近衛の、夢を見ていた。
格好は見慣れた竜鳴館の制服ではなく、中学のときのそれだった。
近衛の顔は険しく、それ以上に悲しかった。
(これは……あのときの)
レオは夢の中にあるにも関わらず、はっきりとそれを夢だと自覚していた。
「どうして、アタシを助けてくれた対馬君がそういう事を言うの?」
近衛は声を震わせて訴えていた。それまで味方だと信じていた俺に、思いも寄らぬことを言われて、
よほどショックだったのだろう。
正しいことでも、貫けないことがある。あのころの俺はそう思って、近衛を止めようとした。
誰も喜ばないことをして近衛が傷つくのを観たくなかったから。
「出張る……って。そもそも誰も矢面に立たないからアタシがここまでやってるのよ!」
でも、あれは本当に近衛のことを気遣っていただけだったのか? レオは夢の中で自問していた。
すでにカニ、スバル、フカヒレという親友はいたが、それ以外のクラスメイトとも仲良くしたかった。
互いに干渉しすぎることもなく、日常という名のぬるま湯に浸かるためには、近衛という存在が邪魔だったのではないか?
ほかの奴が『ウザイ』という理由で近衛の正論に耳を貸さなかったのと同じように、俺もまた近衛のことを……。
「早くアンタの正体が分かっただけでも良かった。危うく騙される所だったわ!」
違う、それは誤解だ。なんでもかんでも正論を通そうとするのが無理なんだよ。もっと上手く立ち回れよ。
ついていけねえ。当時の俺はそう思って、近衛に背を向けた。叫び続ける近衛を、ボーダーラインの
向こう側に独り置き去りにしたんだ。
中坊の俺はそれこそ本気の殴り合いをした後のような形相で、近衛から離れていった。
……おい、本当にそれでいいのかよ。
レオはかつての自分に問いかけた。
……振り返ってみろよ。近衛のやつ、今にも泣きそうな顔してるじゃねえか。
するとレオは、ゆっくりと俺のほうに振り返って、こう言いやがった。
「泣かせとけばいいのさ。いつか自分の間違いに気づいて、むこうから謝ってくる」
気づけば、俺はそいつの顔面にキツイ一撃を見舞っていた。


「……しま。ねえ、対馬ったら」
「ん…大丈夫。もう起きた」
悲しい夢が終わり、甘やかな現実が目を覚ます。
自分の部屋のベッドにすっくと上体を起き上がらす。横ではちょっとびっくりしたような顔の近衛がいた。
「な、なによ。うなされてたみたいだから心配してたのに、やたら引き締まった顔つきで」
近衛はレオと同じく一糸まとわぬ格好だったが、やはり少々気恥ずかしいのか、腕を組むようにして可憐な乳房を隠している。
「夢、見てた」
「夢? なんの?」
「中学のときの。データタイトルには『史上最大の喧嘩』となっていた」
「タイトルってなによそれ……ああ、あのときの喧嘩ね」
近衛は「な〜に言ってんだか」と、やさしい苦笑を浮かべながらレオにしなだれかかった。
真剣な顔をしているレオと違って、こちらはいたって楽しげである。
「ごめんな…本当にすまんかった」
「もう、やめてよ。……アタシ、あれはあれで良い鍛錬になったと思ってるから」
「鍛錬?」
「そりゃ心の中でヒーローだった男の子に裏切られたと思ったんだもん。
これからは全部独りでがんばんなきゃって。心に誓ったのよ」
困ったように笑いながら、目だけを悲しげに伏せた近衛を見て、レオは顔面にキツイの一発では足りなかったことを悟った。
「ん? 難しい顔でなに考えてるの」
「……いや、バッティングセンターでひたすらデッドボールを受けまくったあと松笠公園の噴水にダイブしてこようかなと思って」
「なっ! そんな恥ずかしいことしてみなさい! 二度と口きかないんだから!」
指でビシィとポーズを決めながら言う。
「そっか…なら別の方法で償わせてもらうしかないな」
「へえ、どんな?」
近衛はいたずらっぽく目を輝かせた。
「近衛のことをずっと守り続ける」
「これはまた大きくでたわね」
「かつてちっぽけと言われたレオ君も今ではこんな大きくなりましたから」
近衛の指をそっと自分の一物に導いた。


「そ、そんなところばっかり成長させてどうすんの!?」
「こうすんの」
レオは近衛の華奢な体を抱きしめ、そっとベッドに押し倒した。すでにいきり立っていた男の象徴を、
近衛の柔らかな太ももにこすりつけた。途端に近衛の頬が赤くなり、瞳が潤んでいく。
「……なにが守るよ。アンタが一番危険じゃない」
「乙女さんが拳法部の合宿から戻るまで、ずっと愛し合いたい。だめかな?」
「そ、そんな風にいうなんて卑怯よ…あぅ」
つき合い始めたころより幾分大きくなったような乳房を優しく揉み包むと、近衛は言葉が続かなくなった。
それでもレオの愛撫に負けてなるかと、男のたくましい首に抱きつき、耳元でそっとつぶやいた。
「……もう夢なんて見る余裕もなくなるくらい、愛してもらうんだからね」
レオはその言葉に、ありったけのキスで返した。



そのころ一階では
「うぅ、またギシギシ鳴り始めたか……」
自分の部屋で独り寂しく、乙女はひざを抱えていた。
「私としては予定より早く帰ってレオを喜ばせるつもりだったのだが…これも小姑の悲哀というやつか」
乙女はがっくりとうなだれ、愛の巣となった二階が静まるのを待った。


(作者・名無しさん[2006/12/23])

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