ある日のこと。
俺と乙女さんは放課後、商店街に日用品の買い足しに行った。
「乙女さん、 荷物持つよ」
「そうか、 頼もしくなったな、お前も、私はうれしいぞ」
油の入ったスーパーの袋を貰い受ける。

この半年、乙女さとの修行は過酷さを極めた。
先週土日の滝修行は本当に泣きそうだった。
外気水温共に二℃、真冬の寒さが身体を切り裂くかと思った。
でもここまで継続したおかげで自分は強くなった。
最近の変化としては今年新調した制服が入らなくなり、
この前今の身体より2サイズ大きい征服を注文したばかりだ。
もちろん乙女さん同伴、乙女さん俺の身体をどこまで大きくするつもりだろ。
俺的には入らなくなったYシャツを来てわざと第二ボタン
まで開けて、ワイルドさをアピールしたいが、
乙女さんにそのことを言ったら、
「お前、 そんなだらしない格好で校内を歩く気か。
大体その胸筋を見せ付けてほかの女がお前にほれたりしたらどうするんだ」
怒られた。
「じゃあ、 乙女さんこの胸筋嫌い?」
俺が指を指して聞く。
「いや…… だから私は…、
だってそれを見せるのは別に私だけでいいじゃないか」
乙女さんのほほは赤く染め上がる。
かわい過ぎるよ乙女さん。

「何さっきからにやついてるんだ?」
「乙女さんがかわいいから、つい」
「お前、人前でなんてことを……、
くすっ! お前ほんとにお姉ちゃんっ子だな」
ほんとのことだよ乙女さん。


品行方正なカップルである俺たちでもトラブルに巻き込まれる事はある。
正確に言えば片方がトラブルを吸い寄せている気がする。
残念なことにもうそのトラブルの種は俺の視界に入っていた。
「乙女さん、 あそこの和菓子屋で豆大福買ってこうよ」
「ああ、あそこの豆大福は私も大好きだ、
お前、 豆大福が食べたかったのか、なかなかの策士だな」
乙女さんの食い意地は底知れないな。
俺が和菓子屋に向かうため右に曲がろうとした時
乙女さんはぎゅっと握ってる手に力を込めた。
「乙女さん! 」
「レオ、 私があの不良の集団に気づいてないと思ったか、
今日は機嫌がいいが見逃すことはできない、どっかへ
移動させないと行き来の邪魔になる」
「でも、 あれはただの不良じゃないっぽいよ、
なんとなく目がうつろだし、危ないよ、乙女さん」
「大丈夫だ、 いざとなったら実力行使、
心配は要らない」
乙女さんは持っている袋を俺にあずけ、
不良の元へ駆けていった。
もうこうなったら俺にはどうしようもない。
これが乙女さんが乙女さんたる所以
まっすぐで頑固で、でもやさしくて
面倒見のいい自慢のお姉さん。
シスコンもまんざらではないかも。

あの制服この近くの高校ではないな。
「おい! お前らそこで何をしている」
「何って、ただ酒盛りしてるだけだよ」
「なんだと! なぜお前ら高校生が昼間から、
しかも道路で酒盛りをしているんだ、
早く学校へ行け、それができないなら
早くそこをどいて家へ帰れ、ここにいたら邪魔なんだぞ」


酒臭い。今まででもかなりたちの悪いほうだ。
「じゃまだぁ、お前だって高校生だろ、
ふざけんなよ、俺らはなぁ、みんなから邪魔に
されてよう、ようやくここにたどり着いたんだよ、
そうだろみんなぁ、何様なんだよっ、貴様っ!」
目の前の男は私の制服のネクタイをつかんだ。
ヒューヒューあっちゃんかっこいい。
周りの男たちは声援を送る。
こいつらもう許してはおけない。
「何様とは何だ、学生はつつましく、学生の本分を
なすの務めだろ、どこで邪魔にされたか知らないが、
こんなところでよがって酒盛りをするのはやめろ、
はずかしくないのか!とっととここをどけっっ!」
目の前の男の額からぶわっと汗が吹き出た。
普通なら目を背けたり逃げ出したりするところだが
もはやこの男も正気ではないのだろう。
「じゃあ、ここをどかないっていったらどうなるんだ?」
「無論、 実力行使だ、」
もう腰がぬけているじゃないか、無理をして。

なんか今、すごい怒りのオーラと共に乙女さんの
髪の毛が全部立った気がする。
大丈夫だろうか。心配だな。
乙女さんの前の男がなんか気になるので
目を凝らしてみる。
あいつ乙女さんの真後ろのやつにアイコンタクト
送ってないか?
何か腰の辺りぽんぽんたたいてるし、
後ろのやつ腰の辺りにこぶし二つ分くらいの皮袋がある。


もしかして、あれ?バタフライナイフじゃないか?
ふざけんなよ。乙女さんがあぶない。

「へー、じゃあお前一人で俺たち9人と戦おうってわけ」
「もちろんだ、私の言うことをきかないいうのなら
野放しにしとくわけにもいくまい」
なんだこいつら、なんでこんな余裕でいられるんだ。
「なら、 仕方ないヒロシやっちまいなぁー! 」
なにっ! 視界にナイフを引き抜く男の姿が映った。
「乙女さん! 、 あぶない!」

ぐさっっ!
「ぐあぁっ!」

世界が暗転した。
目の前でレオが倒れこむ。
きゃああぁぁーーーーーーー。
血飛沫とともに周りから悲鳴が聞こえた。
どうしてレオ、私をかばって、そうか
レオにははじめからナイフが見えてたんだ。
だから。
「ちがう、ちがうんだ、俺は脅しのつもりでそいつの喉元を、」
「きさまっーーーっ!よくもレオをっ!」
ボコッ!
骨を砕く感触を手の甲に感じた。
「逃げろ、逃げるんだ。」
「逃がすか!」
「やめるんだ乙女さん、あいつらはまだナイフを持ってるかもしれない」
「レオ……、 大丈夫か、レオ、ひどい、骨が見えている、くっそ!」
私は制服を破いてレオの右腕に巻きつけた。


だめだ。血が止まらない。
すまない、レオ。私があいつらを注意したばっかりに。
レオを抱きかかえる。腕に巻いた布はみるみる赤く染まり、
額には玉のような汗が。
「はあ……、はあぁ、、はあぁ……」
「レオ、大丈夫か、返事をしてくれ、」
「乙女さん、ちょっと待って、」
レオは使える左手でポケットを探り携帯を取り出していじりはじめた。
「つながった、乙女さん、スバルに状況を説明して、」
「もしもし乙女さん、どうした?」
「伊達、レオが不良にナイフで刺された、傷はかなりひどい
たのむ、力を貸してくれ。」
「なんだってっ! わかった、いまどこにいる」
「松笠中央駅前だ。」
「そうか、そこから1,5キロ北に行くと陸上部でおせわになってる
でっかい病院がある。そこまでレオを担いで走ってくれ。
おれも二人をつれてすぐ行く。」
そうだ、救急車なんて待っていられない。
「れお、少しの間だ、我慢してくれ」

病院にて
「しっかし、いきなりレオがナイフで刺されたってきいたから
僕はてっきりかつあげにあって刺されたと思ったよ、
なんだかんだいってこいつシスコン&へたれだかんな。」
「それが、なんと乙女さんをかばって間合いにとびこんだとはねぇ、
こいつ、熱血なんだか馬鹿なんだかわかんねぇよ、」
「熱血バカだ、しかし、大事に至らなくてよかったぜ、
手術のあと、痛み止めと麻酔薬を打ったけど、
あしたには元気になるってよ」


すまなかったみんな、急な心配をかけて、」
「いいってことよ、レオは無事だったわけだし、」
「そうだよ、乙女さん、だって勝手に飛び込んだのこいつじゃん
乙女さんはぜんぜん悪くないよ」
ゲシゲシと蟹沢がレオの足をたたいている。
レオはさっきから薄目を開けたまま動かない。
まるで人形が寝ているみたいだ。

風がはいってきているな。
そうか、ドアを閉め忘れていたな、私としたことが、

あっ!……あいつは!さっきの!
廊下の先にはさっき私が殴り倒した男がかえりの支度をしていた。
警察官の横で。
そうか、同じ病院だったのか、なぜか肩の力が抜けてしまった。

「…とめさん、乙女さん」
蟹沢が呼んでいる。
「なんだ、蟹沢」
「元気だしなって、別に乙女さんがわるいわけじゃねえじゃんよ。」
「いや、私が悪い。」
「えっ!」
「確かに乙女さんに責任がないわけではない。」
「やめろよ、スバル、そんないい方ないだろ」
「いいんだ、鮫氷、事件に巻き込んだのは私だ。
いまレオを刺した男が警察に連行されている。」
「なんだって、それチャンスじゃん、いまのうちに
デストロイしちゃおうぜ、」
「だめだ、蟹沢、あとは警察に任せよう」


「なんでだよ、乙女さん、敵は目の前にいるじゃん
レオの敵を討つならいまだよ、なあスバル、フカヒレ」
「気持ちはわからんでもない。」
二人は黙ってしまった。
「話は聞いたぞ」
ガラッ
館長!
「ヘイぞーじゃん。 なんでここにいんだよ
まさかレオのことを聞いて空を飛んできたとか、」
「そうではない、 もともとこの病院はわしの
かかりつけなのだ。 しかしおどろいたわい。
院長と酒を酌み交わしていたところうちの生徒が
運び込まれて、それが対馬だったとはな、
鉄、いろいろたいへんだったな」
「いえ、 ねぎらう労をした覚えはありません。
原因を作ったのは私ですから」
「そう、 自分を責めるな、鉄、
もしかしてと思うが、敵を討つか迷っておるのか?」
「……はい」
「そうか、 ならばここから3キロ西にある竹林にいくがよい。
そこでじっくり考えろ、そうすれば答えは自ずと見えてくる」
「何、そこにいけばなにかあんのか、ヘイゾー」
「何もない」
「なんだよ、それー」
「蟹沢、鉄の気持ちを察してやれ。
この件で一番悔しい思いをしているのは鉄だ。
いま、鉄には一人になる時間が必要なのだ」
「う」


 私が見つけたい答え。
「ありがとうございます。館長、ではお先に失礼します」
「ああ、おおいに悩め、鉄よ」

(ここか)
薄暗い道を踏み込んでいく。
ここでは視覚はあまり頼りにならネいかもしれないと乙女は思った。
(冬の夜は寒い。ここに来てほんとによかったのだろうか。)
竹は夜の風に葉をこすり合わせる音で答えた。
乙女は枯葉のじゅうたんの上を進んでいく。
一歩一歩軽い音が乙女の耳をくすぐった。
ほのかな竹の香り、ふくろうの鳴き声、肌に触れる冷気に
乙女は包まれていた。
竹林は一人の傷ついた少女を向かい入れたのだ。
そして竹の葉の歌声は優しく乙女の心を癒し続けた。
しばらく歩くとぽっかりと開いた空間に出た。
乙女はそこの真ん中に陣取りねっころがった。
「すまない、レオ。私はお前を守ることができなかった」
枯葉を数枚むしりとる。
「なにが鉄だ、なにが武士に誇りだ、
結局一番大切な人を私は守れなかったじゃないか」
こぶしを地面にたたきつける。
すると周りの竹には数十の亀裂が走った。
「乙女さん、 一緒に帰ろう」
乙女は立ち上がる。


「レオ、 どこにいるんだ、レオ。私を迎えにきてくれたのかー」
竹林は答えない。ざわざわと鳴り響く以外は。
「あー、いないんだ」
再びねっころがって今度は夜空を見上げた。夜空には満月がぼんやり浮かんでいた。
ざわざわ、ざわざわ、……
(このおと、何かに似ているな)
しばし考える。
「そうか、波の音か」
乙女はすぐに烏賊島を思い浮かべた。
(あそこはレオと初めてキスをした場所。特訓で熟睡したレオのほほに軽くキスをした。
かわいかった、愛おしかった。)
「レオ……レオ…」
(いつもならこうやってお前を抱きしめていただろうに)
「レオ、私は今お前が愛おしいぞ、、とてもいとおしい」
五分後乙女は寝息を立てていた。
そのころには乙女のほほに一筋の雫がつたっていた。


おまけ1

「乙女さん乙女さん」
「……うぅっ」
何でこの人は真冬にこんなところでねれるんだろ。
「……レオ、本当にレオなのか?」
「そうだよ」
乙女さんはいきなり俺に抱きついて押したおした。
「心配したじゃないか…… 心配したんだぞ、もしものことがあったらって。
お前にもしものことがあったら私は……私は……」
俺は乙女さんの目を人差し指でぬぐった。
「大丈夫だよ、乙女さんもうなんともないから」
「それは本当か」
実際そうでもないけど。
「だから帰ろう、俺たちの家に」
乙女さんは安心してため息をついた。
「そうだな、とりあえず腹が減ったな、よし今日は
お姉ちゃんが奢ってやる」
俺たちは出口へ向かって歩き始めた。
竹林は名残惜しそうな歌で俺たちを見送っていた。


おまけ2

「あ、 出てきた、なんだ二人とも元気そうじゃん」
「だからいったろ、しかしまぁ、あの二人この距離にいても気づかないんだな」
「いいなぁ、いいなぁ、すっごくいいなぁ」
「ああ、心配して損しちゃった、ほんと迷惑なシスコンとブラコンね」
「でも、あのふたりすごく似たもの同士のような気がするよ」
「対馬先輩が鉄先輩に似てるんじゃありませんか」
「おっ、いつからそこにいたんだココナッツ、あそこ(竹林)にお前の
仲間が待ってるぜ、仲間に入れてもらえよ」
「うるさい!かにの分際で!」

「レオ、姫たちが来ているぞ」
「今はちょっとな」
「そうか、なら後でゆっくり話せばいい。」
「乙女さん」
「なんだ?」
「答えは見つかったの?」
「ああ、……ちゃんとな」
 いとおしい、ただ一途に。
 これが私の答えだった。
 終わり。


(作者・名無しさん[2006/01/28])

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