「うわー…降ってきたなー」
「これは積もりそうだな」
窓の外。チラチラと天から降りてくる白い雪は
だんだんと勢いを増してきて
早くも地面にうっすらと白い絨毯を敷き始める。
乙女さんは窓に張り付いて、外の様子を見つめた後
嬉しそうな顔で振り向いた。
「レオ、積もったら雪合戦でもするか?」
想像してみる。
「……乙女さんとじゃ、雪合戦でも死にます」
「む……失礼なヤツだな。
私がお前を死ぬような目に
あわせるはずがないだろう?」
何度も死にそうな目に遭った気が。
それも、数え切れないほど。
が、言い出すとキリがないし逆らうと怖いので
とりあえず黙っておく。
「思い出すなぁ。子供の頃、何度か雪合戦したな」
「……そうだっけ?」
そんな無謀なことをしただろうか?
窓のそば、乙女さんの隣に立つと
落ちてくる雪を見上げながらちょっと記憶を手繰ってみた……
ビシャッ!
「あいたっ!」
「この、なんじゃくもの!ちゃんとよけろ!」
「むりだよ!ゆきだまがみえないもん!」
「おとこのくせに
だよ、とか、もん、とかいうな!」
「そんなことしらないもん!いいがかりだよ!」
「また、いったな!」
ズシャッ!
「いたい!いたいよ、おとめねえちゃん!」
「これぐらい、よけられないでどうする!
ゆみやは、もっとはやいんだぞ!」
「ゆみやなんかでねらわれないもん!」
「もん、っていうな!」
ビシャッ!ドシャッ!
「うわぁん、おとめねえちゃんがいじめるー!」
「これぐらい、なんだ!
わたしのおっとになるなら、たえろ!」
……回想終了。
「……思い出しました」
とびっきり、苦い思い出を。
「楽しかったな、あれは」
乙女さんはそうだったみたいですね。
「でも、あの後で母様にこっぴどく叱られたっけ」
「そうだったかな」
「お前、ホントに覚えていないんだな……
下着までビショビショになって
ガタガタ震えながら叱られて、それで……」
?急に乙女さんが口ごもり
見る見るうちに顔を赤くしていく。
「……その後、なんかあったっけ?」
「べ、別に何もないぞ?
な、何もなかったから思い出さなくていい!」
なんかアヤシイな。
「じゃ、思い出さない」
口ではそう言っておいて、俺は素知らぬ顔で
再び記憶の糸を再びたぐり寄せた。
ちゃぷーん
「ううう、さむい……」
「れおー?ゆかげんはどうだー?」
「うう、まだあったまらないよー」
「そうかー。わたしもはいるぞー」
「え……おとこのことおんなのこは
いっしょにおふろにはいっちゃ、いけないんだよ?」
「おまえは、わたしのおっとになるんだから、かまわないんだ」
「そうなんだー」
ガラガラ…ザバーッ…ちゃぷん
「ふう、あったかー……れおは、まださむいのか?」
「そんなすぐ、あったまらないよ」
「しかたのないやつだ。
よし、もっとこっちにこい」
ぎゅ
「わ」
「こうして、だきあっていると、あたたかくなるぞ……」
……か、回想…終了……
「お、お前、思い出していたな!?」
「な、何も思い出してないよ!?」
「ならば、なぜ赤くなっている!」
そりゃあんなの思い出せば
恥ずかしくて赤くなるってもんだ。
「乙女さんだって真っ赤じゃないか!」
「う……幼かったとはいえ、すでにお前に肌を許していたとは……」
「乙女さんって、昔の方が積極的だった…」
パカン!
「あいたっ!?」
「もう、ランニングにでも行ってこい!」
相変わらず、だなぁ。
「……帰ったら、暖めてくれる?」
「フフン……暖めるどころか……火をつけてやる」
「火ならもう、ずっとついてるよ」
「そうだな……私も、だ……」
(作者・名無しさん[2006/02/06])