「乙女先輩は、功夫が足りないネ」
「くんふー…」
「そヨ、功夫ヨ。押さば引け、引かば押け、明鏡止水の心境ネ」
「それが私には足りていない、ということか」
「乙女先輩は強い人ネ。でも強さを御しきれてないと思ウネ。それが炎に表れてるヨ」
 ぐっ、と奥歯を噛みしめて、己の未熟さを指摘された屈辱に耐える乙女。
 乙女の傍らに悠然と立つ豆花が、言葉を続ける。
「炎を御ス、それ唯一の道ネ。今の乙女先輩は炎に立ち向かテルネ」
「炎を…御する…立ち向かわない…」
 乙女はゆっくり瞠目すると、目の前の炎に向き合い、両手を伸ばしていく。
「その調子ヨ、ユクリ、ゆくり」
 豆花は乙女の呼吸を静めるように、密やかな声で空気を作っていく。やがて乙女の右手がゆったりとした
円を描き始めた。
「立ち向かわない…立ち向かわない…私が頑張らねばレオは…レオ…!」
 その刹那。
 炎がごう、という音を立てて乙女に抗わんと立ち上る。
「くっ!」
 咄嗟に突き出される乙女の左の拳。

 がらんがらんがしゃぁぁぁぁぁん!!

「あいヤー!」」
「あぁぁぁぁ!又してもか…」
 乙女の拳は正確に、突然火柱を上げたコンロにかかっていた鍋を叩き落していた。当然、鍋に張られた湯と
その上に浮かべられていたボウルが、宙に舞う。
 ボウルから飛び散った溶けかけのチョコレートが、甘ったるい香りを上げてそこかしこにこびりついている。
「チョコの湯煎にここまで振り回される人も始めてネ」
「うううう、バレンタインとはかくも艱難辛苦を私に与えるものなのか!!」
「ままま、そう悲観しないネ乙女先輩、私出来るまで付き合うヨ。今も途中まで上出来だたヨ」
 そう言いながら豆花は、ちょっとだけ心の中では別のことを考えていた

(対馬クンのかこいいお姉ちゃん、の乙女先輩…今はなんダカ、私がお姉ちゃんみたいネ)


(作者・名無しさん[2006/04/12])

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル