二人がファミレスでいつもの席に座った。
「はぁ〜。疲れた」
真名はカバンを席の奥の方に投げて、手前にドカッと座った。
「よく、言うネ。授業4.5時間くらい熟睡してたネ」
豆花は手前の席を手ではらい、座った後横にカバンを置いた。
「なんや。ちょうど半分くらいやん」
「それには言葉が出ないヨ」
「なんで?」
「それより、マナ。このままいったら本当に留年してしまうネ」
「ええんとちゃうの? 祈ちゃんも結局最後は助けてくれそうやし」
「甘えは禁物ネ。祈チャンも切るときは切るヨ」
「ない、ない、ない。絶対ナ〜イ。だってあの人面倒くさいこときらいやし!」
真名は顔の目の前で大きなバツ印を作った。
「でも勉強してる風にしてた方が絶対得ネ!」
「そうは言うても、ウチサッカー部やから普段勉強できへんし。テスト前は何から始めていいかわからへんし……」
「スケジュールのことならワタシが相談に乗るネ」
「ほんまか、トンファー。おおきに。やっぱ持つべきものは友達やな。ほな、かた〜い話はここまでにしよ。あ〜、疲れた。知恵熱で頭の上で目玉焼きできそうやわ!」
「ホントニ大丈夫カ……?」
一通り食べるものを二人は注文した。
「結局トンファーはだれなん?」
「ワタシ、別に好きな人いないヨ」


「うそやで。いるって顔に書いてるやん!」
豆花はあわてて両手で頬を押さえた。
あら、当てずっぽうが当たってもうた。
「別に……そんなことないネ。マナ、また変な噂流したら私ほんとに怒るネ」
「は〜い。気をつけま〜す!」
「もう……」
「そんなことよりトンファー。最近なんかおもろい話ない?ウチ、いまおもろい話に飢えてんねん」
といいながらもアイスコーヒーの一点を見ている。
「そんなこと言われても困るネ……あっ、そうイエバ」
「なに?なに!じらさへんでおしえて〜や」
「伊達君がカニっちのこと好きかもしれないネ……」
「あっ、そうなんや。って、なんやて〜〜っ!!?」
真名はバンッ!とテーブルを叩いて、身を乗り出した。
「それ、全然おもろないで。トンファー、ウチの気持ちどうしてくれんねん」
「落ち着くネ、マナ。話を最後まで聞いて欲しいネ」
真名が豆花の首を揺さぶっている。
「対馬たちはこの前4人でスキーに行ったばっかやで!!」
「確かにそうネ。でも最近カニちと伊達君よく二人で帰ってるらしいネ」
「それは対馬とフカヒレがバイト始めたからやないの?」
「それを二人に紹介したのは伊達君ね」
「それは別に関係ないと思うで。たしかに伊達が対馬に竜宮のメンバーとくっつけようとしとって、カニッちが入ってないのは有名な話やけど……」
「実は伊達君が対馬君にバイトを紹介したときの話をこっそり聞いてた人がいたネ」


「えっ。誰?誰なん?」
豆花はあたりを確認して声を小さくした。
「よっぴネ」
「えっ〜!なんで?何で?」
豆花に合わせて真名も声を小さくした。
「六時間目の体育の後、竜宮で着替えをしていたらたまたま二人が入って来て、あわてて掃除用具入れに隠れたって言ってたネ」
「それはよっぴーも災難やったな!」
「その時に伊達君がこれからカニちと二人で帰るけどいいかって聞いたらしいネ。そしたら対馬君別にいいて言ってこれで二人が付き合ったらおもしろいなって冗談で言ったネ」
「ほんで、肝心の伊達は?」
「顔は笑ってたらしいけど、目は笑ってなかったらしいネ」
「最近二人が仲良く帰ってるってことはやっぱり。ほんまやな!」
「間違いないネ!」
「ネタ元がよっぴーやし、完全に白か」
「どうするネ? マナ」
「どうするもなにも、伊達に好きな人いるなら、しゃあないやろ。しかもカニッちやで。 ほかの人さがすわ」
「そうネ。それが賢明ネ」
真名が口にくわえたストローを舌を使ってゆっくり回していた。いつもは下品だから注意する豆花も今日はそんな気が起きなかった。


「なあ、トンファー」
「なに?」
「うちら彼氏できひんのかなあ」
「そんなことないネ。チャンスがないだけネ」
「トンファー、対馬のことどうおもう?」
「対馬君はとても優しい人ネ」
「そやなあ。だれに対しても分け隔てないもんなあ」
「どうしたネ。急に」
「我田引水に言うで。対馬のこと好きやろ」
豆花の顔がみるみる赤くなった。
「いきなりなにいいだすネ。しかも四字熟語がまちがてるネ」
「なあんか、最近そわそわしてるとおもっとったら、トンファー恋してたんかい」
「たしかに最近よく対馬君と話すネ。でもこれとそれとは話が別ネ」
「甘いで、トンファー。その考えは蜂蜜より甘いでぇ」
「え……」
「パンパカッパンッパンッパ〜ン!トンファーの〜差し入れの〜皿〜」
真名はかばんの中から縁に桃をあしらったかわいい小皿を取り出した。
「なんでネッ!なんで、これをマナが持てるネ」
「差し入れは桃饅頭やて、うらやましいなあ、対馬は。男冥利につきるで!」
「そんなことより、マナが持てること自体おかしいネ」
「そんなん簡単やんけ。部活終わってトンファーを探してた対馬にたまたま会って。トンファーがいないって言うてな。ほな一緒に帰ろういうたら竜宮で仕事がまだあるらしくてな!」


「ちょうど私が校門で待てるころネ」
「そしたら対馬が今日返したほうがいいって差し入れの皿をくれたんや。ほんまびっくりしたで」
「そう……」
「そうや」
「だからいつもマナは空気が読めないて言われるネ」
「グフッ!」
真名はテーブルに前のめりに倒れた。
「なに!ウチがもらったらあかんかったん?」
「あたりまえネ……」
ふたりの間に気まずい雰囲気が漂った。
まなはおどろきふためいている。
とんふぁーはようすをみている。
「ごめん! ほんまにごめん!」
「あやまってすむ問題じゃナイネ」
「ウチかて悩んだんやで」
「ありがとうとか感想とか聞きたかったネ……」
「対馬なら明日にお礼くらい言うで!」
「マナには乙女心が分からないネ……」
「ウチかて恋多き乙女やっ!」
「だったらもと気を使うべきネ」
「えろうすんまへん……」 
真名は顔のまえに両手を合わせた。


「でも、隠してた私も悪かたネ。だから今回のことは水に流すネ」
「ほんまか?トンファー」
「マナに空気読めと言てもムリな話ネ」
「グフッ」
豆花の表情がやっとほどけた。
「でもどうして対馬なん?」
「最初はなんとなくだたネ。それがだんだん本気になて……」
「気ついたら惚れてたんや」
「そうネ……」
「対馬はなんだかんだでカニッちとくっつくと思っとったけど、ここにきて待ったの声やな!」
「でも、まだ告白とか考えてないネ」
「いけるんとちゃう? お互い異性として見てない感じやで」
「たしかに対馬君はそういうのは鈍くて奥手ネ。カニちも一人身がいいて言い始めたネ。でも……」
「でも?」
「やっぱりカニちは対馬君のこと好きネ。カニちは告白するタイミングを見失ているだけネ」
「それじゃ、カニっちはいつから対馬のこと好きやったん?」
「おそらく私たちと知り合うずっとずっと前からだと思うネ……」
「幼なじみやもんなぁ。トランプで言うたらジョーカーみたいなもんやで!」
「そこにもし私が告白したらカニちが傷つくネ。私それがとても怖いネ」
「それでもウチはカニっちがトンファーを応援してくれると思うで!」
「それは、多分そうネ。でも、難しいところネ……」


それから二人は黙ってしまった。
グラスの中の氷がカランと音をたてて溶けた。
「ねえ、マナ」
「なんや?」
「私たち彼氏できないのカ?」
「そんなことないで。出会いがないだけや」
豆花が時計をみた。
「マナ、もう8時前ネ」
「そやな、帰ろか」
部活があると自分の時間がないことに文句を言いつつ二人は急いで店をでた。わりと空いた店の奥では焦る二人を見て一人微笑む者がいた。
二人は近道のため公園を横切った。
「あっ、楊さん、真名ちゃん。こんばんは、いま帰り?」
「よっぴ」
「よっぴー」
良美は二人に歩調を合わせた。
「この公園いつもの散歩コースなんだ」
歩き慣れているせいか、良美の足取りは軽やかだった。
「いつも今くらいに散歩してるん?」
「うーん、日によってかなぁ」
「よっぴはこの近くに住んでいるカ?」
「うん、すぐそこだよ。今度遊びに来てね」
「ぜひ行くネ」
あと少しで公園の出口だった。


「ところで、二人に相談なんだけどね……」
「なんや、よっぴー」
「なんでも相談に乗るネ、よっぴ」
三人は歩き方がゆっくりになりながらやがて止まった。
「実はね、私……いま、好きな人が……いるんだ」
「えっ、だれ?たれ?」
良美の顔はすでに赤かった。
「同じクラスの……対馬君」
「えっ、あっ、そうなんや」
真名は豆花の方をちらっと見た。どうやら豆花は固まっているようだ。真名も自分で目が泳いでいるのが分かるくらい動揺している。二人とも頭の中が真っ白だった。
「今週と来週は生徒会があるから、再来週の日曜日にデートに誘って思い切って告白しようと思うんだ。楊さんと真名ちゃんは普段からなかよしだから、私と対馬君が付き合っても驚かないでね。それで、もしよかったら私たちを応援してくれないかな……」
良美は顔をあげずに一気にしゃべった。もじもじしながら耳まで赤かった。
「わかったネ。私、よっぴと対馬君を応援するネ」
「えっ」
「ありがとう、楊さん、真名ちゃん」
それだけ言うと良美は足早にその場を去った。


「トンファー!」

「なに?マナ」
「なにやないっちゅうねん! こんなんでええんか!! Yann!トンファー!!」
「べつにいいネ」
「ガクッ!!!」
「よっぴは美人でスタイルよくてとてもいい子ネ。私ぜんぜんかなわないネ」
「でも、そしたらトンファーの気持ちが……」
「よっぴはもう告白まで行こうとしてるネ。私がもたもたしてたのがいけなかたネ」
真名は恐る恐る聞いた。
「カニっちのこともやっぱかんがえたん?」
「というより、よっぴがあそこまで本気とは思わなかったネ。私にはその隙間に入るのは無理ネ。カニちは大事な親友だけど、よっぴには関係ないことネ」
「トンファー……」
豆花は上を見上げ、何かを堪えているようだった。
「マナ。 中国には乙女の失恋の涙は星になるていう言い伝えがあるネ」
「ほえ〜!それはロマンチックやなぁ」
「空を見上げれば星はたくさんあるネ。だから乙女はみんなよく失恋するていうことネ」
「なるほどなぁ。みんな大変なんやなぁ」
「でも、松笠の星はすこし少ないネ」


「ほな、トンファーは今日失恋したから一番輝いてる星やで。あれやな!」
真名は空を指差した。
「バカ。あれは月ネ」
「月も星やで。一番輝いてるやん」
「乙女の涙は月にはならないネ」
「やっぱ、そうか。知ってるか。トンファー。月は実はチーズで出来てるんやで。クラッカーにのせるとすごくうまいんや!」
豆花はあきれてものが言えなかった。
「これでマナは乙女心がわからないことが実証されたネ」
「グフッ!」
前のめりに倒れる真名を豆花がおこし、スカートの砂利を払った。
「真名はいつも元気ネ……」
「それだけがウチの取り柄やからな!」
豆花が真名の手を握った。
「お互いがんばろうな……トンファー」
「うん」
街灯に照らされた豆花の頬にはすでに涙の跡はなかった。



Fin……………………


(作者・ちくわ氏[2006/07/01])

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