「対馬クンってさー、なごみんのどこが気に入ったの?」
お姫様が発した唐突でストレートな質問に、あたしは思わず紅茶を噴出しそうになった。
同時に、生徒会室全員の視線がセンパイに、そしてあたしに集まる。
「いきなりな質問だな、姫」
「だってなごみんって、いっつもおすまししてて、誰に対してもつれない態度じゃない?
 それに、この私がいる生徒会に入っておきながら、対馬クンは敢えてなごみんを選んだわけだし…
 理由が知りたいわ」
このお姫様…相変わらずすごい自信家だ。この性格で人望があるなんてちょっと信じられない。
いや、この性格と容姿だからこそなのだろうか。あたしには理解できないけど。
「そーだよねー。こんなブアイソーな奴のどこがいいんだか。
 口を開けば『潰すぞ』とか『キモい』とかばっか。ボキャブラリーも貧しいしさ。レオってもしかしてマゾ?変態?」
このカニは相変わらず…。あたしのことを罵るのもウザいが、
それ以上にセンパイを馬鹿にするのは、いくらセンパイの幼馴染とはいえ許せない。
あたしは立ち上がり、カニに向き直る。次にセンパイを馬鹿にした言葉を発したら、強制的にマーベラス蟹沢してやる。
「お前は罵倒の語彙だけ広すぎるんだ、この甲殻類」
「んだとゴラァ!」
「ハッ、そんなヒヨコみたいな声でピーピー怒鳴っても怖くない」
「テメーはドスが効き過ぎてるんだよ!悔しかったらボクみたいに可愛い声で鳴いてみろっての!」
「お前相手に鳴いてやる趣味はない」
「じゃあ誰にならあるんだよ!レオか!?レオがいいんか?!
 ま、オメーみてーな色気も愛嬌もねえ声でうめかれたら、男はチビるかビビるかのどっちかだろーけどな!」
カニの言葉に反応して、センパイが何故かクスリと笑う。そして立ち上がり、あたしとカニの間に割って入った。


「はいはい、二人とももうその辺でやめにしとけー。スバル、カニの方頼む」
「あいよ」
カニに色々言い返したかったけど、センパイの言葉なら仕方がない。あたしはもといたイスに掛けなおした。
カニも伊達先輩に引きずられ、席に戻る。
「で、どうなのよ対馬クン」
「あのなぁ姫…ここでそういうこと聞かなくてもさあ」
「早く答えなさいな」
お姫様はセンパイの言葉など聞こえていない、といった感じで急かす。いや、本当に聞こえていないのかもしれない。
私はお姫様を睨みつけるが、これも意に介してない、それどころか、余裕しゃくしゃくで微笑み返してきた。なんて尊大な人だ。
仕方がない。質問されているのはセンパイだし、ここはセンパイの返答を待とう。
でもセンパイ、あたしのことをどう評価されても、あたしは大丈夫ですから。
もしあたしに不満があるなら、これからセンパイが気に入る女になるよう頑張ります。
どうぞ安心して思ったことを仰ってください。 心の中でそうつぶやいた。
そして少し間をおいて、センパイは私の顔を見たあと、なんだか照れた顔をした。
あ…今のセンパイの顔、可愛い。
「だから……まぁ、可愛いからさ…なごみが」
――――――! ああっ…センパイ!大好きです!
「ダーメ、もっと具体的に!それに、なごみんが可愛いってなんかイメージ違くない?
 私がなごみんに言うならともかく、対馬クンが〜?どうもわかんないなあ。」
このワガママ姫は…!
「レオ、おめー目は大丈夫か?ココナッツの腐臭でおかしくなったか?」
カニ…後で潰す!
「確かに、椰子さんはどちらかというとクールビューティ系だよね」
佐藤先輩、感想を言ってないで止めてください。
「ま、いいんじゃねーの?惚れた女は可愛く見えるもんだろ。フツーだフツー」
何気に恥ずかしいことをさらりと言いますね、伊達先輩…。
「おい、いい加減やめにしないか、皆。人のプライバシーに踏み込みすぎだ」
鉄先輩が話を止めに入る。こういうときお姫様に逆らえる常識人がいて、良かったと思う。鉄先輩にちょっと感謝。


「あ、乙女センパイはどう思います?なごみんって、センパイと対馬クンの家に来たりもするんでしょ?
 家の中だと様子が違ったりするのかしら?」
「ん?ああ、椰子は私が土日にいない間にも、よく家事をこなしていてくれるな。
 私の植木にも水をやっておいてくれるし、各部屋も丁寧に掃除してくれている。
 それに料理の腕前は皆も知っているとおりだしな。家庭的で、良き妻になれると思うぞ。
 ただ、レオを甘やかしている節があるのは感心しないがな」
…前言撤回。鉄先輩のせいでプライバシーを余計に侵害された。
「うーん、甘やかすってことは、やっぱり家の中だと豹変するのかな」
「佐藤…豹変という言い方はどうかと思うが」
「え、そうですか?」
「てゆーかそんなのありえないよ。もし家庭的に見えても表面上だけだよ。
 ココナッツはぜってー影で悪いことやってるね!」
好き勝手言って…。やっぱりこの人達とは付き合いきれない。
センパイはよくこんな人たちとうまくやっていけるなあ…。改めて尊敬してしまう。
そう思いセンパイを見ようとしたとき、ふと別方向からの視線を感じた。
視線の元をたどるとお姫様に行き当たった。あたしの顔を見てニヤニヤ笑っている。
というか、このお姫様、さっきからセンパイよりもあたしの方をずっと見ている気がする。
…もしかして、最初からあたしをからかうつもりでこんな話題をふったのか。
いや、センパイとあたしを二人まとめてからかうつもりだったのかもしれない。
どっちにしろ、今は視線があたしの方に向いている。センパイよりもあたしの方に興味が行ったようだ。
センパイが言っていたようにあたしはやっぱり顔に出やすいのだろうか。
それにしても、全くこの人は…!


「センパイの返答も済みましたし、あたしたちは帰ります。行きましょうセンパイ」
席を立ち、右手にカバンを、左手にセンパイの手をとって出口に向かう。
これ以上ここにいると深みにハマる。絶対ハマる。こういうときは帰った方がいい。
「お、おい、なごみ。俺まだカバン持ってないし、荷物も入れてないんだけど」
「あっ、すいません!」
思わずセンパイの手を離す。
早くこの場を抜け出したい。その気持ちだけで頭がいっぱいで、
あたしはセンパイよりも先に駆け出し、カバンに荷物を入れ、センパイに渡していた。
「はいっ、センパイ」
「あ、あぁ、ありがとな、なごみ」
しかし、そのせいで周りが見えていなかった。そして、周りは見ていた。
「へ〜ぇ…熱いねぇ」
「うっがああーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ふふ、確かに可愛いかもねぇ、なーごみん♪」
「あはっ、今のはちょっと言えてるかも」
「まさに、仲良きことは美しきかな、だな」
さっき以上に楽しげなお姫様、及びその他大勢。
あたしは墓穴を掘り、回避不可能な好奇の視線があたしとセンパイに突き刺さった。
うぅ…ごめんなさい、センパイ。



翌日、執行部内で『なごみんの可愛いところを皆で見ようの会』などという
とんでもない会がが発足したらしい。
当然、あたしとセンパイはそれを知る由もなく、さらなる受難が待っていたのだった。


(作者・名無しさん[2006/03/24])

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