冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラの栓を栓抜きで抜いてコップに丁寧に注いだ。
「レーオ!、ボクにもいりちくり」
戸棚からコップをもうひとつ出した。
「心配すんな、最初からそのつもりだ」
炭酸の泡がはじけてさわやかな匂いが漂っている。
きぬのノートパソコンから規則正しいタイプ音が聞こえている。
「新作の調子はどうよ」
「うん。 いい感じ!、完成度は半分ってとこかな!」
首のかけたタオルで頭を拭いて、きぬの隣のいすに座る。
「どんな話?」
腰に手を回して、首筋にキスをする。いつも使っている柑橘系のシャンプーのにおいがした。
「んぁ!」
そしたらすぐにやり返された。
「まだだーめ! できたら一番に見せてあげるかんね」
きぬがはだけたタオルを直してくれた。
「レオ。 ボクより先に寝てもいいんだぜ」
「それはできない」
そんなことしたら最悪じゃんか。俺はへたれだが、そこまで甲斐性なしじゃない。
テーブルに上半身をあずけて、上目使いできぬの顔を見入っていた。
「ねえ、 レオ……」
「なんだ!」
「集中できない!」
「あぁ、……悪い」
今度は唇を奪った。


「ぜんぜん悪いなんか思ってないじゃんかよ!……でも、うれしいよ、レオ。……もっと、しちくり!」
ああ、なんてかわいいやつ。全部食べてしまいたいくらいだ。
きぬが親指を下に向けて、ほかの指を曲げた。俺が同じものをくっつけた。
あら、不思議。ハートマークができちゃった。
「幸せを……はんぶんこだね……」
「俺たちの夢もな……」
「ボクたちの将来もね……」
「愛する気持ちも……」
「それは……ボクのほうが勝ってるもんね」
「いや、 俺だ」
「じゃあ、 それもはんぶんこだね……あははは……」
「ああ、 そうだな」
きぬが俺のひざの上に乗っかってきた。
「こうしてると、なんか……二人三脚のときの特訓を思い出すね」
あの時はこうやって向き合うこともできなかったけどな。
「でもあんまり……あのころから変わってないよな」
「うん……スバルが向こうの学校に行って……それから二人でがむしゃらに働いて……スバルがメダルを取って……」
「結局、変わったのはスバルだけかもな」
俺たちはスバルがいない間しっかり変われただろうか。
「うん……いまや時の人だかんね」
「このまえジャンスポに出てたぞ」
「げっ! ボク、それ見逃した」
「大丈夫だ。 ちゃんとハードに録画しといた」
「さすが、レオ。 そんなやさしさに胸キュン!」
「まかせろ! 俺はいつでもお前だけを見ている」


がしっ!やっぱり変わらないものがあってもいいんだ。
「ねぇ!……レオ。明日リューメイ行こうぜ」
「なんだよ!……いきなり」
「行こうぜ!」
「わかったよ……」
きぬの真意がわからず、明日の母校行きが決定してしまった。

翌朝 午前六時
「いくらなんでも、早すぎだろ!」
「いいじゃんか! 早起きはするもんだろ。むかしからいうじゃんかよ、早起きは三匹のこぶたって」
もうなんでもいいから早く行こう。突っ込む気にもならん。
「じゃあ、れっつ、ごー!!!」
きぬを自転車後ろに乗せて、走り出した。涼風が坂道を吹きぬけ、日差しが柔らかい。
「ねえ、レオ。何でリューメイにいくか教えてやろうか!?」
「え?」
「ねぇ、どうすんだよ?」
「やっぱ、いいや」
「なんでさ!」
「楽しみはあとにとっとくもんだろ」
そんなことどうでもいいんだ。今この時間が大切なんだ。ずっとつづくといいな、こんな日々が……。

「やっぱ、この時間だと、だれもいないね」
当たり前だろ。鍵が開いてるだけでも奇跡的だ。
「あれ! みて、レオ!」
サッカーゴールの周りにサッカーボールが転がっていた。
「なんだろ。 片付け忘れたのか?」


おもむろにそのボールをゴールに向けて蹴った。すると、ボールはゴールのはるか後方に飛んでった。
「うわ! やっぱ、レオ、へたれだね!?」
「うるさい、いまのは、たまたまだ」
「いいわけですか? そんないいわけ見苦しいだけですよ!」
きぬがにやにやしながらこっちをみている。
「まったくだぜ、坊主。まったく成長してねーな」
懐かしい声が聞こえた。おかしい。こんなところにいるはずないのに。
「おおっと! 残念だな。それは我輩の声帯模写だ!」
空を悠悠と旋回していた鳥が舞い降りた。
「なんだ、土永さんか……」
「なんだとは何だ。我輩の出迎えにそっぽをむくとはいい度胸だ! ジャリ坊め!」
もうあなたに何されても驚きませんよ。
「あ、インコ」
「インコではない。我輩はオウムだ! 相変わらずだな、つるぺた娘よ!」
「レオ、 こいつ夕飯のおかずにしようぜ」
「ああ、 そうしよう」
「おーっと! なあに、いってんだこの蛮族めが!」
「へん!、 悔しかったらここまで歩いてきな!まあ、とりごときがまともに歩けるとは思わないけどね!」
「ふん、たわけが! 我輩が歩けないだと、ならばとくと見よ!」
1、2、3……………………ポカンッ!
「おう、そうだ。 祈から伝言があってな……」
さすがオウムだ。さっきの怒りが持続できていない。
「一通り再会が終わりましたら、 職員室へおいでください」
「再会?……土永さんと?」
「たわけ! ……まぁ、そのうちわかるがな!」


なんだろう……この高揚感は!この……………笑いがこみ上げてくるような。
何年ぶりだろう、こんなにからだの血が熱くなるのは。
「おい、レオ! もっとボールをよくみろ。そんなんだったら開始10分で点がはいっちまうぞ!」
もう、いいよ。土永さん。土永さんにつっこむのにふりむいたら何かにあたった。
えっ?……土永さん、人型?
「よう、久しぶり!」
「でたっあああーーー!!!」
「おい! 俺は幽霊じゃねえんだぞ。……てか!俺を勝手にころすんじゃねぇ!」
そこにはスバルが立っていた。そう7年前とほとんど変わらない姿で……
「約束を果たしにきたぜ!」
「帰ってきたなら、帰ってきたって言えよ」
「驚いたか?」
「当たり前だ」
スバルはそばにおいてあるボールでリフティングを始めた。
「レオ、あのときの続きをやろうぜ!」
「ああ、」
それからスバルの足から強烈なシュートが何本も放たれた。
痛いのに……苦しいのに……楽しかった!
「てぃや! ボレーっ!」
俺が手ではじいたボールにきぬが合せてネットを揺らした。
「なんだよ!」
俺は思わず言った。
「なんか、あの時のこと思い出したら、すんげぇむかついてきた」
「なんで?」


「だって、ボクのためにがんばってくれたんだろが!そのあとボクにコクるのがスジってもんでしょ!」
「あのとき、お前は恋愛の対象じゃなかった」
「ボクは怪我したレオを校門でずっとまってたんだぞ!」
「マジで!」
「ああ、あのときは俺とフカヒレは無理矢理帰らされたからな」
知らなかった。きぬがそんなに俺のこと思ってたなんて。
「まあ、そんな中ひそかにカニを想う俺が、いたわけですよ」
「なんか、ほっとかれたって意味で、少しむかつくな」
「少しかよ……レオはすごくで………俺は少しかよ」
スバルの目が細くなった。気にするな、スバル。ようは程度の問題だ。

一時間後……………
「あっ、 俺言い忘れたことあったわ」
「なに?」
「ただいま………」
「おかえり……」
「おかえり……………スバル」
幼馴染の時計の歯車はゆっくりの動き始めた。最初はぎこちない動きをするかと思ったけど、
いまは正確に、そして快活に動いている。もうただの友達ではくくれない何かを。
俺は今も感じ取った。
「おーい、みんなぁーー!」
「おっと! 聖域の最後の1ピースがやってきたぜ」
「おせぇーよぅ! フカヒレ!!」
校門からすぐなのに、もうすでにフカヒレは息切れしている。こいつも待ってたんだ。


「朝の収集抜け出してきたんだよ……無理言うな! おう、スバル、久しぶり」
「久しぶり」
「ほんと、久しぶりだね、フカヒレ」
「カニ、お前は昨日の朝会ったばっかじゃん!」
あぁん!いい場面台無し。
「あっ!そうだっけ、忘れてた! あはははは………」
「ほんとこいつバカだな。ハハハ……」
スバルがきぬの髪をかきむしる。
「バカは純真でずるい。はは……」
「はは、何でみんなして笑ってんのさ?なんかおかしい?」
そんなフカヒレも笑ってる。
「おかしいんじゃねぇよ、うれしいんだよ!」
そう、だって、結局何も変わらなかったから……

fin……………


(作者・名無しさん[2006/05/14])

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