理科室。薬物を調合する美女が1人。
「コレで完成……ですわ」
 小瓶には薄桃色の液体が満たされている。
「……まずは誰かに試してみたいですわね」
 そこに、理科室前の廊下を歩く人影1つ。
「ふわ〜あ、眠い……」
「伊達さん……。ちょうどいいですわ」
 …………………………………………
「あー、腹減ったな……」
 レオからなんかせびるか。竜宮にいるかな。
 ん?
「……なんだ?」
「どいてくださいカニさん!!」
「うわぁ!!」
 今のは……祈ちゃん? 何爆走してんだ?
「こら待て小僧! 祈に手を出すことは、この我輩が許さんぞ!」
「どけこのインコ野郎!」
「お手紙ちょうだい〜ぃ……」
 あれ、土永さんが吹っ飛ばされてきた。あれは……スバル!?
「待ってくれ祈ちゃん! 俺の愛を受け止めてくれ!」
「しつこいですわ〜」
 ???? なな、なんだ? スバルが祈ちゃんを追い掛け回してんのか?
「なんなんだ?」
 とりあえず追うか。面白そーだし。ん?
「……あれ?」
 これは……祈ちゃんが落としていったんかな。
 薄ピンク色の液体が入った、小さな小瓶だ……。


 …………………………………………
「鉄さん、助かりましたわ。もう少しで押し倒されるとこでしたわ」
「何をしたんですか、祈先生。伊達がこんなことをするとは私には思えないんですが?」
「鉄さん、あなたは被害者の私よりも加害者の伊達さんをお信じになられるのですか?」
「はい」
「そうきっぱり言われると返って清々しいですわね。実は…………でして」
「あ・い・の・く・す・りを試した〜!?」
「ええ、そうです。平たく言えば媚薬ですわね。飲んだ人は飲ませた人を好きになってしまうという恐怖の薬……」
「いちいち説明しないでいいです! 何でそんなもの作ったんですか!」
「暇でしたから」
「暇つぶしでそんなもの作らないでください! とにかくそれは没収します。こっちに渡してください」
「うう〜仕方ないですわね……。あら」
「? どうしました?」
「どこかに落としたみたいですわね」
「大変じゃないですか! 誰かが使ったらどうするんですか!」
「……まあ、大丈夫ですわ。副作用は無いし、効果もじきに切れますし……」
「そういう問題じゃないでしょう! 探しますよ!」
「はいはい。……そんなにうまくいくもんではないですわよ」
 …………………………………………
 聞いちまった。
 今ボクが手に持っているもの。
 この薄ピンク色の液体が入った、小さな小瓶。
 これが……媚薬。
 媚薬って、あれだ。ほれぐすり、ってやつだ。
 スバルが祈ちゃんを追い掛け回してたのは、媚薬を使われたからだ。
 スバルがあんなになっちまうくらいだから……すげえ効果なんだな。
 ……使って、みようかな。
 いや、でも。……でも。
 …………ちょっとだけなら。
 レオ、竜宮にいるかな。


 …………………………………………
 いた。レオが、いた。ちょうどいいことに、1人で仕事してやがる。
 なんだろ、すっげえ緊張する。
 なんてこたーねー。いつもレオの飲みもんに酒を仕込んだりしてるじゃねーか。
 そう、それと同じこと。
 ちょっとしたイタズラ。
 ……ちょっと落ち着いた。よし。
「オース……なんだレオだけか」
「なんだとはなんだカニ」
 いつものように隣に座る。レオは……何も飲んでねー。
「ボクのど渇いたー。茶淹れてくれ、茶」
「へいへい。俺も一服するか」
 よし、自然だ。どっこも怪しくねー。
「ほらよ」
「サンキュー」
 ……あとはレオの茶にコイツを仕込めばオーケーだ。
 さすがに目の前で仕込んだら怪しまれる。隙をつくらねーと。
 大丈夫。何度もやってきたじゃねーか。ボクなら、できる。
「レオ、腹減った。菓子出してー」
「自分で出せ」
 ……ここで引くわけにはいかねー。
「ああん!? テメーボクの頼みが聞けねーってのか? いいからだせー」
「おらよ」
 ……そういやコイツいつもビスケットを持ってたっけか。
 普段ならありがてーが、今は邪魔でしかねー。
「今はビスケットよりも煎餅が食いたい気分なんだよ」
「ったく……」
 ブツクサ言いながらも取って来てくれる。そういや、いつもボクのワガママ聞いてくれるな……。
 だからボクは……。
 って、そんなこと考えてる暇は無え。
 レオが戸棚を探してる隙をついて小瓶を傾ける。
 どんぐらい入れればいいのかわからねえ。


 とにかく半分くらい入れることに成功した。
「ほらよ」
「さ、さんきゅー」
 ……入れた。入れちまった。もう、あとには引けない。
 なんだ、胸がドキドキしてやがる。鼓動が聞こえてきやがる。
 もしかしてレオにも聞こえてるかもしれねー。
 とにかく落ちつきたい。煎餅を口に入れる。……何の味もしない。
「ふう」
 あ。
 飲んだ。
 薬入りの茶を、レオが、飲んだ。
 あいのくすりを。レオが、ボクを好きになっちまう薬を。
 飲んじまった。
「う!」
「ななななななんだ、どうしたレオ」
「いや、何かこの茶、変な味が」
「そそそそ、そうなんか、ボクはそんなっことねーぞ」
「? 洗った湯飲みを使ったはずだがな……」
「き、気のせいじゃねーか」
「そうかな」
 ……やべー。ドキドキが止まらねー。
 体があちー。なんか、自分の体じゃねーみてーだ。
 落ち着け。落ち着けボク。茶を一気飲み。
「げほっ、げほげほげほっ」
「何やってんだお前」
 ! レオが背中をさすってくれてる。
 距離が近い。また体が熱くなってきた。
 息苦しくもなってきた。
「大丈夫かよ」
「あ、ああ。だいじょうぶ……」
 落ち着け。落ち着けボク。
 深呼吸。


 よし。ちょっと落ち着いた。
 レオの様子は……いつもと変わらない。効果が出るまで時間がかかるのかな。
 ……もしかしたらきっかけが必要かもしれねー。
「なあレオ」
「あん?」
「今日のボクを見て何か感じねーか?」
 レオがボクをジッと見る。目を合わせるのにも、集中しねーとやばかった。
「……いんや別に。いつもの馬鹿顔だ」
 ……なんでだよ。祈ちゃんが使ったときは、あんなに効果があったのに。
 祈ちゃんとボク。……色気とか、そういうのが必要なんか? だったら……。
「お前さ」
 !! 来たか? ちょっと待て、まだ準備が……。
「熱あるんじゃないか? 顔も赤いし……」
「え?」
「うん、やっぱちょっと熱いな。風邪でも引いたか? 通りでちょっと変だと思ったら」
 ……へん? 変になってるのは、ボク?
 薬が効いていたのは、ボクのほう?
「チース、ちゃんと仕事してる?」
「こんにちはー」
「あ、姫、佐藤さん」
「カニっちと対馬クンだけか」
「どうしたの? 対馬君」
「ああ、カニが熱あるみたいでさ。保健室に連れて行ったほうがいいかなって」
「あら。カニっちでも風邪引くのねー」
「大丈夫、カニっち? 一緒に保健室行こっか?」
「え、ああ、ああいい。1人で大丈夫だからよ」
「無理すんなよ」
 ……そんなに心配そうに見んなよ。見ないでくれよ。
「いいからいいから、じゃ、今日はもう帰る。じゃな!」
 逃げるように、飛び出した。
 笑えるぜ。ボク、何やってんだろ。
 情けねー。泣けてくる。……本当に、泣けてきやがるぜ。


「……祈ちゃん、どこかな」
 …………………………………………
「あらカニさん。どうなさったのですか?」
 祈ちゃんは保健室にいた。
 ベッドにはスバルが寝ている。乙女さんに吹っ飛ばされたんだろうな。
「……祈ちゃん、これ」
「あら……。カニさん、使ったのですか?」
 コクリとうなずく。怒られると思った。今は怒られたかった。
 でも。
「しょうがないですわね。ま、いいですわ」
 優しい笑顔。……大人の女の顔、ってやつかな。
「土永さん、鉄さんに知らせてきてくださいな。見つかったって」
「了解だ、祈」
「さて……。うまくいかなかったのでしょう?」
「え、う、うん。わかるの?」
「ええ。仕込むのに苦労したでしょう?」
「うん。茶に半分くらい入れたんだけど……」
「2、3滴で十分ですわよ」
「そうなんだ」
「ええ、左右に1滴ずつで」
「そっか。……え?」
 左右に?
「これは、EYEの薬ですわ。つまり、目薬」
「ええええええええっ!?」
 思わず叫び声を上げちまった。
「う、う〜ん……」
 スバルが寝返りを打つ。
「もう少し寝ててくださいな」
 その鼻をピン、とはじく。
 スバルはまた、寝息を立てだした。
「ですから、飲ませても効きません。目に差させないと」


「そっか、そうなんだ……。あ、でも」
「ん? ああ、伊達さんですか。彼、眠そうにしてましたから、目がパッチリとさえる薬、と言ったのですわ。
まあ、うまくいく方が稀ですけどね。……で、どうします?」
「え?」
「もう1度使いますか? 今度は正しい使い方で」
 ……そんなの決まってる。
「いいよ、いらない」
「正解ですわ。ではもうこれはいらないでしょう」
 そう言うと、祈ちゃんは薬をゴミ箱に投げ捨てた。
「ではカニさん、1つ頼みがあるのですが……」
 …………………………………………
「なんで俺までやんなきゃいけねーんだよ!」
「うるせー! つべこべ言わずにやれ!」
 翌日。ボクとレオは、祈ちゃんの命令で資料室の整理をしていた。
「逆らうと島流しなんだぞ!」
「くぅ、ちくしょう。……あ、カニそこ危ないぞ」
「うわっ」
「おっと。大丈夫か」
「ああ、サンキュー」
 レオがよろけたボクを受け止めてくれた。
 ……コイツは何とも思っちゃいねーんだろーなー。
 でもいつか必ず。
 そう、ボクだけの魅力で。必ず。
「ふいー。あと少しだなさっさと終わらせるぞ、カニ」
「おう!」
 待っていやがれよ、バカレオ!


(作者・名無しさん[2006/11/17])

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