放課後、2−Cの教室。
 俺は、一人窓の外を見ながら、ボーっとしていた。
「ん……、フゥ」
 思いっきり伸びをして、机に突っ伏す。
 今日は生徒会は無い。スバルは部活だし、カニは女子達と一緒にいるのだろう。フカヒレは……知らん。
 ……今日は一人で過ごせそうかな。
 椰子の言葉ではないが、俺だって一人で過ごしたいこともある。
 毎日があれほど騒がしいのだ。安らげるはずの家に帰れば乙女さんが何かと構ってくるのだ。
 こういう時間は俺にとっては、実は貴重だったりする……のだが。
「対馬君、ちょっといいかな」
 神様は俺にそういう時間を与えてはくれないらしいのだ。
「山田君……? 何」
 今、フカヒレやイガグリあたりが声を掛けてきたのなら、
『失せろ』
 と、赤髪の海賊並みの一言と睨みで撃退するのだが、山田君はいい奴だ。ちょっとコンピュータにうるさいのが難点。
 まあそんなものは趣味の範疇だし、自分の主張をことさら押し付けてくるわけで無し。
 そんなわけで邪険に扱おうとは思わない。
「どしたの? ……部活の、時間じゃないの?」
 そう、山田君は竜鳴館演劇部に所属している。演劇部は、アイツが部長を務めている。
 演劇部関連の話には、出来るだけ関わりたくないのが本音だ。
「いや、今日は報告会だから部活は無いんだよ。……対馬君」
 山田君は何か周りをうかがってから、俺の肩をガシッと掴んだ。……なんか、ただならぬ様子だ。
「な、何?」
「僕達は、友達だよね?」
 ……何を言い出すんだ、コイツは?
「えっとまあ……、友達だよ」
 正直スバルやカニ、あとフカヒレとは比べるべくも無いが、まあ、大事なクラスメートではある。
「よし。君を友達と認めて、相談したいことがあるんだ」
「……相談?」
 何か重要なことだろうか。いつもの山田君とはちょっと違う。俺も少し気を引き締めることにした。
「何? 俺に出来ることなら、力になるけど?」


「うん、実はね……、……がいるんだ」
「え、何? 聞こえなかった」
 山田君の声が小さくて聞き取れなかった。これは、それほど秘密にしたい相談事なのか。
 そして、山田君は周りをよく確かめた後、さっきより少し大きい声で、言った。
「実は、僕、……好きな人がいるんだ」
 俺は一瞬、何を言ってるのかわからなかった……。そして、理解した。
「な、何ィーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
「シィーーーーーーーッ、こ、声が大きいよ対馬君」
 あ……。しまった、つい大声を出してしまった。まだ教室にいたやつらの何人かはこっちを見たが、
すぐに自分達の話へと戻っていった。どうやら、さっきの言葉を聞いていたやつはいないらしい。
「そ、それは……正直すんごい驚いたんだけど」
「うん、僕のコンピュータも対馬君が驚く可能性は80%と出ていたよ」
 はあ……、山田君がねえ……。コンピュータが恋人、みたいなイメージがあったけど。やっぱ年頃と言うことか。
 ん? ってことはだ。
「相談ってのは……」
「うん、今のままじゃ告白しても上手くいきそうに無いから、アドバイスが欲しくて」
 ってそんなん言われても……。
「いや、俺、彼女とかいないし、そういう話にはあんまり力になれないよ」
「いや、対馬君けっこうモテてるじゃないか」
「え、そんなことないよ」
 そんなんだったらとっくに彼女できてるっつーの。
「……もしかして自覚が無いのかい? 対馬君って実は鈍感……、いや、天然、と言うべきかな……」
「なんか失礼なこと言ってる?」
「そんなことないよ。とにかく対馬君は君の思っている以上に女子達から好意を寄せられていると思うよ。
 それで、どうしたら女子から好かれるのか聞きたいと思うわけなんだけど」
 つってもなあ……。
「……やっぱり俺はそういうことには力になれないよ。誰か他の人に……」
『話は聞かせてもらった』
『だ、誰だ!?』
「ボクがモテ塾塾長、蟹沢である!!」
「そういうことなら、ウチらにまかせときーな」


「全力でサポートするネ」
「大船に乗ったつもりでいて、みたいな」
 ……バッチリ聞かれていた……。
 …………………………………………
「それでは第1回山田君の恋を成就させる委員会作戦会議を開催するぜー」
 パチパチパチパチ。
 カニが壇上で仕切っている。
 結局、聞かれていたのは、カニ、浦賀さん、豆花さん、吉田さん(女子生徒Z)の4人だ。
 とりあえず山田君は聞かれていた4人を協力者として引き入れることを選択した。
 噂が広がるのは時間の問題である。特に浦賀さんを放置しておくと、噂は今日にも広がってしまうだろう。
 だったら、味方に引き入れてしまうのが最善だ、という判断だ。俺もそれが正しいと思う。
(余談だが、吉田さんはカニ2日目では吉村となっていたが近衛ルートでは吉田になっている。今回は後者を採用した)
「んじゃ、ターゲットはどんなヤツだ、ヨシ?」
「はい、カニッち。事情聴取の結果、ターゲットは私や山田君と同じ部活、つまり演劇部所属、みたいな」
 ドキッとした。まさかとは思うが、アイツじゃないだろうな……。
「1年生で、口数はあんまり多くないけど、可愛らしい子、みたいな」
 1年生、か。あれ? 何ホッ、としてんの、俺?
「それと、話し方がかなり特徴的で、単語を並べてしゃべるタイプ、みたいな」
「つまり近衛さんルートの1年女子Cネ」
「身も蓋も無い説明だね」
 だけどそれでわかってしまう俺もまた身も蓋も無い。
「ほー、山田君が年下好みとは知らなかったぜ」
「どんなところが好きになったんや?」
「ま、まあいいじゃないか。それより、今告白しても成功する確率は20%以下と僕のコンピューターもはじき出してるんだ。
 どうすれば成功するか、アドバイスが欲しいんだよ」
「20%以下か……。確かに厳しいな、それは」
「なんや、そんなに仲が悪いんかいな」
「同じ部活のヨシから見てどう思うネ?」
「ウチの部活はみんな仲よくやってるから2人の仲は全然悪くない、みたいな。
でも、Cが山田君を男として見ているかと言えば……」
「僕のコンピューターの自己分析でも、Cは僕のことを部活の先輩くらいにしか見てない、って結果が出てるよ」


「あー、そのC、やっかいなパターンやな」
「あれだね、今、そのCってヤツに告白しても『あなたはいい人だけど』と断られる感じだね」
「でも、Cの山田君への好感度は結構高いと思うみたいな」
「つまり、そのCさんに山田君を男として見るようなきかけを起こせばいいというわけネ」
 と、こんな感じで会議は進んでいるのだが……、いるのだが!!
「なんでみんなその1年生をCと呼んでいるんだ!!」
「大人の都合ネ」
 …………………………………………
 そして校門前。
「おいマナ、いい作戦ってなんだよ」
 俺達は、浦賀さんがいきなり「ええ作戦があるで」と言ったので、校門前にぞろぞろと来ていた。
「ふふん、簡単や。対馬、Cをナンパしてきてーな」
「ハァ!?」
 いきなりな浦賀さんの発言につい、素っ頓狂な声を出してしまった。
「な、なんで俺がナンパなんかしなきゃいけないんだよ?」
「わからんか? つまりこういうことや。対馬がCをナンパする。そこに山田君が現れてCを助ける」
 あ、そういうことか。
「おおー、マナにしてはいい作戦じゃねーか」
「最近メモリを増設した僕のコンピューターもいい作戦だと判断したよ」
「せやろ? せやろ?」
「うん、とっっっってもいい作戦だと思う、みたいな」
 なぜか吉田さんがものすごく力を入れて肯定した。
「男ってのは非常時の行動で真の価値がわかるからね……、みたいな」
「……? よ、吉田さん?」
「(ボソボソ)……あれネ、ヨシと小松君まだ冷戦中みたいネ」
 あー、野犬騒ぎのあれをまだ……。
「それに私も、とある人に危ないところを助けられて以来その人にずっと恋をしてる、って人を知ってるみたいな」
「へー、そうなんだ」
「……やっぱり気づいてない、みたいな……」
「? 何吉田さん」
「なんでもないみたいな」


「ってなわけで、頼むで対馬」
 ポンッと肩に手を置かれたが。
「俺、ナンパなんてしたことないんですけど」
「だいじょーぶやって。ちょっと声かけてしつこく付きまとうだけでええから」
「いや、でも」
「テンメー、友達甲斐のねーやつだな。山田君のために気合入れろや」
「カニ、お前楽しんでないよな?」
「あ、あたりめーだろ。ほら、山田君もなんか言ってやれや」
「頼むよ、対馬君」
 ぐ……。山田君にそう言われるとなあ……。でも、しかし……。
 ──その時である。その場に、一陣の風が吹いた……。
「どけ、貴様ら」
「ああん? なんだテメー」
「俺が本当のナンパの仕方を教えてやる」
『!!』
 ──風とともに現れたそのお方は。
「シャ、シャークさん……!? なんでこんなところに……」
「に、偽者じゃないのか……」
「ナイスブルマナイスブルマナイスブルマナイスブルマナイスブルマ」
「こ、これは、シャークさんにしか出来ないという1秒間に10回のナイスブルマ……!?」
「ナイスブルマナイスブルルルァッ!?」
「あ、舌噛んだ」
 ──そして、舌を噛んだシャークさんは帰っていった。
「何をしたかったんだ……?」
「多分、作者がDMCネタをやりたかただけだと思うネ。このSS、パロネタ少ないから」
 閑話休題。
「あ、Cが来たみたいな」
「ゲ、心の準備がまだ……」
「いいから行けやぁ!」
「山田君も準備するネ」


 …………………………………………
 ナンパ。どうやって? クソ、仕方ない。山田君のためだ。漫画やドラマで見た知識を最大限生かすしかない。
 ちょっと深呼吸。よし、覚悟完了!
「……何?」
 この子がCか。なるほど、結構可愛い娘だ。ああ、そんなこと考えてる暇は無い。ウザイナンパ男といえば……。
「オレ、対馬レオ。略してツシレオ。ヘヘ……付き合ってよおねーさん」
「こ……困ります……」
 よし、うざがられている。後は山田君が出てきてから、ちょっと絡んでやられればミッション終了だ。
「こらー!!」
 よし来たな……。
「ウチの部員になにやってんのよ!!」
「って近衛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「近衛部長……」
 なんで近衛が!? 山田君は!?
『ゴメン、出るタイミング外した』
 なんて顔してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「ちょっとアンタ、ウチの部員に……って、対馬……!?」
 しまった! ツッコミに気をとられて逃げるの忘れてた!!
「あ……う……、と、とにかくほら、アナタは早く行きなさい」
「近衛部長……感謝」
 Cは行ってしまった。この隙に俺も……。
「待 ち な さ い」
 捕まった。なんかものすごい力で肩を掴まれてます。
「アンタが……腐ってしまったとは思ってたけど……対馬がここまで堕ちていたなんて……」
「あ、いや……これはだな、事情が……」
「……の……カ」
 マズイ、この状態は……。
「このバカ! このバカ!! このバカーッ!!!」
 うわぁッ! 噴火したぁ!
「いや、話を……」
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカーーーッ!!!」


 うわ、駄目だ、今の近衛には何も通じない。仕方ない。強引に振り切……、あれ、うごかない。
「お前はもう見る、聞く、考える以外の行動はとれない」
 この声は……! この、大魔王のような威厳に満ちた声は……!
「あ、く、鉄先輩!」
 お約束万歳!!
「どうしたんだ近衛。レオが何かやったのか? 詳しく話してみろ」
 ……俺、何か悪いことしたのかなぁ……。
「レオ……。私は本当に情けないぞ……」
 山田君のためにやっていたことなのに、どうしてこうなったんだろう……。
「今日はお前の根性を一晩で叩き直してやるからな」
「鉄先輩、私も手伝います!」
「ん、よし、一緒にウチに来い」
 つーか、アイツラ助けろよ……。
「ごめん、失敗しちゃったよ」
「まぁ、過ぎたことはしゃーないわ。にしても……どないする?」
「対馬君連れて行かれてるネ」
「でも、あの状態の近衛部長には何を言っても無駄、みたいな」
「それに乙女さんのとばっちりは喰いたかねーし」
『そんなわけで……』
『さようなら渋井丸レオ……』
『無茶なこと、しやがって……』
 敬礼。
「敬礼なんてしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「やかましい!! 黙って来い!」
「そうよ、覚悟しなさい! 今日は、わ、私が、ずっっっと横で説教してあげるわ!」
「ちくしょう……、ちくしょおおおおおおぉぉぉぉ……」
 ──尾を引くレオの叫びが空しく鳴り響く。だが彼らは決してあきらめることはない。
 なぜなら彼らはようやく登り始めたばかりなのだから。この、はてしなく遠い恋愛坂を……。

             未           完


(作者・名無しさん[2006/10/24])

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