暗色で統一された女性の衣服が突然消し飛び、同時に女性の華奢な身体は数メートルも吹き飛んで、前方に傾きかけて立つ廃棄されたコンクリート壁に打ち付けられる。そのまま壁面に貼り付けられる形となった女性の背後に、全身を出血と打撲傷が覆う栗毛の男が、よろめきながら姿を現した。
 覆いかぶさるなり、接触面全てを通じて、男の最後の力を振り絞った神経ショックが打ち込まれ、あわせて性急過ぎる一体化の苦痛が女性を襲う。
 壁面と自分との間に強引に挿し込まれる不躾な手に、著しい嫌悪を憶えながら、女性の鋭敏な感覚は、この空地に急速に接近しつつある足跡と気配とを捉えていた。その気配の主の誰たるかを悟った時、彼女はこの闘いをあと一瞬たりとも長引かせる訳には行かないことを知った。
 朽ちて傾きかけた家屋と至る所に投棄された廃物の並ぶ曲がりくねった裏路地の角を、いくつ駆け抜けたことか。直線距離にすれば、目と鼻の先にある音源と思しき地点だったのだが。
 この先は、廃材がうず高く詰め込まれた、行き止まりの空地になっていた筈だ。そのような場所でこの時分に、破砕音を立てつつ繰り広げられる事態とは…この角だ。
 裸電球の据え付けられた電柱のあるこの角を曲がれば、さほど広くはない、袋小路状の空地のほぼ全体を、見渡せる、筈…
 その瞬間、うらぶれた廃材置き場から、あらゆる視神経を切り裂かんばかりの真昼をも凌ぐ白熱光が、バラック街の夜闇を切り裂いた。

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