「対馬先輩っ! おはようございますっ」
 元気な一、二年生達の挨拶が心地よい朝の風と共に届く、
 朝の澄んだ空気を肺に入れ生徒達に挨拶を返していく。
 五月晴れとはまさにこんな天気を指すのだろう
 梅雨に突入する前のカラっとした風が心地いい、そんな5月も末の一日。

「ふぅ…」
 右手に握る地獄蝶々を眺める、前風紀委員長である乙女さんは推薦で大学に進学した。
 大学は対馬家からも充分に通える範囲にあり、
 まだまだ根性なしの弟を鍛えるという名目で未だに一つ屋根の下で暮らしている。

 風紀委員長を務める者は時に絶対的な力が必要になる、
 それは乙女さんの活動を見てきて学んだ単純な事実。
 いろいろと気にかけてもらっている乙女さんに
「おまえに風紀委員長を継いでほしい」と頼まれたからには半端はできないってもんだ
 現生徒会長である姫の推薦もあり、風紀委員の活動履歴なしからの異例の抜擢となった。
 生徒会執行部副会長としての経歴から主だった反発も起こらなかった、とは姫の言。
 任されている責任、やることはきっちりやる。
 一年前とは比較にならない程のきついロードワーク、総合的な鍛錬、
 夜には乙女さんと組み手をこなしているが、
 これもルーチンワーク化した今では、精神的な苦にはならない。
 時折勉強も見てもらっており、乙女さんにはほんとに感謝している。
 お返しとしてパソコンの授業をしている、いや乙女さんを苦しめたいわけじゃない。

 生徒会に入ってからというもの、
 なんとも激動の一年だったと苦いような嬉しいようなため息が漏れてしまう。


「なぁ〜にニヤニヤしてるのかな、対馬クン」
 と、そこへ突然姫の顔が鼻がくっつきそうなくらいに迫る。
「なっ、姫いつの間に」
「……はぁ、昔は顔を真っ赤にして照れていたのに、弄くりがいがなくてつまんない。
ま、でも結構男らしい顔をするようになったわほんと」
「褒められてるって事でいいのかな」

「対馬君、おはよう」
「おはよ、佐藤さん」
 鈍い、鈍いとカニやフカヒレに言われる自分でも、
 佐藤さんの笑顔が昔とはどことなく違うことに気づく、
 心から笑顔を見せてくれているような気がする、これはこれで思い上がりか。
( はぁ……対馬くぅん、どんどんかっこよくなっていくなぁ…
もう2年以上もずっとストー…見続けてきたけど私って男を見る目があったんだね、
対馬君の笑顔を忘れないうちにトイレに)
「佐藤さん? どうしたの、ぼーっとして。顔が赤いけどだいじょうぶか?」
 おでこにそっと手をおく。
「ぁっ! 」
(なになになになにが起こった、ああ、手が! 体が火照って倒れそ…)
「ああ! 佐藤さん、だいじょうぶ? ふらふらしてる」
「あ〜いいからいいから、ほらよっぴー、ピシっとしなさい!」
 姫がおもむろに両胸を鷲づかみする。
「はう!」
「はい、正気に戻ったわね、行くわよよっぴー。対馬クンまたあとでね」
「……ああ」


 流れ行く生徒達の中、見知った顔達が走っている。
「ほら、カニ、フカヒレ、スバル、時間やばいぞ。頑張れゴールは目の前だ」
「おう、レオ。今日もお疲れさん」
「おっす、スバル」
「んじゃあ先に教室行ってるわ」
「ああ、また」
 
 カニが高速カニ走りしながらこちら目掛けて突っ込んでくる。
「ぬありゃ! くらえーー!」
「ふんっ!」
 腹めがけてタックルをしてきたカニを抱きかかえ、そのままきつくない程度にサバ折に持ち込む
「おまえはいつも攻撃しやがって。ほぅら、体中の穴という穴から中身をぶちまけるんだ」
「れ、レオ? 恥ずかしいだろ離せよ! や、やめろぉ」
「んー? 毎日突っ込んでくるからこういう目に遭うんだぞ」
 拘束を解いてやり、少々乱れた制服を正してやる。
「レオのばかやろ…覚えとけよ!」
 カニは目を潤ませつつ校舎へ走っていった。

「あーあ、なんか甘酸っぱい光景だね、
ギャルゲーなら確実にフラグもんだよ今のスキンシップは。あー」
「……3,2」
「なんでレオばっかりおいしい目に遭うんだろうなぁ。あ、いやカニはどうでもいいんだけど
おまえさっき一年生にクッキー貰ってただろ」
「1」
 チャイムが鳴る。
「俺もクッキーほしいよぉ、ちくしょお! ……そうか風紀委員に入って毎日校門でアピールすれば俺も」
「竜巻乙女旋風脚!」
「ぶべら!」
 こいつはいつも校門前で妄想にふける癖があるな、あとで屍は教室に持っていくか。
 ああやだな、乙女さんに教わるごとに変な技の名前が増えていく。


 生徒も見当たらなくなって落ち着いた頃、祈先生並に遅刻をしてくる少女が
 トボトボゆっくりとした足つきでこちらに向かってくる。
 その不思議な存在感にいつものように目がいってしまう。
 アルビノのように真っ白な肌、淡い綺麗な灰髪、薄っすらと紅い大きな瞳
 長い睫、少々健康的ではない細い体つき。
 儚いという言葉がしっくりくる、人を惹きつける雰囲気を自然発生的に漂わせる。
 掴み所を持たせない在り様は美貌とあいまって畏敬の念を抱かせ、
 声をかけるのすら躊躇ってしまう様。
 今年入学した一年生で竜鳴館でも並ぶ者はいまい美少女、とはフカヒレの言。

「おはよう」
「今日もごくろうさまです、せんぱい」
「遅刻はめーなの、もうちょっとだけでいいから早起きしようね」
「ごめんなさい」ペコリと頭を下げ、「それにしても今日は…いい天気ですね」
「ああ」
 二人で空を眺める、すっと晴れた青空にしばし心を開放する
 この少女といると波のない湖面のように落ち着いた気持ちにさせられる、
 自分よりずっと大人びており、達観しているような雰囲気さえ感じる。
 果たしてどんな人生を歩んできたのか、詮索はいけないと思いつつも考えてしまう。
「口がぽかーんと開きっぱなしですよ、せんぱい」
「ははっ よだれも垂れてた」
「もう、せんぱいは」
「あらら、かっこわるい」
「ふふ」
 言葉を交わし会話をするようになってから一月以上立つが、
 話しかけてみると結構気さくに応じてくれる。
 二人自然ともう一度空を見上げた
「こんな毎日が続けばいいのに」
 少女のつぶやきはレオには届かなかった。


 授業も終わり、放課後
「さて、今日の議題は二つよ」
 生徒会メンバーと祈先生が集まった竜宮で姫が話を切り出す
「一つはもうすぐ迫った恒例の烏賊島合宿、これは全員参加だからよろしくね」
「え〜、去年やったからいいじゃんよ!」
「私も勘弁してほしいですね」
 カニと椰子が珍しく同調する。
「だーめ、これは館長命令よ。
 それに今年は結束力もあるし皆への労いもかねてサバイバルはなし、
 と館長も言ってるから安心してちょうだい
 食事代はあとで請求すればいいそうよ」
「うまいもん食えんの? んならいいけどさ」
「純粋に海が楽しめてうまい飯が食えるってんなら最高だ、なあレオ」
「ああ、俺は去年も結構楽しかったけどな」
「うう、お髭もっさ、もっさもっさ」
……一人何かトラウマでも触れたのか痙攣している。
 そうか、もうそんな季節だったな。
 生徒会の皆で打ち上げなどは何度かしているが、
 泊りがけの合宿は年に一度、これは楽しみだ。
 水着は買うか、高級和牛を持ち込もうなど、
 皆もどこかテンションが上がりわいわい騒がしくなる。


「はーい、はい、雑談終わり! もう一つは生徒会の後継候補よ
これは特に急ぎでもないんだけどね、来年はなごみんが一人しか残らないでしょ、だから」
「ちょっと待ってください! 誰も来年やるとは言ってませんよ!」
「まあまあ、その話は今度二人きりで話しましょ、な〜ごみん」
「ふひゃひゃ、いいザマだぜココナッツ!」
「……黙れカニ」
「特に対馬クン、毎朝いろいろな生徒を見ているでしょ、
対馬クン的に何か感じた生徒は声をかけてみてちょうだい
それと皆も協力して、名簿は対馬クンに渡しておくから。それじゃよろしく」

 あーそうだなぁ、何か感じた…か。
 感じる感じないは分からないが思い浮かぶのは彼女、雪乃さんしかいない。
 渡された名簿に目を通す、あれ?
「これなんだ? 名簿にある推定バストって関係あるのか?」
「うっほーまじで?」
 と痙攣から突如復活したフカヒレに乙女チョップを入れて気絶させておく。
「当ったり前じゃない! おーありよ! 
ちなみに私が服の上から見た判断だけど、パットぐらいあっさり見抜けるわ」
 興奮しだした姫を佐藤さんが押さえる、いつもの光景だった。


 合宿日当日

 この所雨続きであったがこの日を狙ったかのような雲ひとつない快晴、
 6月下旬にしては湿気のない気持ち良い風が吹く。
 港に集まったのは生徒会メンバー、祈先生、館長の他にもう一人の少女がいた。
 みんなが不思議そうな目で見つめる、自分もなぜ彼女がここにいるのか分からない。
 姫だけは何か納得したような表情だった。
 そう、彼女だった……遅刻から始まった出会い。
 取り締まるべき風紀委員としては少々不純であるが、
 彼女と会話する朝のひと時がいつも楽しみなのである。

「この島を研究したいということで彼女も加わることになった
 よいかおまえら、上級生としてちゃんと面倒見るんだぞ」
 館長が軽く説明した後自己紹介を促す
「秋成雪乃です、なるべく皆様のご迷惑にならないように致しますので
どうかよろしくお願いします」
 礼儀正しく頭を下げる。
 彼女の独特な雰囲気にカニでさえどこか戸惑っていたが、そこは個性豊かな生徒会メンバーである。
 カニを皮切りに話しかけ始めるとそこから会話はスムースに繋がり始め、
 船上ではもう皆と楽しく打ち解けていた、今は姫と何か話している。


 そんな彼女を遠巻きに見ていると
「すげえ可愛い子だな。レオも隅におけねーな、あ? このこの」
 彼女とは既に知り合いであると知ったスバルが嬉しそうな顔をして頬をつついてくる。
……心なしか佐藤さんやカニ、椰子までもがこちらを睨んでいる。
「でも、俺が一番だろ」といいつつ肩に腕を回してくる。
「…ごめん、まじやめれ」
 ギラ! 姫が輝いた瞳でこちらを見つめる。
「はぁはぁ……はぁはぁ……雪乃ちゃんか、メイド服が似合いそう…」
 異常に息の荒い生物が紛れ込んでいるが放置した。

 烏賊島に着くと、館長は船を海岸に寄せ碇を垂らし
「うむ、船は祈に任せる。わしは泳いで帰るぞ〜、せいせいせい!」
 モーゼの十戒のように波を掻き分け去っていった。

 島で着替えなど一通りの用事を済ますと、自由時間で思い思いに行動を始める。
 そこへ椰子が味の評価を聞きたいと手作りのスコーンを持ってきた。
 昔ではとても考えられないが、椰子も少しずつ解け込んできている。
「どうでしょうか、先輩」
「ああ、こりゃおいしいよ。 おまえはほんとに料理がうまい」
「そうですか、ありがとうございます」
「うえ、こいつ素直に礼を言ってんよ! しかも微妙に笑ってるぜ!」
「黙れカニっ!」
 カニが椰子をちゃかし
 二人して追いかけっこのバトルが始まった。


 カニと椰子を眺めていると、そこへ姫と佐藤さんが来た。
 姫が一戦交えたいとのことで流し程度に組み手を行う、
 水着のハイキックで集中できない、腰をくの字に折り曲げながらの戦いだ。
 これが男の性だった、姫は明らかに俺の動揺を楽しんでいる。
 佐藤さんはなぜか湿っぽい目線でこちらを見ている、
 一試合終わるとタオルを持って来て、汗を拭くと申し出てきた。
 さすがに悪いと受け答えすると佐藤さんらしからぬ俊敏な動きで大外刈りを決められ
 横倒しなったとこで汗を拭いてくれた。

 その後幼馴染メンバーでビーチバレーを軽く楽しんだ後、
 日陰に座って寛いでいる雪乃さんの元へ向かう。
「ビーチバレーしてるんだけど雪乃さんもどう?」
「私も遊びたいんですけど、あんまりお日様に当たると肌が炎症を起こしてしまうんです。
少しなら大丈夫なんですけど……」
 彼女はそう言って少し残念な顔をした後、
「……それにしても海風が気持ちいいですね、皆を見てるとこっちまで楽しくなります」
 微笑んだ。
 膝の上にはノートパソコンがのっており、何か途中まで文章が打ち込まれていた。
「ん? それ何?」
「内緒です…っていうのは嘘で、これはこの島に関わる論文と私の研究データです」
 少し思案した後タイピングを始める。
 うわ、なんちゅー早いタッチタイピング! 何よりそれに驚いた。


━━━━━━
━━━


 遅い昼食後、彼女がこの島に来るのは初めてということで、
 島の案内がてら皆で散歩しようという話が出る。
 祈先生は既に眠りこけており、当分起きそうにもないので護衛を土永さんに任し
 生徒会メンバーと雪乃さんで付近を散歩することになった。
 砂浜から少し離れた岩場付近を大所帯で歩く、
 みんなが雪乃さんに生徒会の内情などを洩らして盛り上がりながら楽しんでいた。
 だが俺は笑っていなかった
――気配がする
 そう遠くない所から視線を感じる。
 それも明らかに侮蔑と敵意の嫌な視線だ。
 姫が耳打ちしてくる、
「対馬クン、分かる?」
「ああ、近い」
「はぁ〜、まったく。 こんな楽しい合宿に水を刺す輩ならブチ殺すわよ」
 まったくだ、と姫に相槌を打ったその時…

 ズゥンっ! 何かがみんなの後方に着地した……振り返ると……

 こんなん出ましたよ?

 何かの怪物衣装を着ているかのような二足歩行生物だった。
 着ぐるみを被っているにしては皮膚の質感がハリウッド映画並にリアルだ。
 しかも身の丈3メートルはあるんじゃなかろうか……ツノ生えてる。


――祈先生の占いはこれを暗示してたのか?
先週のこと、生徒会もお開きになり皆が帰り支度を始める頃
「対馬さん、ちょっといいですか」
「はい」
「来週の烏賊島合宿ですが、対馬さんがビビビビってきている姿が見えました」
「…え、ビビビビってなんですか……何かきちゃうんですか?」
「ええ、占いで」
……超適当だな、この人。
「よく分かりませんが、どう気をつければいいんでしょうか」
「備えあれば憂いなしですわ、結果は変わらずとも」――

 祈先生の占いもあって館長に地獄蝶々の帯刀許可を
 承認してもらったまでは良かっが、砂浜に置きっぱなしだった。
 くっ!気を抜いていたのは不覚だ、自分が情けなくなる。

「スバルッ! 頼みがある!」
「なんだレオ!」
「おまえの足で砂浜にある俺の荷物から地獄蝶々を! それまでなんとか防いで見せる!」
「分かった! 待ってろ坊主!! 死ぬんじゃねえぞ!!」
 スバルは怪物を一瞬睨み、一気に加速し砂浜に向かって行った。


「ふげにおげうげにあう」
 怪物が吼える。
「なんつってるんだ?」
「 ”質問だ。右足で蹴るか左足で蹴るか当ててみろ”と言っています!」
「え…言葉分かるの? ゆきのサン?」
 そこへフカヒレが余裕の顔で躍り出てきた。
「おーい、皆下がっててくれ」
(へへへ、よーく見てみれば左足だけ指が七本だし、左だけ見るからに太いから利き足は左。
 こういう怪物に限って頭が悪いんだよな、利き足で蹴ってくるだろ。
 ここで活躍すればレオを抜いて一気にハーレムルート完成だ!)
 フカヒレがニヤリと笑う
 怪物もニヤリとしながら突っ込んでくる、
 フカヒレはポケットからサバイバルナイフをすっと出し、
「左だ!」
「ぶごぉ!!!」
 顔面にパンチが炸裂しフカヒレは吹っ飛んだ…なんつー悪い怪物だ…


 みんなの盾になるように一歩前へ出て構える。
 怪物はこちらを一瞥し小さく唸った後、突如突進し捻りを加えたフックを浴びせてくる。
 左腕を盾に右腕で固定し迎撃姿勢に入る。
 ガスっ!!
 え? ちょっ、なにこの衝撃。今ので土星が見えた……意識が一瞬飛んだよ!?
 乙女さん、こいつはやばい! ここにはいない乙女さんに語りかけ、現実逃避を試みる。
 怪物のラッシュが続く
 筋肉、関節、骨格の流動、目線……あれ、目が三個だ をつぶさにチェックし
 全身の動きと総合し次の一手を読む。
 パワーとスピードは人外だが、体術はこちらの方が上!
 しかし状況は芳しくない、余りにスピードが速すぎて捌くことが出来ず
 せいぜい攻撃を緩和して防ぐので精一杯だ、一撃受けるごとに体が軋み悲鳴を上げる。
 3メートル近く頭上から振り下ろされた踵落としに対し両腕をクロスさせる。
 体全身を使って衝撃を和らげるように受ける!
「ギシィッ!」
 がっ、左腕がイったか…くそ!
 その後威力の低い連打が雨のように降りそそぐ。しかしそれは既に人間の域を超え、
 一撃一撃がまるで車に撥ねられたかのような鈍く重い衝撃をもっていた。
 衝撃を和らげるのに必死だった、体は鉛の海に沈んでいくように重く動かなくなる。
 意識が遠くなるのを必死でこらえるが、一撃ごとに目の前が次第に暗くなっていく。
 ちくしょお! 


 俺が倒れ動かなくなったのを見たか、怪物は彼女達へ向かう
 雪乃さんは、毅然とした表情をしているが、何かを覚悟したかのようだった。
 体が痙攣し、意識がめまぐるしく反転する
―――怪物が彼女へ近づく
 体が動かない、(雪乃さん逃げてーーーー!!!)(この糞やろぉーー!!!)
 意識が遠のく中、姫の声が響く、カニが雪乃さんに抱きついて庇おうとする姿が見える
 腰が抜けている佐藤さんを介抱しながら怪物を睨む椰子が見える
 皆が皆を守りあっている。なのに俺は何をしているんだ?
―――怪物が皆へ腕を振り上げる
 レオー! 皆の助けを求める声が聞こえた…
 情けない自分に腸が煮えくり返る。


――ぶつっ
 意識がクリアに覚醒する
 頭の中で何かが弾けた、それは怪物への怒りか、自分への不甲斐なさか
 ゆらりと立ち上がる、体が熱い。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
 振り下ろそうとしている腕へ右腕を上げながらがむしゃらに突っ込む
 ズンッ!
 防いだ腕ごと怪物の腕を弾く、体がとにかく熱い!
 立っているだけでも信じられない状態であるはずなのに
 自分の体は人に見えざるオーラのような気迫で包まれていた。
 仁王立ちで構え、怪物を鬼のような形相で睨む。
 それはまるで鉄一族の誇りと怒りを具現化したような
 最強の武士一族が見せる堂々たる姿。
 あの怪物が一瞬だが怯むような表情を見せた、気迫で押されているのだろう。
「せんぱいっ!」
「…す、すごい対馬クン」
「あんな顔のレオ……見たことねえよ」
「対馬くん…」
「先輩…」

 乙女さんとの訓練を今一度思い出す、こんな単調な攻撃を捌けないでどうする。
 乙女さんはこいつの万倍強い。
 受けてはいけない、捌く。
 一手間違えれば死に直結するような一撃のラッシュを正確に捌いていく。

「レオー!!」
 スバルがこちらへ掛けてくる、だが怪物との攻防を繰り広げている俺は刀を受け取る隙が作れない。
 刀を渡すための一寸の隙を作るためにスバルが攻防に加わる
 怪物の一振りがスバルへ向かう、刀をレオに投げつつ両腕でガードに入る。
 バキィ!! 
「ぐおおおお……!! なんつーパンチだよこれ、両腕が一発でイっちまいやがった、…はは、後は頼むぜレオ!」
 ……その心受け取った。

 地獄蝶々がレオの心情を汲み取るように震え出す。
 刹那の瞬間目を瞑り刀の鍛錬を思い出す。
 未熟な自分が乙女さんから教わった、たったひとつだけの技。
 横一閃の居合い抜きのみ。
「ひゅう」
 ひとつ息を吸い込む、
 血は薄くとも血肉に沸き立つ鉄の血が沸騰したように全身に駆け巡る、
 相手を捕捉し抜刀の構えに入る、
 そこには既に分断された未来の敵の姿が浮かび…

――――
――



 夕日が映る砂浜、スバルと俺は応急処置を受けていた

 怪物を倒した直後、
 佐藤さんやカニは気が抜けたように泣き、姫ですら疲弊した表情だった。
 椰子はそっぽを向きながらも体が震えていた。
 雪乃さんは蹲って震えていた。


「しっかし対馬クンも強くなったわねー」
「いや、風紀委員長を継いだ責任もあるしなぁ。
 乙女さんには一生かないそうもないけど」

 そこへ落ち込んでいる様子の雪乃さんが来た。
「せんぱい、ちょっとだけよろしいですか」


 皆から少し離れた場所で二人岩場に背を預けて座る。
 彼女はぽつぽつと感情のない目で朴訥に語りだす、
「父は民俗学の第一人者でした、もう今は生きているのかどうか分からないけど…」
 そう言って彼女は俯く、辛いことだろう。
 彼女の言葉が続くのを感じ、無言で先を促す。

「私がまだ小学生の頃です、家族で旅行に行ったときでした。
父の研究も踏まえてある山岳信仰の地へ赴いた時に…
その時のことは恐怖であまり記憶になくて、何か怪物のようなものが襲ってきて…」
 彼女の体が震える。
「父は私をかばいつつ怪物の注意を自分へ向けて…私は気を失い、次に目覚めた時は父は行方不明の後でした」
 体の震えを抑えるように深呼吸している、こちらも彼女が落ち着くまでじっと待つ。

「私は……それからの人生を民俗学研究に費やし、目処がついたら実地に赴いて検証してきました」
……そうか、それで今回の合宿参加も。
 姫は既に知っていたようだが、
 彼女はこの齢にして民俗学を研究し、学会では有名人だとの事だった。

「でも、今日分かったんです、せんぱいが危ない目にあって……うう」
「…雪乃さん」
「これでせんぱいがいなくなってたら! 
私は自らあの日と同じことを繰り返して……ぅう…うわぁーーーーー!!」
 そっと肩を包み込み、あやす様に背中をさする。
 守りたい気持ちが溢れる。
 それから船で出発するまで何を語るでもなく夕陽を眺めていた。


えぴろ〜ぐ

 あれから一週間、
 今日も今日とて校門に立つ、体はギプスに包帯だらけ。

 とてとてと歩く彼女がこちらを確認する。
 普段の物憂げなまなざしが一瞬で笑顔に変わる。
 その笑顔を見ると、トクンと心臓が高鳴る……ああこの気持ちは…。

「遅刻はめーでしょ、おはよう雪乃さん」
「ふふ、すいません」
 いつものように二人して空を見上げる。
 不意にそっと肩に寄り添う彼女、頬に唇の暖かい感触が走る。
「っっ!!」
 彼女は満面の笑顔で走り出す。
「私決めました! 生徒会に入ります、レオせんぱいの傍に居たいですからっ!」

Fin




ところ変わって烏賊島
「ほうら、今年も助けに来たぞ〜。お髭もっさもっさ」
「うわあああああああああああああああ」


(作者・毒男('A`)氏[2005/12/29])

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