恋の角砂糖



「ボゥイ、これやるよ」
学校の休み時間、不意にクラスメイトから一つの瓶を手渡された。
瓶の中に詰まっているのは、何の変哲もない角砂糖だ。
「……何、これ?」
僕は首をかしげながらクラスメイトにたずねた。
「ホテル街の雑貨屋さんで買ったんだけどさ」
ホテル街の雑貨屋さんって、何でそんなところに行ってるのさ君。
ホテル街の雑貨屋で買ったこの角砂糖の詰まった瓶と僕に何の関係があるのかわからなくて、僕はま
すます首をひねる。
「だから、何さこれ」
「何でも、『これを飲み物に混ぜれば意中の彼女も一発KO!恋の実る砂糖』らしいぜ」


…………何それ。


−恋の角砂糖〜Ver.BS〜−


「これ、明後日からのポップンパーティ用の作品なんだけどさ、ちょっと聞いてみてくれない?僕、お茶
入れてくるからさ」
ポップンパーティを明後日に控えたある日、シルヴィーはいつものように僕の家に遊びに来ていた。
隣に座る不機嫌そうな君に、僕は一枚のディスクを手渡す。
「別にいいけど……」
シルヴィーがぶつぶつと何かをつぶやきながら目の前にあるテレビに映るゲーム画面をにらむ。
だって君、手加減すると怒るでしょ?
ヘッドホンをはめ、音楽を聴き始めた君を見て僕はキッチンへと向かう。
ポットを火にかけ、カップの準備をし、戸棚に入っている紅茶の缶を取り出す。
と、その時同じく戸棚に入っていた、先日クラスメイトにもらった砂糖瓶が目に入る。
「あ〜……」
どうしよう、これ。
『これを飲み物に混ぜれば意中の彼女も一発KO!恋の実る砂糖』って……つまりは媚薬でしょ?
ちらり、とソファに座りながら音楽を聴いているシルヴィーの方を見る。
…………やっぱ、怒るよね?
お湯が沸いたことを示すようにポットから湯気が噴出す。
ティーポットに茶葉を入れお湯を注ぐと紅茶のいい匂いが辺りに広がる。
…………でも、最近シルヴィーとしてないし、この砂糖の効果のほども知りたいし…………。
うん、させてくれないシルヴィーが悪い。
紅茶をカップに注ぎ、僕は悩みつつもその瓶の中から砂糖を一つつまみ出し、シルヴィーのカップの中に
落とした。


僕が紅茶を持ってきたことに気づくと、シルヴィーは僕のほうを見てヘッドホンをはずした。
「どうだった?」
「ふん、悪くはないな、しかしいつもながら思うがお前の曲には気品とか落ち着きというものがだな……」
『悪くはない』それはシルヴィーの最大級の褒め言葉。
僕はその言葉に気をよくして、そっとシルヴィーに砂糖の入っているほうのカップを手渡した。
シルヴィーがカップに口をつける。
「……ん?」
紅茶を一口すすって、シルヴィーが疑問の声を上げる。
気づかれたかな。
「どうかした?」
僕は心拍数の上がる心臓を押さえ込みながら、あくまでも冷静にシルヴィーにたずねた。
「砂糖、変えたか?」
「うん、いつも使ってる奴切らしちゃってね、何か変?」
「いや、ちょっと気になっただけだ」
シルヴィーが一口、また一口と紅茶に口をつける。
セーフ。
ふぅ、ひやひやしちゃったよ、シルヴィーってば変なところで勘が働くんだから。
「ところでさ、シルヴィーは曲できた?」
「ふん、お前に心配されるまでもない」
シルヴィーは自分のかばんの中から一枚のディスクを取り出した。
「聞きたいんなら、聞いてもいいぞ」
「聞きたい聞きたい」
僕はシルヴィーからディスクを受け取ると、プレイヤーにセットしてヘッドホンをつけた。
再生のボタンを押すと、程なくして幾層にも重なった電子音が流れ出す。
その音は、僕のものと違って、どこか影があって切ない。
僕は目をつぶりその音、シルヴィーの音を感じとる。
やがて、音の波が途切れ、僕は目を開けてヘッドホンをはずし感嘆のため息をひとつ漏らす。
「……相変わらずすごいね、僕にはマネできないや」
その僕の言葉にシルヴィーは機嫌を良くしたのか、顔に笑みを形作る。
「ま、ボクにはこんなの朝飯前さ」
「でもさでもさ、ここの音なんだけどさ……こうしたほうが良くない?」
僕は気になった部分を手製の小型シンセで、弾いてみた。
「……なるほど、確かにそれはいえるかもな、けれどもそれはお前の曲のここの部分に関してもだな……」
僕とシルヴィーはそのまま音楽談義に花を咲かせる。
思えば、僕らは何に関してもライバルだった。
ゲームも、音楽も、学校の成績でも……シルヴィーが一方的に僕をライバル視してたっていう言い方もあ
るけど。
そしてそんなライバル関係だった二人が恋人として同じソファに肩を並べて座ってるってなんだか不思議。
熱心に僕の曲に対する感想を述べるシルヴィーの顔を僕はそっと眺める。
僕より色素の薄い肌、綺麗な金色の髪の毛、長いまつげ……そのどれをとってもシルヴィーは僕にとって、
とても魅力的な人物に思えた。
「おい、聞いてるのか?」
シルヴィーが僕をきっとにらみつける。
ああ、そんな顔もかわいいなぁ。
「うん、聞いてる聞いてる」
でもさ、そういういつものしかめっ面もいいんだけど、たまにはもっとかわいい顔も見せて欲しいな。
君がいつも嫌がるからあまりしなかったんだけど、僕だって結構たまってるんだよねー。
いまだ変化の現れないシルヴィーの顔を、僕はドキドキしながら、またちらりと見た。


次へ
アレな小説に戻る
TOPに戻る

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!