ああ駄目だこんなことをしてもあの人には届かないってわかっているのに。 「ふっ……く……」 両手を自らの暴走する熱に押し当てるように乱暴にこする。 生ぬるい雫が手に絡まって卑猥な水音を立てた。 「あ……ああ……」 霧のかかる脳内で、ただひとつくっきりと浮かぶ人影。 こんなことをしてもあの人には届かない。 こんなことをしても自分の心が乾くだけ。 けれども体内にたまる熱はどうしようもなく俺の中で暴れ狂う。 茎を弄び、鈴口をえぐるように刺激すると何とも言えない衝撃が頭からつま先まで走り抜ける。 「は、ぁっ」 限界が近い。 枕元にあるティッシュを抜き取り、欲望を包み込む。 「ヒグラシさんっ……!」 強く名前を呼んだその瞬間、何かがはじけた。 気がつくと手の中のティッシュは湿り気を帯びていた。 重い体を起こし、ティッシュをゴミ箱に投げ捨てた。 空しい。 もう俺の中には何も残っていなかった。 こんなことをしてもあの人をただ汚すだけ。 こんなことをしても心が潤うわけじゃない。 ……ただ、乾くだけ。 ひと時の快楽がすぎさった後はより強い乾燥が待っている。 ああ駄目だこんなことをしてもあの人には届かないってわかっているのに。 それでも、あの人を求めずにはいられないんだ。 |
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