「ん……レオ、このキャンディもらうぞ」
ひょいぱく
「あ……」
夕食後。止める間もなく乙女さんは俺の机においてあった
ウィスキーボンボンを口に放り込んでしまう。
フカヒレのヤツがめずらしく差し入れとか言って持ってきたのだが
しまい込むより早く乙女さんに見つかってしまったわけだ。
食べ物を見つければ食べてしまうのが乙女さん。
だけど……コレ、けっこうアルコールきついんだよな。
「なんだ……中にジュースが入ってるのか?
ちょっと変わった味だな」
ひょいぱくひょいぱくひょいぱく
「あ、あ、あ、あああああ」
「なんだ、キャンディぐらいで大げさだな……
しかし、変な味らと思ったが、食べていゆと
不思議と次が食べたう……ひっく」
なんだかろれつが回っていませんが。
しかし、乙女さんはキャンディを食べ続ける。
「なんだか……ぃっく……熱くなってきたじょ?」
「じゃ……俺ランニングしてくるからっ!」
「……待て」
ガッシ!
俺の肩を背後から乙女さんが鷲掴み。
見れば、なんだか目がトローンとしている。
……ウィスキーボンボン数個で酔ったのか、この人。
しかし、酔っぱらった乙女さんって初めて見るな。
「まあ、いいからもう少しつき合え?」
「いや、俺ランニングに……」
「 も う 少 し つ き あ え ? 」
ひぃ。顔は笑っているのに
乙女さんの与えてくるプレッシャーは凄まじい。
「……あい」
「ん。じゃ、キャンディおかありー」
「いや、袋にまだ入ってますが?」
「レオが食べさせてー」
「……は?」
「たまには私らって甘えてみたいー。
ていうか、甘えさせろー」
なにこの強制甘えん坊モード。
まあ、普段『自分が上』という立場に固執してるからなぁ。
たまには、こういうのもいいか……?
「あーん」
仕方なく、開いた乙女さんの口にキャンディを放り込む。
ぽい
「んー……愛情がこもってないー」
いや、どうすれば?
「口移しでなきゃ、ヤダ」
拗ねるように、乙女さんがイヤイヤをする。
……ああ、もう!可愛いじゃねえか!
急いでキャンディを口に含むと
乙女さんに覆い被さるようにして、キス。
「んっ……あは……あまーい……」
ころころと、二人の口の中でキャンディが転がる。
甘く溶けたものがくちゅくちゅと音を立てて二人の間を行き来する。
ちょっと……たまんなくなって、きた。
「んっ……乙女、さん……続きは部屋で……ね?」
「まだ……ダメー……」
「え」
「今度は、お風呂……たまには、レオが洗って♪」
……酔っぱらった乙女さん、いいかも。
こうして、甘えん坊モード全開の乙女さんに吸い尽くされてしまった。
翌朝には当然のように乙女さんは『何も覚えていない』とか言うし。
そんなこんなでヨレヨレになって学校へ。
たまたま一緒になった村田が茶々を入れてくる。
「なんだ対馬……朝から気合いが入ってないな」
「お前ら拳法部と違って、朝から気合いなんか入らないよ。
そもそも、俺の気合いは君たちの先輩が吸い取ったっつーの」
「……なんのことだかサッパリだな」
「やれやれだぜ。ま、お前らは
乙女さんに酒を飲ませるようなことはしないだろうしな」
「酒?いや、全国大会で鉄先輩が優勝したときは
館長もお許しになられたので、祝杯をあげていたぞ?」
「な……よく無事だったなお前ら!?」
「無事って……鉄先輩は、アルコールにも耐性があるのか
一升まるまる入った杯をあけて、ケロッとしていたぞ」
「な……なんですと!?」
じゃ……あれは演技!?ただ甘えてただけ!?
釈然としないまま授業を終え、家に帰ると
テーブルの上に例のウィスキーボンボンが山盛りに。
乙女さんがすました顔で、その前に座っている……
「おかえり。あのキャンディな、美味しかったから
探して買っておいたぞ……ときどき、食べような♪」
(作者・Seena ◆Rion/soCys氏[2006/03/29])