こんなこと言うの、自分でもバカらしいと思ってる。でもこれ、マジな、ことだから。
 ―――俺、近衛のこと、好きみたいだ。

 そう言ったら彼女は、今にも泣き出しそうな表情で俺を見た。





「ハ、……なんで、こうなってんだか」
 顔を伏せたまま、おかしそうに、近衛がつぶやく。
 まったく、同感。
 俺の部屋で、近衛と二人並んでベッドに腰掛けて、そして、お互いに緊張してる。そんな状況。
 なんだよ、この状況。
 あの、近衛だぞ? お互いに傷つけ合うような真似をしてしまって、顔を合わせればいつも険悪になって。
 それこそ、この世から居なくなってほしいとすら思ってたあの近衛と、今、こうして。

 跳ね回る心臓の鼓動が、うるさくて仕方がない。
 なんで、俺達はこんな風になってるんだろう。
「ホント、俺達、なんでこうなったんだろうな」
 緊張を吐き出すように、そのつぶやきに応えてみた。
 なんだか、声がうわずった気がする。近衛、変な風に思ったかな。
 ああ、ダメだ。なんかもう、脳が沸騰してる。
 近衛からの返事は、ない。黙ったまま。


 沈黙が、耳に痛い。
 心臓の鼓動が、脳に響く。

「ね、え」
「!」
 唐突な、呼びかけ。耳朶を貫く。
 みっともなく、その声にビビって、身体を震わせた。
 顔の表面が、燃えるように熱くなる。
 ああ、俺、こんなチキンだったんだ。
「なんか、言いなさいよ……」
 絞り出すように、ゆっくりと近衛は口を開いた。
 緊張しているのは、彼女も同じだったと、あらためて思う。
 横に顔を、動かす。視線が、近衛をなぞる。
 膝の上にのせた、硬く握った拳。
 よく見れば、わずかに、震えている身体。
 顔は前髪に隠れて見えないけれど、きっと、額の端は既に汗だくだろうと思う。

「なんか言え、っていっても」

 こうして、近衛と二人っきり。
 近衛が、俺の部屋に上がってくれて。
 ベッドで隣に、近衛の分の体重がそこにあって。
 だから、もう、この状況は。
 俺は、近衛のことが好きで。
 近衛は、俺のことが、

「そういえば」
「……なによ」
「告白の返事、聞いてない」
「……ッ!!」


 好きだと言ったら、彼女は、今にも泣き出しそうに顔を歪ませた。
 ずきりと、胸に痛みが走った。馬鹿なことを言って、傷つけてしまった。
 ほら見ろ。テンションに身を任せると、いつもこういう目に遭う。
 あの時から、わかっていたはずだろう。
 唇を噛み締める。返事は、聞くまでもなかった。
 ごめん、忘れてくれと言って、背を向けた。
 彼女から、この場から、逃げようとした。
 そうしたら、行かないでと、制服の裾をつかまれて。そのまま。
 何を言えばいいのかわからず、二人、長いことうつむいたまま立ち尽くして。
 いい加減、突っ立ったままなのもアレだから、わけのわからないことを、口走ってしまったんだ。
 ウチにこないか。

「アタシ、は……ッ!」
 激情を、押し殺したような声。
「……アタシは、対馬のことなんて、嫌い」
 音が、失せた。
「グダグダ、女々しい言い訳ばかりで」
 恐怖のような、高揚。
「鉄先輩の言うことも、素直に聞かないで」
 聞きたくないのに、耳を澄まして。
「霧夜なんかに、だらしなくしっぽ振って」
 為すがままに、傷を抉られる。
「いつも怯えたまま、何事にも真剣になろうとしない臆病者のことなんか!」
 キッ、と顔を上げて、瞳に涙を滲ませながら。近衛は、

「――――――大ッ嫌い!!」

 叫びつけた。


 近衛のほほを伝って、ポタポタ、涙がこぼれ落ちる。
 スカートに、シーツに、染みを作る。
「なんでよ」
 ぐしゅ、と腕で顔をぬぐって。
「なんで、アタシのこと好きだなんて言いだすワケ!?」
 きれいな、泣き顔で、俺を睨んだ。
「好きだから」
「ふざけ……!!」
「憧れ、だったんだ」
 思いもよらない言葉に、声をつまらせる。
「ッ!?」
「正論を押し通す、真っ直ぐなところとか」
 時には口うるさくて、うっとおしいだけだったけれど。
「目標に向かって、何があっても頑張ろうとするところとか」
 ソレが過ぎて、ただの意地っ張りになってしまいそうなときもあったけれど。
「そんな風に、自分の意志を持っていて、それをちゃんと貫き通そうとするところとか」
 その意志の強さのせいで、君の素直な一面を、誰も見てくれないままだけれど。
「そんな風に、俺もなりたかったから」

 彼女はまた、顔を歪ませて。

「それを―――それをふざけるなって言ってるの―――!!」
 胸ぐらを両手で掴まれた。
 引き寄せられる。
「アンタだって……」
 彼女の顔が、すぐ、目の前に。
「アンタだって!」
 瞳が合った。
 お互いの顔を、一瞬だけ、映し合った。
 近衛は顔を伏せる。ドン、と俺の胸に額を押しつけて。

「前は、そうだったクセに―――!!」


 絞り出すような、小さな叫び。
 胸を、抉る。


 もう、涙腺が決壊してしまったのか、近衛はこれ以上言葉を発することなく、泣き続けた。
 彼女の背に腕を回して、背を撫ぜる。
 俺の胸でしゃっくりあげる彼女が、あんまりにも愛おしいから。
「近衛」
 彼女の顔を胸から離す。
 顔を上げたその彼女に、キスをした。
 一瞬、唇を押し当てただけ。何をされたのか近衛が理解するまでに、数瞬。
 彼女の瞳が、真っ赤な怒りに染まって。
「きらい」
 俺の胸が、また近衛に引き寄せられる。
「対馬のことなんか、だいっきらいだ」
 唇を、吸われた。

 服を脱ぎさった彼女が、羞恥に顔を俯かせながら、ベッドの上に佇んでいる。
 恥ずかしいのは、こっちも同じ。
 女性の前に、裸を晒す習慣なんて、持っていない。
「い、いつまで、つっ立ってんの……?」
 掠れた声に、力はない。
 余裕の無さは、お互い様かと、裸の近衛に近付いた。


 最初に触ったのは、ふとももだった。
 右手に伝わるすべらかな感触に、顔面の毛細血管が沸騰する。
 左手を彼女の背中に回して、抱きしめる。
 ついばむようなキスを繰り返す。ふとももをさする手はお尻を伝って、いつしか彼女の脇腹まで。
「……ん……ふ」
 こぼれ出る声をふさぐように、また口づける。
 前触れ無く、舌をこじ入れる。
「――ん、ん!?」
 唇をなぞり、粘膜同士をこすり合わせ、唾液を送り込む。
 強く、舌を吸った。
「ん―――!」
 頭の芯が、痺れる。
 ちゅぽっ、とみっともない音を立てて唇が離れた。
 息苦しさに、大きく息をつく。
「は―――……」
 乳房に、右手をそえる。
「あっ」
 もう片方の乳首を、口に含む。
「ふあ……っ!?」
 あんまり強く力を入れすぎないように、乳首を転がす。
 しゃぶりつき、舐め回す。
「ちょ、や、やだ……!」
 不意打ちで、軽く噛む。
「んっ、やだ、やだってばぁ……!」
「……? 気持ちよくない?」
「こ、こんなの、恥ずかしいだけよっ……」
 顔を背けて。
「……キスの方が、いい……」
 拗ねたような、可愛い声。


 唇をふさいで、ねぶり合う。
 吐息を、交換し合う。
 頬を頬を、こすり合わせる。
 心地よすぎて、死にそうだ。

「……そろそろ、いいか?」
 抱きしめながら、囁く。
「……やさしく、してよね」
 溶けたように、濡れた瞳。
 返ってくる囁きは、とてつもなく甘かった。

 指を中に差し入れる。熱く濡れそぼった感触に震えた。
「ひあ……!」
 無造作に、劈をかき回す。
 ビクビクと身体を震わせながら、近衛は感覚に耐えようとする。
 鼻にかかった、嬌声。
 愛液が、したたり落ちる。

「じゃ、入れるぞ……」
「ん……」
 ぎゅっ、と近衛はきつく目を閉じた。
 秘所にあてがう。先端が、触れあった。
 腰を、ぐっと進めた。
 奥に、押し入っていく。
「あ、ぐ……ッ!!」
 悲鳴をこらえた、呻き声。
 近衛を引き裂いている痛みが、どれほどのものかは、俺にはわからない。


「大丈夫か……?」
「大、丈夫、大丈夫だから、止めないで」
 頷いて、口を寄せる。髪を撫ぜてやる
 口づけたまま、腰に力を入れた。
 痛みを紛らわすためか、口の中で近衛の舌が、暴れ回る。
 こちらも、舌を絡ませる。

 そうして、繋がった。
 腰と腰が、密着している。
 近衛の中が、熱い。
 吐息が、漏れた。

「動く、ぞ」
「ん……」
 腰を動かす、動かすたびに、近衛の口から、喘ぎ声が発せられる。
 熱く、締め上げられる。
 脳味噌が、吹っ飛びそうだ。
「対馬、対馬っ、つしまぁっ!」
「近衛っ……!」
 我を、忘れる。
 ひたすらに、他人を求め合う。
 全身に、びっしりと汗が浮かぶ。
 もう、何も考えられない。
 近衛の唇に、自分のそれを押し当てる。
「好きだ、近衛」
「―――わたしも、好きっ!」
 好き、という言葉。
 頭が、真っ白になった。
 近衛の膣内が、収縮する。
 衝動のままに、精を吐き出した。


 抱き合って、肩で息をする。
 気怠くて、心地よくて、お互いに、涙をぽろぽろこぼしていた。
「対馬、泣いてる」
「泣いてるのは、そっちだろ」
 胸が、熱い。昔のことが哀しいのか、今のことが嬉しいのか。
「対馬、ごめんね。アタシ、今頃気づいた。―――アタシ、ずっと、ずっと対馬に謝りたかったんだ―――」
 顔をゆがめて、泣く。
 今日はずいぶんと、この娘を泣かせてしまったような気がする。
「俺もだよ。俺も、ずっと、仲直りしたかった」
 涙が、溢れる。
 互いを傷つけ合ったあの日から、
 たくさん傷ついて。
 たくさん迷って。
 ようやく、お互いに許し合えるこの時が訪れたことを、噛みしめる。
 そうして。
「近衛」
「ん……」
「好きだ」
 近衛が愛おしくて、キスをした。


(作者・名無しさん[2006/01/31])

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