「乙女、ちょっと話がある」

なんだろう。爺様が少し改まった態度で道場に胡座をかいた。
私もその前に正座をする。

「お前も、来年は高校受験じゃの」

「はい」

「進学先じゃが…もう決めたか?」

「いくつか、志望校はあげていますが
 正直、納得のいくような修行ができそうな所は
 まだ見つかっていません」

「ふむ。どうじゃ、ワシの知己がやっておる学校に
 通ってみんか?そこなら、ワシも安心してお前を預けられるのじゃが」

爺様のお知り合い?どのような方なのだろうか。
私の疑念を読みとったかのように爺様は話を続ける。

「橘 平蔵という男がやっておる
 私立の竜鳴館という学校じゃ。
 場所が松笠で、ちと遠いのじゃがな。どうじゃ?」

竜鳴館。
いい名前だ。気に入った。それに、爺様が認めたほどの方の下なら
きっとよい修行ができるだろう。
爺様に深く礼をして、私はすぐに答えた。

「わかりました。
 私立竜鳴館、受験しようと思います」


私の答えに、爺様が満足げにニコリと笑う。

「うむ。松笠には、対馬も住んでおる。
 通学が遠くて大変なようであれば、対馬の家に下宿してもよかろう」

ああ、そういえば、松笠には、対馬家があったのだな。
もう何年も顔を合わせていないが…レオは、元気だろうか。
あのころは言葉の意味もよくわからないまま
娶ってやる、なんて言ってしまったが…

「どうした?妙な笑いかたをしおって」

「ああ、いえ。
 爺様は、レオのことは覚えておいでですか?」

「おお、あの根性無しか。
 …お前は、あれがお気に入りじゃったなぁ」

「気に入ってなどいません。
 ただ…何というか、放っておけない
 手の掛かる弟のような…」

そう、あれは弟のようなものだ。
あの口約束だって、まさかもう覚えてはいないだろう。
だけど…もしも覚えていたら。ずっと私を待っていたら。
もし、まだ私を待っていて、相応しい男たるべく精進を積んでいたら…

「どうした?顔を赤くしおって」

「何でもありません!」

…爺様は、ちょっと意地悪だと思った。


結局、1年生の時には対馬家に顔を出すこともなかった。
2年生になって、レオが竜鳴館に入学してきたときには
少なからず驚いたものだ。
何度も声をかけようと思い
そして結局はこちらから声をかけることはなかった。
レオはレオで私に全く気づいておらず
それがちょっと悔しかった。
まあ学年が違うし、生徒数だって多いから
仕方がないのかもしれない。
そう思いながら、時々見守るにとどめていた。

そして最終学年を迎えた春。
私は再び爺様から話を切り出され…
そして、あの日。

覚えていなかった。
レオは…覚えていなかった。
あの約束どころか、私のことすら覚えていなかった!
思い出したのはいいが、そのきっかけが蹴りの痛みとは
いったいどういうことなのか!
腹立たしく、そして…寂しかった。
自分ではずいぶん可愛がっていたつもりだったのに
蹴るまで思い出さないなんて。

…まあ、いい。
別に、未だにレオを娶りたいわけではない。
そう、幼い子供の頃の話だ。気になどしない。
だが、見たところずいぶんと腑抜けた暮らしをしているようだ。
また鍛えてやらねばなるまい。もちろん、姉として、だ。
そして刻み込んでやろう。
私がいかに…レオを大事に思っているか
一生忘れぬように、刻み込んでやるからな…


(作者・名無しさん[2006/01/10])

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