二日前だったかな、乙女さんが事故にあったんだ。
医者は、今日の深夜あたりが山だといってた。
今、病室にいるのは俺と乙女さん。
それにカニ、スバル、フカヒレ、姫、佐藤さん、椰子。
つまり、執行部の面子がそろっている。
「へ、乙女さんは殺したって死なないような人だからな。
大丈夫だろ」
「そうだなカニ。鉄先輩には、悲劇のヒロインは似合わない」
「そうよねえ、対馬クンから乙女センパイを取ったら0だもんねえ」
「エリー、0は言いすぎだよ」
「そうだ、0ってことはないだろ」
「まあ、そんな怒るな坊主。0でなくても1ぐらいは残るさ」
「はは、言えてらあ。こいつ基本的にヘタレだもんな」
「フカヒレに言われたくねえよ」
ドゴッ
「ぐはっ……冗談だろ」
ドサッ

いつもどおり冗談を言い合っていた。
みんなが同じ事を思っていた。
―乙女さんに限ってありえない―
だって事故ったいきさつがあれだもん。


「乙女さん。また出たよ。今度は下着泥棒」
「なに、またか?少し多すぎるぞ」
「今、校門のほうに逃げてった!スバルと村田が追ってる。抜刀許可も下りてるよ」
「よし、わかった!レオもあとからこい」

「乙女さん!」「鉄先輩!」
「伊達、村田。犯人は!?」
「あのスポーツカーです」
「どんどん用意周到になってやがるぜ。乙女さん、アレ追えんの?」
「ふん、問題ない。あの程度でわが追撃から逃れようとは……笑止!」

「乙女さんは?」
「おうレオ、見ろよあれ。スポーツカーに追いついちまった」
「わが姉ながら本当に人間なんだろうか?」
「おい対馬。救急車を呼んでおけ」
「命令すんな。でもそうだな、呼んどくか」
「犯人もご愁傷様だな……お、地獄蝶々を抜くぞ」
「え?」
俺たち三人は目を疑った。
乙女さんが空を舞い………落ちた。
「乙女さん!!!!」
乙女さんに駆け寄った。刀を見ると、刃が折れている。
「この前、車を斬った時にガタがきていたのかもしれん」
「これが片割れか?」
「クソ!なんでこんな時に」
「落ち着け。すぐに救急車が来る」
「皮肉なもんだな。犯人のために呼んだはずなのに」
これが事故の全貌。ありえないだろ。


「みんなそろそろ帰ったら?」
もうあたりは暗くなっていた。
「うーわ、対馬クン。乙女センパイが動けないのをいいことに、
みんなが帰ったらいろいろする気だわ」
「違いない。こいつ結構ムッツリだからな」
「フカは黙れ!」
ドゴッ
「なんで……俺ばっか」
「まあ、それは冗談として。言われなくとも帰るわよ。ヒマじゃないからね。」
「私も帰るよ」
「あたしも帰ります。ここにいても仕方ないですから」
「ボクは残るよ。レオを監視しなきゃいけないからね」
「このカニ!しないっつってんだろ」
「まあまあ、俺も残るわ。一応こいつが起きるまでな」
「フカヒレか?引きずって帰りゃいいじゃん」
「それも酷すぎるだろ?ていうかカニ。オマエそれされて怒ってただろ」
「ま、いっか別に。乙女さんが寝てるときにレオに襲われんのも嫌だしね」
「だからそんなことしねえよ!!」
いつも通りの俺達だった。
普段と同じような会話。
普段と同じような雰囲気。
乙女さんは疲れて寝てるんだろ。
そんな感じだった。
心電図の音だけがこだまする部屋。
本当ならもっと重たい雰囲気なんだろうけど。
乙女さんじゃなあ。
「乙女さん、早く起きないと、寝たまま誕生日を過ごすことになるよ」
せっかくプレゼントも買ったのに。
安物かもしれないけど、今度は指輪を買ったのに。


「ここはどこだ?」
あたりを見渡す。
一本の川が見える。
なかなか大きな川だ。
「川のこちら側は何も生えてないぞ。どこだここは?
向こう岸は緑が茂っているのに」
というか私は車を追いかけていたはずだが。
「いや、待てよ。……たしか私は車に追いついて。
斬りかかったところで」
そうだ、地獄蝶々が折れてしまったんだ。
「困ったなあ。館長から預かった大事な刀なんだが。
ん?………ということはあれか?アレは三途の川というやつか?」
少し落ち着いて考える。
「そうか………私は死んでしまったのか。
犯人を取り逃がしたのは心残りだが。
まあ、日々を精一杯生きていたし、後悔はないな。
よし!そうと決まれば、あの川を渡ってしまうか」
結構距離があるが………。
まあ泳げる距離だ。
行くか。


思ったよりも渡るのは楽だった。
いつもより体が軽い。
「ほう……便利なものだなあ。それ…渡河完了」
私は岸に手を伸ばす。
そのとき、何かにつかまれ体の自由がきかなくなった。
「な、なんだ?この黒い影は!?」
これでは泳げない!
「く……離せ!」
影は離れない。それどころか、もっと重くなっていく。
私は川に沈んでいく。
息ができない。
いや、それはそんなに苦しくはないが。
体中が痛い。
締め付けられるようだ。
一度死んだ私にまだ苦しめというのか。
「レオ…………」
最後に一目…見たいなあ。


ピーーーーーーーーーーーーーー

部屋中にこだまする音。
一つの命が終わる音。
まさか。
「先生。心電図が壊れてますよ」
「申し訳ないが私達にできることはここまでなんだ。
また、後で来よう」
何を謝るんだ?
壊れてるんだから直せって。
「おいおい、何の冗談ですか?誕生日が命日とかシャレになんねえぞ」
「何言ってんだ、カニ。乙女さんに限ってそんなことあるわけないだろ」
「レオ。現実を見るんだ」
「スバル……お前まで何言ってんだ?
そんな訳ないだろ。ほら、まだ温かいんだ」
俺は乙女さんを抱きしめる。
「レオ、現実逃避は俺の専売特許だ。お前は現実を見なきゃいけないんだ」
「フカヒレ……お前まで。心臓だって動いてるんだぞ」
俺はさらに強く抱きしめる。
「そんなわけがない。乙女さんに限ってそんなことがあるわけない」
さらに強く抱きしめる。
「なんでだ?じゃあこの心臓の音は誰のなんだ」
「それは、お前の音だ。落ち着け。心電図を見てみろ」
言われた通り心電図を見てみる。
「はは、だからこれが壊れてるんだって。ありえないだろ、乙女さんだぞ」
力の限り乙女さんを抱きしめた。
乙女さんはここにいると主張するように。
「おい」

「レオ痛いぞ。少し力を抜いてくれ」


「乙女さん!!!」
「なんだレオ、何を泣いているんだ?」
「だって、乙女さんこれ!」
俺は心電図のほうに指をさす。まだ、なり続けていた。
「ま、まさか。ゾンビって事はねーよな?」
「嘘だろ、ありえねえ!」
「なあスバル。俺とうとう現実と二次元との区別がつかなくなっちまった」
驚く三人。
俺だって驚いてる。
「なんだこれは?失礼な機械だな!私の心臓はちゃんと動いているぞ」
「え?じゃあ、本当にこれ壊れてるの?」
「当たり前だ!!心臓が止まって生きていたら私はいったいなんなんだ!!!」
「はは、信じられないや」
「マジですげ―!!ボクも体育会系になろうかなあ」
「まだ信じられねえぜ」
「スバル!これは現実なのか!?」
フカヒレが倒れた。それにしても。
「いったいなんなんだ?お前達は?」
はは、うれしくて涙が止まらないや。
「お前もいつまで泣いてるんだ。まったく本当にお前は私がいないとだめだなあ」
「自分でもそう思う」
「さてと、邪魔者は退散するとしますか」
「え?なんでさ。いいじゃん別に」
「そういうのを野暮ってんだ。しばらく二人だけにしてやろうぜ」
「おい、伊達。そんな気を使わなくても」
「まあまあ、いいからいいから。オレ達は外で待ってるからなレオ」
「ああ、後で行く」
「別にゆっくりでいいぜ」
「悪いな、伊達」
「いえいえ、このくらいで。乙女さんらしくないんじゃない」


「ところでレオ」
「何?乙女さん」
「変な夢を見たんだ。私が川を泳いでいてな。
向こう岸にたどり着きそうなところで、変な影につかまって。
それで、川の底に沈んでいったろころで夢が覚めたんだ」
「その川って、三途の川じゃないよね?」
「私はそうだと思ってたんだがなあ」
「冗談がきついよ。でももしそうだったら渡りきれなくてよかった。
その影に感謝だよ。」
「そうだな。もし渡りきっていたら、今お前とこうして話ができないからな」
もしかすると案外、あの影はレオだったりしてな。
「その影がな。私に抱きついてきて、動けなくなったんだ」
「な!乙女さんに抱きついたの!?許せねえ!!!」
「こらこら、怒ることもないだろう」
「それもそうかな?でも少し納得できないんだけど」
「まあいいじゃないか。あの影はレオだったかもしれないぞ」
「え?そんな記憶ないけど」
「ははは、冗談だ」
もし、そうならレオは私の命の恩人になるのか?


「しかし、今回ばかりは姉を思う弟パワーのほうが強かったな」
「な、何を急に言い出すの?少し熱でもあるかな?」
「む……私は健康だ!」
「今まで丸二日以上も寝てたのに?」
「何!そんなに寝てたのか?ということは。
………しまった!!七食食べ損ねてる!!!」
「いきなり食べ物を考えるなんて……さすが乙女さん。
そんなことより今日誕生日だよ」
「何!?」
「お誕生日おめでとう!!」
「そ、そういえばそうだな。ありがとう」
「プレゼントは」
「当ててやろうか?」
「え!?」
「指輪だろ?」
「な、なんで知ってるの!?」
「前に言ってただろ。指輪は今度、とな」
「あ、言ったっけ?」
「もう忘れたのか。ついこのあいだだぞ」
「くっそー。今度こそ驚かせようと思ったのに」
「その気持ちだけで十分だ。私はうれしいぞ」
それにもしかすると、今のこの命もレオがくれたのかもしれないんだしな。
死が二人を別つまでというが。
私達を別つことは死でさえも無理だったわけだな。
本当にお前は自慢すべき恋人だな。


エピローグ 「乙女さんの誕生日」

「「「「お誕生日おめでとう!!!!」」」」
「ありがとう」
最初に蟹沢から受け取る。
「ボクからはこれね。デッドのCD。乙女さんもこれ聞いてデッドに浸ろうぜ」
「ああ、聞くことにしよう。しかしなんだこのCDは?英語ばかりだな」
「乙女さんは演歌専門だからね」
「ははは、次はオレね。オレのプレゼントは新品のフライパンだぜ。
乙女さん料理勉強中なんだろ。だからちょうどいいと思ってさ」
「ありがとう。おいレオ、家に帰ったら早速料理して食べさせてやるぞ」
「う………ありがとう?」
「なんで疑門形なんだ!?」
「あ、ありがとう!!!」
「うん、それでいい。
しかしお前達、本当にありがとう」
「あの―。乙女さん?俺はお前達には入ってないんでしょうか」
「あ、忘れてた。オメ―いつ起きたんだ?」
「えーっと。まあいいじゃねえか!めでたい日なんだ」
「そうそう」
「鮫氷っ、私は別に忘れてたわけじゃないぞ!?」
「いいんですよ別に。慣れてますから」
「そうか?そ、そうだ!お前のプレゼントはなんなんだ!?」
「俺からは。いろいろ考えたんですけど
乙女さんがおにぎりが好きだというので。
ハイ、お米券一万円分」
「きりもみパンチ!!!!」
ゴスッ
「痛ってー。なんで殴るんだよ!?」
「いや、なんか殴らないと負けかと思って」
「儂からはこれだ」


「「「「「館長!!いつの間に!!!」」」」」
「はっはっは。気配も分からぬとはのう。お前達!!!修行が足りんのう」
「は、申し訳ありません」
「館長。今日は乙女さんの誕生日なんですし」
「おお、そうだったそうだった。儂からはな。刀を二振りだ。
儂が打ってみたんだが、なかなか骨が折れてのう」
「いろいろ言いたいが。銃刀法違反で捕まりそうだな」
「安心せい。一振りは地獄蝶々が折れたんでな。その代わりだ。
もう一振りに刃は入れとらん。それと、刃を入れとらんほうが真打だ」
「ありがたく頂戴いたします」
「うむ。しかしな、困ったことが一つだけあるのだよ」
「まさか、呪われているとか!?」
「ゲームじゃねえんだ!そんな訳ねえだろ」
「実はな、自分で言うのもなんだがなかなかの名刀だ。が、まだ名がないのだ。
鉄。お前が名を考えてくれ」
「えー!!乙女さんネーミングセンスないですよ」
「お前失礼だぞ!!!………それでは………こちらの一振りは『黒影』。
こちらの、地獄蝶々の代わりの一振りは『獅子丸』で」
「なかなかいいのう。してそのこころは?」
「獅子丸はレオから。そして、黒影は。
恥ずかしい話ですが夢に出てきたものから取らせていていただきました」
「はっはっは。気に入ったわい。なかなかセンスあるではないか」
「ええ?そうか?」
「いや、いいんじゃねえか」
「ボクだともっとかっこいい名前にするね」
「ちょっと黙ってろカニ」
「家宝とし大切にいたします」
この黒影は何も斬れない刀。
しかし、私とレオをつなぐ刀だ。
…………永遠にな


その後

「乙女さんまた出たよ………ってなんかものすごく怒ってません?」
「なに平和な生活を乱すやつがこうも多いとは。
と思ってな誰も歯向かえないぐらいの恐怖を刻み込んでやろうと思っていたところだ。
あまりに事件が多くて、自己判断で抜刀しても良いとなったんだぞ」
「まあそれはおいといて。犯人、松笠公園のほうに逃げたって」
「よし、行くぞレオ!!」
「うん、乙女さん!!!」

「うそだろ……ヘリまで持ち出すか、普通?おとめさんどうしよう」
「何を言ってる、10メートルぐらいだろ?少し離れていろ、レオ」
「え!!!?行けんの乙女さん?」
「問題ない!!!!」
「ヒャッホウ!!ここまで来れば大丈夫だろ!!!
ん?なんだありゃ?」
「空に逃げたくらいで大丈夫だとは愚かな。もっとまっとうに生きろ!!
森羅万象噛み砕け!!!獅子丸!!!」
「嘘……?ヘリが真っ二つ?本当に人間なんだろうか?自信がなくなってきた」
乙女さんが犯人を抱え地面に着地。同時にヘリの破片がそこらに降ってくる。
「乙女さん大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。私も犯人も、もちろん刀もな」
「いつ折れるかわかんないよ?地獄蝶々が折れたの最悪のタイミングだったからね」
「館長が鍛えレオの名を冠した刀だぞ?大丈夫に決まってる」
「前者はともかく、後者は説得力ないような」
「お姉さんが言うからそうなんだ!」
「分かったよ。もう言わない」
「それでいいんだ」


(作者・名無しさん[2005/12/28-30])

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