「なめんじゃねーよココナッツ、この単子葉類が!」
「うるさいスベスベマンジュウガニ。潰すぞ」
「マンジュウ!? 今マンジュウっつったか、てめえ。そいつは思わず食べたくなるほどかわゆいボクを皮肉っての発言か、おう!?」
「お前の耳はどこに繋がってる。胃か、それとも腐った蟹味噌か」
「むがー!」
また始まった。その場の誰もがそう思った。
もういつもの事なので誰も文句を言わない。言う気力が失せていた。何を言っても無駄だしな。
だからこの後もいつも通りの展開。
それだけでは何なので、本日のマーべラス蟹沢はいつにも増して芸術的だったとここに記しておく。
椰子が弁当を作ってきてくれたので、それを食べる。……お、鳥の唐揚げ。
「お前とカニも飽きないよなあ」
と、せっかく二人きりだったので言ってみる。
「はあ? いきなり何ですか、センパイ」
椰子はあからさまに怪訝な顔をした。相変わらず厳しい。嫌われてるのかな、俺。
「いや、相変わらずだなーって」
「カニが勝手に突っかかってくるだけですよ。あたしがやりたくてやってるわけじゃないです」
「ふーん」
楽しそうに見えるのは、俺だけなんだろうか。……お、チーちく。
「……センパイの方こそ、どうしてですか」
「うん?」
椰子は何だか思いつめたような表情をしていた。箸が止まっている。
「どうしてカニと友達してるんですか?」
「どうして、って聞かれてもな」
友達なんだし。
「好きなんですか? カニの事が」
「ぶふー」
思わず吹いちまったぞちくしょう。ああもったいないもったいない。
椰子の瞳が、こちらをじっと見ていた。これは冗談を言ってるとかそういう雰囲気じゃないな。しかし何でいきなりそんな事を言い出すんだか。
「恋愛感情とかは無いと思う」
「ほんとうに?」
いやに追求してくるな。どうした椰子よ。
そんな風に見たことは、そう言えば無いんだよなあ。たぶん。どうだろ。カニが彼女になるとことか、ちょっと想像できない。
「まあ、今のところはな。――幼馴染で、いい奴だよ」
「いい奴ですか。あのカニが」
「ああ。バカだけどな」
今ごろくしゃみでもしてるだろうな、カニ。
そんな場面を想像して、二人でくすくすと笑った。
「あたしも、たぶん、そう思ってます」
椰子が仏頂面でぼそりと呟いた。
どっちに対して? とは、聞かなかった。
(作者・名無しさん[2006/02/02])