「うおっ、こいつとけね〜!!!ってか焦げてんじゃん!!」
きぬ叫ぶ。
「ちょっ、馬鹿カニがっ!!湯煎で溶かせって言っただろ!!」
椰子切れる。
ここは竜宮の台所。立っているのは椰子ガニコンビ。やっているのはチョコレート作り。
「でもこっちの方が早く溶けんじゃん!!早くレオに食わせてやりて〜んだよ!」
きぬ食い下がる。
「だったらおとなしく言うことを聞け!!チョコがもったいない!」
椰子さらに切れる。
今日はバレンタインデー。昼休み、きぬに手作りチョコレートを貰った。
はっきり言って見た目も酷かったが、食べたらもっと酷かった…。
ちょっと怖かったが、どうやって作ったのか聞いてみることにした。
「ん〜とね、まず売ってる板チョコをすり鉢で潰したんよ。その後溶かすためにお湯入れて、
固まんなかったからもっかい温めて片栗粉入れた!初めてまともに作ったのにちゃんと出来たよ!!やっぱボクって天才じゃね?」
俺のお腹の具合も心配だったが、きぬの今後の方がもっと心配だったので放課後竜宮でみんなに相談することにした。
しかし今日は運悪く椰子しかいないようだ。とりあえず相談してみた。
「お前、ちゃんと本とか読んで作ってるか?」
さすがお料理上手な椰子。まずは基本の確認。
「はぁ、読んでねーよ。めんどくせーじゃん!んなもん読まなくてもチョコぐらい作れんだよ!馬鹿にすんな!」
「いや、作れてねーし…」
俺は思わずつっこんだ。
「だいたい本も読まず、誰にも聞かないで作ろうっていうのが間違いなんだよ。お前一体何を作ろうとしてたんだ?
チョコレートにお湯?どうなるかくらいちょっと考えたらわかるだろ?お前、本物の馬鹿か?」
「んだてめー!!じゃあ、おめーは作れんのかよ?」
「当たり前だ。馬鹿な海洋生物と一緒にするな」
「じゃあ作ってみろよ!ここにチョコ残ってるから!」
「何であたしが作らなきゃいけないんだ?って言うか、お前に作ってやる物なんてねーよ」
「作れねーならはじめからそう言えよな〜!!えらそうに説教たれんじゃねーよダボがっ!」


椰子の顔が怒りに染まっていく。俺もこうなることくらい分かってんのに…。
「ふざけるなよ」
椰子はそう言うと、きぬの手からチョコをひったくると台所へ向かっていった。
きぬはその様子を見るとニヤリと笑みを浮かべた。こいつ、始めから計算して煽ってたな…。
「認めたくないけど、ココナッツ料理だけはうめーからな」
きぬはそう言うと台所に向かい、椰子の作る様子を観察しはじめた。
「…何だよカニ、大人しくむこうで待ってろ。ちゃんと食わせてやるから」
「おめーが毒入れないように見張ってんだよ!さっさと作れよな」
「そんな料理を駄目にするようなことはしない。やるなら直接やってやるよ」
俺はあわてて仲裁に入った。
「きぬ、せっかく椰子が作ってくれるんだから大人しく待ってようぜ」
俺の言葉を聞いても、きぬは台所から動こうとしない。
椰子が何かに気づいた。
「お前…、もしかして教えて欲しいのか?」
「そっ、そんなことないもんね!!」
「動揺してんぞ」
俺、再びつっこむ。
「何だ、教えて欲しいなら最初から素直にそう言えよ」
「だから教えて欲しいなんてボクは一言もいってないだろ!日本語理解できねーのか?単子葉植物!」
「くっ、この…」
(…すんません。椰子さん、ホントすんません…)
俺の表情を読み取ったのか、それ以上は何も言わずに作業に戻った。
(椰子もずいぶん大人になったな。それともきぬに何言っても無駄だって思ったのか…)
きぬもそれからは、何を言うわけでなく椰子の作業を見ていた。椰子の無駄のない作業に、不本意ながらも驚きは隠せないようだ。
下準備が済んだと思われる頃、椰子がふいに声をかけた。
「カニ、見てるだけなら手伝え」
「何でボクが手伝わなきゃなんないのさ!おめー1人の方がうまく出来ると思ってんだろ?1人でやれよ」
「ただ見てるだけより実際やったほうが覚えが早い。まともな手順も知らないんだろ?一度やるだけでも大分違う」
おおっ、椰子が優しい!きぬの真剣さが伝わったのかな?きぬも椰子の言葉を聞いて、ただ
「んじゃ、なにすればいい?」
とだけ言った。何か良い感じだ。このまま仲良くなってくれれば良いんだけど…。


んで、今に至るわけで…。
きぬが大人しく言うこと聞くわけないよなぁ…。あ〜あ、何かアレンジ始めちゃったよ…。
「んがーーー!!何で分離してくんだよ!!このチョコ腐ってんじゃねー!?」
きぬが吼える。
「チョコはお前が持ってきたんだ…って、お前何冷たいミルク入れてんだ!分離するに決まってるだろ!」
椰子再び切れる。
「せめて温めてから入れろ!しかもそんなに大量に入れるな!固まらなくなる!!」
空を見ると、日はとっくに傾いている。この惨劇はいつまで続くのだろうか…。
俺のために苦手な料理を克服しようと努力しているきぬ。非常に愛しさ溢れる光景のはずなんだが…。
「何だよ!ココナッツなんかトッピングしやがって!!『私を食べて♪』のつもりか?ふざけんな!レオはやらねーぞ!!」
「いらねーよ。何キモイ事言ってんだよ!潰すぞ!」
俺はきぬ一筋だよばかやろう…とか考えていると携帯が鳴った。
「乙女さん?」
ちょっと遅くなったからな…。心配してるんだろう。
「もしもし、ゴメン乙女さん。連絡も入れないで…」
「まだ学校にいるのか?もう遅いぞ、早く帰って来い!今日の夕食はチョコレートおにぎりだ。
私も最初は邪道だと思っていたが、食べてみると以外に…おいレオ、聞いているのか?」
「…うん、なるべく早めに帰るよ。じゃあ…」
「おい、レオ!もしも…」
俺は電話を切ると、再びある人に電話をした。
「もしもし、お前今晩暇か?乙女さんの手料理食わしてやるから遊びに来いよ」
「マジで!?行く行く!!いやぁ〜楽しみだなぁ!!早く言ってくれれば朝飯から抜いてたのに。」
「んじゃ、俺ももうすぐ帰るから。待ってるぞフカヒレ…」
心細いながらもいけにえを手に入れた俺は、未だ聞こえてくる言い争いを背に帰り支度をはじめた。


(作者・名無しさん[2006/01/20])

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