最近、ちょっと悩んでいる。

フカヒレあたりに言わせると

「テメー、そういうのを贅沢な悩みってんだぞぉ!?」

ということらしいが
命に関わることで悩まずにはいられるわけもない。
回避できるものなら回避したいところだが
仮に今は避けられたとしても
いつもうまくいくとは限らない。
何か抜本的な解決案を考えなければならないのだ。

「レオー、今年のチョコは気合入れっから期待しちくりよなー」

ヴァレンタイン・デーは、毎年来るのだから。
そして、俺の彼女は、きぬなのだから。

「対馬くんも、大変だねー。はい、お茶」

「ああ、ありがとう佐藤さん……ホント、悩みの種だよ」

竜宮。まだきぬは来ていない。
佐藤さんの入れてくれたお茶をすすりながら
当日、どう対処したものか頭を悩ませる。

「……カニは、そんなに料理ができないんですか」

黙々と書類の仕分けをしていた椰子が
ぼそっと俺につぶやいた。

「あ?ああ……まあ、いくら惚れていてもアレは……ダメだ」


いくら愛していても、乗り越えられないものがある。

「カニっちは自覚がないからねー」

「そこなんだよな……自覚がないから、覚えようともしないし」

「カワイソウなセンパイ」

椰子め、嬉しそうな顔しやがって……

「ねえ佐藤さん、それとなくきぬに料理……
 いや、チョコレートの作り方教えてやってくんない?」

「え〜……うまくいくかなぁ……」

「たとえばさ、生徒会の女の子で大量にチョコを作って
 全校の男子生徒に配る企画がある、とか言ってさ。
 で、きぬに手伝わせるわけ。どうかな?」

「うーん、なんか騙すみたいで気が引けるけど……」

「そこを何とか、お願いっ!」

「(ドキッ)う、うん…やってみるね!」

「……諦めの悪い…」

「……何か言ったかな、椰子さん?
 そうそう、生徒会の企画ってことにするんだから
 椰子さんにも手伝ってもらうから、ね?」

「く……一言多かったか……」


そして、ヴァレンタインデー当日。
覚悟を決めた俺の元に、いそいそときぬがやってくる。

「ほい、レオ……毎年、頑張って作ってるけど
 今年は特に気合入れたからねー」

「ああ……ありがとう」

可愛らしくラッピングされた小箱からは
ほのかに甘い香りがする。
果たして……俺の提案は上手くいったのか?

だが、うまくいったかどうかに関わらず
俺はこのチョコレートを食べる。
それだけは心に決めてきた。

包みをあけ、箱のふたを開く。
とりあえず、見た目はちゃんとしている。
ハート型に、ホワイトチョコで
『きぬ&レオ・LAVE』と書いてある。
……洗ってどうするのか。
LOVEぐらい綴り覚えてないのはどうかとも思ったが
とりあえず目をつぶる。

「ささ、冷めないうちに食べちくり〜」

いや、冷めてるだろ、もう。
まあ、とにかく意を決して一口、食べた……

「あ……あれ?……美味い……美味いよ、きぬ!」

「当ったり前よー!何しろ、スッゲー苦労したんだから……」


「……と、いうわけで、生徒会の企画なんだから
 カニっちも手伝ってね?」

「ん〜、レオ以外に作る気はねーんだけどなー」

「じゃあ、詳しいことは椰子さんに聞いてね。
 うまくすれば、おいしいチョコの作り方を覚えられて
 対馬くんにも食べさせてあげられるよ」

「ん……相手がココナッツってのが気に入らねーけど
 レオのためだから我慢すっか」

「よし、じゃあまず作ってみろ、カニ」

「うぃーす」

「貴様ぁ!何をやってんだぁ!
 チョコレートにタバスコだとぉ!あうわきゃねーだろぉ!」

「このチョコレートにはわが生徒会の浮沈がかかってるんだぞ!
 気合入れてやれい!いいか、チョコレートはな……」

「違うだろ、違うだろ、全然違うだろ!
 クッキングストッーーープッ!
 いいかそこはな……」

「私がこの世で我慢できないものの一つは
 チョコレートを湯せんで溶かさないヤツだ!
 直火にかけるのは許さない!」

「そうだ!よーし気に入ったぞカニ!
 厨房裏でセンパイとファックしていいぞ!」


「……という感じで、よっぴーに騙されるわ
 ココナッツには罵倒されまくるわで
 スゲー屈辱にまみれて作ったんだぜ?」

「そう、だったのか……すまない、きぬ」

「へへ、いいってことよ……
 ボクも、今年こそはちゃんとしたのを
 レオに食べさせたいって思ってたからね」

「うん……ありがとうな、きぬ」

「これからもさ……ボク、ちょっとずつ料理覚えるよ」

「また椰子に教わるのか?」

「ジョーダン!今回はレオのためだから多めに見たけど
 よっぴーもココナッツも、今に見てろよって感じだよ…?」

佐藤さん、椰子……すまない。

「ま、あんなヤツに教わらなくても
 料理なら母ちゃんが仕込んでくれてるから
 きっとすぐにプロ級だぜ!」

そうだな。
本気になったきぬは、けっこうスゴイ。
まあいきなりプロ級は、無理かもしんないけど。

「じゃ、厨房裏……行こっか」

「……は?」


(作者・名無しさん[2006/02/07])

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