「レオは無事かっ!?」
陸上部のエース伊達スバルはその俊足で窓から部屋に飛び込んだ。
「レオっ! なんて変わり果てた姿に…!」
目も顔色も髪の色まで真っ白になって、口から魂まで出して
部屋の主こと対馬レオは横たわっていた。
「チクショウ、誰がこんな真似を! 俺がそいつぶっ飛ばして…」
「落ち着け、伊達。 原因はわかっている」
そう諌めたのは鉄乙女だった。 そして、少し離れた床を指差す。
「見ろ。 子供には少々刺激が強いかもしれんがな」
はたして、乙女の示す先には、あまりにも凄惨な光景が広がっていた。
「なんてこった…」
伊達は血の雨が降る予感に戦慄し、その恐ろしさに青ざめた。


ぱしゃっ! ぱしゃっ!
カメラのフラッシュがたかれ、その光が被害者の遺体――ボトルシップの残骸を照らし出す。
ガラスの破片にきらきらと反射するさまはあまりに美しく、悲しかった。
『鑑識』の腕章をつけた蟹沢きぬが部屋の中をうろつきまわり、
被害者の無残な姿をあらゆる角度から撮影する。
鮫氷新一がその脇に立ち、難しい顔で被害者を見下ろす。
「死亡推定時刻は三十分から一時間前。 死亡の原因は転落死だ。
 粉々に砕け散っていることから強く床に叩きつけられたと推測される」
どこから持ってきたのか、くたびれたコートを着込み
手にした黒い手帳を淡々と読み上げる。 そのさまはまさに刑事のようであった。
「多少の衝撃なら中の船が破損するだけで済んだかもしれない。
 しかしこの状況からは、確実に殺そうという執念さえ感じる。
 残忍な手口だ。 一体犯人はこのボトルシップにどれほどの恨みを持っていたのか…」
「ただ単に棚から落っこちただけじゃねーか」
部屋の外から中を呆れ顔でうかがっていた伊達がぼそりとつぶやいた。
「そっ…そうかもしれないが、偽装の可能性もある。
 いずれにしても、我々は必ず犯人を検挙しなければならない!」
そう高らかに宣言する鮫氷の陰で、蟹沢はその身軽さで器用にガラスの破片を避け
写真を撮り続けながら不満げに溜め息を吐いた。
「なんでボクが刑事役じゃねーんだ…」


対馬の寝室の出入り口には現場保全のために立ち入り禁止をしめす黄色いテープが貼られ
被害者の亡骸の跡(危ないからとの理由で乙女に片付けられた)には、白いチョークで
輪郭を囲われAとかBとかの札が添え置かれてあった。
そして、事件の関係者は皆、一階のリビングに集まっていた。
部屋の隅にはいまだ意識の戻らぬ被害者遺族(レオ)が寝かされている。
入口にはなぜか、張り紙に毛筆で『ボトルシップ殺人事件特別捜査本部』と書かれていた。
「なんで私たちまでいるわけ?」
そう言ったのは見事な金髪をポニーテールにまとめた霧夜エリカだった。
「対馬君が倒れたって聞いたからでしょ、エリー」
答えたのは付き人のごとき少女、佐藤良美である。
「せっかくのデートだったのに、よっぴーが対馬クンを心配して上の空になっちゃうから」
「エ、エリー!」
真っ赤になって抗議する良美を見て笑うエリカ。
わかっててやっているあたり、彼女が姫と呼ばれる所以である。
「で、あたしまで呼ばれた理由を教えてもらえますか」
今度は緑の黒髪の持ち主、椰子なごみである。
「テメーが近所をうろついてたからな。 犯人は現場に戻るってゆーし」
椰子を捕まえたのは天敵、蟹沢であった。
「家の手伝いで配達に来ただけだ。
 そもそも何が起きたのかも知らないのに犯人のわけないだろう」
そうして獣のように唸る蟹沢と、冷ややかに斜に構える椰子とのいつもの喧嘩が始まった。


「さて、みなさん」
騒がしい一同を見渡して、さらに帽子とパイプ煙草を追加した鮫氷が切り出した。
「フカヒレ刑事(デカ)。いつの間にパーツ増やしたんだよ」
「なにを言っているのかね、ワトスン君。
 それから、私のことは名探偵シャークズと呼んでくれたまえ」
「とんだ迷探偵登場だな…」
「オホン!」
咳払いで誤魔化し、気を取り直して鮫氷が改めて話始めた。
「現場検証や事情聴取を終え、いくらか情報も集まりました。
 被害者遺族(レオ)はまだ目を覚ましませんが…この『ボトルシップ殺人事件』の
 謎を解く鍵は、すでに我々の手の中にあると言えるでしょう」
丁寧な口調に、普段の彼からは想像できない重々しさを感じて、一同は静かになった。
「そして状況から鑑みるに、この事件は内部犯の線が濃厚です。
 つまり! この中に犯人がいると考えていいでしょう」
一同が不安げな顔をする中、これに乙女が異を唱えた。
「まて鮫氷。 ここにいる人間にあんな惨たらしい真似をする者はいないと私は信じている」
正直で情に篤い乙女らしい意見だった。
しかし、これに対して鮫氷は意味ありげな笑みを返した。
「自分としましても非常に残念なことですが…。 そう考えざるを得ない状況なのですよ」
「ならば、誰が犯人だと言うんだ」
「いいでしょう。 教えて差し上げましょう。 犯人は…」
「犯人は…?」


「犯人は……あなただ! 乙女さん!」
いくらかもったいつけて、鮫氷は乙女をびしりと指差した。
周囲は凍りつき、たっぷりと間をおいて……ようやく犯人呼ばわりされた本人から動き出した。
「……………………は?」
いまだ理解が追いつかず、戸惑ったように眉をひそめた。
それを見て、鮫氷はなぜか納得したように大仰にうなずいた。
「あやうく騙されるところでした。 しかし私の目は誤魔化せません。
 まず第一発見者を疑え。 これに従って状況と照らし合わせた結果…
 犯人は乙女さんしかありえない!」
「…どうしてそういう結論に至ったのか、詳しく説明してくれるんだろうな?」
うつむき加減に乙女が言う。
こめかみに青筋が浮かび、握りこぶしを震わせていることに気づき、周りの人間は距離をとった。
しかし得意満面の鮫氷はそれに気づかない。
「もちろんですとも。 いいですか。
 まず、乙女さんがボトルシップを棚から落として壊します。 これは故意でも過失でもいい。
 それから、本当の第一発見者であるレオを、殴打して昏倒させます。 レオが魂を吐き出して
 いたのがその証拠だ。 そして次に現場に現れたスバルに適当なことを言って、自分を
 容疑から遠ざける。 最後に壊れたボトルシップの破片を自ら片付けることで証拠隠滅を図った。
 …違いますか、乙女さん?」
これでどうだと言わんばかりに、
推理ドラマの主人公が犯人をいやらしく追い詰める口調で鮫氷は言った。


だが。
「違うに……決まっているだろうがっ!!」
ごうと唸り声をあげて、乙女の一撃が鮫氷の腹部に命中し、鮫氷はそのまま壁際まで吹き飛んだ。
怒りの鉄拳制裁である。 鮫氷は、いみじくも彼の言ったように、口から魂を吐き出して昏倒した。
「失礼にもほどがあるぞ。 まったく」
「ほーんと、とんだ時間のムダねー」
「しょっぱなからありえねーだろ、この推理」
「帰っていいですか」
「あ、あははは…」
一様に呆れる面々。 白けた空気が流れる中、いち早く気を取り直した伊達が口を開いた。
「フカヒレの推理はともかくとして
 レオのボトルシップが壊れた原因は、確かめておいたほうがいいんじゃねーか」
真っ先に反応したのはエリカであった。 ただし、違う意味で。
(スバルクンが対馬クンのことを心配している…! これはやはり…!)
「エリー、それはいいから、真面目に考えようよ」
そして、これを窘めたのはやはり良美であった。


ようやく、エリカがその明晰な頭脳を使い始めた。
「とは言っても、対馬クンの部屋に出入りするのって
 対馬ファミリーと乙女センパイくらいなものよね」
「そうだね。 ボクらは窓から直接出入りするけど」
「ま、窓からって…それは危ないんじゃ…」
「それはともかく。 その中で、わざと壊そうとするようなヒト、いる?」
エリカの問いかけに、三者三様に首を振った。
「ボクはそんなことしねーよ。 あいつチキンのくせにすげー怒るし」
「無論、私もだ。 可愛い弟分が大切にしている物をわざわざ壊すはずがない」
「俺だってやらねー。 フカヒレもそうだと思うぜ」
その答えに満足し、ならば、とエリカは続けた。
「故意に壊すようなヒトはいないということね。 じゃあ、過失で壊した場合はどうかしら。
 もしそうしてしまったなら、様子がおかしくなるものだと思うケド」
「様子がおかしかったのは…フカヒレ君だけかな?」
自信がないようでいて、どこか断定的な口調で良美が言った。
「やー、さっきのは多分、単にゲームか漫画の影響だと思うぜ」
「と、すれば、人為的なものではないということになるわ。
 人為的なものでないなら、地震などの自然現象…あるいは、心霊現象かもね。
 ポルターガイストってやつ。 うわぁ、私はじめて見れるかも」
「ひひひひ姫! いいいいいきなり何をいい出すんだよ!」
「冗談よ。 ともかく、どんな状況だったかがもう少しわからないとね」


「ほらよ、これで全部だぜ」
テーブルの上に、さきほど蟹沢が撮った殺人現場の写真が広げられた。
それを囲むようにして一同は写真を眺める。 そこに写ったバラバラ死体の惨たらしさに、
状況が飲み込めていなかった者達が、その写真でようやく事態の深刻さを理解したようであった。
「うわぁ…見るも無惨ね」
「これってもう、直せないのかな?」
「や、すでに乙女さんが処分しちゃったから」
「それにしても、こんなことくらいで気を失うものですか?」
ひとり、少しだけ輪から離れていた椰子が、つまらなそうにつぶやいた。
親友を悪し様に言われたように感じて、伊達は椰子と咎めようとしたが、先に乙女が窘めた。
「そういうな、椰子。 お前にも大切にしている物はあるだろう。
 それがある日突然、目の前で粉々に砕け散っていたら、衝撃を受けるのも無理はない」
「…………」
自分が大切にしている物。 そこにまで思い至って、椰子は自分の軽率さを反省した。
「…ちょっと、現場のほうを、見せてもらってもいいですか」


「やはり現場を見てこそ、わかることがあるはずです」
立ち入り禁止のテープをくぐって、椰子は対馬の寝室を見渡した。
「へー、ここが対馬クンの部屋なんだー」
「か、勝手に入っていいのかな…?」
急にやる気を出した椰子に続いて、ぞろぞろと部屋に入ってきた。
「なにかわかるか、姫」
「んーそうねー。 あの棚の上にあったものが、この印のついているところに落ちてたのよね。
 だとすると…自然に落ちたにしては、ちょっと距離があるかなー」
考え込むようにして、エリカは前髪をいじる癖が出た。
「これは本格的にポルターガイストだったりするかも…」
「な、なにいいいっ! それじゃあボクは、そんな心霊スポットに入り浸ってたっていうのか!?」
「入り浸っ…!」
蟹沢の問題発言にもっとも反応を示したのは良美だった。
心霊現象よりも空寒いものをうなじに感じて、蟹沢は慌てて取り繕った。
「か、勘違いすんじゃねーぞ。 ボクたち幼馴染だしスバルたちだっているし
 遊んだりダベったりしてるだけで、やましーことはしてねーから!」
かえって怪しまれるような弁解をする蟹沢に、伊達が助け舟を出す。
「それはともかく、本当に心霊現象だってなら、祈ちゃんの領分だ。
 念のため、呼んでおくか? オカルトに限っては役に立ちそうだし」


「くしゅんっ!」
「祈よ、随分とキュートなくしゃみだな。 風邪か?」
「いいえ土永さん。 くしゃみ一回ですから、良い噂をされているのですわ。
 きっと生徒の誰かが、私を常に頼りになる教師の鑑と讃えているに違いありませんわ〜」

「いいわよ呼ばなくて。 どうせメンドくさがって来ないでしょ」
「そうかな? 面白がって飛んできそうな気がするけど」
「でも祈ちゃん呼ぶと、セットでインコがついてくるぜ」
「お手軽なポテトみたいだな」

「へっくしょい、ぶぇーっくしょーい!」
「まあまあ土永さん。 くしゃみ二回は悪い噂ですわよ」
「我輩はオウムだ! …あれ?」

「で、どうするよ。 呼ぶ?」
「いえ…その必要はないようですよ」
携帯を取り出した伊達を止めたのは、椰子だった。 その目は鋭く窓を睨んでいた。
それにつられるようにして一同もそちらに視線を向ける。
すると、窓がガタガタと揺れ始め、カリカリという不気味な音が部屋に響いた。


「うおおおっ………ラップ音!?」
恐慌状態に陥った蟹沢を無視して、椰子は臆すことなく窓に近づく。
「カニの言葉を借りるようでシャクだけど、犯人は現場に戻るといいますし」
そう言って椰子が窓を開けると、小さな影が部屋に飛び込んできた。
はたして、それは三毛猫であった。
意外な犯人の正体に態度を豹変させたのは、怯えていた蟹沢ではなく、エリカだった。
「か…かわいい〜!」
首輪をしていないことから野良であろうが、人家に入り込むことから人には慣れているはずである。
しかしそれでも、エリカの突然の反応に驚いた三毛猫は、その小さな体から想像するのは
難しいほどの瞬発力で跳び上がった。 そして――
『あ』
まさに、棚の上のボトルシップが置かれていたその場所に登ったのである。


「まさか野良猫が犯人だったとはな…」
一階のリビングに戻り、疲れたように乙女がそう呻いた。
対馬と鮫氷の両名はいまだ目を覚ましていない。
「ですが本部長。 まだ事件は完全には解決しておりません」
そう進言したのは、問題の三毛猫を抱きかかえたエリカであった。
「誰が本部長だ」
「や、一応、ここは特捜本部だし」
入口の張り紙はまだ片付けられていなかった。
「…まあいい。 それで、完全には解決していないとはどういうことだ?」
「はっ。 それは、この猫ちゃんには、自力で窓を開けて部屋に侵入することは
 できなかったということであります」
乙女が目を光らせ、エリカに先を促す。
「…つまり?」
「何者かが犯人を手引き…ようするに窓を開けっぱなしにしてた疑いがあります」
警察官が上司に報告するようにエリカが続ける。
それにしてもこの連中、ノリノリである。


「今日は…ちゃんとしまってたはず…」
そこに口を挟んだのは、主人公にしてこの事件の正しい意味での被害者、対馬レオであった。
「レオ! 目を覚ましたか!」
本部長ではなく一人の姉に戻って、乙女が対馬に駆け寄る。
「大丈夫か? どこも痛いところはないか?」
「ありがとう乙女さん。 大丈夫さ。 心が痛むけどね。 ハハハ…」
どこか胡乱げな様子で対馬は答える。
乙女が安心するよりはやく、エリカがそこへ割り込む。
「もう少し詳しく聞かせてくれる?」
「うん。 …昨日の夜は風が冷たかったから、窓はきっちり閉めたんだ。
 そして、今日は一度も窓を開けていない。
 いつも鍵はかけてないけど、勝手に開くようなことはないはずだ」
「つまり、対馬クンの部屋の窓を開けた第三者がいるということね。
 そしてそいつがこの事件の黒幕…真犯人だったのよ!」
雷鳴が轟くような衝撃が部屋中に響き渡る。
「いや、真犯人っつーなら、やっぱその猫なんじゃ…」
「猫に罪はありまっせーん。 それともなに?
 こんなに可愛い猫を責めるっていうの!?」
冷静にツッコミをいれた伊達だったが、無類の猫好きのエリカに詰め寄られては
しどろもどろになってまともに答えることができない。
件の三毛猫はといえば、はじめこそ驚いて逃げたものの、
もともとの人懐こさのためか、それともエリカの猫に好かれやすい体質のためか
すっかり彼女の腕の中でくつろいでいる様子である。


「それで、誰が窓を開けたんですか」
傍から冷ややかに観察していた椰子が、これでは先に進まないとばかりに話を戻した。
「私は開けた覚えはないが…朝、レオの部屋のカーテンを開けたときに引っ掛けて
 隙間くらいはできていたかもしれん。 まあ、もしそうなら気付いたと思うが」
「鉄先輩、毎朝対馬君を起こしてるんですか」
「レオはだらしないからな。 世話がかかって仕方がない」
良美の真意に、人の好い乙女はまるで気付かず、嬉しそうに溜め息を吐く。
「へー。 ふーん」
「わーっ! ス、スバルはどうだ…!?」
エリカに意味ありげな笑みを向けられ、対馬は慌てて場を取り繕った。
「俺は昨日の夜に帰ってからは、さっき駆けつけるまでは来てないぜ。
 今日は朝から陸上部の練習に行ってたから、アリバイだってある。 カニはどうだ?」
「ボクもさっき呼ばれるまでは来てないぜ。 スバルと違ってアリバイはねーけどよ」
「本当だろうな」
「んだよー。 この純真無垢なボクの言葉を信じないってーのか」
「無垢どころか、世間の垢まみれで薄汚れてるだろうがお前」
「んだゴルァ」
「まあまあ。 カニが嘘ついてたなら、俺らなら見抜けるだろ」
いまにも対馬に殴りかからんばかりの蟹沢を、伊達がなだめた。
「となると…容疑者はあと一人、か」
エリカのその言葉に、一同の視線は壁際で昏倒する少年に集まった。


「う、うーん」
丁度そこで、猿顔の少年は目を覚ました。
「あ、あれ? どうしたんだ、みんな。
 そんなにじっと俺の顔を見つめて…照れるじゃない。
 お、目を覚ましたかレオ」
「ああ…ところでフカヒレ。 おまえ今日、俺の部屋にきたか?」
「ん? あーそういや、一度きたな。
 借りてた漫画を返して、続きを借りてったけど。 それがどうかしたか?」
状況をよく理解していない鮫氷は、何気なくそう答えた。
その答えに、対馬は顔を伏せて立ち上がった。
「出入りは窓からだよな。 そのとき、ちゃんと閉めたか確認したか?」
ただならぬ様子に、鮫氷は怯んだ。
「え? え、えーっと、どうだったかな…?
 閉めた…と思うけど、急いでたから、閉め忘れたかも…
 どうしたんだレオ? なんか黒いオーラが見えるぜ」
もはや鮫氷の言葉は対馬の耳に届いていなかった。
肩を震わせ、拳を硬く握り締め、鬼のような気迫を纏ってずんずんと迫ってくるさまは
紛れもなく一騎当千と謳われた鉄の一族に連なるものであった。
その姿に鮫氷が感じた戦慄は、はじめに伊達が予感したものと同じものだった。

「 や は り 貴 様 か ! ! ! 」

衝撃、轟音、沈黙。
こうして、松笠の片隅で起こった珍奇な事件は解決されたのだった。


オマケ

「んー、意外と退屈しなかったわね。 可愛い三毛猫にも会えたし」
「鉄先輩、どうもお邪魔しました。 対馬君、バイバイ。 また明日、学校でね」
「あたしも失礼します。  すっかり遅くなったから、
 マイマザーも心配してるでしょうし。 それじゃ」
エリカと良美、椰子がまず帰っていった。
「さぁてと。 レオはもう大丈夫そうだし、俺も帰るとするかね」
「ボクも帰るー。 腹減ったよ」
「伊達も蟹沢もすまなかったな。 気をつけて帰れよ」
家路につく者を全員見送った後、乙女は対馬に振り返って朗らかな声で言った。
「では、今日の鍛錬を始めるとするか」
「ええっ!? 乙女さん、今日は勘弁して…」
「だめだ、この根性なし。 ショックが大きかったのはわかるが、いくらなんで気絶はないだろう。
 精神鍛錬のためにも、今日は厳しくいくぞ!」
対馬の悲鳴と乙女の叱咤がやがて遠ざかり、対馬邸には静寂が戻った。
残されたのは、同じ一撃を同じ場所に同じ一族の人間から二度くらって昏倒する鮫氷と
その上に乗っかって毛繕いする三毛猫だけであった。


「…で、これはやっぱり俺が片付けるのか?」
立ち入り禁止テープが貼られ、チョークの跡が残った自室の前で
疲労困憊の対馬はげんなりした様子でつぶやいた。
そんな彼の横を通り過ぎ、窓から外へ出て行くところで、三毛猫は振り返って一声鳴くのであった。


(作者・雄三毛猫氏[2007/01/26])

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