「さてと、炒飯を作ろうと思う」
そう言いながら、乙女さんはエプロンの紐を、後ろ手で器用に蝶々結びする。
結び目はちょうど真ん中。余った紐の長さもこれでもかというほどに等しい。
こういうところを見ると、あながち不器用では無いように思えるんだけどなあ。
「美味しく出来るといいな」

珍しくおにぎりで無いのには理由がある。
昨日の晩、いつもの通り二人で向かい合って寝ていた。
この時間が一番好きなのかもしれない。
「明日のおにぎりの具は何にしよう…。
 うどんが残っていたな」
「炭水化物+炭水化物ぅ!?」
「わがままを言うんじゃない。それに結構美味いぞ」
実証済みですか…。
「たまには、素かな」
それだけはイヤだ!!


「お、乙女さん!最近料理の腕が上がって参りましたよね!!」
「うん?そうかな」
「だって最近、お姉ちゃんの作ったおにぎり美味しいもん」
乙女さんの目がわずかに細くなる。
「そうか。私もひょっとしてと思っていたが…、とても嬉しい事だな」
頬を優しくさすってくれる。
あ、ちょっと罪悪感。
ええい!怯むな!!
「そろそろ違う料理にもチャレンジしては如何でございましょう?」
よし、言い切った!
「そうか…、たまにはいいかもしれない」
よし!もう一押し!!
「でも、レオはいいのか?おにぎり美味し」
「きっと今の乙女さんなら色々作れちゃうんだろなー!!」
「ふふっ、仕方の無いやつだ。ではレオは何が食べたいんだ?」
正直おにぎり以外なら…、というところだが、ここで本音を漏らしてはいけない。
「うーん突然に言われると、なんだろ?」
「よし、ちょっと待ってるんだぞ」
乙女さんが布団から出る。
どうする気なのかな。
タッタッタッタッ…。
タッタッタッタッ…。
「お待たせ、二人で決めよう」
手には『猪でも出来る料理教室 中級編』。
やったあお姉ちゃん!レベルアップしたんだね!!


二人でページをめくりながら物色をする。
「どうだ、食べたいものは見つかったか?
 私はやはりおにぎりが…」
「炒飯がいいな!!」
「そうか、それなら簡単だ。やはり日本人は米だしな」
やはり米狙いは正解だったようだ。
「まったく、わがままな弟を持つと苦労するものだ」
とか言いながら、嬉しそうな顔をして頭を撫でて来る。
結局頼まれると弱いんだよね。
「そろそろ私は眠たくなってきた」
「おやすみ、乙女さん」
「おやすみ、レオ」
乙女さんが目を閉じる。
「zzz」
もう寝てる。
大好きな人が素直ないい人っていうことは幸せだな。


「まずは、鍋を熱する」
「鍋を熱するー!」
やべ、軽くテンションが上がってきたせいか、自然と復唱してしまう。
「次に卵を溶く」
「卵を溶くー!」
「レシピでは2個となっているが、多いほうが美味いと決まっている。
 8個にしよう」
卵を溶くためだけに、既に2本の菜ばしがお亡くなりになっている。

「乙女さん、まだ卵入れないの?」
中華鍋の底が、ほんのり紅に変色している。
「やはりレオは男の子だな。まだ油も入れて無いじゃないか
 それに家庭用コンロは業務用と比べて火力が弱い。
 だから良く熱しておかないといけないのだぞ」(←本の受け売り)

段々紅から鮮やかなオレンジに…。
「さて、そろそろかな」
とくとくとくとく。
……。
グラグラグラ…。
「油って、沸騰するんだ!」
「しまった、少々入れすぎた。
 だがなレオ、美味しさの秘訣は油を多めに入れることだ」
そのままたっぷりの溶き卵を投入する。
「卵がそのまま飛び跳ねた!」
「少しは静かに見ていられないのか。
 私も見るのは初めてだが、書いてある通りにやっている。
 卵はそのまま飛び跳ねるものなのだろう」


その後も野菜、叉焼、ご飯と、投入されたものが全て飛び跳ねるという異様な光景を
目の当たりにしたものの、見た目は意外と普通な炒飯が中華鍋の中に出来上がっていた。
…軽く5人前はあるようだけど。
「やったね乙女さん!大成功だ」
「まだ完成では無いぞ」
得意げな顔で、乙女さんはさらさらと手に塩を降っている。
まさかっ!
「出来た!お姉ちゃん特製、炒飯乙女おにぎり!!」
「炒飯乙女ってどんな乙女?」
「名前だ!!」
「うっ」
炒飯乙女おにぎりを手にしながら、的確に筋肉の薄い膝上にローキックが放たれる。
「レオに炒飯を食べさせたいし、おにぎりも食べさせたい。悩んだ末の結果だ」
にぎったのは軽い意地悪かと思ったけど、俺のことを気遣ってくれる気持ちが嬉しい。
「俺のためにありがとう乙女さん」
「なあに、惚れた男に料理をするのは、うら若き乙女として当然のことだ」
「じゃあ早速頂くね」
「うむ、冷めないうちにどうぞ」
ぱくっ。
少々油っぽいものの、ご飯はしゃきっと、卵はふんわりとしている。
さすが大火力。
しかし…。
「あ、甘い…」
「馬鹿なっ!甘い訳など…」
ぱく。
「甘い!!」
いや、俺に凄んでも。
「乙女さん、さっきの塩ってもしかして…」
容器を確認する乙女さん。
「Sugarだそうだ…」
時既に遅し、砂糖でにぎられたおにぎりが並んでいる。


「はあ、折角美味しそうに出来たのにな」
残された炒飯砂糖おにぎりを全て平らげた乙女さんが、ため息をついている。
おれは用意周到な乙女さんがあらかじめ作っていた、うどん入りのおにぎりを食べていた。
「そんなに気にすること無いって。失敗してこそ上手になるんだよ。
 大体乙女さんのキャラなら…」
「何ィ、砂糖だったか。ちょうど良い、おにぎりの限界を探ってくれるわ!
 ガッハッハッハッ!」
「___って感じじゃん」
「お前は勘違いをしている」
あれ、怒らない。
「失敗自体残念なことだが、それよりレオをぬか喜びさせてしまったことが辛い」
「そう?乙女さんが料理上手くなっているってことで、今も十分嬉しいよ」
「レオ…」
椅子に座っている俺の頭を、乙女さんの両腕が優しく包んだ。
「お前は優しいな。私は本当に幸せものだと、心から思う」
両腕の締め付けが段々強くなる。
軽く振りほどき、立ち上がった。
乙女さんの腰に手を回し、頬に軽くキスをした。
「乙女さん、大好きだ」
「レオ」
優しく口付けを交わす。
乙女さん、幸せなのはここまで思ってもらえる俺のほうだよ。
でも、今は譲っておこう。


(作者・名無しさん[2007/01/08])

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