「ん…?何を……持ってきた?」

「……ほら、竜鳴館の卒業アルバム。
 片づけていたら、出てきたから」

「ああ……懐かしいね。
 そういえば、卒業シーズンか……」

「思い出すなぁ……私の、卒業式……」

「卒業式よりも……
 その後の方が印象に残ってるなぁ」

「そう?……そう、かなぁ……」

「あのときは素直で可愛くて……」

「それじゃ、あのとき以外は
 私は素直でも可愛くもなかったみたい」

「いや、そうは言ってないが。
 ……今でも、可愛いよ?」

「……こんなお婆ちゃんになってから
 そんなこと言われても」

「いいじゃないか……本当に可愛いんだから」

「おだてても、何も出ないから」

「む、残念。
 しかし……ホント、懐かしいなぁ……」




「バッカ、乙女さんだぜ?ありえねーよ」

「いやいや、わかんねーぞ?
 何しろ純情な人だからな」

放課後。
特に用事はなかったが、何となく竜宮に行く。
中では皆が何やらワイワイと議論していた。

「あら対馬クン。ちょうどよかった。
 対馬クンは、どう思う?」

いきなり姫に話題を振られる。

「今来たばっかりで話が見えてないんだけど」

「えっとね、鉄先輩が、卒業式の時に
 泣くかどうか、って話」

ちょっと呆れた顔で佐藤さんがフォローしてくれた。
見回せば、乙女さんだけがいない。
なるほど、鬼の居ぬ間にってわけか。

「一番身近な対馬クンは、どう思う?」

「どう、って……わかんないよ」

「ちぇ、ハッキリしないなー」

乙女さんは確かに強い人だけど……

「みんなはどう思ってるの?」


「あの乙女センパイでしょ?
 泣くなんて、ありえないわよ」

「オレも姫に同意。伊達に鉄の風紀委員と呼ばれてねーよ」

姫とフカヒレは『泣かない』。

「いやいや、名前の通り、あの人だって乙女だぜ?」

「鉄先輩、優しいところもあるしね」

スバルと佐藤さんは『泣く』。

「……状況次第なんじゃねーの?
 周りが泣いてるとつられるとか」

カニは『状況次第』。

「まあ、無事に終われば良いんじゃないですか」

「そうですわねー」

椰子と祈先生は『無関心』。

実際、どうなんだろう。
そういえば、泣いている乙女さんって見たことがない。
見てみたいような、見たくないような……

「どうせなら賭ける?勝った方は……
 そうね、学食で食べ放題、とか」

騒ぎ続けるみんなをよそに、俺は何か複雑な気持ちでいた。


そうこうするうちに、卒業式当日。

「おはよう、乙女さん……いよいよだね」

「ああ……この制服も、今日が着納めだ」

薄笑いを浮かべながら
乙女さんが自分の制服姿をまじまじと見つめていた。

「……先に行く。遅れるなよ」

「乙女さんの晴れ姿だからね、絶対遅れない」

「うん……ありがとう、レオ。
 しっかり、見届けてくれ」

軽く行ってきますのキスをして
乙女さんはいつものように元気良く家を出ていった。

そして、式が始まった。
実家の柴又からやってきた家族や
生徒会の皆
そして俺が見守る中
乙女さんは終始、凛々しく胸を張り
表情一つ変えることなく
卒業生代表として答辞を読み上げ
卒業証書を受け取り……

変わったこともなく、粛々と卒業式が進んでいく。
周囲で泣き出す女生徒をなだめたりしていたが
乙女さん自身が泣き出すような素振りはなかった。
だけど、俺にはわかっていた。


寄りかかっていた校門から体を離し
近づいてくる人影に声をかける。

「乙女さーん」

「ああ、レオ……待っててくれたんだな」

「もちろん」

乙女さんが立ち止まり、校舎へと振り返る。

「……不思議だな。
 悲しいわけでもなく、めでたい話のはずなのに
 なぜこうも……胸が締め付けられるんだろう」

「……ずっと、我慢してたよね」

「うん……人前では泣かないって、そう、決めてたから」

決めたことは、何があってもやり遂げる。
いかにも、乙女さんらしかった。でも……

「もう、いいんじゃないかな」

「そうだな……もう、いいかな。
 レオだけしか、いないなら……」

乙女さんの目から涙が伝う。
表情はそのままで。ただ、涙だけを溢れさせて。
乙女さんが俺に寄りかかり、俺は肩を貸してそれを支え
そして俺たちは、二人で歩く最後の通学路をたどる。
名残を惜しむように、ゆっくりと、ゆっくりと……




「……何年前になるんだったかな」

「もう、60年以上前」

「やれやれ……老いぼれて…お迎えがくるわけだ……」

「…気の弱いことを言わないで」

「しかし……ずいぶんいろいろ卒業したねぇ。
 おにぎりしかできないとか、雷が怖いとか
 ……機械が苦手、なんてのもあったっけ」

「子育ても、武道家も、もう卒業……だけど」

「…けど?」

「一つだけ……あなたを想う気持ちは
 卒業しない。絶対に、卒業なんかしない」

「俺が逝ったら……卒業でいいんじゃないのかな」

「いいえ……私は……っ……
 何があっても……あなたの……
 妻、です……っ!ずっと…!ずっと…っ!」

「……泣いてるのかい」

「あ…っ……あなたの…っ…前ならっ……
 泣いてもっ……!い、いんです…っ!」

「ああ……あのときみたい…だ……
 あの……ときも……うれし…かった……っけ……」


(作者・Seena ◆Rion/soCys氏[2006/03/09])

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル