「レオ、ここはこうか?」
「そうそう。やればできるじゃないか」
ここは生徒会室。今はほとんど仕事がなくてオフシーズンのような状態だ。
俺と乙女さんはちょうどよかったので、パソコンを使わせてもらっている。
もちろん、佐藤さんにちゃんと許可をもらっているぞ。
まだまだ乙女さんはパソコンに不慣れだからなぁ。
「ハロー。あら、乙女先輩がパソコン使ってる。珍しいこともあるものね」
「やはり使えると便利だからな。一応、基本的なことはできるようになったつもりだ」
「意外と吸収が早いんだよ、乙女さんは」
「はいはい、仲の良い姉弟ですこと。ラブラブねぇ」
もう俺と乙女さんが付き合っているのは周知の事実。今更隠す必要もない。
「よっぴー、お茶」
「ちょっと待ってね」
素早くお茶を淹れ、茶菓子もすぐに用意するよっぴー。
もはや完璧な姫のメイドだな。
「はい、お二人もどうぞ」
「ありがとう」
「うん、佐藤は優しいな」
一口お茶を啜った後、茶菓子を口に放り込む。
「そう言えばレオ、朝に胃がむかつくとか言ってなかったか?」
「大丈夫でしょ、これぐらいなら」
すると、どうしたことだろうか。
「うっ…うがっ…あっ…!」
「どうした、レオ!?しっかりしろ!」
急激な腹痛に見舞われ、俺はその場でダウンしてしまった。
この痛みはとても我慢できるものじゃない。
「そ、そんな…!まさかよっぴー…」
「変なものなんか入れてないよう!買ったばかりのお菓子だし…」
「それはともかく、これは大変だぞ!佐藤、すぐに病院に電話するんだ!」


「ちょっと待って、救急車はダメよ!」
「どうして?このままだと対馬君が…」
「昼間、付近で玉突き事故があったの。まだ復旧の目処が立ってないのよ。
 交通規制とかがすごくて、車では時間がかかりすぎるわ」
「じゃあ保健室は?」
「さっき先生が帰っちゃったから…風邪ひいたから早退するって」
そ、そんな…そんな保健室ありかよ。
さすがは竜鳴館、こんなところまで普通じゃないとは。
しかし、みんな同じものを食べたのになんで俺だけ…?
「…仕方ないな。佐藤、一番近い病院はどこだ?」
「え?えっと…」
佐藤さんは机の上に松笠の地図を広げた。
そして、学校から最も近くてそれなりに大きい病院の場所を指差す。
「ここですね」
「そう遠くはないな…よし」
「どうするんですか、乙女先輩?」
乙女さんは俺の傍にしゃがみこむと、急に俺をおんぶした。
そして、紐で俺と乙女さんの体をしっかりと固定する。
「私がレオをおぶって病院まで行く」
「ええ〜!?」
「後は頼んだぞ!」
とても痛くて声が出せない俺のことはお構いなしに、乙女さんは生徒会室を飛び出してしまった。

「…どうしよう?一応カニっち達に連絡しようか?」
「そうね。私は乙女さんを追いかけるわ」
「うん、じゃあ任せてよ」


ひょっとしたらレオの腹痛は食あたりではないのかもしれない。
朝から様子が少しだけおかしかったから、なにか恐ろしい病気にでもなってるんじゃないだろうな。
一刻を争うようなことかもしれないから、急いでやらねばな。
途中の障害物など関係ない。直線コースで一気に突っ走るとしよう。

「あーあ、せっかくツーリングに来たのににゃー」
交通規制だって。全然面白くもなんともないね。
「ケーサツ相手にするのはマズイしなー。っておわっ!」
川を越える橋の上を走っている時、突然女の子が飛び出してきた!
歩道も何もないのに!?
「わぁぁあぁぁぁ!」
ブレーキを思いっきりかけたけど、とてもじゃないけど間に合わない!
ダメかと思ったその時…!
「破ッ!」
女の子の掌底がバイクのボディの前面を打ち付けると、なんとバイクの後ろが吹っ飛んでしまった!
部品なんかもうバラバラになっちゃったよ。
前のほうはなんともないのに…
「そ、そんな…」
女の子は軽く頭を下げて、
「飛び出してすみません。私は竜鳴館3年の鉄乙女。急いでいましたので…
 あとで連絡してください」
そう言うと、そのままどこかへとものすごいスピードで行ってしまった。
アタシはボーゼンとしてたけど後ろから走ってきた車のクラクションの音で我に返った。
「アタシのキャットスライガー…」
無残な姿になったキャットスライガーをその場に置いて、アタシはそのまま橋を渡った。
でも、これからどうしよう。
モエか要芽姉に迎えに来てもらおうかな…


ええい、また川か。
しかも今度は橋が近くにないな。向こう岸までの距離は…そう遠くはない。
あまり大きくない川だから、これならアレを試してみるとするか。

「釣れねーなー…今日釣れなかったら、メシはどうすりゃいいんだ?」
空也の帰省したところに来たのはいいが、アイツ家に入れてくれねーんだもんな。
薄情なやつめ。しかも帰りの金を誰かにパクられちまったし…
バイト代が貯まるまで、仕方がないから浮浪者同然のような生活をしているわけだ。
「ん?なんだ?」
向こう岸でキョロキョロと辺りを見回している女の子を発見。
背中にはぐったりとした男がいる。
突然、後ろに下がって屈伸運動をしたかと思うと、急に川に向かって走り出した!
「おいおい、マジかよ…」
女の子は恐ろしいスピードで足を動かし、なんと川の上を走っているのだ!
こんな常識離れしたのは、この団長、今まで見たことがねぇ。
少し沈みそうになったが、なんとかこちらの岸まで到着し、女の子は俺のほうを向いた。
「釣りをしているところ、申し訳ありませんでした」
ちょっと息を切らせていたが、どうやらなんてことはないらしい。
俺が話しかける間もなく、女の子はどこかへ行ってしまった。
頬をつねってみたけど、どうやら夢じゃないらしい。
「はは…こんなの誰に話しても信じないだろうな…」

さすがに今のは無理があったか…少々疲れてしまったぞ。
だが、病院までもうすぐだ。レオ、もう少しの辛抱だからな。


病院に到着して事情を説明すると、どういうことか緊急手術となった。
そんなに深刻な事なんだろうか?
もしかして寄生虫が腹の中に入っているとか…
心配していると、姫が飛び込んできた。
「乙女先輩、対馬クンの様子は?」
「ああ、なんだかいきなり手術をするとかで…」
「…マジで?」
今度は遅れて蟹沢達が佐藤と一緒にやってきた。
かなり急いで来たらしい。
4人に事情を説明すると、全員が顔を青くしてしまった。
「そんな…私のせいだ…私が…対馬君を…」
ボロボロと泣き崩れる佐藤、それを姫は無理矢理抱き起こした。
「何もよっぴーのせいじゃないでしょう!?
 原因もわかってないのに、勝手に自分のせいにしないで!」
「エリー…」
姫の怒声が病院内に響き渡った。
こんな佐藤を見ていたくないのだろう。
「そうだぜ、よっぴー。ま、姫もここは病院なんだから怒鳴るなよ」
語気を荒げる姫、それをなだめる伊達。
蟹沢と鮫氷もさすがに一言もしゃべらない。
すると、手術室のライトが消え、中から医者が出てきた。
私はすぐに詰め寄り、どうなってるのかを聞くことにした。
「あの、レオは…」
「ああ、心配要らないよ。彼は…」


ここは病院の一室。俺は入院が決定した。
「まったく、急性盲腸炎だなんて、人騒がせな奴だぜ」
「スバル、キューセーモーチョーエンってなんだ?なんかの呪文か?」
「病気だっての。呪文じゃねーって」
「まぁ、大事に到らなくてよかったわね」
まだちょっと痛いけど、とりあえずは一安心。
しばらくは動くのがつらくなりそうだな。
「乙女さん、ありがとう。乙女さんがいなかったら、今頃…」
「レ、レオ…わ、私は姉としてだな…」
「はいはい、病院でもいちゃつくなんて。しかも私たちのいる目の前で」
姫があきれかえっていると、祈先生がしずしずとやってきた。
「みなさん、ごきげんよう。対馬さんが亡くなったと聞きましたが」
「祈ちゃん、その冗談はここじゃ笑えねーぞ」
「これは失礼しました。対馬さん、大変でしたわね」
「いえ、心配かけてすみません」
「心配なんてしていませんわ。ただ、私のクラスから死者が出たら面倒だと思いまして」
なんて恐ろしい担任だ。生徒なんてどうでもいいのかよ。
そんな俺をよそに、祈先生は今度は乙女さんの方に向き直った。
「鉄さん、まさに生徒の鑑ですわ。飴を差し上げましょう」
「いえ、私は姉として当然のことをしたまでです」
いつも通りのきりっとした顔つきになる乙女さん。
でもなぁ…
「姉として当然の事なら、バイクはぶっ壊してもいいのか…」
「乙女さん、そんなことしたの?」
「なっ…気がついてたのか?てっきり気を失ってると…」
「そりゃそうだよ。川を走って渡るなんて、普通の人間じゃできない芸当だよ」
「さすがは鉄家といったところね…」
「それだけで十分新聞沙汰ですわー。珍獣扱いですけど」


乙女さんは恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてしまった。
祈先生もキツイなぁ。珍獣扱いって…
「まったく、乙女さんの超人ぶりには…」
「う…うるさい!病人は静かにしていろ!」
ドスッ!(腹に一撃)
「ぐえっ!!あ…が…」
ドクドクドク…
「あ…」
「乙女先輩…」
「やべーぞ、これ…」
「しっかりしろ、レオ!レオー!」

トゥルルルル…
「はい、ナースステーションです」
「すみません。傷口が酷くなりましたので、もう一回手術をお願いします」
「はい?」


(作者・シンイチ氏[2006/01/11])

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