帰宅して、居間に入ったオレの目の前に立ちはだかる大きな壁。否、コレは俗にケーキと呼ばれるモノでは無いだろうか。その大きさはともかくとして。

「なごみ・・・嬉しいのはわかるんだけどな。コレはちょっと大き過ぎないか。2人で食べ切るの絶対無理だぞ」
「何言ってるんですかセンパイ。初めての2人の結婚記念日なんですから。コレでもまだあたしの気持ちを表現しきれないくらいですよ」

 目の前でなごみがちょっと頬を染めながら嬉しそうに笑う。うん、とても可愛いんだけどな。

「なごみの気持ちはよくわかった。しかしなぁ。現実問題としてコレ、どうやって食べればイイんだ」
「大丈夫ですよ。ほとんどは土台で、実際に食べられるところは少なくしてありますから」
「そ、そうか。ちゃんとその辺は考えてるんだな。エライぞなごみ」
「えへへっ♪ 褒められちゃった♪」

 なんとなくそれを先に言えとも思ったが、まぁ言わないでおくのが吉だろう。せっかくの記念日に水をさす事もないだろうし別の思惑もある。

 オレはガサガサと手に持っていた袋から、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。


「ほら、なごみ。結婚記念日のプレゼントだ。受け取ってくれ」
「え・・・、セ、センパイ。あたし・・・とっても、嬉しいです! あ、でもあたし、料理を作るのに夢中でセンパイへのプレゼント買ってない・・・」

 喜んだり落ち込んだりと目まぐるしく表情を変える。そんなトコロも可愛いのだが。というかぶっちゃけ、なごみはいつでもどんな時も可愛いんだけどな。

「センパイ・・・あたし、どうしたら・・・」
「大丈夫。なごみにしか出来ないプレゼントがあるから」
「えっ・・・それって・・・まさか・・・(ぽっ)」
「違うって。何かいやらしい想像しただろお前。いやまぁ、それも1つなんだけど」
「・・・違うんですか?」
「あのさ。オレとなごみが結婚して、今日で丁度1年だよな」
「はい。この1年、大変な事もあったけど、あたしはずっと幸せでした。センパイと一緒に居られて」
「それ」
「え?」
「そろそろさ・・・その、センパイっていうの止めない?」
「だってセンパイはセンパイ、でしょう?」

 不思議そうな顔をするなごみ。ちょいとオレも照れるが、ココで言わなきゃ男じゃないぜ。

「えーっと、ほら、夫婦なわけだよなオレ達。だったらさ、別の呼び方があるんじゃない?」
「別の・・・?」
「ドラマとかでさ、奥さんは自分のダンナの事をなんて呼んでる?」
「えっと・・・あ、あなた?」


 たちまちなごみの顔が真っ赤に染まる。言い慣れていない言葉だから照れているのだろう。特に相手はこのオレなわけだし。

「そうそう。今日を機会にさ、これからそう呼んでくれないか。オレにとってはそれが最高のプレゼントだよ」
「あ・・・あなた、あなた、あなた!」

 恥ずかしそうに連呼する。そう呼ぶように言ったオレまで恥ずかしくなってきた。

「ま、まぁいきなり慣れろっていうのも無理な話だからさ。ゆっくり慣れてくれればイイよ」
「はい、セ・・・あなた」
「じゃあ、そろそろメシ喰おうか。せっかくなごみが作ってくれたのに冷めちゃもったいないからな」
「はい、もう準備は出来てるんでたっぷり召し上がって下さいね」

 オレもなごみもまだ照れたまま夕食をとる。料理もケーキも全て平らげたあと、片付け、風呂と済ませたオレ達は寝室へ向かった。
 メシの前に「あなた」と呼んでくれてから、なごみは「あなた」と言おうとしない。「センパイ」とも呼ばないので、多分自分なりに慣れようとしてるのだろう。今日のトコロはコレで十分。その内、自然に言えるようになるだろう。

 さて、待望のメイクラヴですよ。今日は結婚記念日だし、よーしパパ張り切っちゃうぞー。と1人で勝手に盛り上がっているオレの耳に、なごみがそっと囁いた。

「今晩も、いっぱい可愛がって下さいね。ア・ナ・タ♪」


(作者・名無しさん[2006/01/06])

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル