エリーに裏切られた。
親友だって信じていたのに。
対馬君も私を捨てた。
もう何も信じれない。
「全部夢だったらいいのに」
そうだよきっと。悪い夢。
目を閉じてまた開くと、学校にいて。
それで、祈先生の授業中だったとか。
祈先生が笑いながら怒ってて、クラスのみんなが笑ってて、
で、対馬君も同じように寝てて、エリーがこっち向いてため息ついて。
きっとそんなかんじ。
「ごめんなさい!寝てました!…ってあれ……?おかしいなあ?
目が……覚めない………嘘だよ…………こんなの。
今のなし!もう一回!!」
同じだった。
何かの間違い。
「やだなあ、早く覚めてよ……」
つぶやいても何も変わらなかった。
そうだ、まだ頬をつねってなかった。
「だめだなぁ、すっかり動揺してるよ」
頬をつねってみた。
「…………痛くない」
力いっぱいつねってみた。
「………………やっぱり痛くない
そうだよ、夢だよ。
夢に決まってるよ。
だってぜんぜん痛くないんだよ?
痛くなんか………ないんだよ?」
でも…………涙が……………あふれてきた。
認めたくない……これは夢なんだ!


夢じゃなっかった。
目なんてはじめから覚めていた。
それでも……………信じたくなかった。
もう何も信じたくない。
自分自身さえ……この世界そのものさえ否定したい。
「いっそ………死んじゃおうかなぁ」
でも……このままじゃ…………。
死んでも死にきれない。
猫のコップが目に付いた。
「絶対に……許さない」
床に向かって、力いっぱい投げつける。
気が晴れない。
裏切られたらどんな気持ちになるか、
あの女に思い知らせてやる。
ふと人形が目に付いた。
「…………!!そうだ!この怒りこの人形にぶつけてやる!!!!!
私がどれだけ傷ついたかあの女に!!!!!」
私は気がつくと人形を元の形が分からなくなるまで、
バラバラにしていた。
感情を吐き出せたせいか、少しすっきりした。


学校に行く途中、あの女と対馬君に会った。
「おはよう、対馬君、霧夜さん」
もう二度とエリーなんて呼ばない。
この女は親友でも何でもない。
さっさと通りすぎよう。
「よっぴーは、この人形をまだ持ってると思う」
「あ、誓いの人形だっけ」
「それを捨てないって事は……大丈夫」
後ろで声が聞こえてきた。
うん、まだ持ってるよ、人形。
捨てるわけないよ。
見せてあげたいもの。
私の気持ちを。

放課後、私は生徒会執行部の退部願いを出してから竜宮に向かった。
ドアをあける。誰もいない。
机にあの人形を投げ捨てた。汚らわしい。
「早く、こないかなぁ」
早くあの女の絶望した顔が見たい。
扉が開いた。やっと来た。
笑って出迎えてやる。
希望を持たせてから、絶望に叩き込んでやる。
「霧夜さん、ちょっといい?」
あの女がうれしそうな顔をする。
私もうれしいよ………その顔が絶望に歪むのが。


人形を返してもらい、執行部を出る。
伝わったかな……………私の気持ちが。
私の怒りが。


あれから何日もたった。
怒りは………収まらない。
でも、あの時とは少し違う気持ちが出てきていた。
不思議な気持ち。分からないけど。
…………分かりたくもない。怒りだけで十分。
…………これからもずっと…………


「なあ、よっぴー最近元気ないんとちゃう?」
「そんなことないよ?そういう風に見える?」
そうかなぁ。今日は特に気分はいいけど。
「そやなあ。姫とお昼食べんようになったあたりから元気ないで?」
「マナ!空気読まないにも程がアルネ!!」
豆花さんが浦賀さんの口を抑えた。
私は笑いながら、
「考えすぎだよ。別に霧夜さんのことはなんとも思ってないよ?」
「ほら、そこやねん。前まで姫のこと、エリーゆうてたやん?」
「いいかげんにスルネ!!」
「ああ!!豆花さん!!浦賀さんの首締まってるよ!!!」
「このぐらいダイジョブネ」
「ああ………きれいな景色が見えんで。ここが天国ていうんやなあ」
「た、大変!だいじょうぶ浦賀さん!?」
私は慌てて浦賀さんの首に締まってる手を解いた。
「はあ…はあ…し、死ぬかとおもた。豆花!!!なにすんねん!!!」
「空気を読めないマナが悪いネ」
「危うく天国行きかけたのにそんなんゆうか?」
「マナは天国には行けないネ」
「うわ、ひっど」
「ホント仲いいよね、二人とも」
「よぴー、それは心外ネ」
「な、ちょっと待ちいな。それは言い過ぎやろ」
「いいなぁ、そんなに仲のいい友達がいるのって」
「だから、よっぴーには姫がおるやん」
「ダカラ、やめるネ」
ドゴッ
「みぞおちは………ひどすぎ…………やろ」
「あ、浦賀さんが気絶しちゃった」
「ちょと、保健室に運んで来るヨ」


私は考えていた。
今日昼休みに言われたこと。
口をついて出た言葉。
前からあった変な気持ち。
この気持ちは……………さみしい?
………!!!!違う!!あいつは、私を裏切ったんだ!!!
さみしいんじゃない!!
さみしいわけじゃない!!!
さみしくなんかない!!!!
そんなわけがない!!!!!
………………でも
………自分の部屋を少し広く感じる。
右手が少しあたたかい。
おまじないしたときにつないだこの手。
わからないわからないわからないわからないわからない
私の本当の気持ちはどっちかわからない。
あいつを憎みたい?
わからない
また、エリーと呼びたい?
わからない
もうなにもわからない。
「疲れたなあ」
もう……………休もう。


最近調子が悪い。
今まで通りの生活ができない。
朝の日課だったこともしたいと思わない。
もうこんな時間だ。
「行きたくないなあ、学校」
私が私じゃなくなりそう。
そんなことも言ってられない。
重たい足を引きずるように学校に向かった。
あ、
「おはよう、霧夜さん。あれ?MTBで登校じゃないの?」
「あ、よ、佐藤さん、おはよう。歩きたい気分なのよ」
佐藤さん?よっぴーじゃなくて?
嫌だ。
まただ。
自分が自分じゃなくなる。
「そうなんだ。それじゃあね」
なんで………なんでそんなに普通にいられるの?
今まで何もなかったように。
他人のように振舞えるの?
なんで…………よっぴーって親しく呼んでくれないの?
…………………………
私があの関係を壊したんだ。
聖域とも言える二人の友情を。
「あれ?」
なんで、涙が出てくるの?
何も悲しくないのに、さみしくなんか………ないのに。
ないはずなのに。
とめられない………とめたいのに。
今日は………学校休もう。


一人きりの部屋の中で。
私は………壊れた聖域を見ていた。
バラバラ。
無残なほどに。
見る影もないほどに崩れていた。
私が壊した?
「違う!!!エリーが!!!
私じゃない!!!!エリーが先に!!!!!」
エリー?私がそう言ったの?
違う!
私はあいつを憎んでる!!
あいつは私を裏切ったんだ。
でも壊れた聖域を見ると、
壊れた聖域をよく見ると、
少しだけ。ほんの少しだけ。
残ってる。
本当に少しだけだけど。
壊れずに残ってる。
「…………あ…………」
なぜかうれしくなる。
残ってた聖域がとても愛しく思える。
「そっか………そうなんだ…………」
私は…………今でも、エリーが大好きなんだ。
認めてしまうと、また涙が出た。
悲しみの涙。
うれしいときの涙。
後悔の涙。
いろんな涙。
「なかなおり…………したいなぁ」
これが……私の………本当の気持ちなんだ。


自分を否定したかった。
裏切られたとき。
今は………否定したくない。
私が本当に思ってたこと。
否定しない。
私はエリーと仲直りしたい。
すぐに、今すぐにでも仲直りしたい。
「まだ………学校にいるよね」
時計を見る。
まだ四時を少し過ぎたころ。
今なら、今すぐ行けば。
「行かなきゃ」
私は、走る。
大好きだった親友に会いに。
周りの景色も目に映らない。
ただ道だけが見える。
学校に着いた。
「どこにいるんだろう」
まず、教室に向かおう。
『蟹沢さん。バレーボール部が応援要請を出してます。至急体育館に向かってください』
聞こえてきたアナウンス。
エリーは竜宮にいる。
向きを変えて竜宮に向かう。
エリー…………許してくれるよね。


ドアをあける。
エリー一人だった。
「どうしたの!?佐藤さん!?」
よっぴーとは呼んでくれない。
それでも………私は。
「エリー絶交って言ってごめん。仲直りしよ」
言った。私の本当の気持ちを。
「よっぴ−」
聞こえた。エリーが私を。
よっぴーって呼んでくれた。うれしい。
「本当にごめん。私が悪かった。
人形とか、猫のコップとか、
いろいろ嫌な事したけど」
「いいのよ」
「え?」
「猫のコップは新しいの買ったし。
いろいろされた。確かにつらかったけど。あれは私が勝手すぎた。
反省させてくれたよっぴーには、
感謝こそすれ恨んだりなんかしないわよ」
「エリー………それじゃあ、仲直りしてくれるの?」
「口で言うよりも」
エリーがポケットから何かを取り出した。
「人形、もう一度作ったの」
本当にうれしい。
また涙が出てきた。今度のはうれし涙だけ。
「それはもういらないよ」
「え!?どうして?」
「いいの」
人形で確かめなくても、私とエリーは一番の親友。


私とエリーは片手に人形を持って、もう片方の手で相手の手を握った。
でもおまじないのときとひとつだけ違う。
手に持ってるのは、自分の人形。

コンコン

ノックの音がした。
後ろに立っていたのは、対馬君。
開いたドアにノックしてこっちを向いてた。
「おめでとう、姫、佐藤さん」
そんなことを言った。
「いいシーンに水をさすようだが、
マイクつきっぱなしだよ」
「「え?」」
私とエリーがマイクの電源を見ると。
「お…オンーーーーー!!!!!」
「ど、どうしようエリー!!!!!」
「くっ、ぬかった!!!」
「まあ、いいじゃない。聞かれて困るわけじゃないでしょ」
対馬君がそう言いながら電源を消す。


そして、私のほうに向かって。
「ごめん!!佐藤さん!!!」
いきなり謝る。
「落ち込んでたときに、励ましてくれた佐藤さんに対して、
佐藤さんでいいやなんて思ってたんだ。
本当にオレの事思っててくれてたのに。
ほんとうにごめん。
どうか気の済むまで殴ってくれ」
「べつにいいよ」
「え?……なんで?あんな酷い事したんだよ?」
「いいの。今はとっても幸せだから」
「うれしい事言ってくれるじゃない」
あれ?そういえば。
「エリー、まだ対馬君って呼んでるの?」
「なんか、気まずいでしょ」
「別にいいよ。対馬君がかわいそうだよ?」
「だって、よっぴーは対馬クンが好きだって」
「いいの!!!」
ほんとうにもういい。
だってエリーは親友だもの。
「対馬君。もしエリーを不幸にしたら私が許さないよ」
「え?……え、え?」
「対馬君、返事は?」
「は、はい。もちろんであります」
「あはは、へんなの」
笑いながらこんなことを言えた。
エリーは。
私にとって。
かけがえのない親友。


「そういえば対馬クン!!」
「な、なに?姫?」
「あなた、わざわざマイクの電源きってから懺悔はじめたでしょ」
「う………だ、だって、聞かれたら恥ずかしいじゃん」
「うわ、いい格好しいだ。ねえ、よっぴー」
「あはは、ホント。対馬君のいい格好しい」
「く………ふ、二人で言わないでくれ」
「なんでよ?ねえ」
「ねえ」
「く…………」
「やーいやーい対馬クンのいい格好しい」
「チクショウ!!!俺はいい格好しいじゃないやい!」
「あははははは」
ほんとうにうれしいな。
これから壊れた聖域を、少しずつかもしれないけど。
直していこう。
いや。
前よりももっとおっきくしよう。
今度は、なにがあっても壊れないくらい。
強く大きな聖域に。


(作者・名無しさん[2005/12/26])

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