その日、冷たい雨が降る中、彼は彼女を抱きしめた。
降りしきる雨が彼女の心を洗う。
そして、彼女は彼の中で泣き続けた。
この世に産まれて来た赤ん坊のように――――
2人は、そのまま土砂降りの中、濡れながら帰路へついた。
良美の部屋に着いても、良美はまだ泣き続けていた。
レオは、体を冷やさないように良美にタオルを渡したが、動こうとはしなかった。
「良美……。体冷やすぞ?」
それでも動かず、すすり泣く。
「良美!」
「ぅ…ぁぁ……うぅっ」
これ以上言っても無理と判断したのか、レオは良美の服を脱がし、体を丁寧に拭く。
裸になった良美は依然として泣き続けるばかりだった。
レオは良美をベッドに座らせ毛布をかけた。レオは服を脱ぎ、体を拭く。
そしてレオも毛布の中に入り、良美の体を引き寄せた。
「……良美。今日で今まで溜め込んだモノをみんな流しちまえ」
レオがそう言うと、泣きながらも良美は小さく頷いた。
「ずっと、俺がついててやるからな」
レオは良美をそっと暖めた。
それから、夕方になり良美は泣き疲れたのか、ベッドの中で寝息を立てていた。
レオは、家に連絡を入れ、乙女の了承を得た。
(やれやれ、帰った後が大変そうだ)
レオは苦笑しながら、幸せにすると誓った彼女を見た。良美の寝顔は無垢な子供のようで、幸せそう
だった。
レオも眠くなり、良美の隣に入り込んだ。そして、彼女を包み込むように優しく腕枕をした。
「……ン?」
レオは目を覚ました。
隣に良美はいない。
時計を見てみると、まだ6時になっておらず部屋が薄暗い。
レオはやや冷たい風が部屋の中にゆっくり流れ込んできたのを感じた。
風が吹いてきた方を見ると、ベランダの窓が開いていた。
そこには、下着の上にYシャツだけを着ている良美がいた。ふと素足に目がいってしまうレオ。
良美は解いてある長い髪を風になびかせていた。
服を着てベランダに向かうレオ。冷たい風が目を覚まさせる。
「おはよ。良美」
「あ…。レオ君、おはよう」
良美の目は若干腫れていた。
少しの間、2人は朝日に染まった景色を眺めていた。
「また今日が始まるんだね」
良美は髪をかきあげながら言った。
「…そうだな」
「今思うと、なんかバカみたく思えてきちゃってさ」
「?」
「私の周りには信用できる人がいるんだなぁって」
「何より、俺がいるしな」
「プッ」
「何がおかしいんだよ? 真面目に言ってんのに」
「いままでクサい言葉、沢山聞いたなあって思って」
俺は真剣だぜ?」
「そういうレオ君が好きなの! 私は」
微妙に照れるレオ。
「だけど、今までひどい事してきたんだ、私。レオ君に近づく女の子に嫌がらせしたり」
「嫉妬深いんだよ。多分」
嫉妬深い。その言葉は良美の母親にも当てはまるものだった。
良美はやっぱり親子なんだなと苦笑した。
「それだけ俺のことが好きだってことじゃん。気にするなよ」
「だけど……」
良美が喋ろうとした時、良美の口を塞ぐ柔らかいものが。
「ン!?」
2人は顔を離した。
「良美、過去を忘れろとは言わない。だけど大切なのはこれからなんだぞ?
今からいろんなものを築いていけばいいんだ」
「……そうだね。そうだよね!」
「もっと前向きにいかなきゃな!」
「うん!」
良美は朝日よりも眩しい笑顔をレオに向けた。
レオは、やっぱ笑顔が一番だな。と思いながら良美の肩を抱き、そっと引き寄せた。
朝日がふたりを優しく照らす。
彼女は夜明けを迎え、新しく始まる今日を手にした。
愛する彼と共に―――
〜終わり〜
〜それから〜
「そういや今日も学校なんだな。昨日サボっちゃったし」
「あ…、そうだったね」
「まあいいじゃん。んじゃ、そろそろ朝飯にしようぜ? 良美」
レオはベランダから部屋に戻ろうとした。
「レオ君!」
良美はレオを呼び止めた。
「その前に、少し時間があるから……ね?」
レオはその応答を言葉ではなく、行動で示した。
「コレ」のせいでその日の祈先生の授業で居眠りをしてしまい、
課題の山がレオを襲うことになる。
それはちょっと後の話。
(作者・KENZ-C氏[2005/12/18])