「レオー、早くページめくれよー」
「ちょっと待てって。お前は読むのが早いんだよ」
特に予定もない日曜日。浦賀さんから借りた動物のお医者さん漫画でも読もうと
行儀悪く寝そべると、窓から侵入してきたカニが背中に乗ってきた。
そのまま一緒に漫画を読み始めたんだが……。
「ちょいとカニさん」
「あにさ」
「そんなにくっつかないでくれます?」
「あんだよ、くっつかないと漫画読みにくいだろー」
「さっきからその、背中に何か当たっているんですが」
「…………あ、当ててんだよ(ボソッ)」
「なにその嫌がらせ!」
「あんだとー! 嫌がらせってどういうことさ」
「さっきから背中がゴツゴツして痛い」
「ゴツゴツなんかしてないだろ! さ、最近大きくなったし……」
「ダウト」
「う、嘘じゃねぇって」
「あのな、そんなすぐバレる嘘つくなよ」
「くっ。ま、まあ、胸の話はこっちに置いとけ」
「俺の部屋にそんなものを不法投棄されても困るなぁ。
 っていうか捨てるほどサイズないんだから、それ自殺行為だよ」
「うがーー! 胸の話題はもういいって言ってんだよ!」
「わ、わかったから首を絞めるな、首を」


何とかカニを落ち着かせて漫画の続きを読み出す。
すると、漫画に影響されたのか、カニがこんなことを言い出した。
「ボク、動物飼ってみてーなー」
「動物飼うって、この漫画の主人公みたいに犬とかハムスターか?」
「んー…………パンダ」
「おいおい、いくらなんでもパンダは一般家庭じゃ飼えないだろう」
「ボク一生懸命世話するぜ?」
「太らせて喰うのか」
「喰わないよ!」
「ダウト」
「嘘じゃねーよ!」
「だって前科者だし。それにしてもパンダねぇ」
「もしパンダを飼ったらさ、パンダに乗って散歩に行ってみてーなー」
「それじゃカニの散歩にならないだろ。飼い主のパンダさんも大変だな」
「飼い主はボクだろ!」
「でも身体のサイズからイメージすると、飼い主=パンダとしか想像できないぞ」
「サイズは関係ないだろ、サイズはさっ」
「どうどう。じゃあ、散歩の他には?」
「んー、公園で一緒に遊んだら楽しそうじゃね?」
「タイヤと戯れている姿はイメージにあるな」
「そうそう、タイヤ転がしたりしてなー」
「パンダさん、そんなにカニを転がさないでー」
「ボクが転がされるのかよ!」
「パンダの名前はコロンコロンで決まりだな」
「かわいらしいのに嫌な名前ですねぇ、オイ!」


「しかしパンダと遊ぶのは結構体力使いそうだな。一応、クマだろ?」
「遊び疲れたらパンダに抱きついて寝るんさ。
 フカフカモコモコして気持ち良さそー」
「そして目が覚めたらカニがペチャンコ。あわわ、胸以外も薄っペラだよ!」
「胸の話はすんじゃねーって言ってんだよ!」
「すいません」
「全く、さっきからいちいち変な突っ込みいれやがって、むかつく奴だなぁ。
 レオにはメロンってものがないのかよ?」
「それを言うならロマンだ」
「マロン? うまそーだな」
「こいつ、やっぱりパンダ喰う気だよ!」
「いや、パンダは喰わねーって!」
「しかしなぁ、やっぱり抱き枕にされるのは間違いなくカニだと思うぞ」
「うっ……しょうがねぇ、抱き枕はレオで我慢しとくか」
「ええっ、カニの抱き枕なんてやだよ」
「またまた照れんなよ、レオ」
「だって涎まみれにされるし」
「しないよ!」
「え、じゃあ、まさかおねしょ!?」
「するかボケェ!」
「寝る前にあんまり水分とるな」
「そんな心配いらねーよ」
「皆には内緒にしておいてやるからな。ただ、あんまり酷いようなら病院に……」
「だから、そんな生温かい心配いらねぇつってんだよ!」
「冗談はおいといて、お腹は冷やさないようにしろよ。お前寝相悪いからなー」
「うっ、そりは否定できない……」


「と言ったところで、抱き枕の件は謹んで辞退させていただきます」
「くっ、なんか納得いかねー!」
「そう言われてもな」
「ホントはボクに抱きしめられて嬉しいんだろ? たまらないんだろう?」
そう言って、背中に乗っていたカニが俺の身体に手や足を絡ませてきた。
「ハッハッハ、まさか」
「じゃあこれならどうよ? コチョコチョコチョ」
「ちょ、お前、くすぐりは反則、あははは!」
「そんなこと言って、すげー嬉しそうな顔してるじゃん」
「そりゃ強制的に笑わされてるからだっ。あ、く、首はやめろって、くふぅ!」
「嫌よ嫌よも好きのうちってな。ボクのテクでメロメロにしてやるぜぇ」
「うわ、そんなトコロくすぐるなって! あははははははは!」
「さあさあ、素直に吐いちまえよ。蟹沢様の抱き枕になりたいんです、ってな」
「だ、誰がそんな心にも、ない、あはははははは!
 って言うか、ま、また胸が当たってるんですけどぉ!」
「……だ、だから当ててんだよ、バカァ!」


「なぁカニ」
「フンだ」
やれやれ、カニのやつ、すっかりへそを曲げていやがる。
「なぁ、今度の休みに動物園に行くか?」
「……え?」
「だから次の日曜日に動物園にパンダに会いにいかないか?」
「レ、レオがどうしてもっていうなら行ってやってもいいぜ」
「どうしても。お前と一緒にいきたい」
「なんかそれちょっとやらしい」
やらしいって言う人がやらしい。
そんな小学生の言い合いをすると、また話がこじれるから心の中でこっそりと。
「ま、まぁ、しょうがねぇ、レオがそこまで言うなら一緒に行ってやんよ!」
「おう」
「じゃあ、とりあえず騒ぎ疲れたら昼寝する……レオ、抱き枕な」
「はいはい」
嬉しそうな顔で俺を抱き枕にするカニ。
そんなカニを見たらなんだか悔しくなって、カニが寝たのを見計らって
こっちからも抱きつき返してみる。
んー、やっぱりサイズ的にいってこいつの方が抱き枕だよな。うん。
その事実に満足した俺も、いつしか眠りに落ちていく。
フローラルな香りに包まれて……。


(作者・名無しさん[2005/11/24])

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