「♪〜」
「ゴキゲンだね、姫」
俺の問いかけに、姫は嬉しそうに答える。
「当たり前じゃない。ついに『つよきす』TVアニメ化よ。また野望に一歩近づいたわ♪」
「アニメ化かあ。楽しみだなぁ」
「鎌倉の六姉妹みたいにX
RATEDじゃない全年齢向けアニメよ。
これでファンを拡大して、摩周財閥に差をつけてやるわ」
「……無理」
「うわ、佐藤さん!」
いつの間にか背後に佐藤さんが立っていた。なにやら薄ら寒く感じる負のオーラを纏っている。
「あ、よっぴーがいきなりダークよっぴーだわ。何が無理なの?」
「……これ、見て」
そう言って佐藤さんは紙片を取り出した。
「なにそれ。あらつよきすアニメの資料じゃない」
「へー。俺にも見せて」
俺も覗きこむ。
そこには知らない人たちの設定画が掲載されていた。
「って、これ誰?」
「誰って、こんな金髪つよきすには一人しかいないじゃない」
これ姫か!? そしてこっちは俺か!
「……似てねー!」
「気品がまるでないわね」
呆れたように姫が言う。
「うわ、なんだよコレ! ボクはこんなにロリじゃねーぞ!」
突如カニの素っ頓狂な声。
「どっから湧いて出たんだカニ」
「つーか、レオ主人公じゃないんだな。何で近衛素奈緒なんだ……?」
「うわーみんな別人じゃん。これじゃあ俺のハーレムには入れられないぜ」
「……キモ。これ、あたしじゃないです」


いつの間にやらみんな資料を取り囲んで口々に不満を漏らしている。
「オメーだけだな、アニメ化でちょぉっとはマシになったのはよ」
「貴様こそ。幼女趣味の大きいお友達向けになってその筋のファンが増えるぞ。よかったな」
「んだとゴルァ! 表出ろや!」
「望むところだ。きっちり潰してやる」
「ヤシガニはまたケンカか? いい加減クールになりなよ」
カニと椰子がヒートアップしてきたところに、祈先生とオウムがやってきた。
「あ、祈センセー」
「け。命拾いしたなココナッツ」
「お前がな、カニ」
「どうしたんですの、皆さんお揃いで」
祈先生が飴を舐めながらいつもの調子で訊ねる。
「実は今つよきすアニメの資料を……」
「アニメの資料ですって!? あらあらあら、私にも見せてくださいな」
言うが早いか、祈先生は紙をひったくると食い入るように見つめた。
数秒の沈黙のあと、
「……。アニメはありません」
それだけ言うと部屋から出て行ってしまった。
「あーあ。帰っちゃった」
「ま、気持ちは分かるけどなー。ボクのだって、本来のオトナの魅力が1ヘクトパスカルも再現されてないもんよ」
「台風かyo」
「馬鹿丸出しだな、甲殻類」


「まあいいわ。アニメ化に際してキャラデザの変更など日常茶飯事。これくらい想定の範囲内よ」
姫が気を取り直したように言った。さすが姫。前向きだ。
「『つよきす』のウリは個性的なキャラ同士の軽妙な掛け合いだしね(個人的見解)」
「オイオイ、でもココに変なこと書いてあるぜ」
「なんだよスバル」
「脚本家のコメントだ。あえてゲームはやらずに先入観無しで描くんだとさ」
「なにそれ!? 脚本家が吐くセリフじゃねえっ!」
「『エロゲーなんざ面倒くさくてやってられっか。売れセンの名前だけ使って好き勝手やるんだよ。
売れたらこっちの手柄、コケたら原作のせいにしてやるぜ』」
「佐藤さん?」
「――って言ってるも同然だよね」
「脚本家が原作やらずにどうやって脚本書くんですかね」椰子が呟いた。
「原型を留めない悪寒」
「高笑いしながら金にモノ言わせる姫とか、ただただ善良なよっぴーとか出てきそうじゃね?」
確かに、設定だけ見て書いたらそんな勘違いもしそうだ。
「いやだなぁ伊達君。私は善良だよぅ」
「自分で言うのか……」
「こんなんじゃ原作にあったキャラ同士の掛け合いやパロネタなんて望むべくもないな」
「つーか原作のエピソード一個も無いんじゃね?」
「くっ、まだだ。まだ何とかなる! まだ慌てるような時間じゃない!」
「そうね。私たちの中の人ならきっと絶妙な演技で期待に応えてくれるわ」


そうだ。豪華声優陣によるノリノリの素晴らしい演技が……。
「エリー、世の中をナメ過ぎだよ。ほら、こっちも見て」
「どれどれ、って、( д )゜ ゜」
「なんじゃこりゃ!? キャスト総とっかえかよ!」
最後の砦もあっけなく瓦解した。
「オレと館長は辛うじて似た声の人がやるみたいだけどな、他は全滅か……」
「これじゃこれまで築き上げたボクの清純なイメージが台無しじゃないか!」
「や、清純はないから」
「なんでこんなキモイ企画が通るんでしょう……?」
「そうだな。フカヒレがモテまくるぐらいあり得ねー」
「いや、それは大いにあるから」
「ねーよ」
「アニメ業界は伏魔殿ね……」
「これって、裏切りだよね」
「もはや別の作品じゃん。つよきすである意味ゼロじゃね?」
「こうなったら、姫んちの財力と全国120億人のつよきすファンの力を結集して、
アニメ化断固阻止してやろうぜー!」
と、カニが拳を振り上げた。
「ムリだろ。つーかそれ、地球の総人口より多いし」
「まさか、私の覇業がこんなところで潰えるなんて……」
あの姫がガックリと肩を落とした。
「はぁ〜っ」
みんな一斉にため息をつく。ホント、ため息しか出ねーよ。


そこでドアの開く音。振り返ると、乙女さんが入ってくるところだった。
「ん、どうしたみんな。元気がないぞ」
乙女さんが無駄に元気に言った。
「こればっかりはねー。この私でもどうにもならないのに、乙女センパイに話してもねぇ」
姫の投げやりな言葉に乙女さんがキュピーンと反応。
「なんだと姫。私は先輩だぞ。年長者を蔑ろにするのは感心せんな」
「あ、乙女さん。じつは、かくかくしかじか……」
「むう。なるほど。それは許せんな」
黙って聞いていた乙女さんが立ち上がる。
「自分の企画で勝負する自信も才能も無いからといって他人の功績を利用しようとする腐った性根が気に入らん。
制裁してその惰弱な根性、叩き直してやる」
「直すなんて言わないで、いっそ潰してもいいですよ」
「ふむ。ではちょっと行って来る」
「気をつけてね乙女さん。奴らは手強い。こっちの設定とかお構いなしだから、
油断すると乙女さんですら単なる萌えキャラに変えられてしまうかもしれないよ」
「なぁに、お姉ちゃんに任せておけ。帰ったら一緒におにぎりを食べよう」
乙女さん、それは死亡フラグです。
「ふ。――地獄蝶々よ、久々に斬り応えのある相手だぞ」
乙女さんはそう言うと、颯爽と出て行った。
「大丈夫かな、乙女さん」
「乙女さんなら、乙女さんならきっとなんとかしてくれる……!」


(作者・れみゅう氏[2006/06/08])

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