「ただいまー」

「お疲れー」「お疲れさま、エリー」

会議を終えたエリカが竜宮に戻ってきたのは
もう日が暮れかけた頃だった。

「二人とも、待ってなくてもよかったのに」

「そうもいかないだろ」

「片づけなきゃならない書類もあったしね」

「ご苦労様。それじゃ、帰りましょうか」

3人で歩く帰り道、ふとエリカが足を止める。

「…どうしたの、エリー?」

「……シッ……聞こえない?」

エリカは耳をそばだてて辺りを見回していたが
歩いていた方向を変え、歩道の植え込みの方に歩いていく。
後を追った俺と佐藤さんにも
かがみ込んだエリカの見つめるものがわかってきた。
植え込みの陰にうずくまる、白くてふわふわしたもの。

『みー』

「あー、子猫だー」

それはまだ生まれて間もないような、真っ白な子猫だった。


「全然気がつかなかったなぁ。よく鳴き声が聞こえたね」

「まあね。猫の声には、人一倍敏感なの。
 ……まだ生まれて1ヶ月もたってないわねー。
 ん〜、可〜愛〜い〜♪」

可愛い、と目を細める割には
エリカは子猫を抱き上げようとも触ろうともしない。

『みー』

子猫は見守る俺たちを、珍しそうな目で見ては
みーみーとか細い声で鳴いた。

「迷子、なのかな……」

「……お腹がすいてるみたいね」

そう言うと、エリカはチラ、と俺を見上げる。
やれやれ。

「…そこのコンビニでミルク買ってくるよ」

「うん、お願いねー」

最近は、何を命令…いや、頼まれるか
言われる前にだいたいわかる。
コンビニの方へ足を向ける俺の背中に、エリカが注文を追加してくる。

「急いでねー?」

言われるがまま走り出す俺だった。


「買ってきたよー。ミルクと、紙のお皿
 あと寒そうだったからハンドタオル」

「ん、サンキュー」

紙の皿にミルクを注ぎ、目の前に置いてやると
子猫はぴちゃぴちゃとミルクを飲み始める。
エリカがそっとその足下にタオルをおいても
夢中で飲み続けていた。

「あは、飲んでる飲んでる♪」

「しかし……こんなところに子猫だけ一匹って変だな。
 ひょっとして捨て猫か?」

「……だったら可哀想だね…」

だが
俺たちの心配はすぐに消え去る。
一匹の、大きな白猫の声で。

『なぁーぉ』

子猫の耳がピン、と立ち、
ミルクを舐めていた顔を上げて大きな声で鳴いた。

『みー!みー!』

『なーおぅ』

おそらく母猫であろうその白猫は
子猫の鳴き声に気づき、立ち止まってこちらをじっと見つめていた。


「……レオ、よっぴー」

エリカに促され、俺たちはそっと子猫から離れる。
おそらく野良猫であろう母猫が
警戒して近づかないのは容易に想像できた。
入れ替わりに、母猫が悠々と子猫に歩み寄る。

「よかったぁ……捨て猫じゃ、なかったんだね」

「あ、見て見て……や〜ん、可愛い〜♪」

子猫もまた、母猫に走り寄っていく。
まだおぼつかない足取りが
危なっかしくも微笑ましい。
やがて母親の元にたどり着くと
ころころと転がりながらその足にじゃれていた。

やがて、母猫はまとわりつく子猫の首を
ひょい、とくわえて持ち上げると
現れたときと同じように悠々と立ち去りかけ
ピタ、と足を止めるとこちらを向いた。
母親の口からぶら下がったまま
別れを告げるように子猫が鳴く。

『みー!』

ぺこり

気のせいか、子猫をくわえたままの母猫が
俺たちに礼を言うかのように頭を下げたように見えた。

そして、それは気のせいではなかった。


翌朝。
目覚ましより先に、ケータイの呼び出し音に起こされる。

「……うぁい……対馬ですけど」

『対馬クン!?佐藤です!』

耳に飛び込んできたのは、やけに慌てた佐藤さんの声だった。

「んあ?…どしたの、こんな早く」

「エ、エリーが大変なの!」

パッと目が覚めた。
エリカが……?
確か、昨日は佐藤さんのところに泊まったはずだが……

「何かあったの?」

「え、えっと……で、電話じゃうまく言えないよぅ!
 とにかく、私の家まで来て……ひゃ、ダメ、エリー!
 ちょ、エリーったら、めっ!」

?なんだ?
病気にでもなったのかとも思ったが
どうもそうでもないみたいだ……

「とにかく、すぐそっち行くから!」

「うん、お願い!……きゃ、エリー!?」

電話がブツリと切れ、俺は支度もそこそこに家を飛び出した。


佐藤さんのマンションまで一気に走ると
部屋まで駆け上がりドアをノックして叫ぶ。

「エリカ!佐藤さん!」

『あ、対馬くん!?ちょっと待って!』

中から佐藤さんの声がしたが……
エリカの声はしない。
ガチャリとロックが外され
ドアを少し開けて佐藤さんが貌をのぞかせる。

「あ、対馬、くん……えっと……
 お、驚かない、でね…?」

「?何に?」

「エリーに」

なんで俺がエリカに驚くのかわからないが
とにかく部屋の中に入ってみると…

「うわあぁっ!?」

いきなり、半ば裸のエリカに飛びつかれ押し倒された!

「……やっぱり驚くよね」

「な……なにコレなにコレェッ!?エリカ!?エリカなの!?」

驚いたのは不意に押し倒されたからじゃない。
頭には白い猫の耳、形のいい尻には長く白いシッポが生えていたからだった。


エリカがのどをグルグルと鳴らして俺にすり寄る。

「にゃーん♪」

ぐあ、まるっきり猫!?

「どうなってんの!?いつからこんな可愛い……
 じゃない、おかしなことに!?」

「今朝起きたら……もう、こうなってたんだよ。
 ねえ、どうしよう……?」

「どうしよう、ってもなぁ……」

今一度、エリカをよく見てみる。
ネコ耳、ネコシッポはやっぱり生えている。目は猫の目。
パジャマの上だけを着ているが、前のボタンは全然とめていない。
そして、下は……何もはいてない……

「あ、あんまり見ちゃダメだよぅ」

佐藤さんが顔を赤くしながら困っている。。

「え……あ、いや、その……
 まあ、俺はしょっちゅう見てるから」

「それでも、ダメ」

「…うぃーす」

まあ……確かにこんなエリカを見ていると
思わずムラムラとしかねないのは確かだが。


それから2時間ほど
俺と佐藤さんはエリカにじゃれつかれて
ずっと子猫と遊ぶように遊んでいた。

今はさすがに遊び疲れたのか
エリカはベッドの上で丸まって
スヤスヤと寝息を立てている。

「よい、しょっと……ふう」

眠った隙に、佐藤さんがパンツをはかせ、毛布をかける。
助かった。目のやり場に困ってたんだ。
パンツの上からシッポがはみ出てるのはご愛嬌だ。

「しかし……これからどうするかなぁ」

原因はだいたい見当はついてるんだけど。

「やっぱり…昨日の猫かなぁ……」

「たぶん、そうだろうな……猫のタタリだか呪いだかで
 こんなことになっちゃったとしか思えない」

「祟られるようなことはしてないのに……
 ひょっとして、エリーが猫好きだから
 お礼に猫にしてくれた、とか……?」

つまり……猫の恩返しってわけか。

「もし……エリーがこのままだったら…どうしよう」

あまり考えたくない事態だった。


幸い、その心配は杞憂に終わった。

「ん〜っ……おはよう、よっぴー♪」

目を覚ました瞬間
エリカの耳とシッポは煙のように消えてしまった。
目も普通の人間の目になり
意識も戻ってちゃんと喋っている。

「あれ?なんでレオがいるの?」

どうも猫だった記憶はないらしい。
しかし……なんて説明すればいいんだ?
だが、佐藤さんは落ち着いている。

「エリーがいくら起こしても起きないから
 心配になって来てもらったんだよ。
 ほら、もうこんな時間」

むう、よくもスラスラと。

「うわ、なに11時!?学校は!?」

「休みにしてもらったよ」

「そうだったんだ……
 よっぴー、レオ、ゴメンね、心配かけて」

「いやいや、ちゃんと起きてくれて、安心したよ」

「けど、よく眠ったわねー。そんなに疲れてたのかしら?
 ま、おかげで何かすごーくリフレッシュした感じ♪」


こうして、猫エリカ騒動は終わった……

かに見えた。
週末。
実家に乙女さんが帰るのと入れ替わりにエリカがやってくる。
もちろん、お泊まりセット持参で。

簡単に夕食を済ませると
もう二人はその気になっていた。

部屋にはいると明かりを消し
唇を重ねながらエリカの熱くなった体をまさぐる。

ざらり

…やけにエリカの舌がザラザラしてる。
エリカがピクンと身を震わせる。

「にゃ……ぅん……」

にゃぅん?

まさぐる指先に触れる、短い毛の生えたシッポ。
目を開けて、エリカを見れば
暗闇の中から二つの金色の闇が俺を見つめ返していた。

「なぉーう……ふなーぉーぅ……」

……いいさ、これだって
エリカの持つ一つの側面なんだから。
うつぶせになって尻をかかげるエリカに
俺はゆっくりと覆い被さっていった……


(作者・Seena ◆Rion/soCys氏[2006/02/22])

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