私には夢があった。
世界征服という夢。
世界の頂点に立ち、世界中の富と名声を手に入れるという夢。
人間に生まれた以上は頂点に立ってみたいという野望。

「まさか本当に実現しちゃうとは、恐れ入るよホント」
「あらあ? まさかレオは私を信じてなかったの?」
「いや、だって世界だよ? 無理だと思ってたわけじゃないけど、
こんな早く実現させるなんて思いもしないよ」
「ホントすごいよエリー。だってキリヤカンパニーを手に入れてから、ええと……」
「五年だ。確かに普通では考えられんスピードだが、それだけ姫の意志が強かったという事だろう」
「いいえ乙女センパイ、それだけじゃないですよ。
まあそれもあるでしょうけど、私によっぴー、レオに乙女センパイ。
この布陣で出来ない事なんて存在しない。って私は思ってるんですけどね」
「わ、私は別に何もしてないよ」
「何言ってんのよ。よっぴーの存在が私にとってどれほど大きかったか。とても感謝してるのよ」
「とってもうれしいけど、対馬君がいじけるよ」
「な……そ、そんな事ないよ。佐藤さんがどれだけエリカのために頑張っていたかなんて、
すぐ近くで見てたんだ。情けない話だけど俺以上だよ」
「ホント、妻の手助けもちゃんとできないなんて。ひどい夫よねえ」
「ふむ、少々鍛え方が足りなかったかも知れんな。よし、これからはいつもの五倍で行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って。二人とも冗談だよね? 本気じゃないよね?」
「ふふ、冗談に決まってるでしょ」
「そうなのか? 私は本気だぞ」
「いや、だって五倍って」
「何を言ってるんだ。姫が頂点に立ったという事はこれから姫を狙う輩は今まで以上に増える。
出来る事はやっておくべきだろう? 何か起こってからじゃ遅すぎるんだぞ」
「それもそうね。じゃ、乙女さん。ダメな夫ですがバシバシ鍛えてやってください」
「ああ、責任をもって立派な漢に育ててやろう」
「頑張ってね対馬君」
「マジすか。味方ゼロ?」


私は夢を実現させた。
周囲が驚くほどの早さで。
私も正直これほど早く実現するとは思わなかった。
それに、
頂点に立っても孤独に押しつぶされる事は無かった。
私の周りにはみんなが居てくれた。
本当にありがたい、心許しあえる人が居るという事が。

二度と孤独にはなりたくない。
よっぴーと会う前のような、誰も信じられない環境。

でも、少しだけ懐かしくもある。

っとダメダメ。
マイナス思考禁止。
これからは王として君臨し続けなきゃいけないんだから。


「エリカ、もう朝だよ」
ん? ああ、もう朝か。それじゃあ今日も一日頑張るとしますか。
『おはようレオ』
? 自分の声が聞こえない?
「あれ? エリカどこだ? 朝からかくれんぼなんてきついよ?」
姿も見えてない? 
『ここよ、ここ』
「? ほんとにどこ隠れてんの? 降参するから早く出てきなって」
!? 触ってるのに気付かない? 
何? いったい何が起きたの? 
「レオ、早く来ないか。朝から仲がいいのは構わんが予定というものがあるだろう」
「乙女さん、エリカが居ないんだけど」
「何?…………ふむ、確かにこの部屋には気配はない。しかし誘拐されたとも考えずらいぞ。
出歩くにしても一声かけて欲しいものだ。全くこまった姫君だなあ」
「どうしたんですか。早くしないとスケジュールが」
「ああ佐藤。それが困った事に、姫はどこかに行ってしまったようなんだ」
「ええ!? でも予定がびっしり」
「仕方ない姫を探すか。なに、このビルの中に居るはずだ」
「何で断言できんの?」
「私はずっと入口付近にいたんだぞ。そして人が出て行く気配はなかった。
なら当然まだ中に居る」
「本当にエリーは……それじゃあ探しますか」
「我が妻ながらホントに……手分けして探そうか」


……みんな行っちゃった。


一体何が起こったの!?
……落ち着け霧夜エリカ。
落ち着いて考えるのよ。
状況を整理すると、

・私の声は聞こえない
・私を見ることも出来ない
・私が触っても気付かない
以上の三点。
おっと、
・乙女さんが気配を感じれない
以上の四点。

少し動揺してるかな。
とにかくこの状況は、透明人間になったってこと。
…………幽霊だったりして?
どっちにしても非常に困った。
非常に困ったけど、何とかプラス思考でいってみよう。
今しか出来ない事が何かあるはず。

誰にも見えてないことだし、社内の人間の仕事振りでも観察しますか。


なかなかみんな頑張ってるじゃない。
この調子ならキリヤカンパニーも安泰ね。
『おい、聞いたか。社長が今行方不明らしいぞ』
もう噂が流れ始めてる。
『マジかよ。じゃあこれからどうなるんだ』
『正直きついだろうな。まあ、あの三人が居るからすぐにどうって事は無いだろ』
『それもそうだな。とにかく今は仕事するか』
へえ、あの三人ねえ。なかなか信頼されてるようね。
ま、私が見つけ出した人材なんだから当然よね。
そういえばその三人はどうしたんだろ。


「居たか?」
「いや、こっちには居なかったよ」
「こっちも居ませんでした」
「一体どこに行ったんだ?」
「やっぱ俺、外も見てくるよ」
「外には行ってない筈なんだが、
よし、私も行こう」
「私は仕事の方に取り掛かります。
対馬君、鉄先輩、エリーをお願いします」
「任せておけ。それでは佐藤、こちらは頼んだぞ」
あら、よっぴーは私を探しに行かないんだ。
なんでだろう。
「エリー、一体どこ行ったんだろう……。
そうだ、仕事しないと。エリーに補佐を任されてるんだもん。
こういう時こそ頑張らないと」
なるほどね。

さあて、それじゃあ出て行った二人はどれぐらいで帰ってくるかな。


遅い。
あれから十時間は経ったってのに。
二人とも一体どこまで私を探しに行ったんだか……。
あ、そっか。私は見えないんだから見付かりっこないわね。
それにしても、いつになったら帰ってくるんだろ。


「あ、対馬君、乙女先輩。どうだった?」
やっと帰ってきた。
「いや、どこにも居なかった。まさか本当に誘拐に……」
「もしそうなら犯人から何か要求が来るはずだが。
佐藤、そのようなものはあったか?」
「いえ、今のところは」
「八方ふさがりだな。もしそうでなかったとしても私達に出来る事は無さそうだな」
「待つだけですか」
「きついなそりゃ」
「姫がどこかに行ったのならばそのうち帰ってくるだろう」
私はここに居るんだけどね。
普段知れない事が知れたし、なかなか楽しい一日だったな。

…………どうやって戻るんだろ。
寝て起きたらこうなってたし、また寝たら戻るのかな?


―二週間後―

「佐藤さん、ここはこれで大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「佐藤、これはこうでいいのか?」
「はい、それであってます」

体は元に戻らなかった。
会社はよっぴーが私の代理で頑張っている。
三人は私が帰ってくるのを待つことにした。

正直思う。
私のすぐ近く。
手を伸ばせば届くところに仲間が居る。
それでも、今の状態は居ないのと同じ。
誰も私に気付かない。
孤独。
二度となって欲しくなかった。
懐かしくもなんともない。

それに、私が居なくとも、
会社はちゃんと機能してる。
世界中が何事も無い様に動く。
私の存在が消えていく。

今、この場所は私が居るべき場所じゃないのかもしれない。
私は…………どこに行けばいいんだろう。


ふらふらと足が動く。
目的地なんて無い。
ただ歩く。

気付くと近くの公園に居た。
ベンチに腰掛け、空を見る。
真っ暗。
周りには誰も居ない。
この公園に私一人。
『何でこうなったんだろ』
つぶやいてみる。
何も変わらない。

よっぴ―に会う前に感じてた孤独はここまできつくはなかった。
一人でも耐えることが出来た。
今感じてる孤独は、耐えられない。
手に入れたものを手放してから気付く。
その気持ちはもう知っている。
持っていたものが奪われる。
この気持ちは知らなかった。
ただ悲しく、寂しく、苦しい。


雨が降って来た。
それでも私はベンチに座ったまま。
上も見れず。前も見れず。ただ下を向く。

雨で目の前の地面が濡れていく。


「にゃー」
ん?
「にゃ?」
子猫?
『私が見えるの? どうしたの? こんなところに一匹で』
「にゃお」
周りに親もいなさそうだし。
『あなたも一人ぼっちなの?』
私も同じ。
『おいでおいで』
「にゃ?」
逃げていかないけど、届かない。
やっぱり私は……。
「こんなとこでなにやってんだ?」
この声は……レオ!?
私が見える様になったの!?
「雨にぬれてびしょびしょじゃないか。お前親はいないのか?」
あ……猫にか。
「かわいそうにな……よし! お前は俺が飼ってやる。ならさみしくないだろ。
名前何にしようか?」
「にゃー」
「ははは、『にゃー』が名前か。そりゃ無しだろ。
そうだな……FEでフィーでどうだ?」
「にゃ?」
「よーし決まりだ。おし行くか」

また誰もいなくなった。
……いつでもレオの隣に居る事は出来る。でもあなたは私が見えないのよね。
それならいっそ…………ずっと一人で。
さよならみんな…………レオ。


「エリカ、もう朝だよ」
「ん……おはよう、レオ」
「どうしたの? すごい汗だよ」
「え……?」
あれ? 私はみんなから見えなくなってたはずじゃ。
「大丈夫?」
夢……だったんだ。
よかった。
「悪い夢でも見た?」
本当に悪い夢。二度と見たくない。
「レオ、絶対離れないでね」
そう言いながら抱きつく。
「わ! どうしたの急に?」
「絶対に、絶対に私から離れないでね」
「心配しないで。二度と離れたりなんかしないから。
でも今はちょっと離して欲しいかな」
「ああ、ごめん」
「そうだ、一つ言っときたい事があるんだけど」
「なに?」
「この子、昨日拾ったんだけど……飼ってもいいかな」
「どの子?」
「この子」
そう言ってレオが足元から抱き上げたのは、夢で見た猫。
「名前はフィーって言うんだけど」
…………これは夢なの?
「どうしたの、エリカ」
「痛い」


(作者・名無しさん[2006/02/08])

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!