数ヶ月の間、事務所の居間などに学園ものの漫画やら映像ソフトやらが『偶然いつも』転がっていたことが、この勝利を後押しした決定的な要因かもしれないのだが、それはこの際置いておく。

 とにかく彼女は、周囲が心配したよりも、遥かに肯定的に入学の前夜を迎えていたのだった。

「分かったから、早々にそれをたたんでしまうでござるよ、拙者はもう眠くてしかたないでござる」

 分かったわよ──と答えたタマモは、丁寧に学校指定のそれらをたたむと、ベッドの傍らに鎮座する、これまた新品の勉強机の上にそっとのせた。

 そして、電気を消してベッドに潜り込むと、気持ちを押さえ込むようにして目を閉じたのである。






 あくる日。

 ついにタマモの初登校の日がやってきた。
 ちなみにシロとは別の学校で、彼女の初登校は二日前に終わっている。
 シロは学校を選ぶ際、あっさりとした口調で『先生と同じ学校がいい』と言い切り、問答無用で入学願書を横島が通う高校に提出したのであるが、タマモは少し悩んだ。
 結局今の学校にしたのは、学校指定の制服が可愛いかったことと、電車通学というものに興味があったからという、実に彼女らしいといえば彼女らしい選定方法だった。

 タマモは夜更かしもなんのそのといった具合で元気に起床すると、朝のシャワーを浴び、おキヌの作った心づくしの朝食をとり、髪もリップも表情も決めると、入学にあたり法的な保護者となった事務所のオーナーに言った。

「美神さん、そろそろ行かない?」

 とりあえず明日からは一人での登下校となるわけだが、今日は初日で『入学式』。
 したがって、シロもそうだったのだが、参列者ということで今日のところは美神が送迎をしてくれるのだ。
 だが、シロの時と若干異なるのは、随員として横島忠夫が居ることである。

「なんで俺まで?」
「シロの入学式には出たのに、私のには来てくれないとでも言うの?」

 確かに横島はシロの入学式には出ていた。出ていたのだが理由がある。
 入学式の日、彼の学校の2,3年生は『半ドン』だったので、同じ学校であることだし、授業を終えたその足で入学式の会場である自校の体育館に足を運んだ、というのがその顛末。
 この度とはかなり状況が異なる。

 俺だって学校があるんだぞ──という横島だったが、その訴えは美神に斬って落とされた。

「まあ、いいんじゃない?どうせ何時も行ってるんだか行ってないんだか分からないんだし」
「──それをさせてる張本人が言いますか?」

 あっけらかんとして言い放つ美神に横島は納得いかないものを感じたが、とりあえず深くは追求しないでおいた。
 それに、なんだかんだでタマモの入学式にも出てやりたくもあったのである。

 美神は壁にかけてある車のキーを取りながら、少し考えて引き出しに入っているサングラスをかけた。
 美神令子という人物は凄腕のGSであり、長者番付にも乗る有名人である。したがって、興味本位の視線を心地良いものとして感じない彼女は、それを少しでも緩和してくれるアイテムになればと思って、それを手にしたのだったが、そこからもう一つ取り出して、自身の丁稚にもかけてやった。
 これはどういう心境だったのだろうか。

「大丈夫?忘れ物とかない?ちゃんと歯みがいた?」

 美神は自身の前に佇むタマモを上から下までしげしげと眺めてみた。
 おろしたてで皺一つない紺色のブレザーと短かいチェックのスカートが彼女にとても似合っていて、それを口にすると、タマモは少しはにかんで見せた。
 なんだか瞬間的に感慨深いものが浮かんで、美神の心を少しだけ暖かいものが満たした。

 ──母親とはこういうものだろうか?──と。


「うん、ないよ」

 白いハンカチも持った、ティッシュも持った。学校指定の上履きも、これまた学校指定の上履き入れに入れて持っている。抜かりはない。
 既にシロとおキヌは登校してしまっているため、この部屋には三人しかいなかった。なので見送るのは四人目たる彼だけ。

『いってらっしゃいタマモさん』
「いってきます人工幽霊一号」

 そして、タマモは記念すべき初登校にのり出したのである。






 とは言っても、美神の送迎である今日。別段ハプニングもなにもなく、至って順調に三人はタマモの母校となる学園へと到着した。
 校門から玄関に至るまでの道に桜並木を敷かれていて今の季節じつに美しい。
 桜の木たちは春の風に薄桃色の花びらを舞わせ、彼らなりに一生懸命、新たな仲間を歓迎していた。

 都合良く校門のすぐ近くにパーキングがあったので、美神達はそこに車をとめると、歩いて校門をくぐった。

 部活動が盛んな学校なのだろうか、校門から玄関まで続く道の脇には、各部の幟を立てた新入生の引きがもうはじまっている。

「楽しそうな学校ね」

 でしょ?──とタマモはちょっと得意げに返事をした。
 彼女の言うことには、人外についても結構アバウトなところらしい。なにやら『ご飯で動くアンドロイド』とか『生霊ゴースト』とか『マッドスチューデント』とかが主に写真活動を行う部にいるとかいないとか。

 そして、二人の前をウキウキと歩きながら、タマモはもっともっと聞いてほしいと、この学校の話をした。
 じつに楽しそうに、じつに楽しみそうに。


 美神はそれを見て思う──ああ、この娘はなんて可愛い娘なんだ──と。

 横を行く横島も暖かい表情でタマモを見つめていた。










 そんなほのぼのとした空間を満喫していた三人であったが、そこに、ちょっとお茶目な春の精が現われる。
 名を『春一番』といった。






 突然吹いた瞬間的な強風。
 それは桜の花びらを、より豪奢に華麗に舞い躍らせ、あたりは一面桜の吹雪とでもいう風景になった。


 それだけならば、素敵な春の贈り物として良い話しに纏まったのであるが、このお茶目な春の好物は主に
 『女性のスカート』である。


 美神は慣れたもので、即座にスカートの端を押さえて難を逃れた。
 その横で丁稚が一瞬残念そうな顔をしたのであるが、その視線がもう一方の女性を捕らえたとき、事件は現場で起きた……起こってしまった。

 もう一方の女性──タマモ──も突然の突風に慌ててスカートを押さえた。押さえはしたが、彼女は右手に鞄と上履き入れをもっており、あいにくと左手しかあいていない。
 なので、左手でスカートの前を押さえたのであるが、当然ながら前だけであり、後ろは押さえることができなかった。
 したがって盛大なパンチラをかますことになるはずだったのだが

















──なかった……パンツ








 刺激的すぎる映像の直撃を受け、盛大に鼻血を撒き散らせながら倒れる横島。
 幸いなことに、舞い踊った桜の花びらのおかげで、現場を目撃したのは美神達だけらしい。

 あわてて美神はタマモを問い詰めた。どういうつもりなのだと。

 目の前で真っ赤になっている少女は、聞き取れるかどうかギリギリといった声量で呟いた。




「……だって、学校指定の下着ってなかったから…………履かないのが普通なんじゃないの?」




 美神はそれを見て思う──ああ、この娘はなんてアホな娘なんだ──と。




 こうして近くのコンビニまで下着を買いに行くことになったタマモは、『入学式遅刻者』という、なさけない前科を記して学園生活をスタートさせたのである。








おしまい



後書きのようなもの

え〜と、キツネそばです。
また履いてません……;
被らないようにと右往左往して頑張りましたが、被ってたらごめんなさい <(_ _)>

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