プロローグ

「今日の弁当も相変わらず美味いなあ」
「ありがとうございます」
 いつものように竜宮でなごみの弁当を食べる。なごみの料理の腕は日に日に上がっているのが素人の俺にもわかる。
 そんななごみの弁当を毎日食べられるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。
「あの、今日はもう1つあるんですけど……」
「お、なになに?」
「どうぞ」
 なごみが渡してくれたのはチョコクッキー。
「今日はバレンタインですから作ってみました」
「おお、うまそうだ。いただきます」
 1口サイズのチョコクッキーを口に入れる。
「どうでしょうか……?」
 なごみはちょっと不安そうに聞いてきた。
「うん、美味い!」
 心からそう言うと、なごみは不安が解けたのか弾けるような笑顔を見せた。
「よかった……。お菓子作りは初めてでしたからお口に合うかどうか不安でした」
「なごみが作ってくれるものは全部美味しいよ」
 そう言って頭を撫でてあげる。
「えへへ……」
 テレているのか少し赤くなりながら微笑んでいる。こういう顔を見ると本当になごみは可愛い、と思う。
 ああ、幸せだ……。俺は今幸せを感じているんだ……。
 その時。
「きゃああああああああああああーーーーーーーっ」
 突然、その幸せをぶち壊すかのように、女子の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「何だ!?」
「外からです!」
「行くぞ!」
「ハイ!」
 弾かれる様に俺たちは駆け出して行った。
 その時俺はまだ夢にも思っていなかった。
 この悲鳴が、竜鳴館史上最も長い一日の始まりであることに。


Chapter1.戦いの序曲

 悲鳴を聞いた人が他にもいたのだろう、グラウンドには何人かが集まって来ていた。
「どうしたんだ?」
 手近な人に聞いてみる。
「それが、何でもチョコを盗られたって」
「チョコを盗られた?」
 被害者と思わしき女子は「伊達君に食べてもらおうと頑張ったのに〜」と半べそになっている。
「オイ、レオ。何があったんだ」
「乙女さん」
 後からやってきた乙女さんにかくかくしかじかワクワクテカテカ。
「何だと!? 乙女の思いをこめたチョコを盗るなどとはなんという輩だ! この私が制裁してくれる」
 うおお、乙女さんが怒りに萌えて……じゃなくて燃えている。
「で、犯人の人相風体を教えてくれ」
 被害者の女子いわく、眼鏡をかけた猿顔のひ弱な男とのこと。
 そしてこの情報は犯人を特定するのには十分過ぎた。
「なんだ、フカヒレ君か。面白そうなことがあるかと思ってきてみれば」
「鮫氷君なら納得だよね」
「フカヒレ……、そこまで堕ちちまったか。まったくしょうがねえヤツだ」
「安心しな! ボクらでスマキにして海に沈めてきてやるから」
 いつの間にやら姫、佐藤さん、スバルにカニまで来ている。
「よし、至急鮫氷を緊急指名手配して……」
 乙女さんが支持を出そうとしたその時!
「ハーッハッハッハッハッハ!! ハーッハッハッハッハウッ、ゲホッ」
「なんだこの笑い声は!?」
「最後ちょっとむせたぞ」
「センパイ、屋上です!」
 なごみが指差したほうを見る。するとそこには!


「し っ と の 心 わ 〜 !!」
『父 心 !!』
「押 せ ば 命 の !!」
『泉 沸 く !!』
「『見 よ !! し っ と 魂 は 暑 苦 し い ま で に 燃 え て い る !!』」
 ゴオオオオォォォォォォォォォ!!
「うおおおーっ、あっちぃいいいぃぃぃぃ!?」
「み、水〜」
「……何なんだあいつらは」
 乙女さんの疑問に答えられるものは誰もいない。否、誰も答えたくなかった。
 とにかく状況を整理すると、変な格好をした奴らが変なことを言って勝手に燃えさかっている。
「ふぅ、危うく自分たちの炎で燃え死ぬところだった」
「鉄をも溶かすイキな3千度てヤツですね……」
 願わくばそのまま死んでほしかった。
「だがそれほどまでに我々は正義の炎に燃えているのだ!!」
『ウオオオオォォォォォ!!』
 復活したか。しぶとい奴らだ。
「なあ、あれフカヒレじゃねえか。真ん中のリーダーっぽいヤツ」
「ホントかスバル」
「ああ。変なカッコしてるけど」
「この距離じゃ俺は見分けがつかないな。カニ、お前はどう思う?」
「んー、そう言われればフカヒレっぽいね」
「そうか……、なら呼びかけてみるか」
 気が進まないが。
「ん? 総統、誰か前に出てきます」
「あれは、レオたちか」
「オイ、フカヒレ!!」
「俺はフカヒレではない! しっと団総統、『シャーク様』だ!」
「フカヒレ、そんなとこでバカやってないでさっさと降りて来い」
「そうだぜフカヒレ。女子から盗ったチョコ返して謝れ」
「今ならここにいる全員からフクロにされるだけですむぜー」
「黙れ愚民共!!!」


「ぐ、愚民?」
「イガグリ! 今日という日はそもそもなんであるか」
「はっ! 女神ユノの祝日であり、豊年を祈願するルペルカリア祭の前日であります!」
 イガグリも一緒なのか。っていうかなんでそんなこと知ってるんだイガグリ。
「その通りだ!! しかし何を勘違いしたのか恋愛の日とかほざいて血横令徒を配布する風習が蔓延しておる!!
 与えねばなるまい!! 愚民どもに天誅を!!
 そう!! これは天に代わって悪を討つ正義のわざ! 決して私怨からでわない!! 聖戦だ!!」
『ウオオオオォォォォォォォォ!!』
 熱く語るフカヒレだったがそこに姫のツッコミが入った。
「でもルペルカリア祭では多くのカップルが生まれるから恋愛の日ってのもあながち間違いではないのよね」
「そうなの? 姫」
「長くなるから詳しくは説明しないけど。知りたい人はあとでググリなさい」
「だ、そうだぞフカヒレ」
「う、うるさい! とにかく神聖なる祭りを汚す愚民共めが! しっと団が成敗じゃ〜!」
「やれるものならやってみろ」
 ぐぐっと前に出る乙女さん。
「そこを動くなよ。すぐに制裁してやるぞ」
「そうは問屋のおろし大根! 目覚めよ同志たち!! 秘技・しっとフラッシュ!!」
「うおっ!?」
 一瞬、フカヒレがまばゆく輝いた!
 光がやんでから恐る恐る目を開けてみる。
「ん? なんともないぞ?」
 乙女さんはケロッとしていた。俺もなんとも無い。
「なごみ、大丈夫か」
「ハイ、なんともありません」
「オレもなんにもなっちゃいねえぞ」
「ボクも全然ヘーキだよ」
「いきなり光るなんて、なかなかいい技ね。ぜひ身につけておきたいわ」
「エリー……、これ以上怪しい技を身につけないでよう」
 姫も佐藤さんも平気そうだ。


「フン、何をしたか知らんが今すぐ制裁を……」
「きゃあああああああああ」
 なんだ!?
「しっとの心は父心〜」「しっと団が成敗じゃ〜」「聖戦じゃ聖戦じゃ〜」
 なんとその辺にいた男子生徒10名ほどが変なカッコになって女子たちを襲っている!!
「くっ、みんなどうしたんだ」
「フハハハハ、しっとフラッシュはわれらの同志たりうる者を目覚めさせるのだ!」
「つまりっ! モテナイ奴らをっ! 仲間に引き入れる効果があるってわけね!」
 姫が応戦しながら解説してくれた。
「チッ、操られるとは、気合が足りない奴等だ」
「フハハハ〜天誅じゃ〜」
「クッ、あたしに触れるな!」
 ! なごみを守らなければ!
「なごみに触れるんじゃねえええ! 乙女ソバット!」
「ふしゃあああああ!」
「大丈夫か、なごみ!」
「ハイ、ありがとうございますセンパイ」
 さすが乙女さん直伝の必殺技。いりょくはばつぐんだ!
「きゃああああ、助けてえええ」
「よっぴーに触れるんじゃないわよ!」
 姫が男たちを3人ばかしまとめてふっとばす。
「ドオオオオオォリャーーーー!!」
「無茶すんなよカニ坊主!」
「ハン、自分の心配してやがれ!」
「クッ、こいつら何人いるんだ!?」
 乙女さんやスバルも何人かを倒してはいるが一向に数が減らない。
「おのれ鮫氷、きつい制裁を加えてやるぞ……」
「ダメだ乙女さん、数がっ! 多くてっ!」
 武闘派の人間で応戦してはいるが数がさらに増えている。
 みんなを守りながらではもたない。
「ここは一時撤退よ。今からみんなに指示するからよく聞いて。まず乙女センパイ、対馬クンその他無事な男子生徒」


「なに?」
「校内の無事な生徒および教員を体育館に誘導、女子の安全を優先で。ついでに戦力を確保してきて」
「わかった。いくぞレオ!」
「了解!」
「スバル君、カニっち、なごみんはこの場のみんなを守りながら体育館へ。ついたらそのまま防御専念」
「オーケー、任せてくれ」
「姫はどーすんのさ」
「私は竜宮からマイクでいろいろ指示するわ」
「わかりました」
「エリー、気をつけてね」
「みんな頼むわよ! 体育館で会いましょう!」

「総統、ヤツラバラけたようだべ」
「よーし、俺たちも行くぞ。まずは戦力の確保だ」
「ハッ!」

「レオ、私は3階に行く。お前は2階を頼む。ほかは1階だ」
「わかった」
「2階には村田がいる。協力してみんなを誘導するんだ」
 村田か……。まあアイツならフカヒレの仲間になることは無いだろう。
「わかった。そういえば館長は?」
「館長は出張中だ」
 なんてタイミングの悪い……。いや、そこを狙ってきたのか?
「お前たちも拳法部の者を見つけたら協力してもらえ」
『オス!』
「では行くぞ!」
『オオウ!』


 2階に昇ると村田が応戦していた。西崎さんに襲い掛かろうとしていた男と相対している。
「喰らえ!」
 あれがアイツの必殺技のガトリングガンか。まさに拳の速射砲だな。
「大丈夫か西崎!?」
「くー、だいじょぶ」
「オイ、村下!」
「村田だ! 対馬か。一体何が起きてるんだ!?
 さっき変な格好をしたフカヒレが来たと思ったら光を放ってその後何人かの男がこんな感じだぞ」
「息継ぎなしで説明ごくろうさん。とにかく無事な人達を体育館に誘導してくれ。詳しくは後で話す」
「わ、わかった」
 よし、ここは村田に任せよう。
 ピンポンパンポン。
『えーっ、霧夜です。ただいま非常事態が発生しております。全校生徒および教員は、すぐに体育館に避難してください。
 避難の際は、女子の安全を第一に……』
 姫か。これでいちいち説明しなくてもいい。
 2-Bでは避難がスムーズに行われている。このクラスに襲い掛かる奴がいないのはブスが多いからだろうか。
 よし、ここはいいだろう。2-Cへと向かおう。
「喰らいやー! マナシュート!」
「ゲエェーッ!」
 なんかすごい勢いで男が吹っ飛ばされた。
「浦賀さん! 大丈夫?」
「対馬! お前もかー!」
「いやちょっと待って浦賀さん! 俺は正常だ!」
「あ、そうなんか」
「ねえ、これみんな浦賀さんがやったの?」
 2-Cの中は男たちの残骸が積もっていた。
「失敬やな、うちだけやない。トンファーやほかのみんなも一緒にやったんや」
 最近の女性は強いなあ。
「と、とにかく早く体育館に……」
「にゃほーっ!!」
「危ない、トンファー!」


 何!? クッ、間に合わない!!
「豆花さ……」
「トンファーウォ〜ク!」
 ドゴォォォ!
 え?
「まだまだ甘いネ」
「さっすがトンファー!」
 トンファーを持った豆花さんが動いたと思ったら襲い掛かってきた奴のほうが吹っ飛ばされてますよ?
「……豆花さん、今何したの?」
「トンファーウォ〜クネ」
「トンファーウォ〜ク?」
「これはクンフーを積んだものだけが体得できる技ネ。中国4千年の歴史は深いネ」
「すごいなー中国は。さすが4千年の歴史やで」
 ……いろいろツッコミたいが、今はそんなことしてる暇はない。 
「とにかく体育館へ行こう」
 その後村田たちと協力して2階の避難誘導は完了。俺も体育館へと向かおう。

「これで全員?」
「3階にはもう誰も残っていない」
「2階も完全に避難させたよ」
 1階も同様。
「外にいたヤツラも集めた。残ってるヤツはいないはずだぜ」
 外の誘導及び偵察からスバルが帰ってきた。
「エリー、人員確認終わったよ」
「どれどれ……、女子は休みとかを除いて全員確保できたのは上出来ね。でも男子の約7割を向こうに持ってかれたか。かなり痛いわね」
「だが、拳法部や剣道部などの武道系の部はこちらが確保した。戦力的には5分だろう」
「乙女さんもいるしね」
「でも、こういう集団戦闘(マスコンバット)では数が重要なのよ」
「カンケーないさ。さっさとフカヒレスマキにして東京湾に沈めてやろーぜ」
「お前はどこのヤクザだ」


「いや、策としては正しい。奴らは鮫氷の得体の知れない力で操られているものがほとんどだろう。ということは大将を獲ればこちらの勝ちだ」
「そうだよエリー。鮫氷君さえ殺っちゃえば後は自然に瓦解するよ」
 殺っちゃえばって……。佐藤さん少し怖い。
「そういえばよ、そもそもなんでフカヒレはあんな変な力を持ってるんだ?」
 うーん。
 スバルの疑問に全員で考え込む。
「それには、私がお答えいたしましょう」

「総統、竜鳴館男子生徒の約7割をこちら側に引き込めました」
「うむ。我ながらよくやったぜ」
「残りのヤツラは体育館に籠城しております。いかがいたしますか?」
「放っておこう」
「しかし総統……」
「お前たち、我らの最終目的は何だね?」
「ハハッ、乱れた男女の関係を正しく導くべく、しっとハーレムを築く事であります」
「その通り。まず外に出てさらなる同志たちを増やす。そうすれば一気にハーレムへの道は近づくぞ!」
『オオッ!』
「いざ行かん、ハーレムへの道! フヘヘヘヘヘヘヘヘ!!ヘーッヘッヘッヘッヘッヘ!!」
「なんと、これはまずいことになったようだな。急いで知らせに行かねば……」

「鮫氷君に別人格が憑依している状態なんですか?」
「はい、その通りですわ」
「それって体育武道祭の時の……」
「あの時とはまた違う電波を受信しているようですわね」
「でもあれって祈ちゃんがいないとできないよね」
「まさか祈センセイ……」
「失礼ですわね。そんな1文の得にもならないことしませんわよ」
「だったらなんでフカヒレはあんな力を持ったんだ?」
「恐らくフカヒレさんの強大なしっとパワーが今日、つまりバレンタインの日にピークに達して、第8世界との門を開けてしまったようですわね」
 恐ろしいやっちゃな。自力で異世界の門を開けるとは。


「よくわからないが、それで鮫氷は元に戻せるんですか?」
「ハイ。電波払いの儀式を行えば」
「だったら早くやってください。こんなバカ騒ぎには付き合ってられません」
 なごみちょっと不機嫌だな。まあ、俺もなごみとの甘いひとときを邪魔されたのには多少腹が立ってるが。
「そう簡単にできるものではありませんわ。準備が必要です」
「準備とは?」
「ハイ、対象を瀕死の状態に追い込みませんと」
「結局乗り込まないとどうにもならないわけだな」
「だったらさっさと乗り込んで、フカヒレフクロにして、祈ちゃんに払ってもらって、スマキにして海に沈めてしまおーぜ」
「スマキにはするのか」
「どうする、エリー?」
 全員で姫を見る。姫はちょっと考え込んでから決断した。
「そうね、このまま籠城してても埒が明かないわ。こちらから乗り込みましょう」
「よーし決まりだ、全員このボクが血祭りにあげてやんぜ」
「乗り込むのはかまいませんが、どこから侵入するんですか?」
「ヘッ、正面玄関から突っ込みゃいいじゃねーか」
「無茶言うなカニ。さすがに正面突破は無謀だぞ」
「伊達の言うとおりだ。あの数を突破するのは至難の業だ」
「乙女さんならできそうな気がするけど」
「……普段の私ならあれぐらいどうってことないが、今日はちょっと、な。普段の半分以下の力しか出ない」
「え、どうしたの乙女さん。体調でも悪いの?」
「う、うるさい! 乙女にそんなこと聞くな!」
「うべばっ!」
 なぜ蹴られる!? しかしいつもの威力が無い。体調がよくないのは本当らしい。
(あの日、ね)(あの日だね)(あの日か)(あの日ですわね)(拾い食いしたね乙女さん)
 女子連中はわかっているようだが……。
 スバルも「修行が足りねえ」と言いたげな目で見ている。
「にしても乙女さんが不調の上、館長も不在だなんて……」
「機械仕掛けの神様の力が働いてるみたいね」
「?」


 姫、何言ってるんだ?
「とにかくなんらかの作戦を立てないと……」
「おおーい、大変だぞお前ら」
「スパイに行っていた土永さん。何かあったのですか?」
「うむ、耳の穴をかっぽじってよーく聞け」
 ……しっと団の野望説明中……
「なんだと!? フカヒレがハーレムを作ろうとしているだと!?」
 なんて素敵なこと、もとい大それたことを。
「まずいぜ姫。このままじゃ世界はフカヒレの手に落ちちまう!」
「そんなことはさせないわ。ヤツラを竜鳴館から出させるわけにはいかない!」
「そうだな。竜鳴館の名誉にも関わる。絶対に外に出してはならない」
「悪に立ち向かう正義のヒーロー……。くーっ、燃えるーっ。よし、今こそ私たちの結束の力を見せるときよ!」
『オオーッ!』
「盛り上がってきたね。特に姫ノリノリだ」
「エリー、こういうノリが大好きだから」
「よし、作戦を説明するわよ!」


「クケーッケッケッケッケッケッケッケ!!!!」
「総統、そろそろ参りませんか?」
「おおっと、ハーレムに思いを馳せていたら笑いが止まらなくなってしまっていた。では、そろそろいくか!」
「総統、大変です!」
「なんだどうした」
「ヤツラが、玄関を塞いでいます!」
「何!? なかなか早い対応だな……」

「急いでバリケードを作れ! 奴等が来る前に完成させるんだ!」
「鉄先輩、西側、東側バリケード完成した模様です」
「よし、村田、お前は東側の指揮を取れ。西側は赤王、私は正面の指揮を取る。」
「ハイッ!」
「いいか、この戦い、負けるわけにはいかない! 全員気合を入れろ!!」
『オオオオーッ!!』

「ほほぅ……、少ない兵を割ってまで全ての玄関を塞ぐか。どうあっても我々を外に出させないつもりだな」
「いかがいたしますか、総統」
「決まってる、ハーレムの邪魔をする奴はみんな犯っちまえ&掘っちまえ」
「では……」
「うむ、これは戦争だ!」


Chapter2.Believing My Justice

「どうでしたか土永さん?」
「うむ、ヤツラ見事に引っかかってくれたようだぞ。ターゲットは屋上だ」
「さすが姫。ナイス作戦」
「陽動なんて基本的過ぎるけどね。効果的ではあるわ」
 姫の立てた作戦はいたって簡単である。
 乙女さん率いる武道部連合+αで敵を引き付けて、敵が手薄になったところに少数精鋭の部隊が目立たぬところから侵入、敵大将の首を獲る。
 そしてその少数精鋭の部隊は乙女さんを除く我ら生徒会執行部である。
「乙女さんがいないのは多少不安ではあるけど」
「乙女センパイじゃないと武道系の部の指揮は取れないだろうからね。仕方ないわ」
「エリー、私も行かなきゃダメ?」
「お約束というか作者の都合ね。大丈夫、よっぴーは私が守るわ」
「作者の都合? 姫ナニ言ってんだろね」
「世の中にはツッコンじゃいけないこともあるんだぜカニ坊主」
「私も行かないといけないのですか……」
「祈センセイがいないとフカヒレ君の電波を払えませんから」
「無理するなよ、なごみ」
「ハイ、大丈夫です」
「ケッ、ココナッツなんざ殺られちまえ」
「そんなことは俺が許さん」
「センパイ……」(キラキラ)
「レオも成長したなあ」
「ちくしょー、ムカついてきた。早く誰か血祭りにあげてー」
 カニが悪態をついたとき、正面玄関のほうから、鬨(とき)の声があがった。
「始まったようね。よし、私たちも行くわよ」


「戦況はどうだ」
「総統、我が軍は3方向とも優位に進めております」
「フフフフフッ、圧倒的ではないか我が軍は。よし、さっさとケリをつけるか。1番優位に進めているのはどこだ?」
「ハイ、正面です」
「正面……? 正面には確か乙女さんがいたな……。誘いか、それとも本当に……」
「いかがいたしますか」
「……よし、最低人数を残して予備兵力を全て正面に投入しろ!」

「左翼、下がりすぎだ! 何をやっている!」
「総司令官殿、敵の増援部隊が正面に加わった模様です」
「増援が来たということはこちらの思惑通りだな。さあもう少しの辛抱だ。気合を入れろ!」
「ハイッ!」

 俺たちは侵入ルートに東側玄関の裏手を選んだ。1番目に付きにくく、隠れる場所も多い。
 ときおり敵側とおぼしき人間が通るがそれほど頻繁ではない。乙女さんたちが引き付けているからだろう。
「よしいいぞお前たち」
 先を見てきた土永さんが手招きしている。鳥類って便利だぜ。
「よっし、侵入成功っと」
「これからどうするんだ?」
「東側階段から2階へ」
「了解」
 日ごろの行いがよかったのか、階段まではエンカウントなしでたどり着くことができた。
「うーん」
「どしたの姫。ここまでは順調だよ?」
「順調すぎてつまんない。やっぱヒーロー物なら襲いくる敵をなぎ倒しながら行きたいわね」
「いや別に俺たちヒーローじゃないし」
 そんなことを話しつつ2階へと上がっていく。するとその時!
「誰だお前ら!」
 見 つ か っ た !


「正面の敵軍が徐々に下がりつつあります」
「ヘッヘッヘ、乙女さんのあがく姿を想像するだけで勃っちまうぜ」
「フフフフ、総統も相当スキモノですな」
「……そいつを押さえつけろ」
『ハッ!』
「な、ナニをなさいますか総統!」
「しっと団に下品な男は不要だ」
「いやーーーっ、牛乳雑巾の刑だけはやめてーーーーーっ」
「申し上げます!」
「なんだどうした」
「東側階段に7名の侵入者ありとのことです!」
「あんだとを!」
「いかがいたしますか」
「残りの予備兵力と校内の守備隊でそいつらを迎え撃て!」
「ハッ!」

「チィッ、1人逃しちまった……」
 スバルが悔しそうに歯噛みしている。これで敵側に俺たちのことがばれてしまった。
「これで戦闘は避けられないか……」
「思ったより早く見つかったな」
「いいじゃない。なんのために攻撃力に定評のあるチームを組んだと思ってるの」
「その通りだぜ! ヘッヘッヘ、今宵のコタツは血に餓えてるぜ」
「虎徹だろカニミソ」
「それにデッキブラシを持ってすごんでも滑稽なだけだ」
「うるせーココナッツ! テメーから先に血まみれにしてくれんぞ?」
「やってみろよ?」
「ハイハイ、ケンカはそれまで。敵さん、やってきたわよ?」
 姫の指差す方向を見ると、何人かがこっちに向かってきているのが見えた。
「こうなったら戦(や)るしかないぜ」
「そうそう、読者もこういう展開を待っていたんだから」


「読者? 佐藤さん、姫は一体ナニを……」
「今日のエリーにはあまりツッコまないほうがいいと思うよ」
 なんか佐藤さんの持ってる竹刀が怪しく輝いたような……。
「ごちゃごちゃ言ってないの! 陣形を組むわよ!
 いい? 私たちはインペリアルクロスという陣形で戦うわ。
 よっぴーと祈センセイが中心。前衛に対馬クン。
 教室側を私、窓側をカニっちとなごみんで固める。
 そしてしんがりをスバル君がお願い。
 対馬クンのポジションが一番ハードよ。覚悟して戦って」
「俺が先頭で戦闘するのでありますか!? スバルのほうがいいんじゃ……」
「こういう場合はね、先頭がハードだけどしんがりが1番重要なのよ。挟み撃ちされたら目も当てられないでしょ」
 う、確かに。
「そんなわけでスバル君、後方はお願いするわよ」
「わかった。任せといてくれ」
 スバルが指を鳴らす。中学のとき、スバルと組んで喧嘩していた頃を思い出す。確かに背中が安全だと戦いやすい。
「窓側からは来ないと思うから、カニッチとなごみんは対馬クンとスバル君のフォローをお願い」
「わかりました」
「よーしレオ、安心しやがれ。オメーがしくじってもボクがきっちりカタをつけてやるからな」
「あたしがセンパイのフォローをするんだ。お前は伊達先輩のほうに行け」
「うるせー! 誰がテメーの指図なんか受けるか! ボクがレオのフォローをするんだ!」
「傷つくねぇ」
「よっぴーと祈センセイは中央で応援してて」
「みんながんばってね」
「ファイトですわー」
「がんばれジャリ坊ども」
 姫の指示通りに陣形を組む。敵がジリジリとこっちに向かってくる。
「あいつらを倒してから3階に行くわよ」
 しょうがねえ。覚悟決めるぜ!
「いくぞ!」


「喰らえ! 竜神乙女拳!」
「のぎゃああああああ」
 目の前の男Aが必殺技を喰らって吹っ飛んでいく。
「乙女さんの鍛錬は伊達じゃない!」
「ヒュウ、対馬クンもやるわね」
「姫えええええええええええ」
「甘い、甘い。お嬢様トラップキック!」
 姫の必殺技を喰らって、男Bが前のめりに倒れた。
 にしても姫が攻撃するとバラの匂いがするのはなぜだ?
「ドオオオォォォォォリャーーーーーーーーーーー」
「あばーん」
 すこーんといい音が響いた。
「カニ、デッキブラシを振り回すな! 当たるだろうが!」
「ヘッ、ニブい動きしてるヤツがワリーんだよ! 恨むならテメーのニブさを恨みな!」
「このカニが……!」
「天誅うっきょおおおおおおおおぉぉぉ」
「ウザい! 潰すぞ!」
「もう潰してマース!!!」
 戦闘終了。全員無傷。雑魚共にやられる俺たちではない!
「よし、新手が来ないうちに3階へ行くわよ!」
「み、みんなすごいね」
「怒涛の進軍ですわね」
「オレの出番まだか?」
 3階に駆け上がる。しかしそこに待っていたのは更なる新手であった!
「ゲッ……、あんなにいるのですかよ……」
 思わず日本語が狂ってしまった。ざっと30人ぐらいいそうだな。
「おー、あれはちょっとキツイかもね」
「だったら逃げろ。誰も止めないぞ」
「ヘン、ココナッツこそ逃げていいんだぜ」
「障害を排除して進んでこそのヒーローよね」


「! 後ろからも来てるぜ」
「挟み撃ちか……、予想してたけど」
「お願いね、スバル君」
「ようやく出番か。安心しな、後ろのヤツラは全員倒す。みんなには指一本触れさせねえ」
 頼もしいなスバル。安心して背中を任せよう。
「みんな……」
「よっぴー、そんな顔しないの。私たちが雑魚にやられると思う?」
「私はみなさんを信じていますわ」
「安心しろ。お前たちがやられても我輩はすぐに逃げられる」
 何かあったら真っ先に土永さんを生贄にしよう。
「行くわよみんな、It's show time!!」

「だおるあああああ」
「クッ!」
 男Eの蹴りをガードする。体が衝撃に耐え切れない! 体勢が崩れる。
 そこに男Fの追撃が来た。よけられない!
「レオォ、伏せろぉぉ!」
 後ろからカニの声。その声に反応し、身を低くする。
 俺の頭上をカニの虎徹(←デッキブラシ)が勢いよく通り過ぎていく。
 カニの一撃を喰らった男2人はもんどりうって転がっていった。
「スマン、カニ。助かった」
「ヘヘヘ、どーだ見たかココナッツ。これがボクとレオのコンビプレイだ」
「お前は無茶苦茶振り回してるだけだろうが! センパイ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 こんな感じで敵を倒してはいるのだがいかんせん数が多い。
 しかも俺は先頭なので必然的に戦闘回数も多い。早くも俺のスタミナは底を尽きようとしていた。
「どうしたのっ! 対馬クン! もうっ、ヘバッた、のっ!」
 姫の華麗なコンビネーションが男Hに決まった。
 姫も結構な数を倒してるというのに、まだまだ元気だな。
 女の子に負けてられるか。


「まだまだ! いけるっての!」
 気合を入れて立ち上がる。よし、まだいける。
「対馬君、がんばってー」
「ファイトですわー」
 ありがとう2人とも。
「センパイ、無理しないでください。あたしが先頭に立ちます」
 なごみ。
「いや、大丈夫だ。お前はフォローを頼む」
「センパイ……」
 安心させるように無理やりに笑う。なごみと見つめ合う。一瞬だけ時間が止まる。
 しかし敵はこの時を見逃してくれなかった。
「うがあああああ、イチャイチャしやがってえええええぇぇっぇ」
「レオ! あぶねー!」
 しまった! よけられるか……間に合わない!?
 ダメージを覚悟したその時!
「えーい!!!!!!」
 ゴスッ!
「があっ……?」
 俺の顔の横を竹刀が通り過ぎている。 
 佐藤さんの持つ竹刀の先っぽは、男Gの喉元に見事に入っていた。
「大丈夫!? 対馬君?」
「あ、ありがとう、佐藤さん……」
 男Gは声も出せずに転げまわっている。さすがにこの光景にはみんなちょっと引いた。
「うわー……、痛そー」
「エグイですね」
「よっぴー、容赦なしね……」
「モロ急所に入りましたわね」
「ありゃ致命傷だな」
「……オォ、怖え……」
 敵さんもボーゼンだ。


「なにボーっとしてるの。態勢を立て直すわよ」
 姫の声でみんな我に返る。
「対馬クンは下がって。先頭には私が入るわ。なごみん、私の位置に。よっぴー、対馬クンに水を」
「いや、姫、俺はまだ……」
「ていっ、お嬢様小足払い」
 ぐあっ。
「ホラ、これぐらいで転ぶようだと持たないわよ。少し休みなさい。先はまだ長いんだから」
 くっ……、仕方ないか。
「じゃあ……」
「待て待てエリカ。ここは我輩が先頭に立とう」
「土永さん!?」
「ちょっと、インコに何ができるってのよ」
「我輩はオウムだ! ま、ここは任せるがよい。小僧、しっかり休んでおけ」
 そう言って土永さんは敵に向かっていった。
「ちょ……、祈先生、大丈夫なんですか!?」
「まあ、大丈夫でしょう」
 ホントかよ……。
「そういうわけで我輩が相手をしよう」
「鳥類ごときが図に乗るなあああぁぁ!」
 男Kの攻撃!
「フッ、ハエが止まるぞ」
 しかし土永さんはひらりと身をかわした。
「鳥類を舐めると痛い目にあうということを教えてやろう。行くぞ」
 土永さんは天高く舞い上った!
「これがぁ、我輩の最高の技だ。奥義! スコスコ、スコスコスコ!」
「いだだだだだだ」「痛ぇ、痛ててててて」「鳥の嘴って超痛え!」
 土永さんは瞬く間に敵3人を倒した!
「見たか! これぞ奥義・鳳翼天翔!」
「おぉー、土永さんすげー!」
「やるじゃない、インコ」


「我輩はオウムだと言っとるだろうが!」
 強いんだな土永さん……。これが野生の血か?
「ハイ、対馬君、水」
「ありがと、佐藤さん」
 この際だ。しばらく休ませて貰おう。
 そう言えばスバルはどうなってるんだろう。
「オラァ!!」
 スバルのパンチが男Jを5メートルほど吹っ飛ばした。
「つ、強い……」
「面倒だ、まとめてかかってきな」
「グッ、なめんなあああぁぁぁ!!」
「オゥラァァァァァァァァァァ!!」
 なんつー強烈な蹴りだ……。5人まとめて吹っ飛ばしたぞ……。
「ここから先は通すわけにはいかねえんだよ!」
 1人であの数を圧倒している。強い、強すぎる。
「オーイスバル、大丈夫か」
「全然余裕」
 息も切れてない。なんて頼もしい男だ。
「突くかぁ、刺すかぁ、土下座してでもえぐられるかぁ!!」
 前線では土永さんが奮戦している。
 よし、休ませてもらったおかげでだいぶ体力が回復した。
「ありがとう土永さん。交代するぜ」
「なんだ、もういいのか。せっかくこれから我輩の最終奥義・鳳凰幻魔嘴が炸裂するとこなのに」
 さっきのが最高の技じゃないのか?
「やれるの? 対馬クン」
「オメー無理すんなよ」
「ああ、いけるぜ!」
「センパイ……」
 そんな心配そうな顔するなよ。
 なごみの頭をポン、と撫でておく。
「さあ、こいや!」


「正面側が押し切れません、東側西側も押され始めています」
「罠だったか……。このままでは半包囲されるな……」
「申し上げます! 侵入者の迎撃に向かった部隊の半数以上が撃破されました!」
「ナニィ!?」
「このままだとここまで侵入を許す恐れがあります」
「仕方ない、東側西側の兵を割いて迎撃に当てろ」
「しかしそれでは……」
「内部をかき乱されては話にならん。東側西側は攻めるのをやめ、防戦に徹しろ」
「ハッ」
「クソ、シミュレーションゲームでは負け無しだったのに。
 これは敗色濃厚だな……。まあ、この『ゲーム』自体の勝敗はどうでもいい……。せいぜい楽しませてもらうとするか……」

「戦況はどうだ?」
「ハッ、それなりに被害は出てますがまだまだ十分余力はあります」
「よし、このまま現状を維持……」
「申し上げます鉄総司令官!」
「何だ」
「東側西側の敵が防戦体制に入った模様です」
「何だと?」
「しかも兵の数が減っていることが確認されていますが……」
「……おそらく姫たちのことがバレたな」
「では総司令官殿……」
「全軍に告ぐ! これより校舎内の姫たちの援護に入る! 各軍、突撃隊を編成せよ!」


「これで……、最後だッ!」
「うわらば」
 最後の1人がパンチを喰らって飛んでいった。
 敵の群れを倒した!
「ハァッハァッハァ……、ぜ、全員倒したぜ……」


「オイ、レオだいじょ……グヘッ!?」
「センパイ大丈夫ですか!?」
「な、なんとか……」
「ふぅ、ご苦労様。対馬クン」
「姫は余裕だね……」
「別に余裕ってわけじゃないんだけどね。お嬢のたしなみとしてヘバッた姿なんて見せないわよ」
 そうなのか……。お嬢も大変だ。
「みんなは大丈夫?」
「私は全然平気だよ」
「私もですわ」
「我輩も余裕だな」
「オレもまだまだいけるぜ」
 スバルの戦闘数は俺より多いはずだが……。さすがだな。
 ん?
「オイ、カニ。なんでそんなところで転がってるんだ?」
「あらま、何してんのカニっち」
「テ、テメェ……ココナッツ……! このボクを押しのけるとはいい度胸だ……」
「ああ、さっき何か当たったと思ったらお前か」
「ウガァーッ!! オイテメーそこに座りやがれーっ! なんだその目は! って言いながらテメーの頭ぶん殴ってやるわぁー!!」
「オイオイ、落ち着けってカニ坊主」
「ウガァーッ!! 放せスバルーッ!」
 カニはスバルにがっちりと羽交い絞めにされている。
「クク、いい顔」
「なごみ」
「なんですか?」
 こんな時に火種を作るようなことはしてはいけない。ここは彼氏としてビシッと言っておこう。
「こーゆー時くらいはチームワークを大事にしないとめーだぞ!」
「あっ……ハイ……スミマセンでした」
 あっ、シュンとしてしまった。
「あ、いや、わかればいいんだ、わかれば」
 優しく頭を撫でてあげる。細かいフォローは忘れないぜ。


「椰子さんは対馬君の言うことは聞くんだねえ」
「そりゃ〜そうよ。愛しのセンパ〜イの言うことですものォー」
 ハッ、しまった! 姫が邪悪な笑みを……。
「あーん、センパイ、大丈夫ですかぁ〜?」
「それは誰の真似ですか!?」
「椰子さんだよ。とっても似てるよエリーの物真似」
「ホントよっぴー、そんなに似てた?」
「うん、もうそっくり」
「いじめはありません」
「オメーラボクを放置するな!」
「まあまあ落ち着け、オレが撫でてやっから」
「くぅう、ガキ扱いすんなよ!」
 ああ、もうてんやわんや。収集がつかねえ。
「すと〜っぷ!!
 お前たち、ラブラブ話よりも今は先へ進むことのほうが先決ではないかね?」
 それはそうなのだが鳥にだけは言われたくなかった……。
「そうね、無駄な時間をすごしてしまったわ。急いで先に進むわよ」
 ホントに無駄な時間でした。
「後は中央階段を昇れば屋上はすぐだよ」
「よし、さっさと階段まで……」
「いたぞ! こっちだ!」
 ! 新手か!
「オイ姫、後ろから新手が来たぜ」
「! 西側からも来てるよ!」
 カニの指差す先、西側階段から、敵らしき人がわらわらと出てきているのが見えた。
「ここで戦闘するときついわね。ここはダッシュで中央階段まで行くわよ」
「そうだね。階段さえ押さえれば戦いやすい」
「私走るのは苦手なのですが……」
「祈ちゃんはオレにおぶされ」
「助かりますわー」


「よっ……、ッツ」
「……伊達さん?」
「オイ小僧、どうした。祈の巨乳を背中に感じて変な気を起こしてるんじゃなかろうな」
「オレはそこまでウブじゃねえ」
「準備OK? それじゃ……、全力ダーッシュ!!!」
「逃げるぞ!」「追えーっ!」「待ちやがれー!」
「待てと言われて待つバカいねーよ!」
 カニの言うとおり。
 俺たちは走った。激闘の後でクタクタだったが、もつれそうになる足に鞭を入れ、一心不乱に走った。その結果。
「フハハハハ、ようやく追い詰めたぞ曲者どもが」
 間に合いませんでした。
 前にも後ろにも敵、敵、敵。これは俗に言う挟み撃ち。そして俺らは絶体絶命。
「クソッ、後5メートルが遠い……」
「嘆いてもしょうがないわ。陣形を組むわよ」
 みんな無言で陣形を組み出した。
 クソ、やるしかない。しかし消耗した状態でどこまでやれるか……。
「覚悟しやがれ!」
「来るわよ!」
「待て待て待てーい!!」
 どこからともなく、声がした。そしてなぜかスピーカーから曲が流れ始めた。
 この声、そしてこのテーマ曲!
「なんだ! このおんがくは!」
「青嵐脚!」
「あじゃばー!!」
 5人くらいまとめてブッ飛ばしつつ現れたのは! そう、この人!
「鉄
乙女!! 推参!!!」
「乙女さん!」
「GOOD タイミーング、乙女センパイ!」
「無事なようだな、お前たち」
 ホントにナイスタイミングだよ乙女さん。


「いや、もう満身創痍。乙女さんが来てくれて本当に助かる」
「まったく根性なしが。このぐらいでバテてどうする」
「でも対馬君、がんばってましたよ」
「そうね、対馬クンにしてはがんばってたわね。ところで乙女センパイ、屋上への道を開けてくれます?」
「わかった。お前たちは少し休んでいろ。すぐに開けてやる」
 乙女さんが臨戦態勢に入る。不調とはいえ、すさまじいプレッシャーだ。
「さあ、かかってこい」
「クッ、たった1人でなにができるかぁー!!」
「1人ではないぞ!」
 この声は!?
「村田洋平、見参!」
『そしてその他大勢もちょっと遅れてただいま到着!』
 村田に続いて武道系連合の猛者たちがぞくぞくと現れた。
「鉄先輩、曲のほうは上手くいきましたか?」
「ああ、タイミングバッチリだったぞ」
「川村、お前が流してたのかよ」
「村田だ! なんだ対馬か。フン、その様子だとだいぶ苦戦したようだな」
「うるさい。っていうかお前までここに来て大丈夫なのかよ」
「下のほうは赤王先輩に任せてある」
 赤王? 確かドッヂのときに乙女さんのレーザービームを喰らった人だっけ。剣道部主将の。
「ま、ここは僕達に任せてもらおうか」
「行くぞみんな! こいつらを蹴散らすぞ!」
『オス!!!!』
 乙女さんの号令と同時に猛者たちが派手に暴れだす。数の差など物ともしない勢いだ。
 それでいて俺たちの安全を確保しながら戦っているのはさすが、と言えよう。


「ふぅ、私達は乙女センパイたちが道を開けてくれるまで休みましょう。巻き込まれないように注意してね。よっぴー水ちょうだい」
「はい、エリー」
「ん、ありがと。ケガしてる人は今のうちに手当てしちゃってね。よっぴーが湿布やらバンソーコやら持ってるから」
 そう言われると途端に体の何ヵ所かが痛み始めた。結構ダメージ受けたからなあ……。
「センパイどこか痛みますか」
「ん……、ひどいケガはないけど結構痛むとこはあるね。湿布何枚か貰ってきてくれ」
「ハイ」
 あたた、本格的に痛み出してきた。ホント、乙女さんたちが来てくれなかったら危なかったな。
「なんだよレオ。ずいぶんきつそーじゃねーか」
「うっせーカニ。お前はどうなんだよ」
「ヘッ、ボクは無敵だぜ? あんなヤツラからダメージを貰うわけが……」
「手、見せてみな」
「あ、なにすんだスバル……、イテッ!」
「爪が割れてっし、皮がむけてるとこもあるじゃねーか。よっぴー、バンソーコくれ」
「だ、大丈夫だってスバル。このぐらい……」
「いいから言うこと聞け」
「……うん」
「レオもちゃんと手当てしとけよ。ほらカニ、こっち座れ」
「あーっ、引っ張るなよ!」
 カニはスバルに引っぱられていった。
「センパイ、湿布貰ってきました。痛むとこを言ってください」
「ああ、ありがと」
 なごみに湿布を貼ってもらう。くーっ、冷たくて気持ちいい……。
「っと……。他にありますか?」
「いや、もういいよありがと。そういえばなごみはどこも痛くないのか?」
「あたしは大丈夫です」
「ホントか?」
 いろいろなごみの体を調べてみる。……んー、特に痛そうにはしないな。
「大丈夫そうだけど、痛むとこがあったらすぐ言えよ」
「ハイ、ありがとうございます」
 他のみんなはどうかな。


「よっし、これで終わりだ。……どうした、カニ?」
「……あんがと」
「……どーいたしまして」
「よっぴー、私にも湿布を1枚くださいな」
「あれ祈ちゃん、どっかケガしたの?」
「いいえ、あなたにですわよ、伊達さん」
「……祈センセ、いつ気づいた?」
「私をおぶっていた時ですわ。妙につらそうでしたから」
「なんだよ、スバルもどっか痛めてたのかよ」
「はい、カニさん。伊達さんは足を痛めたようですから、手当てをしてあげてくださいな」
「よーしスバル、麗しいこのボクが手当てしてやっから足だしな」
「……じゃ、お願いすっかな」
「祈もなかなか味なことをするなあ」
「こうでもしてあげませんと面白くなりませんわー」
「あたたた、よっぴー、もっと優しく!」
「あ、ごめんごめん。……よし、はい終わり」
「ふーっ、この私がここまでダメージを受けるとはね。まだまだ修行が足りないわ」
「エリーは十分強いと思うけど」
「こんなもんじゃ満足しないわよ。もっともっと上を目指さなきゃね」
 なんかみんな結構ダメージ受けてんのな。
 ま、あれだけの数相手にしたんだ。乙女さんでもない限り無傷ってわけにはいかないだろうな。
「センパイ、どうしました? 痛むんですか?」
「ん……、いや、なんでもない。もう少しだ、がんばろうな」


Chapter3.決戦!『フカヒレ』

「よっし、そろそろ行くわよ」
 乙女さんたちの活躍により、屋上への道が確保されている。
「じゃあ、乙女さん俺たち行くよ」
「気をつけろよ! 私もこいつらを片付けてから行くからな!」
「ヘヘッ、乙女さんの出番は無いぜ。ボクたちで終わらせるからね」
「ふふっ、その意気だ。無理はするんじゃないぞ!」
 乙女さんの言葉を背に受け、俺たちは屋上に向けて走り出す。
 屋上までは何の障害も無かった。ただ、屋上へと校舎を分け隔てるドアだけが、静かに重苦しい雰囲気を放っていた。
「ようやくここまで来たわね」
「この先にフカヒレがいるんだね」
「長かったね」
「だがもうそれも終わりだぜ」
「早く終わらせてしまいましょう」
「ですが、油断は禁物ですわよ」
「その通りだ。ここでしくじれば、全てが水の泡だぞお前たち」
「大丈夫さ……、俺たちならな!」
 俺が先頭に立って、ノブをつかみ、ドアを開けた。
「うおっ」
 ドアを開けた瞬間、冬の冷たい風が俺たちに向かって吹いてきた。
 風の強さにおもわず顔をそむける。ついでに佐藤さんのパンツが見えてしまった。
「フカヒレ、どこだー!」
 カニが飛び出していく。俺たちもそれに続く。
「フカヒレいねえな」
「隠れてるのかもしれないよ」
「よし、隠れられそうなところを探して……」
 パチパチパチパチパチパチパチ。
「なんだ? 拍手の音……?」
「! 上、給水タンクです!」
 なごみが指差す先、給水タンクには、フカヒレが座っていた。


 フカヒレは、俺たちを眺めながら拍手をしている。
「見つけたぜ、フカヒレ!」
「ククククク、ハハハハハハハハ!」
「何笑ってやがる!」
「フカヒレ、もうお前1人だ。今なら水に流してやる。大人しく降りて来い!」
「おめでとう! このゲームの勝者はお前たちだ!」
「ゲーム?」
「この俺が考えた、面白いゲームだ!」
「どういうこと?」
「俺は素晴らしい力を手に入れた。そしてしっと団を作ったのだ」
「何考えてるんですか!」
「しっと団、いや、俺1人でも十分世の中を変えることができた。だがそれだけでは面白くない」
「そこでゲーム……、ですか?」
「そう! その通り!! 俺はリアルでシミュレーションゲームをやってみたかったんだ!」
「ってことは、この騒ぎは全部お前の手のひらの上だったというわけか」
「なかなか理解が早い。多くのものが敵味方に分かれて戦いあう姿は画面上では味わえない感動をもたらした。
 そして圧倒的不利な中、ここまで来れたお前たちはとても素晴らしいモノがある! どうだ、仲間にならないか?」
「誰がテメーの言うことなんか聞くか! よくもボクたちを、みんなをおもちゃにしてくれたな!」
「それがどうかしたか? どうせ俺がこの世を支配するのだ」
「俺たちはお前の思い通りになんかならない!」
「この俺に逆らうとは……、どこまでも面白いヤツラだ! どうしても戦るつもりか。
 これもいきもののサガか……。いいだろう、この俺が手に入れた力、とくと目に焼き付けておけ!」
 結局こういう展開か! 戦闘準備だ!
 と、そこに。


「皆さん、よく聞いてください。今のフカヒレさんはとても危険ですわ」
「確かに今のフカヒレはいろんな意味で危険だよね。元々危険なヤツだけど」
「そんな能天気なものではありませんわ」
「どういうことですか、祈センセイ」
「私が思っていた以上にフカヒレさんに憑依している人格は強力なもののようです。このままではフカヒレさんの人格が消滅する恐れがあります」
「フカヒレが消滅!?」
「ハイ、長い間強力な電波を受信し続けたことで、フカヒレさんの人格が侵蝕されつつあります」
 そういえば、まだこの騒ぎの当初は元のフカヒレらしさが残っていた気がする。だが今は別人のようだ。
「まだ完全には侵蝕されてはいませんが、それも時間の問題ですわ」
「だったらすぐにフカヒレを倒して、電波払いの儀式を行いましょう」
「言ったはずですわ。思ったより強力だと。普通の儀式では無理ですわ」
「だったらどーするのさ!」
「もう1つの手段がありますわ。でもコレは時間が掛かる上にカニさんの協力がないと……」
「へ、ボク?」
「まさか祈、アレを使う気では……」
 アレ、アレってなんだ?
「オイ、もうつべこべ言ってる暇はねえぞ。フカヒレが来るぜ!」
 確かにもう相談してる暇はなさそうだ。
「わかりました。私たちが時間を稼ぎますからその手段で何とかしてください」
「了解ですわ。では準備に入ります」
「よし、対馬クン、スバル君、私でフカヒレ君の相手、なごみん、よっぴー、祈センセイを守って。カニっちは祈センセイの指示に従って!」
「了解! いくぞスバル!」
「オオ!」
「センパイ、気をつけて……」
「こっちは任せて、エリー」
「頼むわよ!」
 いくぜ! 最終決戦!


「で、祈ちゃん。ボクはどうすればいいのさ」
「祈、お前まさか『業州斗彗破』を使う気では……」
「その通りですわよ」
「やはりそうか……」
「な、なんなんだよその『ごうすとすいは』ってのは」
「うむ、『業州斗彗破』というのはだな……」

<業州斗彗破(ごうすとすいは)

 中国唐の時代、業州という町があった。ある時業州に、斗彗という悪霊が現れ、瞬く間に町を恐怖のどん底に陥れた。
 しかしそこに通りかかった旅の霊能者の美神(メイシェン)が命がけの激闘の末に、斗彗を退治した。
 その時使われた技は日本にも伝わり、業州の斗彗を破った技、『業州斗彗破』と呼ばれ陰陽師たちの切り札となったという。
 余談ではあるが、90年代に大ヒットした漫画『ゴーストスイーパー美神』はこのことにヒントを得たと推察される。
                         〜竜鳴出版刊『地獄先生へ〜ぞ〜』より抜粋〜>

「なんだよそのウサンクサイ話は!」
「真実はどうあれそういう技があるのは本当ですわ」
「その技を使うの?」
「ハイ、私1人では無理な技ですから、自称霊感の強いカニさんに手伝ってもらいますわよ」
「……痛くない?」
「多少息切れする程度ですわ。では、始めますわよ……」


「2人とも油断しないようにね。今のフカヒレ君は別人よ」
「確かに体育武道祭の時のも、洋平ちゃんを一蹴するほどの強さだったからな。今はそれ以上と見るべきだ」
「まったく、グレートだぜ」
 『フカヒレ』が近づいてくる。まずは牽制してどれほどの力があるかを見るべきか……。
「ではいくぜ……!」
 そう言ったと思った瞬間、『フカヒレ』は俺の目の前まで瞬時に移動していた。
 速い……!
 一瞬で間合いに入られたと思ったら、次の瞬間には、アッパーが俺の顎を打っていた。
「うおっ……?」
「レオ!」
 スバルがすぐに殴りかかりにいくが、『フカヒレ』を捉えることはかなわず、拳が空を切る。
 体勢の崩れたスバルのみぞおちに『フカヒレ』の肘が入る。
「この……!」
 姫の蹴りも空気を切る音がしただけで、『フカヒレ』は再び俺たちと間合いを取っていた。
「チッ……、2人とも大丈夫!?」
「あ、ああ。クソ、なんて速さだ」
「だが確かに速いがそれだけだぜ。あまり力は無いみたいだ」
 スバルに言われて気づく。さっきのアッパーはもろ顎に入ったはずだが、特に大きなダメージではない。
 スバルも急所への一撃を喰らったはずなのにピンピンしている。
「なるほど……、スピードだけってことね。だったらカウンター狙いといきましょう。相手の攻撃の隙を捉えるわよ」
 それしかないな。闇雲に攻撃してもかわされるだけだ。
 幸い向こうの攻撃は軽い。だったらダメージ覚悟で反撃するほうが確実だろう。
 『フカヒレ』は自分の手を握ったり閉じたりしている。
「ふむ……、この体ではこれが限界か?」
 フカヒレがまた近づいてくる。
 俺はどっしりと構えて、相手の攻撃に備えた。
「かかってこないのか? なら、こちらから……」
 来る……!
 全身の神経を集中する。足に、目に、耳に、皮膚に。
 『フカヒレ』はスバルへ攻撃した。目で追うのがやっとのすさまじいスピード。


 だが、その攻撃はスバルに届くことはなかった。
「だああああ!!」
 スバルの気合とともに出されたカウンターの拳が『フカヒレ』を捉えた。
 一瞬、『フカヒレ』の動きが止まる。その隙を見逃さない。
 考えるより先に体が動く! 気づけば俺と姫のダブルキックが『フカヒレ』に命中していた。
 3HIT COMBO!!
「やったー、エリー!」「センパイ……!」
 さすがにスバルと俺と姫の攻撃を喰らえば無事じゃないだろう。そう思った。だが。
「ク、ククク、なかなかやってくれるな」
 なにぃ!? 効いてないのか!?
「微妙に打点をずらされたようね」
「確かに手ごたえがあまりなかった」
 冷静な解説ありがとう。
「でも次で決めるわ。さあ、いくわよ2人とも」
 気を取り直して『フカヒレ』と向かい合う。
「まだ全力は出せないか……。コイツを使わせてもらうぞ。おっと、卑怯なんて言うなよ? 3対1だ。コレぐらいはあっていいだろ」
 そう言う『フカヒレ』の手には、長さ2メーターほどの棒が握られていた。

「グウッ!」
 棒が俺の腹を狙う。とっさにガードする。ガードした腕が痛い。
 そこにスバルと姫が攻撃をかけるが当たらない。
 間合い外からの攻撃ではカウンターもできない。こちらから仕掛けても捉えられず、逆に間合い外からの反撃を受ける。
 俺たちは防御を固めていることしかできなかった。
「まずいですね……。このままヒット&アウェイで攻められるといずれセンパイたちの体力が……」
「鮫氷君……、なんてセコイ」
「クソ……、このままじゃジリ貧だぜ」
 武器攻撃はガードしても痛い。このままチクチクやられては……。
「なんとか近づく方法を考えねーと……」
 俺たちがどうにかしようと考えていると、さっきから無言だった姫が動いた。
「オイ姫、そんな前に出たら……」


「ここは私に任せて」
「なんかいい考えでも!?」
「いいから2人は下がってなさい」
 そう言ってずずいっと前に出る姫。
「ど、どうする、スバル」
「姫のことだ、なんか手があるに違いないぜ。ここは姫に任せてみよう」
 確かに姫なら、姫ならなんとかしてくれるかもしれない。
「一応すぐに出られるようにしとこう。気は抜くなよ」
 姫……、どうやって『フカヒレ』を攻略する?
「お姫様が前に出て行きますね」
「エリー……、どうするんだろう?」
 無造作に『フカヒレ』との間合いを詰めて行く姫。『フカヒレ』も少し戸惑っているようだ。
「降参する気にでもなったのか?」
「まさか。アンタを倒す方法を思いついたのよ!」
 そう言って一気に間合いを詰める姫!
「ならば見せてもらおうか!」
 『フカヒレ』の一撃が姫を狙う! かわせないタイミングだ!
 ガキィン!
 『フカヒレ』の棒が姫を捉えたと思った瞬間、姫は意外なもので棒を受けていた。
「お、お姫様!? 棒を石で受けたーっ!?」
「エリー、いつの間にあんな石を!?」
「フフ……、素手で受けたらダメージを受けるからね。こんなこともあろうかと石を持っておいてよかったってもんだわ」
 確かに石で受ければダメージは無いけど……。どんなことを想定して石を持ってたんだろう。
「まさか石で受けるとは……。だが俺の棒をいつまで受けきれるか!?」
「あああーっ! フカヒレの連続突きだーっ!」
「フォオオオオオオオオォォォォォォ!!!」
 『フカヒレ』の目にも止まらぬ連続突き! だが姫はそれを全て石で受けきっている!
「す、すごいお姫様! あのスピードを完璧に見切っている!!」
「でも、あれでは受けている石がもたないよ!!」
 佐藤さんの言う通り、永久に受けきれるわけではない。石が砕けたらどうするのか……。


「キャア!!」
「ああーっ、ついに石が砕けちまったーっ!」
「フフフフ、頼りの石も砕け散ったようだな……」
「まずいぜ、このままじゃ……」
「……」
 ! 今姫がこっちを見た?
「スバル……」
「ああ、準備はオーケーだぜ……」
「その石はもう使い物にならないぜ。勝負あったな」
「いいえ……、こいつの使い道はまだあるわーーーーっ!」
「うっ!?」
「ええーっ、砕けた石を目潰しに!?」
「さすがエリー! 機転が利いてる!」
 いや、卑怯だと思うけど。とにかく一瞬の隙を突いて間合いに入る姫! チャンスだ!
「いくわよ対馬クン、スバル君!」
「オオ!」
「よし、佐藤さぁぁぁぁぁぁん、そいつをよこせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「は、はい!」
 スバルが駆け出していく。俺も佐藤さんから竹刀を受け取り、スバルに続く。
 姫が『フカヒレ』の背後から仕掛ける!!
「お嬢様……、トルネードキック!!」
 姫の2連蹴りが入る!
「ボディがっ!! 甘いぜええええっ!!」
 スバル渾身のボディーブロー!
 そして。佐藤さんから受け取った竹刀をしっかりと握る。
 今こそ、乙女さんから教わった唯一の剣技を出す! いくぜ、奥義!
「乱れ、乙・女・花ーーーーーーーーーー!!」
 6HIT COMBO!!
「ぐぎゃああああーーーーーっ!!!」
 『フカヒレ』は派手に吹っ飛んだ。そのままピクリとも動かない。


「やった、決まった……」
「ちょっとやりすぎじゃねえか?」
「大丈夫でしょ。フカヒレ君だしね。後は祈センセイの準備が終わるのを……」
「…………った」
 え!?
「センパイ、まだです!!」
 馬鹿な……! あれを喰らってまだ立つか!?
「今のは痛かった……、痛かったぞーーーーーーー!!」
 『フカヒレ』、完璧にキレてる……! 親の敵を目の前にしたかのような怒りだ……。まるで8ページぶち抜きでラッシュをかけそうなぐらいの!
「やってくれたなお前ら……。初めてだぞ……。ここまでコケにされたのは……
 ゆ、許さん……絶対に許さんぞ虫ケラども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!
 ひとりたりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!!

 コイツ、どこの宇宙の帝王だ……。
「クソッ……、まだ動けるなんてな……。姫、ほかに手は?」
「うーん、思いつかないわね」
「仕方ない……。また防御に専念して時間を……」
「お前ら、待たせたな!!」
「土永さん!?」
「祈の準備が完了した」
 何!?
「お前ら! どけぇぇぇぇぇい!!」
「下がってください皆さん!!」
 カニと祈先生から、俺にも見えるくらいの青白い、すさまじいオーラが立ち昇っている!
 これはスゲエ! なんかよくわかりませんがスゲエ技だ!!
「な!? あ、あれは!?」
「みんな! 伏せろー!!」
『極楽へ』
「行かせてやるぜ!!」
「行かせて差し上げますわ!!」
『業州斗彗破ーーーーーーーーっ!!!!』
 瞬間、白い光が、全てを飲み込んだ。


「……イ、……オ、レオ!!」
 ん……? この声は……。
「しっかりしろ、レオ!」
「乙女さん……?」
「よかった、無事だったか!」
 う……、確かカニと祈先生がスゲエ技を使って、それで……。
「そうだ、みんなは!?」
 あれは、あの黒髪はなごみ……!
「オイ、なごみ、なごみ!」
「ウウ、センパイ……?」
「大丈夫か、なごみ!?」
「あう……ハイ」
 よかった……。他のみんなは……。
「まったく……、何が起こったのよ……。ほらよっぴー起きなさい」
「うーん……エリー?」
「オイカニ、カニ、大丈夫か!!」
「ウググググ、な、何が息が切れるぐらいだ……。全身イテーじゃねえか……」
「オイ祈、生きてるか」
「うう……、ちょっと強力すぎましたわね……」
「全員無事のようだな。下の奴らを制圧して来てみればこの有り様だ。少し驚いたぞ」
 全員無事、か。ん、全員?
「そうだ! フカヒレは!?」
「鮫氷……、あ、あそこに倒れているのではないか?」
「フカヒレ!」


 全員で駆け寄る。
「フカヒレどうなったんだ……?」
「一応もう電波は感じられませんが……」
「起こしてみよう。オイ鮫氷!」
 乙女さんはもちろんこんな時でも蹴り起こし。
「う、うぅ〜ん」
「生きてるぞ!」
「なんだよもうちょっと寝かせろよ……、いい夢見てたんだからよ……」
「オイ、寝るんじゃねえ!」
「あーもうなんだよ……ってなんでみんなして俺を起こして……、ハッ! まさか今俺はヒーローとして求められている!?」
「いつものフカヒレっぽいな」
「一応確認しよーぜ。あなたの口説き文句をアピール! ロマンチック・アクションッ!!」
「俺は、君を守るために生まれてきたんだ」
「こ、こいつは間違いない! いつものフカヒレだ!」
「この寒いセリフ、間違いない、いつものフカヒレ君だわ!」
「そうだね、こんな痛いセリフいつもの鮫氷君にしか言えないよ」
「何か失礼なこと言ってない?」
「気のせいだぜフカヒレ」
「ということは、終わったんですね」
「ああ、これで一件落着だ」
 歓喜に包まれる俺たち。1人置いてけぼりのフカヒレ。
「オーイ、なんなんだよ、説明してくれよ」


 ……説明中……
「お、おおおおおおお俺、そんなことしちまってたのか!?」
「ええ、派手に暴れてくれたわね」
「ヒィッ!?」
 みんなからの無言の迫力を感じたのか、思わず後ずさるフカヒレ。そんなフカヒレに俺は優しく語り掛ける。
「安心しろよ、フカヒレ。みんな水に流すって言ってくれてるから」
「ホ、ホントか……」
「ええ、水に流すわ。ねえみんな」
「ああ、水に流してやるか」
「そーだね。水に流してあげようよ」
「うん、水に流すよ」
「水に流します」
「水に流しますわ」
「水に流してやるぞ小僧」
「オレも水に流すぜ、フカヒレ」
「うおぉぉ〜ん、みんなの優しさが身に染みるよ〜……。
 ってよっぴーなんで俺を縛るの? いや、嫌じゃないよ? むしろこういうのも好きなんだけどね。
 あれ乙女さん布団なんてどこから……、ハッまさかこんなところで!? いけない、いけないよ乙女さん!
 ってグルグル巻き? オイレオ、スバル、俺を担いでどこ行くんだ? って海?
 ねえ、なんで重りとかつけてるの? あのさ、これってさ、スマキだよね。
 オイオイ、みんな水に流すって言ったじゃないかよ! いやだからこれは水に流すじゃなくて水に落と────」

 ──フカヒレは──
 松笠の海に沈んだ。
 それでもフカヒレは魚と人間の中間の生命体となり生き続けた。
 どうにかして脱出しようとするもどうしようもできないので──そのうちフカヒレは考えるのをやめた。


エピローグ

 ……こうして竜鳴館史上最大の騒乱は幕を下ろした。
 しかし、これが終わりとも限らない。この学園に、また鮫氷新一のような男が現れればまたこのような騒乱が起こるだろう。
 その時には、我々と同じ志を持ったものが立ち上がり、同じように解決してくれることを切に願う。
「記録者・2005年度生徒会執行部副会長
対馬レオ、っと」
 生徒会執行部と館長しか知らないと言われている裏竜鳴史……。
 竜鳴館の、決して表ざたにはならない事件を記した本に事件の顛末を記録し終え、軽く伸びをする。
「終わった? 対馬クン」
「ああ、書き終えたよ」
「こっちも終わりました」
「私も終わったよ」
 なごみと佐藤さんも仕事(という名の後始末)を終えたようだな。あとは外の片付けに行った乙女さん待ちか。
「ふー、全部片付いたぞー」
「ナイスタイミングね、スバル君、カニっち起こして」
「ホラ起きろカニ坊主」
「うーん、ふわぁぁー、おはよ、スバル」
「おはよーさん」
「全員揃ったようですわね」
「で、何の用なんですか祈センセイ」
「橘さんが今回の事件、外に漏らさなかったことやらなんやらをとても褒めておりましたわ」
「ま、俺たちがんばったよな」
「それで特別ボーナスが出ましたの。これで美味しい物でも食べてきなさい、だそうですわ」
「へー、あの館長が」
「マジ!? ボクカレーおなかいっぱい食べたい!」
「久しぶりに焼肉なんかもいいわねー」
「我輩、寿司が食いたいぞ」
 一日たてばいつもの通り。それが竜鳴館クオリティ、か。
「どうしたんですか、センパイ」
「いや、やっぱ普通の日々が一番だよな」


おまけ

 ──その頃
「おお、やっと見つけたぞ鮫氷。どれ、儂が人に戻してやろう。そ〜れ、お髭モッサモッサ」
「いやあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

  END


(作者・名無しさん[2006/02/18])

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