「は〜、やっと終わった」
「お疲れ様です。センパイ」
オレは今日で試験が終わった。昨日まではひたすら勉強。
正直つらかった。何度も投げ出そうとした。
しかしそんな時に考えるのはなごみの事。
将来なごみが店を出した時に経営面で手助けするとの約束。
その事を考えると自然とやる気が出る。
「後は合格発表を待つだけですね」
「ああ、正直不安でいっぱいだ。あんまり自信ないしな」
本当に自信がない。
確かに勉強した。全力でやったが不安は残る。
全力を出しきったら後悔なんてないとか言うがあれは嘘だろ。
結局落ちてしまったら、もっとやっとけば良かったって考えるんだ。
どこまでやったって100%はありえない。
「大丈夫ですよ。センパイあんなに頑張ってたじゃないですか」
………卑屈すぎたな。
出来る事は全部やったんだ。
信じてみるか、自分を。
「ありがとう、なごみ」
「そんな、お礼を言われる程の事じゃ」
「なごみが居たからここまで頑張れたんだ。俺一人じゃここまでは頑張れない。
だからさっきのは、俺のそばに居てくれてありがとうって意味だよ」
「センパイ……ありがとうございます」
あれ、俺が感謝されてる?

でも、なごみには本当に感謝している。
大切な人の為なら頑張れる。
その事を教えてくれたんだから。


………今日は合格発表日だ。
といっても今日ので最後。
他は全部落ちてた。
でも、ここのは自分でも結構できたと思う。
滑り止めってやつ。
封筒が来れば合格。
はがきが来れば不合格。
俺はどっちなんだろうか。
「とりあえずポスト見てみるか」
玄関に向かう。
そこにはなごみが立っていた。
「おはようございます、センパイ。
ポストにこんなもの入ってましたよ」
なごみが見せてくれたものは一枚のはがきだった。
「そうか………不合格か……」
「いきなりどうしたんですか。あたし……来ちゃダメでした?」
「そんなことないよ。ただ、その手に持ってるものが目に付いてな」
「?これがどうかしたんですか?」
「はがきが来たって事は不合格なんだよ」
「え!?そうだったんですか!?」
最悪の事態ってやつかな。
まさかひとつも受からなかったとは。
「で、でも他にも何校か受けてるんですよね」
「いや、それで最後。他のも落ちてたよ」
「センパイ………そ、そうですよ来年。来年があるじゃないですか」
「そうだよな。なごみは受験とは無縁だもんな。
だから気軽に来年なんて言えんだよ」
あれ?これ俺が言ったのか?
「そんなつもりで言ったんじゃ……怒ってます?」


言われて気付く。
何で俺はキレてんだろう?
だが、気付いてるはずなのに思っても無い事が口をついて出てくる。
「なごみは料理人になるから受験なんかしないだろ。
だから、今俺がどんな気持ちかなんて分からないよ」
俺はこんな事これっぽちも思っていない。
いないのにまた出てくる。
「楽だよなあ、勉強しないでいいってさ。
料理が好きなんだから苦にならないだろうしさ」
「……センパイ………」
「ははは、前言ったとおりになったな。これでなごみと同学年だ」

パー―ン!!!!!

……何が起こった?
乾いた音と同時に左の頬に痛みが走る。
「……センパイ。叩いて申し訳ありませんでした。それじゃあ、あたしはこれで」
これだけ言うとなごみは振り返って玄関に向かった。
目が少し潤んでいたように見えたが……。
俺は何を言ったんだっけか?
…………そりゃ怒るわな。
「ちょっと待て、なごみ」
そう言いながらなごみの肩に手を伸ばす。
「触るないで下さい!!!」
え?………俺がなごみに触るなって事?
「失礼しました」
そう言って家を出て行く。
…………そこまで怒ること……無いよな?
「くそ!!いったいなんなんだよ!?」
俺はなごみを追わなかった。
今は頭の中がいっぱいだ。


……………センパイを叩いてしまった。
料理の事をバカにされたような気がしてつい。
「センパイ……怒っただろうな……」
でも……センパイはあたしの夢を応援してくれる。
そう言っていた。
あたしがどんな進路を選んでもあたしと先輩の関係は変わらない。
そう言っていたのに。
あたしが選んだ道は間違ってたのだろうか。
「あたしが料理人になるの………センパイ…反対なんだろうか」
………すごくさみしい。
反対って事は無いかもしれないだろうけど、
応援はしてくれないんだろう。
どちらにしても、もうセンパイの家には行けないだろうな。
「あたしの居場所………無くなってしまったなあ」
フラワー椰子にはお母さんと天王寺さんがいる。
あたしの居場所じゃない。
今はどこか自分の居場所が欲しい。
少しゆっくりしたい。
……そうだ、駅前に行こう。
昔、あたしの居場所が無いときによく行ってたあの場所。


駅前に来たが今はまだ人が多い。
端の方のベンチに腰掛ける。
「……はあ………」
ため息をつきながらボーっとする。
いつの間にか人もだんだん減ってきた。
あたりも暗くなってくる。
あたしの居場所。
それでも人はいるが、他の場所よりは少ない。
見える範囲にも数人ぐらい。
帰宅途中のサラリーマンや酔っぱらい。
待ち合わせしている人間やストリートミュージシャン。
「あれ?あの人は」
見覚えのある顔。
少し近づいてみる。
やっぱりフカヒレ先輩だった。
「こんばんわ」
「はいはい何弾きますか?…って椰子じゃん。何してんだよこんな時間に」
「フカヒレ先輩には関係ないです」
「ヒイッ……いちいちにらむなよ、怖いから」
「卑屈ですね。ところで最近は東京の方に行ってたんじゃないんですか?」
「いや、久しぶりに地元でやろうと思ってさ。
少しぐらいは上達してきただろうしさ」
「……大変そうですね」
「いやあ、そんな事は無いさ。好きでこれやってるんだから」
「悩んだりした事は無いんですか」
「そりゃ俺だって悩む事ぐらいあるさ。
でも悩んでみたところで俺にはこれしかやりたい事なんて無いんだよ。
だから、もしやめようと思ったって逃げ道が無いんだよなあ」
フカヒレ先輩は本当にすごいと思った。
きっとこの人は本当にやめようと思った事もあるんだろう。
そこで、自分で答えを出したんだろう。
そういえば自分が料理人になりたいと思い始めたのも、この人に影響されたとこがあった。


「フカヒレ先輩、ありがとうございました」
「え?どういたしまして?
なんだよいきなり。それじゃあ俺と付き合ってみる?」
「それじゃあってなんですか。それにあたしには………」
(センパイがいますから)その言葉が出てこない。
「冗談だって、椰子にはレオがいるもんな」
「潰しますよ」
「ひいっ……ごめんなさい」
なんて臆病なんだろう。
でもこの人ならきっとあたしの夢をバカにはしないだろう。きっと応援してくれる。
「あたしは……料理人になろうと思ってます」
「そうか、まあ頑張りなよ」
「でも今日、センパイにいろいろ言われて」
「まあ、あいつはヘタレなとこあっても根はいいやつだから、
何言ったか知らないけど人を傷つけるような事は本気では言わないさ。
それに何言われたって料理人になるのあきらめるわけじゃないんだろ」
「それは当然です。あたしも料理が好きですから」
この人はあたしの居場所にはならないだろうか。考えてみる。あたしはやっぱりセンパイといたい。
「ならいいんじゃないか。さて、椰子ももう帰りな。もうこんな時間だろ」
「いえ、あたしは」
戻りたいけど戻れない。。
「レオが心配してるかもよ。それにこんな時間にうろついて、襲われても知らないぜ」
………センパイ、あたしの事心配しているんだろうか。
「そうですね、フカヒレ先輩に襲われるのもいやなんで帰ります」
「お、俺はそんなことしねえよ」
「冗談ですよ」
「もうのろけ話なんて聞かせないでくれよ」
「どうでしょう」
センパイの家に戻ろう。
あたしの居場所か確かめに。


気分は最悪。
何であんな事言ってしまったんだろう。
なごみの夢は応援する。
それは俺自身で決めた事だし、何よりそのために頑張って勉強もした。
でも口をついて出てきたって事は心の底であんな風に思ってたんだろうか。
もしくは、なごみに無関係じゃないのになんで他人事なんだと考えていた。
俺自身の問題なのになごみの問題だとすり替えていた。
要はなごみの夢に引きずられてたからだ。
一番納得できる、というか実際にそう思ってたのかもしれない。
「最悪だな、俺って」

ピンポーン

「ん?誰だこんな時間に。はいはい今行きますよ」
玄関に向かう。
「はい、どちらさまですか」
「こんばんわ、センパイ」
「なごみ………今朝は悪かったな」
「悪いと思うなら何で追ってこなかったんですか」
そう言うとすごい目つきで俺をにらむ。
目をそらしそうになったが、俺はなごみの目をみる。
「正直、追って行っても何もできないと思ったからだ。
なごみの夢を馬鹿にして、何を言っても許されないだろう」
「そう思ってるならなぜあんな事を言ったんです」
「ああ、あれからずっと考えてみたんだが。
俺自身の問題なのになごみの問題だとすり替えていたから。
こういう風に考えていたって事が一番自分自身で納得できた。
なごみの夢に引きずられていた。
自分自身が大切な人のために頑張ろうと思っていたのに、
いつの間にかこれはなごみのためってさ。
俺のためでもあるってとこが抜けてたんだよ。
まるで道化だろ?」


思っていたよりもあたしのことを考えていてくれたようだ。
あたしもあれぐらいで怒るなんて、まだまだ子供なんだろうか。
「道化だなんて、あたしもあそこまでする事は無かったと思ってます」
「そんな事無いよ、自分の夢をバカにされたんだ。
あれ位じゃぬるい位だろ」
「いえ、あたしもついかっとなって。それはそうと左頬大丈夫ですか」
「ん?ああ、大丈夫だよ。心配なんかしなくていいぞ。これは俺が悪いんだし」
「本当にごめんなさい。でも、もし何かあったら」
「だから、もういいって」
「………分かりました。あの、お詫びといってはなんですが………」
「なに?」
あたしはセンパイの左頬にキスをした。
「ごめんなさい」
「なごみ」
「ハイッ、なんでしょう」
怒らせてしまったかな。
「次は口で頼む」
「……ハイッ」


ここがあたしの居場所でいいと思う。
センパイが好き。
理由はそれだけ。
それだけでいいと思う。
これからもずっと


エピローグ?

「今日は最近人気のこの店にやってまいりました。
なんとこの店、奥様が料理を作り旦那様が経営と、
夫婦二人だけで切り盛りしているんです。
それでは、奥さんの方に話を聞いてみたいと思います。こんにちわ」
「こんにちわ」
「二人だけでやっていくのは大変じゃないですか?」
「それは大変ですが、二人で決めた事ですので」
「今大人気ですが、いつ頃から料理を勉強されたんですか?かなりお若いですが」
「料理は子供のときに父に教わりました」
「そうですか、すごいお父様ですね。今は?」
「今は………他界しています」
「失礼しました。そういえば旦那様は今どこに?」
「今なら、奥の方で頭抱えてますよ」
「何か大変な問題でもあるんですか?」
「いえ、人気が出てきてうれしいんですが、
二人の時間がなくなってしまったってぼやいてますよ」
「そうですか、それは幸せそうですね。それでは今日はこの辺で。ありがとうございました」
「ありがとうございました」

「インタビューどうだった?」
「父から教えてもらったって言えましたよ」
「じゃあ勝ちだな」
「はい。あとあなたが二人の時間がないってぼやいてるって言っておきましたよ」
「なっ、嘘だろ全国放送じゃないのか。頼むよマジで」
「いいじゃないですか。あたしは今幸せですよ」
「俺も幸せだよ。なごみが居てくれたからかな」
「いやセンパイが居てくださったからですよ」
「じゃあ、どっちもってことだ」
「ハイッ」


(作者・名無しさん[2006/01/13])

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