「ねえ、父さん。私、結婚するね」
なごみは父の墓前に向かってそう話しかけた。なごみの隣にはレオ、後ろにはのどかと天王寺がいる。
ジリジリと太陽が照りつけているがレオは手を合わせ目を瞑ったまま動こうとしない。レオの顔に汗が伝う。
線香が煙をあげ、添えた花は微風に揺れていた。
なごみが夢に向かって再び歩き始めてから何年も経っていた。
若きながらもなごみは料理人としてその頭角を見せ、ついには独立できるほどの腕を持つようになった。
レオも大学の経済学部を卒業し、経営コンサルタント企業に就職し、経営のノウハウを学んできた。
2人の努力の甲斐もあって来年、松笠市内に念願のレオとなごみの店をオープンする事が決定した。
そしてレオは長年連れ添ったなごみにプロポーズし、婚約した。
とはいっても2人はずっと同棲してるので既に夫婦同然の生活を送っているのだが。
「私、センパイと結婚するから対馬なごみになっちゃうけど、
 お父さんがいた証として、店の名前はね"キッチン・椰子"にしようってお母さんと話し合って決めたの。
 メニューの中にはね、父さんがよく作ってくれた料理も入ってるんだ」
なごみは父との在りし日の思い出に浸りながら話し続けた。
のどかと天王寺はそんななごみの姿を暖かく見守っていた。
するとレオは前を見据えて、語り始めた。
「なごみはあなたの姿を追いかけて料理人になる夢をつかみました。
 でもそれは夢であって、夢を叶えたこれからは現実と戦っていかなきゃいけません。
 俺はなごみが幸せになるように、ずっと、ずっとなごみを守っていきます」
墓をじっと見据えるレオの眼には強い意志が溢れていた。
「センパイ……」
そしてレオはなごみを見ると、照れくさそうに微笑んだ。
「さあ、これからちょっとお茶でもして帰ろうかしら?」
のどかはレオとなごみの肩をポンと叩いた。
「……それじゃあ、またね。お父さん」
4人は墓地を後にし、帰路についた。


「センパイ、ひとついいですか?」
「ん、なんだ?」
「私は"今"、幸せですよ?」
レオは自分がさっき墓前で言った言葉を思い出した。
「そうだな。これからずっと幸せでいさせてやるよ!」

「いやぁ、若いっていいねえ」
「あらあら、なごみちゃんもレオさんも熱いわね〜。それじゃあ〜」
のどかは天王寺の腕に絡んだ。
「おいおい、のどか。人が見てるだろ?」
「いいじゃない〜」

「―――」
なごみは快晴の空を見上げた。
(父さん、私はセンパイをずっと、ずっと愛します)
ずっと自分を支えてくれたレオとずっと幸せでいたいと願った。
「センパイ?」
「なん……おわっ、なんだよ?」
なごみはレオの腕に強くしがみついた。
「エヘヘ……なんでもないです」


(作者・TAC氏[2006/08/16])

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