「おいココナッツ、ボクにチョコの作り方教えろやゴルァ!」
ある日の放課後、竜宮で書類に目を通していたあたしに、カニがこう言った。
「……は?」
思わず耳を疑った。聞こえた言葉を反芻するに、どうやらあたしに頼みごとをしているらしい。
「だから、チョコだよ手作りチョコ!」
カニはソファの上で手足をバタつかせて言い募る。
「それが人にモノを頼む態度か」
あたしは冷たく言い放つ。だいたいどうしてあたしが無礼なカニの頼みをきかなければいけない?
「ちっ、わーったよ。ったく心がせめーなココナッツは」
「潰すぞ」
カニは不承不承といった風に、言い直した。
「ハイハイ。――コホン、『おいココナッツ、妖精のように可憐なボクにチョコの作り方教えろやゴルァ!』 これでいいか?」
「バカかお前は。自分を修飾しただけじゃないか」
「あ? 就職? そりゃー妖精はボクの仕事みたいなもんだけどさ、何言ってんの、お前?」
カニはいたって真顔で言う。もうどうしようもないバカっぷり。
「こっちの台詞だ。ちゃんと義務教育受けてきたか? 人にお願いするときはもっと言い方があるだろう」
「あ!? これ以上どこ直せっていうんだ? 妖精を天使に替えるくらいしかねーじゃん」
「……チョコは自分で作るんだな」
そう言ってあたしは作業に戻ろうと書類に視線を落とした。
「わかったわかった! んじゃ、『おいココナッツ、どうしてもって言うならボクにチョコの作り方を教えさせてやるぜー!』」
「駅前の交番に行け。そして、標準よりもかな〜りコンパクトな脳みそ届いてませんか? ってバカっぽく訊いて来い」
「んだよ。まだ不満かよ? しゃーねえ。『おいココナッツ、ボクにチョコの作り方教えちくり♪』
どーよ。これ以上ビタ一文まからねーぞ」
確かに最初よりは幾分改善されたようだが、それでもまだお願いしているようには聞こえない。


だがこれ以上をこの甲殻類に求めても無駄だと判断したあたしはため息をつきつつ訊ねた。
「……なんであたしなんだ?」
あたし以外にも他に料理のできる人はいるだろうに。佐藤先輩とか。
「お。教えてくれんの? いや、よっぴーとかトンファーとかにも頼んだんだけどさ。
よっぴーはなんか笑顔で消しゴム爆弾とかぶつけてくるし、その他もみんな断られたんで仕方なく」
こいつは……。
「ついでに、この行事に縁の無い気の毒なココナッツにもチョコ作りをさせてやろうというボクの優しい心遣い?」
う。確かに、父さんが亡くなってからはこの行事に参加したことは全くないけど……。何かむかつく。
「く……まあいい。そういう季節だからな。だがお前、何か決定的に間違っていないか?」
「何が?」カニはきょとんとした顔で訊き返す。
「今お前に密着しているのは誰だ?」
あたしの問いに、ソファの上のカニはゆっくりと自分の体にまとわりついているものを見、そして答える。
「んー。レオ?」
「そうだ。おかしいと思わないのか!?」
この二人はあたしが部屋に入る前からこうしてその、あの、えと、ス、スキンシップ? していた。
「なんだと! レオがここに居ちゃ変だってのか!? レオとボクは一心同体だぞ!」
「そうじゃなくて! 普通、チョコの作り方教えるだのとかいう話は贈る相手の居ない場所でするものだろう?」
「んなこと関係あるかボケ! ボクとレオが一緒にいるのは当然のことなんだよ!」
ここでようやくバカップルの片割れが口を開く。
「そうだぜ。俺の傍にきぬが居ない方が不自然だよ」
「なーレオ♪」そういうとソファの二人はまた抱擁を始めた。
……この、バカップルどもが……。
あたしは勢いよく椅子から立ち上がる。そして何も言わずに出口へ向かった。
「おい、どこ行くんだよ椰子」
「帰ります」そういって扉を開け、部屋から出る。
「あ、ちょっと待てコラココナッツ! チョコは?」
「知るか! やる気が失せた。バカップルはバカップルらしく、自分の首にリボン括ってプレゼントでもしてろ!」
そう言うとあたしは思い切りドアを閉めた。
すぐに中からカニの声が聞こえてくる。
「え〜。それ、クリスマスにやったしなぁ……」
って、やったのか!?


(作者・名無しさん[2006/02/08])

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