うー、いてててて…
えーと、何があったんだっけ?
まだ少しクラクラする頭で、俺は記憶を整理する。

「…なんて言うと思ったか、この根性無しが!」

ズドーンッ!!

「ぐえーっ!?」

そうそう。うっかり乙女さんの入浴を見てしまった俺は
例によって厳しい制裁を受けたんだった。
どうやらそのまま気を失っていたらしい。
周りを見れば、他の俺はまだ倒れて気を失ったままだ。

…他の俺?

いち、にい、さん、しい、ごお…

俺が5人いますよ?
いや、俺もいるから6人か。
いやいや、全部俺なんだから俺は一人であってつまりこれは

「 な ん じ ゃ こ り ゃ あ ぁ っ !?」

ってことだ!
思わずあげた俺の大声に、他の俺もムクムクと起き出してくる。
そして皆で顔を見合わせて、しばらく口をパクパクさせていた。

それでは皆さん、ご一緒に。

『 な ん じ ゃ こ り ゃ あ ぁ っ !?(×6)』


『騒がしいぞー。なんなんだー、人が風呂に入っているそばでー』

風呂場から呑気な乙女さんの声がする。

『た、大変だよ乙女さんっ!(×6)』

ガラッ

「…おまえ、また!…って…なんだ、目が…霞んでる?」

「違うって!」「どういうわけか」「俺が6人に」「増殖してるんだよ!」

「な…なんだと!?…む、確かに6人いるな」

「よくわからないけど」「乙女さんの」「キックの衝撃で」「増えちゃったのかな?」

「…そういえば、昔琢磨を折檻したときに同じようなことがあったな。
 あのときは3人だったが」

…前にもあったんかい。

「ところで、6人に増えたからといって
 制裁されないわけではないからな?」

「…ソウデスネ」

思わず扉を開けてしまったが、乙女さんはまだ裸なわけで…

ズドーンッ!!(×6)

宙を舞いながらふと思う。
6×6で36人にならないだろうな…


「さしあたって、見分けがつかないのは困るな」

風呂から出た乙女さんが、腕組みをして俺を見つめる。

「乙女さんでも見分けがつかない?」

「うむ。外観はまったく同じだ。放つ気が微妙に違うが
 それで区別できるというほどでもないな」

あ、多少は違いがあるんだ。

「そこで、各自これをつけておけ」

乙女さんが色とりどりの細い布きれを取り出す。
…鉢巻?

「お前は、赤だな」

こうして俺はレオ(レッド)になった。
他にはブルー、イエロー、グリーン、ブラック、ホワイトがいる。

「…ピンクはないんだね」

「いや、あるぞ?ピンクは私がつける」

いや、乙女さん増殖してないから、と突っ込みたかったが
なぜかピンクの鉢巻をしめながら嬉しそうにしているのでやめておいた。

「これでレオレンジャーだな!」

レオレンジャーって…何と戦えばいいんだよ。
まあ、いいけど。


「それで、乙女さん?」

「ん?なんだ?」

「前に琢磨が」「分裂だか」「増殖したときは」「どれくらいで」「元に戻ったの?」

「ああ、結構時間がかかったな…
 確か1ヶ月ぐらいして、ある朝突然に元に戻っていたぞ」

むう。1ヶ月か…結構長いな。

「まあそう難しく考えるなよレッド」

グリーンが笑いながらポンポンと俺の肩を叩く。
ブルーは半ば諦めたような感じで

「まあ、なっちゃったもんはしょうがないよなー」

「そうだけど、早く元に戻る方法とかあるかもしれないじゃないか」

俺が反論すると、ブラックが俯きながらつぶやく。

「俺たちが6人もいたら、乙女さんだって大変だしな」

「逆に、6人もいりゃ家事を分担したっていいじゃん?」

と、イエロー。ホワイトがパン!と手を打ち合わせる。

「よし、各自、自分でいいと思うように行動しようぜ!」

まあ人格とかバラバラみたいだし
そうするしかないかな…


こうして、俺×6人は奇妙な共同生活を…
いや、元は一人なんだし共同ってのもアレだが
とにかく暮らし始めた。

一番懸念されたのは学校生活だったが
意外にも周囲からはすんなり受け入れられた。
そして…それぞれが別々の女の子たちと親しくなっていった。

グリーンはカニと遊び回りホワイトは姫に忠誠を誓い
イエローは椰子に辛抱強くつきあいブラックは佐藤さんと親密になり
ブルーはこっそり祈先生とつきあってるらしく…

俺は乙女さんに思いの丈を告げ、その思いは受け入れられていた。
みんな上手くやってる。そう思っていた。

ある晩。トレーニングの合間に、乙女さんがぽつりと漏らす。

「お前が…また一人に戻ったら
 私たちは、どうなるのかな」

「どうって…俺は乙女さんひと筋だよ?」

「それはレッドであるお前だけだろう。
 ほかの五人は…それぞれ、別に好きな相手がいるようだし」

「ずっと…このままバラバラでいるわけにはいかないのかなぁ」

「どうなんだろうな…
 仮に…仮にお前が一つに戻ったときに、もしも私を選ばなくても…
 私は、お前と愛し合ったこの日々を後悔はしないから、な」

一つに戻りたくない。切実にそう思った。


6人で車座になって話し合う。
今までも時々こうやって、情報を交換したりしてきたが
今日は皆、表情が硬い。

「もうすぐ、だな」

「1ヶ月か…思ったより早かったな」

「…言っておくが、俺はエリカに永遠の忠誠を誓ったからな」

「俺だって、なごみと一緒に夢を追いかけるって約束したんだ」

「良美は…必ず、俺が幸せにする」

「おいおい、俺だってきぬとハッピーになりたいんだぜ?」

「俺の乙女さんへの思いだって誰にも負けないぞ」

誰も譲らない。そりゃそうだ、全部俺なんだし。

「ブルーはどうなんだよ?祈先生ってそんなに積極的じゃないんだろ?」

ブルーが頭をポリポリとかきながら
ちょっと首を捻って答える。

「いや、そうなんだけどさ。
 一つになっちまったら、俺たちの思いも
 一つに混じり合うんじゃないかな」

「混じり合う?」

「つまり、一人に戻ったら全員を好きになってるんじゃないかってこと」


ブルーの一言で皆少し同様する。

「そんな一度に6人の女の子を好きになれるもんか?」

「一度にじゃないだろ。
 俺たちはそれぞれ別の体験をして
 その結果、彼女たちを好きになったわけだし」

「それぞれの感情を持ったまま一つに合体するわけか…」

俺の乙女さんへの思いも、消える訳じゃなくて
6つの気持ちの中の1つになるってところか。

「けどさ、体は一つになっちまうんだぜ?
 どうすんだよ、その…アレとか」

他の女の子とするのは乙女さんを裏切るみたいな気がする。

「そりゃ…相手もあることだし、話し合って決めればいいんじゃないか?」

「いや、俺たち自身の気持ちの問題でさ。
 好きな相手以外とのHに抵抗ってないか?」

「…」「…」「…」「…」「…」

「ない」「ないね」「ないな」「全然」「気にしない」

「ええい、このスケベどもめ!」

…ってみんな俺か。

「まあまあ。とりあえず、今日はもう遅いから明日にしようぜ」


「おはよー、乙女さん」

目覚めはさわやか。乙女さんに起こされる前にスッキリ起床。
そのまま洗面所に向かうところで乙女さんと鉢合わせ。

「ん…おはよう…えっと…レッド?」

「は?いや、俺は…」

振り返る。
この1ヶ月、いつもぞろぞろと連れだって歩いていた俺たちは、今朝は俺一人だった。

「そっか…戻ったんだ」

俺はまた一人になったけれど
俺の中には乙女さんを愛するレッドの気持ちは確かにあった。

「乙女さん…俺の中にレッドがいるの、わかった?」

「ああ…私の好きなレオは、ちゃんとここにいる…」

乙女さんは見つけてくれた。だから呼びかけてくれた。
きっと他の女の子たちも
自分の愛したレオを俺の中に見つけだしてくれるだろう。

「ところで、一人に戻ったところで
 レオに聞きたいことがあるんだが…
 一番好きなのは、モチロン私だろうな?」

…ハーレムって、大変かもしれない。

「こら、なんで黙ってるんだ?早く答えないと朝飯抜きだぞ?」


(作者・名無しさん[2006/01/16])

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!