だから、線を越えたいと思った。 『ん、どうしたサイバー、腹でも減ったのか……え、違う? 何々、ふんふん……へぇー……お前もそういうお年頃って奴か。 で、誰なんだ、その好きになった子っていうのは?兄ちゃんだけにこっそり教えてくれよ。 あ、わかったリゼットちゃんだろ!お前ああいう子好きそうだもんなー、ん、違うのか? じゃあカゴメちゃんか?違うって……じゃあ、誰なんだよ。 ……シ……シルヴィー君……?本気か? あ、いやからかったとかそういうわけじゃなくて、本気で好きなのか? ……そうか、まぁ俺がどうこう言える立場じゃないからな。応援するよ。 で、何が知りたいんだ?……ふむふむ、あぁなるほどね。 よっしゃ兄ちゃんの秘蔵のアイテムやマル秘テクを伝授してやろう!』 「自分勝手に走らない、相手のことを思いやる……心を、つなぐ……?」 兄貴から借りた本のページをパラパラとめくる。 本のページに載ってるのは素っ裸の男二人があーんなことやこーんなことをしてる写真。 兄貴いわく、秘蔵の本、らしい。 「ほ、本当にこんなことできんのかな……」 口の中に溜まる唾を、ごくりと飲み込む。 階段を上がる足音が聞こえてきて、慌てて本をベッドの下に突っ込んだのと同時に部屋のドアが ガチャリと音をたてて開く。 開いたドアの先には、まだ湯気の残る、パジャマ姿のシルヴィーが立っていた。 「さっぱりした……って何そんなに驚いているんだ?」 「い、いや意外と早かったなーと思ってさ!」 「そうか?」 「そうそう!」 赤くなった顔を見られないように慌てて目をそらす。 パジャマ姿の俺とシルヴィー。 シルヴィーが横を通り過ぎるのを感じながら、俺は心の中で小さく息を吐いた。 ……シルヴィーが俺の家に泊まりたいと言い出したのは3日前のこと。 何でも、今日ボゥイが自分の家にヒグラシさんを泊めるらしい。 『バカップルの惚気につきあっていられるか!』というのはシルヴィーの弁。 俺は思ったね、こんなチャンス二度と無いって。 もっと、もっとシルヴィーに触れる、近づくチャンス。 今日のために兄貴に色々聞いたし、苦手だけど本も読んだ。 「……どうした?」 投げかけられた声にはっとして視線を戻すと、床に腰を降ろしたシルヴィーが怪しいものを見るよう な目で俺を見上げていた。 いけないいけない、落ち着けー落ち着け俺ー。 小さく深呼吸をして、兄貴の言葉を思い浮かべる。 『まずは雰囲気を作る事が大切』 雰囲気……。 『音楽でも流して、ムードを作ると効果的』 「そ、そうだ!お、音楽でも聞かない?」 「音楽……?」 緊張でうまく動かない体を無理やり動かして、ラジカセのスイッチをONにする。 流れ出すのは、俺の大好きなギャンブラーZのテーマソング。 かっこいいぜギャンブラーZ!ってこれでいいのか……? ……シルヴィーの冷たい視線が刺さってくるのを感じる。 え、えっと、次っ! 『愛の言葉の一つでもささやいて、心の壁を崩せ』 あ、愛の言葉! 「え、えーと、シルヴィー……」 顔に熱が集まるのを感じる。 あ、愛の言葉って何を言えばいいんだろう? 心臓がドキドキして、頭はくらくらして、口はただ息を吐き出すだけ。 混乱して身動きが取れなくなっていると、シルヴィーの手がラジカセの電源をそっと落とす。 そのまま、ぶすっとした表情で俺の方を見た。 「……お前、何か今日変だぞ?いや、おかしいのはいつものことなんだけど、いつもにまして変だ」 シルヴィーの紫の目が俺の方をじっと見る。 ど、どうしよう? 『そしてぐっと……』 頭の中の兄貴が言葉を言い終わる前に、俺の体は衝動的に動いていた。 「う、わっ……?!」 シルヴィーの肩に手をつき、ぐっと体重をかける。 気がついたら、俺はシルヴィーを床に押し倒していた。 シルヴィーは何も言わず、ただ驚いたような目で辺りを見回した後、俺をじっと見つめる。 俺はその目に吸い込まれるようにそっと、顔を近づけた。 キスだったらもう何回もしてるはずなのに、いつもするキスよりもずっと胸がドキドキする。 そっとあわせた唇を離し、シルヴィーの目をじっと見る。 目を閉じて、心を落ち着かせるために大きく深呼吸。 「え、えっと、俺、シルヴィーのことが好きだ!」 「……もう何度も聞いた」 俺の愛の言葉はあきれたようなシルヴィーの声に一蹴された。 これからどうしようと考えていると、シルヴィーがぼそりとつぶやいた。 「……その、なんだ、ああいう事がしたいのか?」 閉じていた目を開くと、シルヴィーが顔を赤くしてある方向をじっと見ていた。 その視線の方向は……ベッドの下。 って、ああっ! たぶん、シルヴィーの目に映ってるのは俺がさっき無造作につっこんだ本。 ……いわゆる、男同士のHのやり方の本。 シルヴィーが答えを求めるように俺を見る。 自分の喉がまた、ごくりと音を立てたのが脳内に響いた。 「……うん、したい、よ、シルヴィーが好きだから、もっとシルヴィーのこと知りたい」 喉から言葉を搾り出すようにして、シルヴィーに告げる。 「……どけよ」 しばしの空白のあと、シルヴィーが小さな声でつぶやいた。 「……ごめん」 そうだよな、いきなり言われたって困るよな……。 俺はシルヴィーから目をそむけるように視線を下へと移動させた。 「違う」 落胆と混乱に包まれた心に、シルヴィーの否定の言葉が落ちる。 視線を戻すと、顔を真っ赤にしながら視線をおもいっきりそらしたシルヴィーがいた。 「……シルヴィー?」 「……床は嫌だ……あと、痛くしたらぶん殴るからな」 その言葉の意味を理解するまでに数秒。 意味を理解したとたん、顔が緩むのを感じた。 「……っ、シルヴィー!」 「だからどけ!重い!抱きつくなぁっ!」 俺は力の限りぎゅっと抱きつき、恥ずかしがってまだ目線を合わせてくれない恋人の頬に軽くキスを した。 |
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