俺は…えーっと、なんだっけ……そうだ、村田だ。
村田のことが許せない。
西崎さんにあんなことしやがって…ただ単にあの子は村田を心配しているだけなのに。
そんなこともわからないのか、あの野郎は。
一度痛い目にあわせてやらないとわからんらしい。
「体育武道祭のドラゴンカップであいつを叩きのめしてやる」
そう心に誓った。
とはいえ、奴は拳法部でもかなりの実力者として知られている。
あの乙女さんも、あいつの実力は認めているんだ。
今の俺が戦ったところで、おそらく勝ち目はないだろう。
そこで、俺は乙女さんに特訓してもらうことにした。
乙女さんは満面の笑顔で、快く承諾してくれた…

「はずなんだけど」

俺が今いるのは、竜鳴館の生徒ならば誰もが知り、そして恐怖の対象となっている場所。
その名も『烏賊島』だ。
海は綺麗だし、自然も一杯。
天然温泉まであるんだから、遊びに来るのであればこれ以上ない場所である。
しかし、ここに『島流し』をされてしまった生徒はまるで人が変わったようになってしまうらしい。
そんな場所に、俺はなんと…
「ふふふ、わしに任せておくがよい。 お前を見違えるようにしてやろう」
館長と一緒にいるのである。
これから始まるであろうこの世の地獄に、俺は自分のとった行動を心底後悔していた…


そもそも、どうして乙女さんがいないのかというと、昨日…

「…はい、そうですか……はい、はい…」
(ガチャン)
「どうしたの、乙女さん」
「ああ、どうやらお爺様が雷にうたれたらしい。 私はしばらく家に戻り、傍にいようと思う」
「そうなんだ…って、なんで雷にうたれたんだよ?」
「さぁ、それは……あれほど頑丈な体の持ち主だから、あまり心配する必要は無いと思うがな。
 もしもという時もある。 すまないが、連休に鍛えるのは無理になってしまった」
「いいよ、仕方ないもん」
「代わりといってはアレだが、お前の特訓の面倒を見てくれる人に連絡しておこう。
 あの人ならきっと力になってくれるはずだ」

その次の日の朝早く、俺が目を覚ました時にはすでに館長のクルーザーの中だった。
要するに、館長に拉致されてしまったのだ。
「これって犯罪じゃないんですか?」
「何を言っておる。 鉄も合意の上だ」
とにかく、俺は女の子の気配を微塵も感じ取れない状況の中で頑張らなくてはならないのだ。
ちょっとテンションも下がってしまう。
フカヒレなら即逃げ出しているだろう(絶対逃げれないだろうけど)。
「ある程度の基礎体力に関しては鉄より聞いておる。
 先に言っておくが、わしは鉄のように甘くはない。
 お前を一人前…いや、それ以上の格闘家にするために特訓をしてやろう。
 まずは島を10周するぞ。 わしについてこい」
そう言って、館長はものすごいスピードで行ってしまった。
あのでかい図体をどうやってあんなに身軽に動けるんだろうか…
とにかく、俺の地獄の強化合宿は始まったばかりである。


連休も最終日…
この3日間、それはそれはとんでもない特訓の連続だった。
呼吸矯正マスクをつけられ、ものすごく高い柱を登らされ…
「わしは鉄のように甘くはない」
この言葉に偽りはなかった。
乙女さんの特訓が可愛く思えてくるぐらいだった。
それにしても気がかりなのは、ずっと体力作りしかしてこなかったことだ。
いくら喧嘩にはそれなりの自信があるとはいえ、さすがに技術がなければ村田に勝つことはできないだろう。
一体、何の意図があるというのか…
「対馬よ、この3日間よく頑張った」
「は、はぁ」
「そこですまんが、わしはお前をこのまま帰すわけにはいかなくなってしまった」
「はい?」
「体力作りに専念したのも、すべては体育武道祭までの3日間に費やすため。
 残りの3日間に耐えられるほどの力がなければ、このまま帰すつもりだったのだが…」
「へ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。 学校はどうなるんですか?」
「わしから大江山先生に言っておく。 心配はいらんよ。
 鉄に感謝しておくことだ。 彼女がお前を鍛えていなければ…とっくにお前は倒れていたであろうな」
ここは乙女さんに感謝する場面だろうが、今は恨むぜ乙女さん。
「よいか、この3日間でお前には戦い方を教えてやる。 そして、わしの技をも伝授してやろう。
 無論、使えるようになるかどうかはお前次第だ」
どうやら、強制イベントが発動してしまったらしい。
誰も迎えに来ない、俺以外にいるのは館長のみ。
ちくしょう、こうなったらトコトンやってやるぜ!
そしてこの鬱憤を村田! お前に全部ぶつけてやる!
「うおぉぉぉぉぉ! やってやるぞコラーー!!!!!!」
こうして、地獄は続いた。
その間に、俺の中で何かが変わっていた。
強くなることの喜び…それを感じ取っていたのだった。


「結局レオのやつ、今日も来なかったなー」
「もう明日は体育武道祭だぜ。 すでにあいつが出場する種目が決まってるからよかったものの…」
「館長にどっか連れて行かれたんだろ? スゲー変わっちゃってたりして」
ホント、あのバカ何やってんだろ。
乙女さんは心配してなかったけど、なんせ一緒に行ったのが館長だもんなぁ。
家に帰ってボクは、冷蔵庫の中にあったジュースをがぶ飲みした。
ババァのやつかもしれねーけど、そんなもん関係ないね。
そのまま部屋に入ると、なんとレオの部屋の電気がついているのに気がついた。
そっか、ようやく帰ってきたんだな。
「ここはボクの天使の笑顔でお迎えしてやるぜ!」
久しぶりにボクの顔を見るんだからな、アイツ感激して泣いちまうかもしれねー。
屋根をつたってレオの部屋の窓まで接近、するといきなり窓が開けられた。
「誰だ! なんだ、カニか」
「お、おお…元気そうじゃねーか。 よく気づいたな」
「当たり前だ。 そんなもん、気ですぐわかるよ。 お前と特定できなかったのが残念だがな」
気…? コイツ乙女さんみたいなこと言ってやがるぞ。
おかしくなってねぇか?
「わりーけど、お前の相手をしているヒマはないんだ。 これからイメージトレーニングしないとな」
「オイオイ、せっかく帰ってきたんだから遊ぼーぜ」
「そんな時間はない。 戦いに油断は禁物だ」
…ひょっとして熱血モード入ってる? いやいや、これは何か違うような…
「とにかく、遊ぶのは武道祭が終わってからだ。それじゃあな」
そう言って窓をピシャリと閉めて、念入りに鍵までかけやがった。
マジで人が変わったようになっちゃったよ。
レオ、大丈夫かなぁ…


体育武道祭2日目…
俺達西軍は、2-Aがいる東軍にわずかの差で負けている。
ということは、このドラゴンカップで優勝すれば西軍の大逆転勝利となるわけだ。
『みなさんお待たせしましたー! 体育武道祭のメイン行事、ドラゴンカップを開始しまーす!』
カニのやたらとうるさい声がこだまする。
館長の素晴らしいパフォーマンスが終わり、しばらくしてから俺の出番が回ってきた。
フカヒレも参加していたが、第1試合で村田と当たってあえなく撃沈。
その村田が俺の試合の相手だ。 カニが選手紹介をしていたが、俺は全く耳に入ってなどいなかった。
今の俺はただ、目の前の敵を睨みつけるのみ。
村田も俺の変わりように気づいたのか、じっとこちらを見ていた。
「対馬、えらく雰囲気がかわったようだが……しかも、体中にある傷は一体…」
「すぐにわかるさ…すぐにな」
なぜ俺は修行をしてきた?
よく考えてみろ。 それはすべてあいつが西崎さんに酷い事をしたからじゃないか。
そう、あいつをぶっ飛ばさないと修行の意味がない。
そして、俺の強さの証明をするんだ。
「うん、いい顔になっているな、レオ。 私は村田のセコンドだが、お前の健闘を祈ってるぞ」
乙女さん…俺の力を見せてやるよ。 館長との修行で生まれた俺の強さを。
『それでは、第1ラウンドォ!』

(カーン!)

「いくぞ、対馬! これで一発ダウンだ!」
しかし、そんなストレートは俺には当たりはしない。
まるでハエが止まってるかのようだぜ。
「なッ…」
「フン、そんなもんか?」
「クッ…はぁぁぁ!」
ラッシュをかけてくるが、やはり俺にはかすりもしない。
これがあの村田? 本当か?


「くそ、何故当たらないんだ!?」
「甘すぎるぜ。 お前の動きは手にとるようにわかる…」
『おーっとどうした、村田洋平! あらゆる攻撃が全く当たらなーい!
 これは早くも勝負が決まったかー!?』
「うるさい! ならば僕の本気を見せてやる!」
そして、アッパーを繰り出してきたかと思うと…
「くらえー!」
例のガトリングガンを使ってきた! 先ほどのフェイントのせいもあってか、一気に食らってしまう俺。
しかし…
「なんだ、そのこそばゆい拳は? 蚊でも刺したか?」
「ば、ばかな!?」
こんな見掛け倒しは俺には通用しない。
館長の特訓に比べれば、こんなもんは屁でもない。
「どうした? もう一度本気で撃ってみろよ…それとも今のが本気か?」
『なんとレオ! あの攻撃をまともに受けながら余裕の表情だー! 一体お前に何があったー!?』
「う…うう……」
もう村田は俺には勝てないとでも思ってるんだろうか?
だが、そんな顔をしても関係ない。
俺が今持っている最強の技でお前をぶっ飛ばさなくてはならないんだ。
「うおぉぉぉぉ!」
やぶれかぶれか、一気に攻勢に出る村田。
ガトリングガンを再び使い、圧倒的ラッシュで攻撃をしてくる。
少し瞼を切ったようだが、そんなものはダメージにすらならない。
「そのお高くとまった態度…打ち砕いてやる!」
もういいぜ、村田…
一撃だ。 一撃でお前を沈める。


そして、俺は両腕に気を溜め込んだ。
「いかん! 何か出る! あの腕の筋肉のパワーある緊張! ダメージを受けているとはとても思えん!
 レオは未知の能力を隠し持っている!」
「うっ!?」
乙女さんの言葉を聞いてか、村田は攻撃をやめて後ろに下がった。
「飛び退いたのはイイ勘だ…あえてお前に殴らせていたのは……
 俺の中にある怒りを溜め込んでおくため…だがそれも終わりだ」
「村田、お前がレオの瞼を出血させられたのはラッキーゆえ!
 潰されたくなければとどめをさすんだ!」
もう遅いぜ、乙女さん…村田はこのまますっとんでいっちまうんだからな。
館長から伝授された、この必殺技で!

「闘技! 龍神嵐!!」

『左腕を間接ごと右回転! 右腕を肘の間接ごと左回転!
 結構呑気していたボクも、拳が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビッた!!
 その二つの拳の間に生ずる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的竜巻の小宇宙!』
「うおあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『コ、コーナーポストがッ!! あ、あんな不自然な形に雑巾のように!
 い、異常だッ! この破壊力!』
これぞ館長から授かった必殺技、龍神嵐!!
くらった村田は場外まで吹っ飛び、そのまま気絶してしまったようだ。
無情にもカウントが数えられる。
「…9…10! 勝者、対馬!」
俺が拳をあげると、今までしーんとしていた会場が歓声に包まれた。
この高揚感…実に気持ちいい。
闘うことに喜びを感じるという人がいるというが、その気持ちが痛いぐらいよくわかる。
村田は担架で保健室まで運ばれていき、その後の試合は全員が棄権するという形で、俺が優勝した。
俺達西軍はこれにて優勝したというわけだ。


次の日、俺は館長室に呼び出された。
「昨日の闘い、見事であったぞ」
「ありがとうございます」
「まさか龍神嵐を、あのわずかの時間で身につけるとは…さすがは鉄の血を引く者よ」
「いや、それほどでも」
「しかし、わしの龍神嵐に比べればまだまだ及ばんな。 大理石の柱をひねり潰すぐらいでなくてはならん。
 それに、まだアレは初歩の技ということを忘れるなよ。
 お前がよければ、今後もわしのところで修行をしてみんか? お前には秘められた才能がある」
「館長……俺は今回のことでわかりました。 強くなるためにまだまだ修行を積み重ねていかなくてはならない、と。
 これからも、俺の修行を継続してもらえませんでしょうか?」
「ほう、すでに心に決めておったか。 わしは構わんが、お前はそれでよいのか?
 わしのもとで修行をするということは、まさしく修羅の道。
 二度と戻ることはできぬやもしれぬぞ?」
「構いません。 俺は…強くなりたい。 最強を目指したいのです。
 そしていずれは、館長をも凌ぐ武道家になりたいのです! お願いします!」
「ふふふ…うわっはっはっはっは!! 気に入ったぞ、対馬よ! お前の願い、しかと聞き届けた!」
館長は勢いよく椅子から立ち上がり、俺の目の前までやってきて、俺の肩の上に手を置いた。
「これより、お前はわしの弟子だ! よいか、甘ったれた言葉は許さん!
 甘えを口にしたときはお前が死ぬ時と知れい!!」
「はいっ!!」
「そして、わしを越えるのだ! どれほどの時を費やそうとも構わん!
 それこそが、お前の最大の目標だ!」
俺は見つけた。 自分の進むべき道を。
修羅となるか羅刹となるか…そんなことはわからない。
今はただ、強くなること。 それしか俺の頭の中にはない。
「ゆくぞ、対馬!!」
「はいっ!!」
館長…俺はあなたに会えて、本当に感謝しています。


「ふ…ふふふ……強くなったな、対馬よ……わしも歳かな…」
「ありがとう…ございます……」
あれからどれほどの年月が流れただろうか…
ついに俺は3日間にわたる闘いの末、館長に勝利することができた。
館長の目には一筋の涙が流れ、俺のことを優しく抱きしめてくれた。
お互いそんな歳ではないが、俺も感激のあまり涙を流していた。
「よいか、対馬よ。 いつかはお前も弟子をとり、その弟子に敗北する時が来るであろう。
 その時は、こうしてやるのだ。 わしも師匠から、このようにされたのだ」
「館長…」
そして俺に竜鳴館を任せ、自分はあてのない旅に出ることを俺に話し、そのままどこかへと行ってしまった。
「対馬よ、お前にこれを託す」
「こ、これは竜鳴館館長の証…」
「そうだ。 これからはわしに代わり、竜鳴館館長としてその責務を果たすがよい」
「……」
「さらばだ、対馬。 わしがお前に教えてやる事はもはや存在せぬ。
 わしはお前のことを忘れはせんぞ…」
任されたからには俺は全力でやらせてもらう。
それが、今の俺に出来ることだから。
2代目竜鳴館館長として、精一杯やっていくつもりだ。

全校生徒集会の時が来た。
俺は紹介の後に壇上に上り、拳を高々と突き上げ、こう叫ぶのだ。

「男子は男気を! 女子は女気を! 磨き、青春を謳歌せよ! 竜鳴館館長、対馬レオ!」

<館長END?>


(作者・シンイチ氏[2006/03/10])

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